鉱物キャラクター図鑑 いとうみつる・イラスト 松原聰・監修

 鉱物をキャラクター化した子供向けの図鑑。化学組成などのデータは載せられておらず、鉱物がそのまま読者に語りかけてくる体裁である。写真の一枚もついていないところは、非常に思い切りが良いといえる。

 ひすいが南九州の言葉遣いをしていたのだが、北陸の言葉をしゃべってるわけにはいかなかったのか?無理にでも個性の演出をするために産地との辻褄も無視された例だった。
 常にギプスでデザインされている石膏くんみたいな悲しい例も……炎色反応の花火を背負った天青石は恵まれている。

 色に特別な意味があると考えられて、ざくろ石が銃弾に使われたことがあるとの説明は初耳だった。たくさんの鉱物図鑑を書いてきた監修者なので、ネタ集めに余念がないのか。
 ドロマイトを使ったセメントは、ふつうの方解石だけで作ったセメントとは違いそうだ。そういえばドロマイトから焼かれた陶器なんかも研究されていたそうだ。

関連書評
鉱物・岩石紳士録 松原聰・北村裕花
フィールドベスト図鑑 日本の鉱物 松原聰

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かめれおん日記 中島敦

 かめれおんの出番があまりなかったかめれおん日記。現実にも、わずか5日の滞在であった。あるいはその短さに病気によって予感される自らの人生の短さを重ねているのかなぁ。
 そう考えたら、かめれおんらしく色を変えてくれなかった事実が物悲しくなってくる。

 本書は単体でもおもしろいけど、「悟浄歎異―沙門悟浄の手記―」と合わせて読むことで味わいが増してくる。
 著者は悟浄であり、教師の吉田は孫悟空、想像の中に出てきた非武装でいて暴力に屈しない理想の人が三蔵法師と想像できる。生活の中から作品が出てくる様子がわかって、とても興味深い。
 非暴力不服従のガンジーは中島敦より後の時代の人だと気づく。もっとも、実際に彼らの活動をみて、著者が納得したかは分からない。

 吉田の給料活動調査は自分より働いていないと感じられるのに自分より給料が高い人間の存在に怒った時に、対象の給料を下げろではなく自分の給料をあげろと主張したところが立派である。当然といえば当然の方向性なのだけど……。
 本人は「高等小学生的人物」の評価が作中のようなプラスではなくマイナスの意味で受け取られる感じだった。実際、評した人物は多少の皮肉も込めて言ったんじゃないかなぁ。そして、著者はそこまで汲み取りつつも文章にはしない。

青空文庫
中島敦 かめれおん日記
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南島譚3〜雞 中島敦

 日本人に対して突然ブルースクリーンの出たパソコンのように何も受け付けなくなるパラオの人々。著者は彼らを理解不能だと述べるのだけど、未来の自分にはパラオ人の反応に心当たりがある。
 ブラックな存在の猛威に晒された人間の対処方法は、だいたい同じようなものであるはず。まったく論理性のない理不尽な暴風には、ひたすら受け流す以外に対応のしようがない――著者が引いたトリガーがそこまで強いものであったかはともかく。
 当時のパラオ人は未来に生きていたか、現代の日本人が植民地時代に生きている気がする。外国人研修制度など完全に再生産していると思うのだが。
 とりあえず「純朴な南の島の住民」なんてイメージはこのシリーズが吹き飛ばしてくれる。日本人やスペイン人、ドイツ人が純朴ではなくした部分もありそうだけど、伝説を考えれば「文明人」が来る前から彼らなりに複雑なものを持っていたはず。

 著者が遭遇した不思議な老人マルクープのデッサンは生き生きとしていて、中身は掴みどころのない存在でありながら、実在を強く感じることができた。
 恩返しの用意周到さはとても真似できそうにない。死の直前までベールの向こうにある頭の働きは衰えていなかったようだ。

青空文庫
中島敦 南島譚 ※[#「奚+隹」、第3水準1-93-66]
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南島譚2〜夫婦 中島敦

 意外なハッピーエンド!
 非常に困った妻エビルをもつギラ・コシサンのとほほな生活が物語られる。腕力と性欲の強いエビルが無敵状態で恐ろしい。神明決闘みたいな真似を女性のあいだで延々とやっていたのか……武器を使わないルールがあるとはいえ、よく殺人に発展しなかったものだ?
 発展していても触れていないだけかもしれない。とりあえず自殺者はとても珍しいらしい。

