バサラ戦記3〜織田軍団襲来 河丸裕次郎

 真田のふところに飛び込んできた窮鳥、津田信澄。彼を助けるためには主導権を握ることが必要と、あえて望む戦場に織田軍団を呼び寄せることになる。
 総大将が戦場での寝返りをして決着とは、とんでもない展開だ。
 ただし、小牧・長久手の戦いで戦略的にやらかして織田信雄なら絶対にないとは言い切れない気がする……一人で一万人以上を宗旨替えさせることになった伊達政宗がお手柄すぎる。東北全体を与えられても納得せざるを得ない手柄になる、のかなぁ。

「だとぉ!?」の語尾で登場人物がしゃべるごとに知能指数が低下する。
 いくさなのだから、そこまでは想定外の事態じゃないだろうと思うことにも「だとぉ!?」だから、呆れてしまう。
 政宗と幸村の若さにあふれる掛け合いなどは良かった。
 この世界の信澄のことだから、三法師が元服したら普通に家督を譲りそうである。娘がいれば娶らせるかもしれないが、女性関係の情報がまったく出てこなかったなぁ。
 そういえば幸村も結婚相手が変わりそうである。政宗だけはすでに結婚しているので変化なしか。

バサラ戦記〈3〉織田軍団襲来 (歴史群像新書)
バサラ戦記〈3〉織田軍団襲来 (歴史群像新書)
カテゴリ:時代・歴史小説 | 12:38 | comments(0) | trackbacks(0)

バサラ戦記2〜清洲の陰謀 河丸裕次郎

 天下人への執着心に目覚めてしまった羽柴秀吉は、津田信澄を蹴落とすための陰謀をめぐらせる。
 まんまと柴田勝家を抱き込んだ秀吉によって、信澄は清洲城での挟撃を受けることになるのであった。

 中川清秀が大活躍だった。今度のピンチに関しては政宗と幸村のコンビもまったくセンサーが働かず、別の場所から発覚した点がよかった。
 蒲生氏郷は見抜けなかったと反省していたけれど、彼が池田恒興をねじ込んだおかげで何とか助かったのである。池田恒興は史実でも「なぜか清洲会議にいる」状態だったよなぁ。
 信澄を間接的に助けることになった池田恒興の立場が気になる。優柔不断の恒興は無理でも高山右近が手勢と逃避行に同行してくれれば、もうちょっと楽になったのに……共に地獄をくぐりぬけた一行の結束がより強まったことは間違いない。

 信濃に逃げた信澄を庇護した真田昌幸にとっては、武田勝頼相手にできなかった救援を津田信澄相手にやることになりそうだ。敵は織田勢で変わっていないし、前々から練っていた計画が応用できそうだ。

バサラ戦記2 清洲の陰謀 (歴史群像新書)
バサラ戦記2 清洲の陰謀 (歴史群像新書)
カテゴリ:時代・歴史小説 | 23:03 | comments(0) | trackbacks(0)

妖氛録 中島敦

 傾国の美女、夏姫の物語。
 存在するだけで国家を傾けさせずにはいられない夏姫の外観描写から始まって、彼女が歴史に与えた影響が描かれる。そこに夏姫本人の意志があったわけではない。だからこそ恐ろしい。
 夏姫は自分の毒で中らないようになったけれど、それ以上にはなれなかった様子である。彼女に人生を狂わせられれば人の内部に巣食う魔物の存在を信じられるかもしれない。なぜだか夏姫が王族であることを忘れそうになる。
 息子の夏徴舒がかなり可哀想である。当然の怒りを形にしたら車裂き……待ち伏せするなら大臣の二人も仕留めてほしかった。

 楚の荘王や共王など話が短いわりに登場人物が多い。戦いも大会戦である邲の戦いと鄢陵の戦いが名前だけ出てくるなど春秋時代の導入に意外と向いているのではないか。

関連書評
夏姫春秋・上 宮城谷昌光

青空文庫
中島敦 妖氛録
カテゴリ:時代・歴史小説 | 23:00 | comments(0) | trackbacks(0)

バサラ戦記1〜三日天下 河丸裕次郎

 甲斐で出会った同い年の真田幸村と伊達政宗が意気投合して、織田信長見物に出かけ、本能寺の変に巻き込まれる歴史小説。
 シミュレーションというには破天荒すぎる展開であるが、織田信澄に活躍の機会を与えており、非常におもしろい配役になっていた。

