戦艦大和VS邪神戦艦大和 林譲治

 架空戦記のタイトルにはとにかく戦艦大和を入れておけば売れるという与太話があったが、本作ではそれが二回も繰り返されている。しかも、片方には邪神までついている。
 戦艦大和の1+1は2じゃない。戦艦大和は1+1で200だ!10倍だぞ!10倍!

 本作はクトゥルフの呪いで復活した戦艦大和が時間を逆行して暴れまわり日米軍に大打撃を与える。
 フレッチャーとスプルーアンスがやられて、ハルゼーが廃人になっている。たぶん、ミッチャーもやられている……。文章のミスでスプルーアンスがフレッチャーになっている部分があって一時的におぞましい復活をしていたけど。

 日本側は山本五十六が生きたまま終戦にこぎつけていて、全体の犠牲者も史実より少ない。結果的にマシな終わり方をした。
 しかし、幽霊戦艦の活動は歴史にどう刻まれるのやら――被害が大きすぎてなかったことにできそうにない。

 まともな方の戦艦大和に「大和殺し」とも言える特殊砲弾が載せられていて戦いの決め手になった。大和が大和との戦闘を想定するのは意外性があって面白い。
 挿絵が写真なのは予算的な理由もあるかもしれないが、独特の雰囲気があった。クトゥルフ神話読者向けに軍事専門用語の簡単な解説も欄外あった。

林譲治作品感想記事一覧

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小説 空挺ドラゴンズ 桑原太矩・橘もも

 小説でも空挺ドラゴンズらしさに溢れていた。読んでいてこれは空挺ドラゴンズだと納得した。武器の名前と役割については小説で描かれたおかげで整理できたかもしれない。
 クイン・ザザ側の主人公がヴァナベルなのは――原作でもヴァナベルが主人公的になりがちか。最初はタキタが主人公っぽかったのになぁ。小説でのタキタはほとんど男しか罹っていない病気に罹ってノックアウトされてしまう不遇ぶりよ。彼女が動けると視点が安定しないから?
 読者や作者的にもヴァナベルが主人公の方がしっくり来るのかもしれない。
 ミカは良い意味で野生動物的だし。

 逆羽龍の正体にチョウチンアンコウを連想した。まぁ、チョウチンアンコウなら分かれて行動することもできない。その意味ではコバンザメにも似ている?
 肉は誰かが毒見をしてから食べたほうがいいと思った。ネズミに食わせるくらいはしたのか?ワイルドな連中だな。

 物語の舞台となったネーベル市と市側の主人公である薬膳料理家のラスヴェットも印象的なキャラクターだった。原作で登場して欲しくなる。他の捕龍船乗員であるレギーナの方が出演のチャンスがありえるか。
 やり手の市長とか船を持っているお金持ちとか、直接は出ていないのに間接的な話を聞くだけで面白そうなキャラクターがいるのも良かった。

カテゴリ:ファンタジー | 21:13 | comments(0) | -

大正浪漫横濱魔女学校1〜シトロン坂を登ったら 白鷺あおい

 魔女学校と女学校。与えるイメージが違うかな。
 魔女であるだけに留まらず主人公と同学年の二人は全員妖魅(妖怪みたいなもの)という設定過多の作品だった。人間が少なすぎる!いちおう創元推理文庫になっているが、冒険小説的な要素が濃い。小道具の代わりに魔法が使える少年探偵団といった印象だ。
 なかなか物語の緩急が上手く雷雨が来てからの展開にはゾクッとした。

 表紙から透子が気に入っていたのだけど、肝心なところで置いてきぼりにされてしまったのは残念。
 宮子の「本性」にはビックリした――物理的じゃない方の。主人公が黄色と黒が綺麗というから、出没する豹にも引っ張られて虎を連想してしまったよ。「ティグレ」もミスリードさせそうな便宜的な呼び方だけど、ジャガーに対して豹呼ばわりも不正確なところがあるよなぁ。
 持って回ったフランス語の「ル・ジャグワール」が一番間違いがない。

 絵の中に自由に行き来できるなら収納が便利とか変なことを考えてしまった。間接的にグリーン・マンションについての中途半端な知識が身についた。気になった本を借りて読む主人公たちの行動力を少しは見習いたい。

カテゴリ:ファンタジー | 15:17 | comments(0) | -

悟浄歎異―沙門悟浄の手記― 中島敦

 沙悟浄の視点からみた三蔵法師一行の姿。特に生命力あふれる悟空の姿を鮮やかに活写した作品。
 孫悟空と牛魔王の戦いに関する迫真の描写がすごかった。でも、元ネタに準拠したものでオリジナリティは低いのかな?教養が足りないので何ともいえず、もどかしい。
 頭でっかちで実行が追いつかず傍観者に甘んじている沙悟浄の立場にはなかなか共感させられる。中島敦の時代から、我々もあまり成長がないようだ……。

 享楽主義者にみえてどこか影があるらしい猪八戒の人物描写も巧みであり、彼らが妖怪変化のたぐいであることを、ついつい忘れてしまい、人間のキャラクターよりも人間に感じてしまっている自分に気がつく。

