宮沢賢治の元素図鑑〜作品を彩る元素と鉱物 桜井弘

 父親宛の手紙が何度も引用されていて「作品」の記憶が吹っ飛んだ。さらに登場しなかった元素の説明が長々とつづいて記憶を薄れさせるのであった。
 ルテニウムがあるおかげで、ロシアの元素合成研究チームが元素の命名に関して控えめにみえていたが、最後の方はそうでもなかった。政治姿勢の変化が影響している可能性も?
 ドイツの重イオン研究所もやりますねぇ。
 レースに参加しているらしいのに、一度も命名権をえていないフランスチームも哀れだな。一度だけの日本もちょっと物足りないが。
 フィンランドの研究者によれば第172元素までは合成できる可能性があるとのことで、中国もどこかには自国の名前を差し込みたいと狙っているのではないか。
 ポーランド関係もけっこう強いことが興味深い。

関連書評
ぜんぶわかる118元素図鑑 子供の科学サイエンスブックス
元素でわかる鉱物のすべて 八川シズエ

宮沢賢治の元素図鑑ー作品を彩る元素と鉱物
宮沢賢治の元素図鑑ー作品を彩る元素と鉱物
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作家のお菓子 コロナブックス 平凡社

 昭和から平成にかけて生きた作家の好きだったお菓子を紹介する小腹の空く本。
 だが、むしろ食欲を押さえる効果もあった気がしないでもない。でているそのものには手が届かないせいか?
 あと、ブルジョアな作家には嫉妬してしまう……余計にひもじくなる。
 長生きの人が多くて、適度なお菓子も寿命延長に貢献したことを想像する。歯の状態はどうだったのかなぁ。お菓子をもらっていた家族が虫歯だらけだったと述懐している文章はあった。

 自分が覚えている中では「むらすずめ」と「味噌松風」は二回出てきた。やはり東京のお菓子が優勢であり、他の地域は特定の作家に頼っている状況だ。
 作家は東京に集まるし、東京は食都でもあるから、しかたがないな。
 現代なら取り寄せることで食べられるのはありがたい。

 やなせたかしが初めて描いたアンパンマンの絵が収録されていたり、水木しげるやナンシー関の机が載っていたりで、お菓子の写真以外もおもしろい視覚情報があった。

作家のお菓子 (コロナ・ブックス)
作家のお菓子 (コロナ・ブックス)
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新漢詩紀行 副読本<<上巻>> 石川忠久・監修

 DVD版新漢詩紀行の副読本。上巻ではDVD五巻までに収録されている漢詩が乗っている。
 漢文と書き下し文のみで、解説はない。たまに関連する場所の写真が入っている程度である。
「春爛漫」に載っている詩の情景圧縮描写力には写真がない方が感動するかもしれない。

 それゆえにスピーディーに振り返ることができて、DVDの内容をそれなりに覚えている人なら原文から内容を反芻することができるはず。
 自分も気に入っていた一部は思い出すことができた。副読本で気になった詩をDVDで見返せば更に記憶を強化してくれそう。

 また、副読本では詩人の名前を一度にみることができる。
 著名な詩人もやはり強いが、分野によっては素人は知らない詩人がたくさん出てくるところも面白い。実体験に裏付けられた詩は本人しか書けないわけだ。
 そんな分野でも、最優秀作は李白や杜甫が持って行くのだが……。

新漢詩紀行 ~石川忠久監修~ 10巻BOX [DVD]
新漢詩紀行 ~石川忠久監修~ 10巻BOX [DVD]
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ゲーテ格言集 高橋健二 編訳

「気分がどうのこうのと言って、なんになりますか。ぐずぐずしている人間に気分なんかわきゃしません。……………………きょうできないようなら、あすもだめです。一日だって、むだに過ごしてはいけません」ゲーテ「ファウスト」から