 幸村の呼吸を飲み込んだ発言がよい。

 織田信孝の襲撃を撃退したあとの流れなど強引に思えたのだけど――取り込んだ信孝兵の口に戸は立てられないので――じゃあ、実際にどうなるのか?と聞かれるとよく分からないのも確かである。
 史実の十一日天下は本当の三日天下になってしまい、本当を嘘にする物語が、嘘を本当にしていた。

バサラ戦記1 三日天下 (歴史群像新書)
バサラ戦記1 三日天下 (歴史群像新書)
カテゴリ:時代・歴史小説 | 12:49 | comments(0) | trackbacks(0)

狐憑 中島敦

 スキュティアに偶然生まれた創作家、シャクのお話。衝撃的な結末が待ちかまえていて、シャク本人も物語の中に消えたごとしだ。しかし、彼のことを語り継いでくれる人間はいそうにない。
 優れた話を語り続けなければ殺されてしまう立場は千夜一夜物語のシェヘラザードを連想させる。締め切りに追い立てられる作家としての共感がシャクに与えられている感じがした。

 聴衆のニーズに応えて刺激的な話に走ったあげくに創作能力を失ってしまうところも教訓的だった。
 思わぬ方法で反撃してくれることを期待したのになぁ……。

 敵対部族が右手を切り取っていって爪がついたままの手袋にするとの記述があった。左手に手袋はいらないのかな?弓を引くときの手袋とも想像したが、弦があたって痛いのは左手の方なので逆に思われる。謎だ。

関連書評
ヒストリエ1−2巻 岩明均:スキタイ人の風俗が出てくる歴史漫画

青空文庫
中島敦 狐憑
カテゴリ:時代・歴史小説 | 18:59 | comments(0) | trackbacks(0)

24色でできる!はじめてのコピック背景 ばびりぃ

 コピックを使った背景の描き方を実例で指南してくれる。
 魔法のように絵ができあがっていく様子がわかって絵を描かない自分にもおもしろかった。かなりいろいろなことを考えてイラストが描かれていることも分かる。ひとつひとつの事例に引き出しを持っているのではなく、応用しているのだと思うけど、相当メモリーを使っている印象だ。
 こういう本やネット上の情報があるからアマチュアには非常にありがたい時代である。

 東京造形大学卒業の著者はさすがに画力が高くて、本書ではおまけとなるキャラクターの絵も幅が広い。個人的には角型おだんご頭の女の子が好きだった。
 おなじイラストでも背景のアレンジによってがらりと印象が変わることが実例でよくわかった。

 コピックの基本的な使い方を紹介するページも最後の方にあって0番の重要性が理解できた。

関連書評
動きで見る民族衣装の描き方 シーン別描き分けのコツ248パターン 玄光社

24色でできる!  はじめてのコピック背景:かんたんパターンから風景まで
24色でできる! はじめてのコピック背景:かんたんパターンから風景まで
カテゴリ:ハウツー | 20:49 | comments(0) | trackbacks(0)

名人伝 中島敦

 名人は一般人の役に立たない。達人までに留めておいてくれた方がたぶんありがたい。
 いや、名声だけでもおつりが来ていたか?紀昌家の近隣は泥棒が寄りつかなくなっているので、それだけでもありがたい。渡り鳥の排除については田単の策略を封じる程度の威力はありそうだ。

 弓で天下一を目指すことになった紀昌が名人になれたわけは可処分時間をたくさん持っていたからに尽きる。機織り機の特訓など一般人の家庭でやったら働けと家の外に放り出されるに決まっている。
 嫌がられつつも2年(吊した蚤の3年をいれれば5年)もの特訓が可能だったのは紀昌の家が豊かだからだ、ちょっと空しい話をすると。
 甘蠅老師の教えを9年も受けに言ったときは妻も諦めきっていたかもしれない。

 最初の師匠、飛燕との遭遇戦は最後の一矢を茨の枝で撃ったと勘違いして覚えていた(以前に読んだのはずいぶん昔のことだ)。実際には手に持った枝で棘の傾斜面を利用して紀昌の鋭い鏃をいなしたっぽい。傾斜装甲の発想ではないか。
「叩き落とした」の表現からはそうではない印象も受けるけれど、標的の近くだからといって達人の弓矢が、そんなに減速しているかなぁ。

