バビロン ベアトリス・アンドレ=サルヴィニ著 斎藤かぐみ 訳

 古代メソポタミアの中心だった「神の門」バビロンに関する文庫。イラク戦争による遺跡の破壊が懸念される中、発表翻訳されたものらしい。とりあえず状況は治まったが、甚大な被害をうけた遺跡も出てしまった。

 個人的にバビロンに関連してはハンムラビ王への関心が強かったのだけど、残した足跡の点ではネブガドネツァル2世の存在も大きいことが分かった。
 新しい時代に大規模な事業をおこしたので当然だが……新しい事業でも基礎は昔の基準にしたがって造っているところはメソポタミアらしい。おかげでネブガドネツァルより前に破壊された遺跡でも概要を知ることができる?紛らわしい部分もありそうだが。

 戦いの女神イシュタルの門が、いちばん敵が到来しそうな方向に造られているのは分かりやすい。門を女性器に、市内を子宮に例えたと想像するのは飛躍しすぎかな。男性の神にあてられた門もあるし。
 楔型文字に書かれた生々しいまでの当時の文章がフランス語からの重訳ながら収録されている点も魅力的だった。古代メソポタミア人の宗教観・世界観が直接的に伝わってくる。

関連書評
バビロニア都市民の生活 S.ダリー著/大津忠彦・下釜和也 訳
世界史人リブレット001ハンムラビ王〜法典の制定者 中田一郎

バビロン (文庫クセジュ)
バビロン (文庫クセジュ)
カテゴリ:歴史 | 12:51 | comments(0) | trackbacks(0)

サメ帝国の逆襲〜海洋生命5億年史 土屋健

 海の生物による覇権争いを描いた古生物の本。主役は軟骨魚類のサメである(そういえばエイの名前があがらない。濾過食性組と似たコースの扱い?)

 しかし、中生代も新生代も「新手」の紹介にページが割かれていて、サメは最後にあがってくる感じだった。
 大量絶滅でサメが生き残れたのは、肺呼吸のモササウルスと違ってサメは環境変化の穏やかな深海に逃げ込めるからであろうな(そういう仮説の紹介があったわけじゃないけど)。
 次の大量絶滅がこれまでと類似のものになったら、やっぱりクジラが絶滅して、サメが生き残る気がする。胎生も何らかのメリットがあるのかも――卵の方が大量絶滅に強いんだっけ?

 陸上でこれほど長い間覇権を握った生物がいないことを考えると、サメは本当に興味深い存在だ。
 残念なことは軟骨が残りにくいことだが、化石産地によっては体も残っているようだ。それなのに最近の「メガロドン」は歯しか見つかっていないことが意外だった。
 メガロドンは系統もホホジロザメにきわめて近縁な属とする説以外に「カルカロクレス」か「オトダス」に属する説があって著名なのに謎多い存在だと分かった。
 そこが世間の関心までかき立てる?

関連書評
シー・モンスター 太古の海の支配者たち ナショナルジオグラフィック
世界の美しいサメ図鑑 仲谷一宏・監修

海洋生命5億年史 サメ帝国の逆襲
海洋生命5億年史 サメ帝国の逆襲
カテゴリ:古生物学 | 23:20 | comments(0) | trackbacks(0)

地球46億年気候大変動 横山祐典

 副題は「炭素循環で読み解く、地球気候の過去・現在・未来」
 地球の古気候研究の歴史を追いながら、現在人類が直面している短期的な地球温暖化問題に近づいていった。南極の氷床が二酸化炭素濃度600ppmを超えた途端に、一気に溶けてしまう恐れがあることが怖い。我々は子孫にどれほど巨大な負債を遺そうとしているのか……。
 氷河期が周期通りには訪れず、新しい地質時代に突入するシミュレーション結果も衝撃的だった。
 文章は固めで正直、読みにくい。

 かなり多くの研究者が紹介されているため、紹介はやや薄味に感じたが、それでも異色の経歴をもった研究者は記憶に残る。
 あの有名なミランコビッチが元土木技術者だったとは驚いた。能力のある人はどの分野にもいて、研究の世界にやってきたから歴史に名を残すことになった感じかなぁ。
 アメリカの研究者は、なかなか「立身出世」を感じさせる経歴の持ち主が多いことも興味深かった。日本の場合は中産階級が分厚くなっているから経歴は似かよる形になるか。

 著者が世界中で仕事をしてコネクションをもっていることも、さりげなく紹介されている。
 著者の研究以外は1990年代までの研究成果が紹介されていることが多いのは、さらに新しい研究はまだまだ検証が必要なものが多いということだろう。
 古気候研究の最前線は凄いことになっているのが予想できた。

関連書評
ビジュアル版 地球・生命の大進化〜46億年の物語 田近英一・監修
地球全史〜写真が語る46億年の奇跡 白尾元理・清川昌一
大地と海を激変させた地球史46億年の大事件ファイル ニュートンムック

地球46億年 気候大変動 炭素循環で読み解く、地球気候の過去・現在・未来 (ブルーバックス)
地球46億年 気候大変動 炭素循環で読み解く、地球気候の過去・現在・未来 (ブルーバックス)
カテゴリ:地学 | 19:06 | comments(0) | trackbacks(0)