 そして一行で唯一の人間である三蔵法師は、といえば妖怪にもなかなか到達できない心の境地に到達した人物として描かれていた。
 悟空も三蔵法師もそれぞれの世界で「無敵」になっていて羨ましい限りだ。

青空文庫
中島敦 悟浄歎異 ―沙門悟浄の手記―

悟浄歎異 ―沙門悟浄の手記― (字が大きくハッキリ見えるシニアの目にやさしい)
悟浄歎異 ―沙門悟浄の手記― (字が大きくハッキリ見えるシニアの目にやさしい)
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伝説の巨大ハリケーン マジック・ツリーハウス44

 メアリー・ポープ・オズボーン。食野雅子・訳。
 ジャックとアニーの仲良し兄妹が100年以上前のテキサス州に魔法のツリーハウスの力でタイムスリップ。巨大ハリケーンに襲われた当時のテキサス州都ガルベストンの人々を救う。
 つもりだったが、ガルベストンの人々に助けられることも多かった。人間の力ではほとんど抵抗できない大災害を前にして、体力のない子供にしては良くやったと言わざるをえない。興奮していても徹夜で避難誘導なんて無理だわ……たいした兄妹だ。

 高潮でどんどん町の水位が上がっていくシーンは、身長の低い子供の目線から見ているだけに恐怖感が増した。モーガンに与えられた使命で頭がいっぱいになっているのと、部外者感覚から自分たちは死なないと、どこかで思っていたのかもしれないが、かなり危ないことをしている。
 災害後も治安が維持されていた様子には感心した。まぁ、略奪する商店もハリケーンに吹き飛ばされて存在しないが。
 このハリケーンの経験からガルベストンは災害に強い都市に生まれ変わったそうだ。行ったことのない都市なのにL通りなどに親しみが湧いた。

 挿し絵の頻度が非常に多くて漫画に近い感覚で読めた。アニーちゃんかわいい。こんなに仲のいい兄妹もアニーが思春期に入ったら「ナードの兄貴キモい」とか言っちゃうのかな……ここまで一緒に冒険を経験していたら「普通」にはならないか。

関連書評
絵でわかる地球温暖化 渡部雅浩 講談社

マジック・ツリーハウス 44 伝説の巨大ハリケーン
マジック・ツリーハウス 44 伝説の巨大ハリケーン
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悟浄出世 中島敦

 三蔵法師一行に出会う前、人間からうつされた中二病に見事に罹患した(沙)悟浄を主人公に、流砂河の化け物たちを巡って哲学的な答えを一緒に求めていく一冊。
 実に身近な悩みを抱えた人物が実は化け物で、相談相手の哲人たちもみんな化け物という意外性がおもしろい。化け物紀行としても読み応えがあった。その一方で、それぞれがもつ特性が語る哲学にも反映されている。
 見方によっては人それぞれの違いが化け物にすることで視覚的に伝えられている。

 悟浄が遭遇した相手を肯定的に捉えるところも良かった。それは自分への自信のなさの裏返しなのだが、たとえば我が子を食らう蟹の化け物「無腸公子」に対して生理的な拒否感を覚えて、意見を聞けなくなってしまった自分への反省を促してくれる。

 また、探求の末に出てきた「『お互いに解ってるふりをしようぜ。解ってやしないんだってことは、お互いに解り切ってるんだから』という約束のもとにみんな生きているらしいぞ。」という皮肉な解釈には強く心に残るものがあった。
 あるいは本当に解っているものがいても、解っていることが周囲からは解りようがないんだろうな。それでもうまく説明すれば預言者にはなれる。そんな感じだろうか。

青空文庫
中島敦 悟浄出世
カテゴリ:ファンタジー | 23:22 | comments(0) | trackbacks(0)

神姫PROJECT〜彼方からの旅人 氷上慧一

 主人公がしゃべらないソーシャルゲームのラノベ化。ゲームではマスターと呼ばれる主人公には「セイ」の名前が与えられて、熟慮型ながら意志をもって行動している。
 でもやっぱり全体を引っ張っているのは主人公の幼馴染であるアリサだ。かなり無茶苦茶な性格をしているが、リナ・インバースに比べればたいした問題はないと思い直した。

 話の内容は隣の村が3日の距離にあるというあまりにも人里離れた自給自足の村での少女型モンスター「変異種」退治と、変異種をあやつっているらしい謎の組織「テスタメント」との戦いに終始している。まぁ、可もなく不可もなく。声とビジュアルをゲームで知っているのでイメージしやすい点は新鮮だった。
 せっかく言葉で風景を作れる小説なのに森につぐ森で夜明けの炎刃王気分だったのは否めない。村も孤立しすぎだろう……現実ではなんだかんだで繋がりがあるものかと。

 ボスのリリスが「さっすが〜!リリス様は話がわかるッ!」な発言をかましていた。さすがは元のゲームが元のゲームというか……私がもちだした「話がわかるッ!」なんか全年齢向けゲームだし、セーフだな。