青空文庫
中島敦 名人伝
カテゴリ:時代・歴史小説 | 12:03 | comments(0) | trackbacks(0)

牛人 中島敦

 さすがはウシ!メタンガスのゲップで地球温暖化を進ませ、世界を滅ぼそうとしている動物に似ているだけの事はある。
 まぁ、叔孫豹には文字通り「身から出た錆」だったかと。状況は異なるが血縁者と言えども生殺与奪の権を与えれば大変なことになる点で「リア王」に通じる内容だった。中国が舞台だし宦官趙高の逸話を連想したほうがいいのかなぁ。
 人間関係のバランスを取ることの大切さを教えてくれる、たぶん。

 叔孫豹が死亡を前にしたときの描写は、エジプトを征服したイスラム帝国の武将アムルが臨終の際に述べた感想「天が大地に迫り、私はその間に横たわり、針の目から息をしているようだ」によく似ていた。
 海外の歴史もあつかう著者だから、実際に参考にしたのかもしれない。

 叔孫豹に引き取られた後の牛人の母親が気になる。

青空文庫
中島敦 牛人

関連書評
アレクサンドリア E・M・フォースター 中野康司・訳:上にあげたアムルの言葉が載っている。
カテゴリ:時代・歴史小説 | 22:59 | comments(0) | trackbacks(0)

世界に衝撃を与えた日06〜水晶の夜とイスラエル国の誕生

 ナチスによる無法なユダヤ人の迫害である「水晶の夜」事件と、迫害されたユダヤ人たちがパレスチナに建国したイスラエルの誕生。微妙につながる事件が収録されている。

 水晶の夜では証言が残っている人の事件だからギリギリで助かることを期待したのだが、けっきょく殺されてしまう人がいた。殺害した親衛隊の側に証言した人物がいるみたいだ。
 親衛隊の側も第二次世界大戦で大量に死んでいそうなので、死人に口なしで闇から闇に消えてしまった事件も多いはず。
 ゲッベルスが出世の糸口をつかむためユダヤ人排斥の過激な演説を行ったという動機も最低だった。国家はブレーキが壊れると、どこまでも最悪の方向へ行ってしまうのかもしれないな。

 イスラエルの建国についてはユダヤ人の悲願とパレスチナ人の苦難のはじまりという両面から描かれていた。初代のイスラエル首相ベングリオンについて、おぼろな印象ながら知ることができた。
 ユダヤ人の奮闘もあったが、アメリカが口火を切った国際社会の承認が決定的だったように語られている。そのあたりに関してアメリカ南北戦争の南部連合と重ねて考えたアメリカ人もいたのではないか――それも皮肉な話だが。

関連書評
中東戦争全史 山崎雅弘
アラブ・イスラエル紛争地図 マーティン・ギルバート 小林和香子・監訳

BBC 世界に衝撃を与えた日-6-~水晶の夜とイスラエル国の誕生~ [DVD]
BBC 世界に衝撃を与えた日-6-~水晶の夜とイスラエル国の誕生~ [DVD]
カテゴリ:映像資料 | 00:21 | comments(0) | trackbacks(0)

狼疾記 中島敦

 人類の未来に悩んでしまう男、三造のくよくよした話。セトナ皇子(仮題)に通じる要素をみていたが、M氏の登場によって思わぬ方向に話が転びはじめた。
 当時ならM氏のような扱いの人でも何度も結婚できたのだなぁ。現代では社会でもっとも見捨てられている階層あつかいされている「キモくて金のないおっさん」に見えた。もっとも金はそれなりにあったのかもしれない。あと、出会いの機会も多いな。

 三造の悩みには、太陽がなくなっても人間の活動の痕跡がまったく消えるわけではないと無理に反論してみたくなった。しかし、最終的には宇宙は光だけになってしまうと言うし、痕跡があっても何なのだろうか。
 わからない。
 自分の意識がここに何故あるのか?という悩みに惑わされた経験を思い出した。存在の意味を求めていたわけでもなかったのだが。

 多くの人は三造と同じ悩みを抱える余裕がないのだと考えてみるものの、実は考えたくないために余裕をあえて無くしている人もいそうだなぁ。
 曖昧ながらも考えつづけて、それを積み上げてきたM氏は立派である。

青空文庫
中島敦 狼疾記
教材として鉱物が出て来る点にも注目したい
カテゴリ:文学 | 21:56 | comments(0) | trackbacks(0)
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