鳥類学者無謀にも恐竜を語る 川上和人 生物ミステリー

 恐竜にはよく分からないことが多いから楽しく想像を語れる。
 鳥類学者が歴史小説家みたいなことを言い出した!歴史学者だったら、わからないから楽しく補っていいみたいな言い方はできない。そういう意味では本書は通常よりも遙かに過去の時代をあつかった歴史小説といえるのかもしれない。
 まぁ、想像にも何らかの(こじつけに近くても)根拠を示しているところは、やっぱり学術よりだと思われる。

 ユーモアの効いた文章に踊らされながら、恐竜への関心をテコに鳥類への知識が増えた気がするので、著者の意図は果たされたと思う。
 Tレックスボーンステーキを酒の肴にされた恐竜学者の反応は?……日本は恐竜学者の勢力があまりないことも本書出版の追い風になったのかもしれない。
 これがアメリカでの英語出版だったら自称小心者の著者は……?

 もしも鳥類がいなかったら?+もしも哺乳類がいなかったら?の妄想は生態系のジェンガみたいだった。ひとつやふたつのブロックを抜いても倒れない(木が生長して穴が塞がる)が、いっぺんに大量のブロックを抜いたら全体へのダメージが生じるかもしれない。
 人類は、無差別に滅ぼしているわけじゃなくて特定の性質をもった種を狙い撃ち状態だから始末が悪い。

関連書評
そして恐竜は鳥になった 小林快次・土屋健

鳥類学者 無謀にも恐竜を語る (生物ミステリー)
鳥類学者 無謀にも恐竜を語る (生物ミステリー)
カテゴリ:古生物学 | 21:01 | comments(0) | trackbacks(0)

手作り実験工作室2〜手作り工作編 久保利加子

 キット販売!そういうのもあるのか!
 アニメがグッズ展開で経費を補填するみたいに、実験キットの宣伝にすることで本を安めにできていたりするのかな?どうかな。
 100円ショップで実験部品を集める方法も紹介しているので良心的である。

 視覚的にもわかりやすい光関連の実験が多くて、子供にも楽しそうだった。原理の説明はだんだん込み入ってくるが。
 本だけでは説明できない部分は動画へのリンクがQLコードで掲載されている。

 個人的には偏光シートを使った実験が見逃せない。偏光顕微鏡では岩石ばかり見ていたけれど、他の物も調べてみると面白かったんだな。
 プラスチックの検査に偏光が活用されていることは勉強になった。

関連書評
手作り実験工作室1手軽な実験編 久保利加子

手作り実験工作室〈2〉手作り工作編 (I・O BOOKS)
手作り実験工作室〈2〉手作り工作編 (I・O BOOKS)
カテゴリ:ハウツー | 05:57 | comments(0) | trackbacks(0)

耐火物 2019/2月号

・随想 故郷
 愛知県常滑市出身の人。斜陽産業ぶりをみてセラミックスには関わらないと決意した話が生々しい。流れで実際に関わってみれば食べていける業種もあったということだが、それも生存バイアスかもしれない。

・ロータリーキルン用耐爆裂性キャスタブルの開発
マイクロクラックを事前に生じさせておいて水蒸気の圧力を逃がす考え。以前、こんにゃく石の構造を利用して新しい素材をつくる研究をしていた人かな?ミクロ的にはツーツーになっていても、マクロ的には断熱効果は維持されることも面白い。

・新開発低セメント系乾式吹付け材の施工実績
 写真で吹付け作業の雰囲気がわかる。いきなり停電したらパニックになりそう。回転でもすれば露出したアンカーが身体に……閉所恐怖症の人にはできない仕事だ。

・セラミックファイバーブロック支持構造の強化
 鋼材の溝にセラミックの棒を挟む。これも金属とセラミックの複合素材といえる。ちょっとしたことに思える変更でも大きな変化があるものだなぁ。

・耐スケール性高温用生体溶解性ファイバー
 RCF規制の影響からなかなか抜け出せない。こういう研究が活発になった結果、海外をリードしたことになってくれればいいのだが……

・耐火物サロン:野外音楽フェスティバル
 こんな世界もあるという話。そういえば知り合いがライブ会場で出会った相手と結婚していた。
カテゴリ:工学 | 21:11 | comments(0) | trackbacks(0)

耐火物 2019/1月号

・フェノール樹脂について‐次の100年に向けての高機能フェノール樹脂‐
 フェノール樹脂についての知識がまとめられている。代表的な二種類があって分子量が違うそうだ。非常に広い範囲で利用されていることが分かった。グリーンフェノールに期待。アシモフのSFでもプラスチックは石油から作られ続けていたんだよなぁ。

・定形耐火物の機械的拘束下における耐熱衝撃性評価
 実際に近い環境での試験が行えたとのこと。シミュレーションとの比較がちょっと知りたい。

・養生時の湿度が低セメントキャスタブルの諸物性に与える影響
 湿度は高いほうがいい。つまり冬よりも夏に打設が行われる工程で造ったほうが設備は長持ちする。まぁ、夏ばかりに仕事が集中したら大変になるが…作業が暑いし。

・トピードの鉄皮冷却による耐火物の損耗低減
 わりと単純な外部からの冷却で効果があるものなんだ。たしかトピードは移動する設備だから冷却用水の安定供給は難しい?