 シリアルコードでついてくるデメテルは回復役かつバーストにパンチ力のある神姫で結構使える。SRニケの上位互換気味である。
 ゲスト出演した神姫ではクシナダだけ持っていないので気になった。ベルフェゴール先生(レイド戦で使える神姫は先生をつけて呼んでしまう)はやっぱりいいな。

神姫PROJECT 彼方からの旅人 (ファミ通文庫)
神姫PROJECT 彼方からの旅人 (ファミ通文庫)
カテゴリ:ファンタジー | 21:44 | comments(0) | trackbacks(0)

呪走!邪神列車砲 林譲治 クトゥルー・ミュトス・ファイルズ

 架空戦記小説をおおく手がけてきた著者によるクトゥルフ神話と太平洋戦争を融合させた話。意外な気もするが、焦熱の波濤でヒトラーとヒムラーにクトゥルフネタを使わせていたっけ?
 非常におぞましい描写の数々にSAN値がだだ下がりだった。タイトルになっている邪神列車砲の設定は正気で考えられるものなのか。生命への冒涜っぷりが凄まじい。

 しかし、一面において牟田口のインパール作戦はクトゥルフ神話でも絡んでいなければ納得できないほど悲惨なものであったと描写していた。
 そういう関係もあって史実を動かさずに裏で伝奇風のストーリーを展開させる内容に思えるのだが、戦艦サウスダコタと空母エンタープライズが叩き潰されていたりして、微妙に史実と違う要素を織り交ぜていた。
 そして最後は完全に史実と異なる決着である。おみそれした。

 それにしても渋い表紙イラストである。帝国軍人の主武装が手斧なんて……邪神列車砲のイラストが一枚は欲しかった。時空をこえた射程をもつのに列車砲の形状にする意味は――いちおう説明はされていたが、最大の理由はやっぱり厨二兵器だからだよな。

林譲治作品感想記事一覧

呪走!  邪神列車砲 (クトゥルー・ミュトス・ファイルズ)
呪走! 邪神列車砲 (クトゥルー・ミュトス・ファイルズ)
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「守り人」のすべて〜守り人シリーズ完全ガイド 上橋菜穂子

 個人的には藤原カムイの漫画で読んだことがあるだけの守り人シリーズのガイドブック。架空国家の地図がみたくて読んだ。十分に期待こたえてくれる地図が載っていた。
 緯度ではどれくらいになるのかな?北アフリカとヨーロッパみたいな位置関係をイメージすればおおよそ合っていそうではある。しかし、サンガル王国の気候は厳しそうだ。

 バルサが三十路と明言された設定であることにおののいた。しかし、上橋先生の「おばさん」呼びはちょっときつくないだろうか?お姉さんも別の意味できついかなぁ。
 まぁ、チャグムから見ればおばさんということか。
 登場人物辞典にバルサとは別に「おばちゃん」がいて、そのまま載っていることに笑った。

 あと、海外翻訳に関する翻訳者の平野キャシー氏と作者の対談が興味深かった。日本からアメリカに打って出るには、かなり厳しい条件があるようで……。国内でのアニメ化と違って迂闊なことができない雰囲気が感じられた。別にアニメ化でも迂闊なことはできないか。迂闊なことになっている例が目立つだけで。
 料理や独自の用語など、細部の作り込みがしっかりしていることも感じられるガイドブックだった。

「守り人」のすべて 守り人シリーズ完全ガイド
「守り人」のすべて 守り人シリーズ完全ガイド
カテゴリ:ファンタジー | 00:31 | comments(0) | trackbacks(0)

これはゾンビですか?19〜はい、お前じゃねえよ! 木村心一

 これ損。買い損。DVD・Blu-rayディスクで、これはゾンビですか?のアニメを購入した人には特典で読んだことのある内容が収録されている番外編的な追加巻。あとがきによれば3巻と4巻の間に当たるらしい。それでは書き下ろしによる大先生との進展も期待できない……。
 ちなみに挿し絵は大半がこぶいち・むりりん先生のこれゾン画集で見覚えがあるものだった。ただし、重要な部分は見せていないし、カラーがモロクロになっている。顔の部分だけをアップしているが、実は……画集を買った方がいいぞ。

 まぁ、それでも本文に挿し絵がついてテンポよく読めるのはありがたい事で、Blu-rayボックスで入手した真っ白な冊子には期待できないことだった。
 大先生の絡みが多いので、彼女が好きな人には良いのではないか。

 あと、ユーの正妻的余裕に萌えた。どんな展開になっても絶対に歩の隣にいるという確信。愛だな。ある意味、呪いだが、こんな呪いなら大歓迎だ。それが、これゾンの世界ではゾンビになる呪いなのだ。

木村心一作品感想記事一覧

これはゾンビですか? (19) はい、お前じゃねぇよ! (富士見ファンタジア文庫)
これはゾンビですか? (19) はい、お前じゃねぇよ! (富士見ファンタジア文庫)
カテゴリ:ファンタジー | 19:18 | comments(0) | trackbacks(0)
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