悟浄歎異―沙門悟浄の手記― 中島敦

 沙悟浄の視点からみた三蔵法師一行の姿。特に生命力あふれる悟空の姿を鮮やかに活写した作品。
 孫悟空と牛魔王の戦いに関する迫真の描写がすごかった。でも、元ネタに準拠したものでオリジナリティは低いのかな?教養が足りないので何ともいえず、もどかしい。
 頭でっかちで実行が追いつかず傍観者に甘んじている沙悟浄の立場にはなかなか共感させられる。中島敦の時代から、我々もあまり成長がないようだ……。

 享楽主義者にみえてどこか影があるらしい猪八戒の人物描写も巧みであり、彼らが妖怪変化のたぐいであることを、ついつい忘れてしまい、人間のキャラクターよりも人間に感じてしまっている自分に気がつく。

 そして一行で唯一の人間である三蔵法師は、といえば妖怪にもなかなか到達できない心の境地に到達した人物として描かれていた。
 悟空も三蔵法師もそれぞれの世界で「無敵」になっていて羨ましい限りだ。

青空文庫
中島敦 悟浄歎異 ―沙門悟浄の手記―

悟浄歎異 ―沙門悟浄の手記― (字が大きくハッキリ見えるシニアの目にやさしい)
悟浄歎異 ―沙門悟浄の手記― (字が大きくハッキリ見えるシニアの目にやさしい)
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伝説の巨大ハリケーン マジック・ツリーハウス44

 メアリー・ポープ・オズボーン。食野雅子・訳。
 ジャックとアニーの仲良し兄妹が100年以上前のテキサス州に魔法のツリーハウスの力でタイムスリップ。巨大ハリケーンに襲われた当時のテキサス州都ガルベストンの人々を救う。
 つもりだったが、ガルベストンの人々に助けられることも多かった。人間の力ではほとんど抵抗できない大災害を前にして、体力のない子供にしては良くやったと言わざるをえない。興奮していても徹夜で避難誘導なんて無理だわ……たいした兄妹だ。

 高潮でどんどん町の水位が上がっていくシーンは、身長の低い子供の目線から見ているだけに恐怖感が増した。モーガンに与えられた使命で頭がいっぱいになっているのと、部外者感覚から自分たちは死なないと、どこかで思っていたのかもしれないが、かなり危ないことをしている。
 災害後も治安が維持されていた様子には感心した。まぁ、略奪する商店もハリケーンに吹き飛ばされて存在しないが。
 このハリケーンの経験からガルベストンは災害に強い都市に生まれ変わったそうだ。行ったことのない都市なのにL通りなどに親しみが湧いた。

 挿し絵の頻度が非常に多くて漫画に近い感覚で読めた。アニーちゃんかわいい。こんなに仲のいい兄妹もアニーが思春期に入ったら「ナードの兄貴キモい」とか言っちゃうのかな……ここまで一緒に冒険を経験していたら「普通」にはならないか。

関連書評
絵でわかる地球温暖化 渡部雅浩 講談社

マジック・ツリーハウス 44 伝説の巨大ハリケーン
マジック・ツリーハウス 44 伝説の巨大ハリケーン
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悟浄出世 中島敦

 三蔵法師一行に出会う前、人間からうつされた中二病に見事に罹患した(沙)悟浄を主人公に、流砂河の化け物たちを巡って哲学的な答えを一緒に求めていく一冊。
 実に身近な悩みを抱えた人物が実は化け物で、相談相手の哲人たちもみんな化け物という意外性がおもしろい。化け物紀行としても読み応えがあった。その一方で、それぞれがもつ特性が語る哲学にも反映されている。
 見方によっては人それぞれの違いが化け物にすることで視覚的に伝えられている。

 悟浄が遭遇した相手を肯定的に捉えるところも良かった。それは自分への自信のなさの裏返しなのだが、たとえば我が子を食らう蟹の化け物「無腸公子」に対して生理的な拒否感を覚えて、意見を聞けなくなってしまった自分への反省を促してくれる。

 また、探求の末に出てきた「『お互いに解ってるふりをしようぜ。解ってやしないんだってことは、お互いに解り切ってるんだから』という約束のもとにみんな生きているらしいぞ。」という皮肉な解釈には強く心に残るものがあった。
 あるいは本当に解っているものがいても、解っていることが周囲からは解りようがないんだろうな。それでもうまく説明すれば預言者にはなれる。そんな感じだろうか。