 話は意外な形で落着した。
 二番目の物持ちは浮気を疑われたり、浮気に苦しめられたりはしなかったのかなぁ。容貌からモテるはずがないと思われていたのかもしれない。だが、そういう思い込みは甘いのである。考えが多少は甘いほうが幸せになれる感じではある。

 モゴルの制度はいかにも未開の文明らしく思われそうだけど、日本でも場所によっては色々と固定観念を打ち砕く性にまつわる風習があったりする。
 相違点よりも夫婦の喜劇に文化の違いはない共通点に注目して、楽しむべきではあるまいか。

青空文庫
中島敦 南島譚 夫婦
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南島譚1〜幸福 中島敦

 南の島も人間がいて貧富の差がある以上は楽園ではない。
 ある不幸な男と、島一番の金持ちである長老の身におこった不思議な出来事が描かれる。夢と現の境目が分からなくなるような、心のありかた一つが大事なような、単純化された社会だけに考えやすく、考えさせられる。
 カードゲーム「大貧民」の革命が寓話化されているみたいでもある。

 あんな状況になったら、長老は「下男」の待遇をあらためそうなものだけど、その辺りの対応は描かれることがなかった。
 財産を半分にすれば現実でも夢の中でも確実に楽しめる恩寵になりうるのに――理想化しすぎか。

 善神は放っておいても助けてくれるので供物は悪神に捧げられるという仕組みが、宗教の中に彼らの「合理性」を感じさせてくれて興味深い。

青空文庫
中島敦 南島譚 幸福
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恐竜vsほ乳類〜1億5千万年の戦い 第1回 巨大恐竜繁栄のかげで

 NHKスペシャルの映像作品。
 1億5千万年も戦ったなら河原の土手にねそべって「やるな」「おまえもな」とエールを送り合うべきだと思うのだけど、恐竜とほ乳類の戦いは現在も続行中である。部分的には共生もおこなわれているが、それは初期から一緒だったに違いない。

 第1回では恐竜が巨大化し長い寿命を得た一方で、ほ乳類は小さなままで短い寿命に甘んじていることが描かれている。
 寿命が短い方がサイクルが早くなることで進化できると説明されているのは、自分もいわれる前に思ったけれど、恐竜側にしてみれば巨大化していない連中が早いサイクルで進化すればいいだけである……。
 そうやってティランノサウルスは小型恐竜から大型化した。

 紹介される研究者がアメリカの人ばっかりで、恐竜研究の最前線が新大陸にあることを感じさせられた。やっぱり恐竜が研究したければアメリカに渡れということだな。
 二酸化炭素濃度が上昇すると植物は成長が早くなる反面、栄養価が減少することを知った。いま研究されている温室を高濃度の二酸化炭素雰囲気にして植物を育てる方法にも同じ問題があるのでは?
 脱線した疑問ながら気になるところだ。
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石ころがうまれた〜ビロード石誕生のひみつ 渡辺一夫

 著者が三保の松原でひろったビロードのような手触りの石。その出現場所を求めて近くの川を遡上して探査する様子が子供向けの本になっている。
 地質学調査の基本を具体的な例を使って説明してくれている。

 最後の方は目がビロード石モードになっていて簡単に見つけられたという経験談がとても良くある光景で共感できた。
 著者が調査を行った安倍川は、紫色のもっと珍しい斧石も河原から拾える。調査の途中で遭遇したはずなのだけど、読者の関心を分散させないためか言及はなかった。口坂本ではニッケル華も採れたはず。もっとも上流の方では砂金も採れる。
 著者がとった簡単な地図でそれぞれの産地の地名が確認できた。あのページはとても便利で、地図のページを指で押さえながら読み進めることになった。

 ビロード石が蛇紋岩であることは予想ができたのだけど――いちぶの専門家は使っている呼び方のはず。野外実習で聞き覚えがある――産状については知らなかったので勉強になった。著者のように苦労して自分の足でみつければ本で読むのとは桁違いの学習効果が得られるはず。
 その点ではちょっと羨ましくなった。

関連書評
実験・観察・ものづくり7〜岩石・化石のなぞ 角谷重樹・相場博明

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石ころがうまれた―ビロード石誕生のひみつ (地球ふしぎはっけんシリーズ)
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カテゴリ:地学 | 22:06 | comments(0) | trackbacks(0)