「私はこう勧めたい。何も無理じいせぬことだ。何もできない日は時には、後になって楽しめないものを作ろうとするより、ぶらぶらして過ごしたり、寝て過ごす方がいい、と」エッカーマン「ゲーテとの対話」から 

 どっちやねん!
 相反してツッコミを入れずにはいられないほど多くの格言を残したゲーテの言葉から、著者が日本人に感心のあると思われるものを抜き出した格言集。
 だだし昭和27年の発行で、編まれたのはさらに前らしいので、著者の考える日本人が現代の日本人ではなくなっている。女性に対するゲーテの考え方が古色蒼然と感じられるのは、本人よりも編集者の影響かもしれない。
 どちらかといえば支配者目線の言葉が多いのも気になった。ゲーテの発言全体ではもっとバランスが取れていそうなので。

 思うところは当然あったけれど、200年近く前に生きた人の言葉が、70年前の翻訳と編集で、いま読める状況を楽しんだ。
 122刷は伊達ではない。

ゲーテ格言集 (新潮文庫)
ゲーテ格言集 (新潮文庫)
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かめれおん日記 中島敦

 かめれおんの出番があまりなかったかめれおん日記。現実にも、わずか5日の滞在であった。あるいはその短さに病気によって予感される自らの人生の短さを重ねているのかなぁ。
 そう考えたら、かめれおんらしく色を変えてくれなかった事実が物悲しくなってくる。

 本書は単体でもおもしろいけど、「悟浄歎異―沙門悟浄の手記―」と合わせて読むことで味わいが増してくる。
 著者は悟浄であり、教師の吉田は孫悟空、想像の中に出てきた非武装でいて暴力に屈しない理想の人が三蔵法師と想像できる。生活の中から作品が出てくる様子がわかって、とても興味深い。
 非暴力不服従のガンジーは中島敦より後の時代の人だと気づく。もっとも、実際に彼らの活動をみて、著者が納得したかは分からない。

 吉田の給料活動調査は自分より働いていないと感じられるのに自分より給料が高い人間の存在に怒った時に、対象の給料を下げろではなく自分の給料をあげろと主張したところが立派である。当然といえば当然の方向性なのだけど……。
 本人は「高等小学生的人物」の評価が作中のようなプラスではなくマイナスの意味で受け取られる感じだった。実際、評した人物は多少の皮肉も込めて言ったんじゃないかなぁ。そして、著者はそこまで汲み取りつつも文章にはしない。

青空文庫
中島敦 かめれおん日記
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南島譚3〜雞 中島敦

 日本人に対して突然ブルースクリーンの出たパソコンのように何も受け付けなくなるパラオの人々。著者は彼らを理解不能だと述べるのだけど、未来の自分にはパラオ人の反応に心当たりがある。
 ブラックな存在の猛威に晒された人間の対処方法は、だいたい同じようなものであるはず。まったく論理性のない理不尽な暴風には、ひたすら受け流す以外に対応のしようがない――著者が引いたトリガーがそこまで強いものであったかはともかく。
 当時のパラオ人は未来に生きていたか、現代の日本人が植民地時代に生きている気がする。外国人研修制度など完全に再生産していると思うのだが。
 とりあえず「純朴な南の島の住民」なんてイメージはこのシリーズが吹き飛ばしてくれる。日本人やスペイン人、ドイツ人が純朴ではなくした部分もありそうだけど、伝説を考えれば「文明人」が来る前から彼らなりに複雑なものを持っていたはず。

 著者が遭遇した不思議な老人マルクープのデッサンは生き生きとしていて、中身は掴みどころのない存在でありながら、実在を強く感じることができた。
 恩返しの用意周到さはとても真似できそうにない。死の直前までベールの向こうにある頭の働きは衰えていなかったようだ。

青空文庫
中島敦 南島譚 ※[#「奚+隹」、第3水準1-93-66]
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南島譚2〜夫婦 中島敦