青空文庫
中島敦 悟浄出世
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神姫PROJECT〜彼方からの旅人 氷上慧一

 主人公がしゃべらないソーシャルゲームのラノベ化。ゲームではマスターと呼ばれる主人公には「セイ」の名前が与えられて、熟慮型ながら意志をもって行動している。
 でもやっぱり全体を引っ張っているのは主人公の幼馴染であるアリサだ。かなり無茶苦茶な性格をしているが、リナ・インバースに比べればたいした問題はないと思い直した。

 話の内容は隣の村が3日の距離にあるというあまりにも人里離れた自給自足の村での少女型モンスター「変異種」退治と、変異種をあやつっているらしい謎の組織「テスタメント」との戦いに終始している。まぁ、可もなく不可もなく。声とビジュアルをゲームで知っているのでイメージしやすい点は新鮮だった。
 せっかく言葉で風景を作れる小説なのに森につぐ森で夜明けの炎刃王気分だったのは否めない。村も孤立しすぎだろう……現実ではなんだかんだで繋がりがあるものかと。

 ボスのリリスが「さっすが〜!リリス様は話がわかるッ!」な発言をかましていた。さすがは元のゲームが元のゲームというか……私がもちだした「話がわかるッ!」なんか全年齢向けゲームだし、セーフだな。


 シリアルコードでついてくるデメテルは回復役かつバーストにパンチ力のある神姫で結構使える。SRニケの上位互換気味である。
 ゲスト出演した神姫ではクシナダだけ持っていないので気になった。ベルフェゴール先生(レイド戦で使える神姫は先生をつけて呼んでしまう)はやっぱりいいな。

神姫PROJECT 彼方からの旅人 (ファミ通文庫)
神姫PROJECT 彼方からの旅人 (ファミ通文庫)
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呪走!邪神列車砲 林譲治 クトゥルー・ミュトス・ファイルズ

 架空戦記小説をおおく手がけてきた著者によるクトゥルフ神話と太平洋戦争を融合させた話。意外な気もするが、焦熱の波濤でヒトラーとヒムラーにクトゥルフネタを使わせていたっけ?
 非常におぞましい描写の数々にSAN値がだだ下がりだった。タイトルになっている邪神列車砲の設定は正気で考えられるものなのか。生命への冒涜っぷりが凄まじい。

 しかし、一面において牟田口のインパール作戦はクトゥルフ神話でも絡んでいなければ納得できないほど悲惨なものであったと描写していた。
 そういう関係もあって史実を動かさずに裏で伝奇風のストーリーを展開させる内容に思えるのだが、戦艦サウスダコタと空母エンタープライズが叩き潰されていたりして、微妙に史実と違う要素を織り交ぜていた。
 そして最後は完全に史実と異なる決着である。おみそれした。

 それにしても渋い表紙イラストである。帝国軍人の主武装が手斧なんて……邪神列車砲のイラストが一枚は欲しかった。時空をこえた射程をもつのに列車砲の形状にする意味は――いちおう説明はされていたが、最大の理由はやっぱり厨二兵器だからだよな。

林譲治作品感想記事一覧

呪走!  邪神列車砲 (クトゥルー・ミュトス・ファイルズ)
呪走! 邪神列車砲 (クトゥルー・ミュトス・ファイルズ)
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「守り人」のすべて〜守り人シリーズ完全ガイド 上橋菜穂子

 個人的には藤原カムイの漫画で読んだことがあるだけの守り人シリーズのガイドブック。架空国家の地図がみたくて読んだ。十分に期待こたえてくれる地図が載っていた。
 緯度ではどれくらいになるのかな?北アフリカとヨーロッパみたいな位置関係をイメージすればおおよそ合っていそうではある。しかし、サンガル王国の気候は厳しそうだ。

 バルサが三十路と明言された設定であることにおののいた。しかし、上橋先生の「おばさん」呼びはちょっときつくないだろうか?お姉さんも別の意味できついかなぁ。
 まぁ、チャグムから見ればおばさんということか。
 登場人物辞典にバルサとは別に「おばちゃん」がいて、そのまま載っていることに笑った。