虎狩 中島敦

 主人公(作者と同一人物なのであろうか?作中では「中山」と紹介されている)が朝鮮半島で暮らしていた時代にできた友人、趙大カンと一緒に彼の親が毎年おこなっていた虎狩に行ったお話。
 旧友趙大カンの思い出話集であり、人間がいろいろな側面をもつことを巧みに描き出している。植民地状態の朝鮮で朝鮮族出身者であり、母親は日本人であることなど、趙大カンの出自が特別に人間性を複雑にしている部分もありそうだ。
 しかし、やっぱり彼は中学生であって、複雑さの中にも見えやすさが残っている。国語の先生が伝えたい対象の年代のひとつ下に伝わるように書くといいと指導してくれたものだが、登場人物も若すぎるくらいが分かりやすいのかもしれない。

 ただ分からないことがひとつあって、趙大カンが勢子を蹴り上げたときの発言は日本語だったのか、朝鮮語だったのか。感情のままに発言したなら朝鮮語になりそうだし、わざわざ日本語で口走ったなら友人に聞かせようとの意図が彼の行動には込められていたことになる。
 悪名高い国語のテストでどちらだと思うか。その理由は何か。問題に出してほしいなぁ。

 あと、虎狩で受けたリアルな虎のイメージが、山月記で活用された。そう単純に考えてしまった。

青空文庫
中島敦 虎狩
カテゴリ:文学 | 12:39 | comments(0) | trackbacks(0)

スウェーデン〜ナショナルジオグラフィック世界の国

 チャールズ・フィリップス著、スーザン・C・ブラントリー/エリック・クラーク監修。
 福祉国家、中立国家として世界に名を馳せる人口900万人のスウェーデンをまとめた本。人口が増加傾向にあることが凄い。それでも高齢化は進んでいるらしい。

 個人的に注目するのは「自然享受権」と言われる全国民にあたえられたスウェーデンの自然に親しむ権利で、都市人口は他の先進国と同じく高いながらも、スウェーデン人に独特の自然観を与えていそうだった。
 あと、スモーランドという地名があることを知った。スウェーデンスモーランド出身の力士が出てくれないかなぁ。
 アナウンスに会場は騒然だよ。

 過去の歴史はそれなりに血なまぐさく、そこはさすがにバイキングを先祖とする国である。カール12世は名前をあげられなかった。英雄だけどロシアへの敗北をもたらした君主でもあり、スウェーデン人の思いは複雑なのかな。

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スウェーデン (ナショナルジオグラフィック世界の国)
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カテゴリ:ナショナルジオグラフィックDVD | 04:22 | comments(0) | trackbacks(0)

ラオス〜ナショナルジオグラフィック世界の国

 ラオスはメコン川のたまもの。東南アジアゆいいつの内陸国であり、貧しい農業国でもあったラオス。
 本書発行時点で鉄道は、首都のビエンチャンとタイの間の短い距離にしか走っていないという。代わりに幹線交通路の役割を果たしているのはメコン川であり、同時にメコン川はタイとの国境でもある。
 それでいてメコン川を障壁というのだから、疑問を覚えてしまった。実際ラオス語はタイ語に近いそうだし、軍事的には一定の壁になっていても、文化的にはあまり壁になっていないのではないか。
 南のカンボジアとの間には「コーンの滝」が存在していて、こちらは確かに障壁になっていた模様。

 東南アジア諸国と中国の間に挟まれたラオスの歴史はダイナミックで、周りの国々に攻められたり、支援を受けたり、ひじょうに目まぐるしい。首都のビエンチャンがやたらとタイとの国境に近い場所にあるのも、タイから支援を受けるため、あえて遷都した結果とのことだった。
 年表からはビルマは一方的な敵、クメール人は安定した支援者で、タイとベトナムは両方の役割を果たしたとの印象を受けた。フランスや日本もラオスにとっては新しいプレイヤーではあっても、新しいゲームを始める相手ではなかったのかもしれない。特に日本はわずか5ヶ月みたいだからなぁ……。

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東南アジアの建国神話 弘末雅士 世界史リブレット72

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ラオス (ナショナルジオグラフィック世界の国)
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カテゴリ:ナショナルジオグラフィックDVD | 19:06 | comments(0) | trackbacks(0)
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