 意外なハッピーエンド!
 非常に困った妻エビルをもつギラ・コシサンのとほほな生活が物語られる。腕力と性欲の強いエビルが無敵状態で恐ろしい。神明決闘みたいな真似を女性のあいだで延々とやっていたのか……武器を使わないルールがあるとはいえ、よく殺人に発展しなかったものだ?
 発展していても触れていないだけかもしれない。とりあえず自殺者はとても珍しいらしい。

 話は意外な形で落着した。
 二番目の物持ちは浮気を疑われたり、浮気に苦しめられたりはしなかったのかなぁ。容貌からモテるはずがないと思われていたのかもしれない。だが、そういう思い込みは甘いのである。考えが多少は甘いほうが幸せになれる感じではある。

 モゴルの制度はいかにも未開の文明らしく思われそうだけど、日本でも場所によっては色々と固定観念を打ち砕く性にまつわる風習があったりする。
 相違点よりも夫婦の喜劇に文化の違いはない共通点に注目して、楽しむべきではあるまいか。

青空文庫
中島敦 南島譚 夫婦
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南島譚1〜幸福 中島敦

 南の島も人間がいて貧富の差がある以上は楽園ではない。
 ある不幸な男と、島一番の金持ちである長老の身におこった不思議な出来事が描かれる。夢と現の境目が分からなくなるような、心のありかた一つが大事なような、単純化された社会だけに考えやすく、考えさせられる。
 カードゲーム「大貧民」の革命が寓話化されているみたいでもある。

 あんな状況になったら、長老は「下男」の待遇をあらためそうなものだけど、その辺りの対応は描かれることがなかった。
 財産を半分にすれば現実でも夢の中でも確実に楽しめる恩寵になりうるのに――理想化しすぎか。

 善神は放っておいても助けてくれるので供物は悪神に捧げられるという仕組みが、宗教の中に彼らの「合理性」を感じさせてくれて興味深い。

青空文庫
中島敦 南島譚 幸福
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虎狩 中島敦

 主人公(作者と同一人物なのであろうか?作中では「中山」と紹介されている)が朝鮮半島で暮らしていた時代にできた友人、趙大カンと一緒に彼の親が毎年おこなっていた虎狩に行ったお話。
 旧友趙大カンの思い出話集であり、人間がいろいろな側面をもつことを巧みに描き出している。植民地状態の朝鮮で朝鮮族出身者であり、母親は日本人であることなど、趙大カンの出自が特別に人間性を複雑にしている部分もありそうだ。
 しかし、やっぱり彼は中学生であって、複雑さの中にも見えやすさが残っている。国語の先生が伝えたい対象の年代のひとつ下に伝わるように書くといいと指導してくれたものだが、登場人物も若すぎるくらいが分かりやすいのかもしれない。

 ただ分からないことがひとつあって、趙大カンが勢子を蹴り上げたときの発言は日本語だったのか、朝鮮語だったのか。感情のままに発言したなら朝鮮語になりそうだし、わざわざ日本語で口走ったなら友人に聞かせようとの意図が彼の行動には込められていたことになる。
 悪名高い国語のテストでどちらだと思うか。その理由は何か。問題に出してほしいなぁ。

 あと、虎狩で受けたリアルな虎のイメージが、山月記で活用された。そう単純に考えてしまった。

青空文庫
中島敦 虎狩
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あばばばば 芥川龍之介

 タイトルのインパクトに引かれて読んだわりには、まともな内容だった。たいていの小説に比べれば何も起こらなかったとすら言える。だけど、個人レベルでは確かに大きな変化が起こっていて、登場人物の息遣いが感じられた。
 なんでもない出来事のようでいて、まるで自分が経験したことのごとく感じられる。人生経験に下駄を履いた気分になれる作品だった。

 あと「天然」の魅力は昔から認識されていたんだなぁ。保吉の心理が天然さんのおかげで分かる。
 もっとも情報が少ない登場人物であるがために小僧が気になった。「新入り」との折り合いはどうだったんだろうか。

青空文庫
芥川龍之介 あばばばば
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