 あと、海外翻訳に関する翻訳者の平野キャシー氏と作者の対談が興味深かった。日本からアメリカに打って出るには、かなり厳しい条件があるようで……。国内でのアニメ化と違って迂闊なことができない雰囲気が感じられた。別にアニメ化でも迂闊なことはできないか。迂闊なことになっている例が目立つだけで。
 料理や独自の用語など、細部の作り込みがしっかりしていることも感じられるガイドブックだった。

「守り人」のすべて 守り人シリーズ完全ガイド
「守り人」のすべて 守り人シリーズ完全ガイド
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これはゾンビですか?19〜はい、お前じゃねえよ! 木村心一

 これ損。買い損。DVD・Blu-rayディスクで、これはゾンビですか?のアニメを購入した人には特典で読んだことのある内容が収録されている番外編的な追加巻。あとがきによれば3巻と4巻の間に当たるらしい。それでは書き下ろしによる大先生との進展も期待できない……。
 ちなみに挿し絵は大半がこぶいち・むりりん先生のこれゾン画集で見覚えがあるものだった。ただし、重要な部分は見せていないし、カラーがモロクロになっている。顔の部分だけをアップしているが、実は……画集を買った方がいいぞ。

 まぁ、それでも本文に挿し絵がついてテンポよく読めるのはありがたい事で、Blu-rayボックスで入手した真っ白な冊子には期待できないことだった。
 大先生の絡みが多いので、彼女が好きな人には良いのではないか。

 あと、ユーの正妻的余裕に萌えた。どんな展開になっても絶対に歩の隣にいるという確信。愛だな。ある意味、呪いだが、こんな呪いなら大歓迎だ。それが、これゾンの世界ではゾンビになる呪いなのだ。

木村心一作品感想記事一覧

これはゾンビですか? (19) はい、お前じゃねぇよ! (富士見ファンタジア文庫)
これはゾンビですか? (19) はい、お前じゃねぇよ! (富士見ファンタジア文庫)
カテゴリ:ファンタジー | 19:18 | comments(0) | trackbacks(0)

これはゾンビですか?18〜はい、一般ピーポーに戻ります 木村心一

 長かった、二期までアニメ化したこれはゾンビですか?もいよいよ最終巻――という名の短編最終処分巻。
 歩がゾンビじゃなくなった話と歩がゾンビだったころの話が混在しているので、混乱する。回想の形で導入されてはいるのだが。あとがきでキャラクターたちの10年後が簡単に紹介されていたが、相川家は美少女を集めて大家族になっていた……本当の家族が帰ってきたら居場所がないよ!
 すでに容量オーバーなので建て替えているかもしれない。歩の部屋で寝る権利を巡ってヒロインたちが争いあっていてもいっこうに構わん。
 いまだにユーと結ばれていないというのは、奥手すぎると思いました。大学も卒業して定職についているのだから、ユーに定食を提供するお仕事についても法律には抵触――重婚になった!サラスがさらっと婚姻届を出して、なぜか受理されてしまっているから!
 意味がわからないよ。やっぱり吸血忍者のコネで何とかしたのかなぁ。きたないさすが忍者きたない。

 まぁ、いざとなれば冥界やヴィリエで結婚すればいいだけさ。ヴィリエの女王になった平松やハルナ(春奈表記には慣れなかった)の権力をもってすれば、あらゆることが可能。
 冥界は複数の国があるというし、重婚を認めている国もあるだろう。それなら地球だって同じだな。

 なんだかんだで完結してよかったし、最終巻は文章が安定していて安心した。一巻のころに比べれば大違い、のはず。
 女性的な面を突然みせはじめるトモノリが最後の大活躍だった。かわいいじゃねーか。そして、織戸は最後まで気持ち悪かった。こいつ、主人公の友人ポジションとして越えてはいけない線をやすやすと……!