・人間の成長 
 なんか、わちゃわちゃした文章だった。うーん…。
カテゴリ:工学 | 23:34 | comments(0) | trackbacks(0)

世界の伝承あやとり〜オセアニアのあやとり2 野口とも

 オセアニアのあやとり1はオーストラリアやニュージーランド、パプアニューギニアなど大きな陸地のあやとりが収録されていた。2には小さな島々のあやとりが集められている。

 思わぬところでナウルの近況を知った。戦前のナウルはあやとりが盛んで大会まであり、老若男女があやとりに親しんでいたのに、日本軍がやってきて滅茶苦茶にしてしまったらしい。
 それでも近年復興してきているとのことで、リンの資源が途絶えたナウルには珍しく明るいニュースだった。
 ナウルには人物のあやとりが多くても日本人のあやとりは収録されていないな(作られていても良い意味ではなさそう)。ドイツ人医師は作られているのに(第一次世界大戦前のつながりか)。

 ハワイのあやとりは日本でも人気の物があるらしい。けっこう名前を変えて紹介されているあやとりがあることも知った。できるだけそのまま教えて、ついでに文化も伝える形にしてほしいと思った。

 ところで表紙は日本人が現地の人たちの格好をしてあやとりをしているみたい。これはアメリカで白人がやっていたら炎上する奴では……気をつけてほしい。著者にはアメリカ在住経験もあるので大丈夫なんだろうけど。

関連書評
世界の伝承あやとり〜オセアニアのあやとり1 野口とも
世界の伝承あやとり〜南北アメリカのあやとり 野口とも

オセアニアのあやとり 2: あやとりの宝庫で見つけた傑作選[太平洋の小さな島々編] (世界の伝承あやとり)
オセアニアのあやとり 2: あやとりの宝庫で見つけた傑作選[太平洋の小さな島々編] (世界の伝承あやとり)
カテゴリ:ハウツー | 22:44 | comments(0) | trackbacks(0)

世界の伝承あやとり〜オセアニアのあやとり1 野口とも

 国際あやとり協会が採集した3000以上のあやとり中、オセアニアのあやとりは3分の2を占める。
 非常にあやとり文化が豊かなオセアニアのあやとりを紹介する本の1冊目。
 オーストラリア・パプアニューギニア・ニュージーランドのあやとりが掲載されている。天の川とワニのあやとりを使って、子供達に天の川が昇る時期には川のワニに注意するよう教えていたという説が興味深かった。
 あやとりは単体では不完全で、一緒に語られる物語をふくめて文化として完成するのかもしれない。

 国際あやとり協会が日本発祥の組織で、現在はアメリカに本部を移して活動していることが興味深い。
 あやとりに言葉の壁をこえる力があった証拠でもありそうだ。

 野口廣氏が勧められてパプアニューギニアで行った採集方法――市場で黙々とあやとりをしていると人が集まって珍しいあやとりを見せてくれる――が面白かった。

オセアニアのあやとり 1: あやとりの宝庫で見つけた傑作選[オーストラリア・パプアニューギニア・ニュージーランド編] (世界の伝承あやとり)
オセアニアのあやとり 1: あやとりの宝庫で見つけた傑作選[オーストラリア・パプアニューギニア・ニュージーランド編] (世界の伝承あやとり)
カテゴリ:ハウツー | 20:37 | comments(0) | trackbacks(0)

江戸の長者番付〜殿様から商人、歌舞伎役者に庶民まで 菅野俊輔

 江戸時代のお金のことをまとめた「下世話」な文庫。「江戸時代の100円ショップ」の定価4文を100円に換算して現代での金額も算出している。
 それで、そんなに外れていない雰囲気になっているから面白い。書く前にいろいろな換算方法を検討したんだろうな。

 江戸時代の格差は強烈であるが、将軍や前田家当主の収入を藩からの収入としてしまっているのは、いかがなものか。まぁ、現代の政治家や経営者とは感覚が違っていたことも確かとは思われる。
 というか、現代の政治家・官僚・経営者にも、ともすれば現代に生きる大名以下の倫理観の持ち主が……。

 越後屋あたりの大商人はさすがに豊かだった。千両役者や花魁も儲けている。
 江戸屋敷の留守居がやりたい放題なのは知ってた……諜報活動だから兵法を知っているほど歯止めが掛からない。

 庶民や隠居の生活費もあつかわれていて、江戸時代の人々を身近に感じることができた。

関連書評
近世村人のライフサイクル 大藤修 日本史リブレット39
近世商人と市場 原直史 日本史リブレット88

江戸の長者番付 (青春新書インテリジェンス)
江戸の長者番付 (青春新書インテリジェンス)
カテゴリ:日本史 | 23:36 | comments(0) | trackbacks(0)
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