木村心一作品感想記事一覧

これはゾンビですか? (18)  はい、一般ピーポーに戻ります (富士見ファンタジア文庫)
これはゾンビですか? (18) はい、一般ピーポーに戻ります (富士見ファンタジア文庫)
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アルスラーン戦記14巻〜天鳴地動 田中芳樹

 殺しの田中が本領発揮!月は満ちれば後は欠けるだけ。16将がザッハークとの戦いで減っていく。手をこまねいていてはジリ貧だと、お優しいアルスラーン王子が気付くのは、どのタイミングなのか。
 ザッハークが完全復活する前に全力で突っ込んだ方がいいと思うけどなぁ。そのあたりの状況がよくわかっていないことも問題なので、まずは情報集めかな。
 相手が化け物とあっては、ナルサスの推理力にも限界がある。

 ラジェンドラ王はまったく良い性格を続けている。最期まで王位を保てるのはハリウッド映画でいうお笑い黒人枠のラジェンドラ王かもしれない。
 ちょっと怪しい部下が現れたが、なんだかんだで巧く立ち回って生き延びそうである。

 一方、サディストの作者に千尋の谷の底から千尋の谷に突き落とされたのがヒルメス……やめたげてよぉ!!
 ミスル国の征服まで挫折するとは思わなかった。そして、手勢が極限まで少なくなってしまった。ギスカールの待つマルヤムで再起できる可能性はあるのか。

 セリカが大陸公路を変えるかもしれないという話は中継地であるパルスの不安定な立場を物語っていた。北回りルートを探索する連中に暗殺者を放ったりするんですね、わかります。
 やはり独自の産業も興して置かないとなぁ。アルスラーンの仕事はあいかわらず山積している。
 作者よりもアルスラーンの働きすぎ予防が必要。

田中芳樹作品感想記事一覧

天鳴地動(てんめいちどう) アルスラーン戦記14 (カッパノベルス)
天鳴地動(てんめいちどう) アルスラーン戦記14 (カッパノベルス)
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これはゾンビですか?17〜はい、ボクは死にましぇん 木村心一

 ユーの笑顔がまぶしい最終巻――のはずだが、あとがきでおかしなことを言っていた。スレイヤーズすぺしゃる化して短編集だけが続く可能性があるのかな。
 期待したいが、ライオンの脱線話に脳がスライム化したので、なんとも言えないものがある。でもまぁ、こぶむり先生が魅力的なキャラクターを描き続けてくださる限りは続刊があってもついていく所存。
 18巻があるならクリスやメレンゲの本格攻略をお願いしたい。

 戦いは気持ち悪いの元気玉としか表現できない世界中のパワーを集めた戦い方で女王リリアを辛うじて倒してハッピーエンドを迎えた。リリアが全裸になったところが、特にハッピーだね。そういえばミストルティンを壊した歩もどこかのタイミングでなってしまったはずだが……気持ち悪い。
 しかし、気持ち悪いキングは別にいた。よくもまぁ、あんなに気持ち悪い発言が飛び出したものだ。自分までKADOKAWAに苦情を送りたくなったぞ。
 みんな、オリトに気持ち悪いを無限に与えてくれ!
 あらためて、彼を受け入れられる三原すげぇなぁ……と思うのだった。彼女が最強かもしれないね。
 オリトがミスターサタンオマージュなら、リリアの最終形態が白スク水でシンプルなのはフリーザのオマージュか。ドラゴンボール的な要素がついつい目についてしまった。

 とはいえ、リリアの圧倒的な強さもある意味で魅力的だった。敗北を知らないゆえの無邪気な恐ろしさ。本能で力を求めて求めて、どこまでも止まらずに求め続ける姿勢はラスボスにふさわしいものがある。
 彼女はヴィリエでいったい、どんな処遇をされてしまうのやら……京子と同じ感じになるのか?魔装少女とメガロの漁夫の利狙いの歩たちから漁夫の利をえたアリエル半端ない。
 ユーが直接喋られるようになったのは、ご都合的かもしれないが嬉しかった。最終的な歩の人間戻り度はどんなものなのかな。身体の一部だけ老化していったら、かなり怖い。大先生あたりに中途半端な状態は解除してもらえるか。
 そういえば織戸のメガロ化って解けてないまま?まぁ、いっか、織戸だし。

木村心一作品感想記事一覧

これはゾンビですか?(17) はい、ボクは死にましぇん (富士見ファンタジア文庫)
これはゾンビですか?(17) はい、ボクは死にましぇん (富士見ファンタジア文庫)
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