中東世界データ地図〜歴史・宗教・民族・戦争 ダン・スミス

 龍和子 訳。
 紛争の絶えない中東世界の歴史をデータの載った地図でしめす本。普通の歴史地図とはちょっと雰囲気が違っている。見た目より空間への描写が強くない反面、タイトルにあるデータの表示にはこだわりが感じられた。

 中東の現状はオスマン帝国から始まっているとして、変化を追っていき、最後は中東各国の状況が示される。モロッコまで中東に含めたのだから、モロッコのまとめも見せてほしかった。
 有志連合に軍を派遣していたり、かなり興味深い動きを示しているので。西サハラで泥沼に足を突っ込んでいるのに、やたらと元気である。
 本書ではトルコを中東に含めていない。歴史的経緯を重視したその理由も説明されて、それなりに納得した。しかし、トルコをヨーロッパ側に含める分類にも異論が出そうで、世界の新潟県的な立ち位置になっている。
 ちなみに日本がテロリストグループがリビアから支援されたことで名前が出てきていた。あと、石油の輸入国として。基本的に遠い国の印象を受けてしまうのだが、やはり目を離せない地域だ。
 だから本書が出ているわけだ。

 各国ではひどい状況の国が多くため息が漏れた。イエメンの年表で「戦争の第○ラウンド」って表記されるのいつまで続くのかと……。イラクでも悲惨なのに、シリアはもっとひどい。サウジアラビアをのぞく湾岸6王国の状況は比較的ましだが、それはパンとサーカスを王が民衆に与えているおかげと分析されている……。
 サウジアラビアはいちおう平時でありながら多方面作戦を展開していて戦略的にもいまいちに見えた。資源を集中してひとつずつ一気に解決するべきなのだが、サウジアラビアが資源を集中してすら一気に解決できる問題が中東にはないとも思えてくる。

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ナセル〜アラブ民族主義の隆盛と終焉 池田美佐子
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中東世界データ地図:歴史・宗教・民族・戦争
中東世界データ地図:歴史・宗教・民族・戦争
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地図で見るアラブ世界ハンドブック マテュー=ギデール

 太田佐絵子・訳

 「沸騰する世界」などときわめて物騒な呼ばれ方をしているアラブ世界の理解を深めるアトラス。イスラム世界と一致させておらず、イランやトルコは含まれていない。一方、モロッコやモーリタニアまでのアフリカ西岸地域は含まれている。めずらしいところではコモロ諸島もカウントされていた。
 古代からの長い歴史をもっていたのにアラブに飲み込まれたメソポタミアとエジプトが力尽きたとみるべきか、単純に近年に自分たちの国をもっていたペルシア人やトルコ人が独自性を残したとみるべきか。
 世界でもきわめて古い民族であるベルベル人が独自性を主張している点も興味深い。
 まぁ、エジプトは莫大な人口においても重要すぎるがゆえにアラブが手放さず、アラブ化をおこなったと考えるべきであろうな。メソポタミアもアラビア半島に近すぎた。

 やはり戦争や紛争にかんする問題がたくさんあって、読んでいて胸の具合が悪くなりそうだった。ソマリアに至っては人間開発指数が算出できないほどの無政府状態……対岸のイエメンも流れ込む人々によって麻痺状態とのこと(感想を書いている今は戦争中だ)。
 比較すると難民の方が多くなっているレバノンはよく機能を保っている。地続きで政情不安定な隣国があることの大変さが日本人にも理解できる内容だった。

 アラブ世界にとって希望の星は「金融」であるらしい。イスラム法に適合した独特の金融業は着実に成果をおさめているし、リーマンショックなどにも抵抗力をみせた。
 ノーベル経済学賞をムハンマド(は死者だからコーランに)捧げれば西側世界の財界も少しは目を覚ますのではないか。
 イスラム法と金融の両方に理解の深い人材は世界に100人程度しかいないらしく、アラブ世界で大成したければ狙い目に思えた。

関連書評
アラブ・イスラエル紛争地図 マーティン・ギルバート 小林和香子・監訳
地球情報地図50〜自然環境から国際情勢まで アラステア・ボネット
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地図で見るアラブ世界ハンドブック
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地図で見るラテンアメリカハンドブック 原書房

 オリヴィエ・ダベーヌ/フレデリック・ルオー。太田佐絵子 訳。オレリー・ボワシエール 地図製作。

 名物大統領がいた影響でウルグアイが気になって気になって気になって……ブラジルとは別方向に南米の優等生でほっこりした。海のないボリビアもしんどいけれど、ハイチの状態があらゆる点から危うい。特に投票率の圧倒的低さで政治への絶望ぶりが伝わってくるところが悲しかった。
 いちばん早くに独立したハイチがここまでつらいとはなぁ……。また、中米も苦しい状態に陥っている国家が多い。

 メキシコやコロンビアが麻薬の問題にさいなまれているものの、国家間の戦争は非常に少ない地域であって、中東との大きな違いが印象的だった。
 言語的にも宗教的にも一致点が大きいので、話し合えばわかると信じられるのかもしれない。
 1995年にあったというエクアドルとペルーの戦争が気になった。

 ブラジルとキューバが注目の国らしく最後に専用のページが割かれていた。キューバは経済的にかなり厳しい状況だったようだ。ベネズエラのチャペス政権がなければ、どうなっていたことか……。
 アメリカの政策が北風と太陽みたいに大統領が代わる代わるキューバに対して軟化したり硬化したりしている様子がおもしろかった。翻弄される方には笑い事じゃないけど。

 全体的には何となく楽観的になれる情報が多くて、ラテンアメリカの未来に期待を抱くことができた。ただし、日本との貿易は減少し、中国との貿易は急増している事情は背景にある……人口差からしかたのない部分はある。

 各ページに必ず出てくる誰かの名言も読む楽しみだった。

関連書評
大陸別世界歴史地図4〜南アメリカ大陸歴史地図
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地図で見るラテンアメリカハンドブック
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外来生物はなぜこわい?1〜外来生物ってなに? 小宮輝之

 外来生物の基礎知識を子供向けに説明する本。
 外来生物の問題点について分かりやすく説明している。沖縄や鹿児島県の島にマングースを導入した渡瀬庄三郎の名前は覚えた。今上天皇陛下と共に記憶されることであろう。というか、読みが外れまくったわけで動物学者としても不名誉きわまりないな……。
 ブルーギルは外来種の例として詳しくは説明されていなかったな。
 マングースは役立たずだったけど、カダヤシが実際、蚊を減らす役に立っているのかも気になる。そうだとしても擁護はできないが。

 ハルザキヤマガラシみたいに食べられる外来種なら、何とかならないものかと考えてしまうのだけど、食文化に根付いていないとなかなか食べる人は増えないし、根付いたら根絶とは逆方向への力も働きそうだ。
 山菜はわざと採り残すものだけれど、外来種に限っては根こそぎ採ってしまうように考え方を広げられたらいいなぁ。

 とにもかくにも生物を見分ける目をもつことが外来種対策の第一歩と思われる。

関連書評
野山の生き物〜ひと目で見分ける340種 久保田修

外来生物ってなに? (外来生物はなぜこわい?)
外来生物ってなに? (外来生物はなぜこわい?)
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ペレストロイカの終焉と社会主義の運命 塩川伸明

 シリーズソ連社会主義5。
 ペレストロイカの際に噴出した問題を他国人の冷静な目から眺めたブックレット。他国人だから冷静とは言い切れず、「社会主義の敗北」に対して感情的にナンセンスなことを言っていた同時代の日本知識人もたくさんいたことの分かる内容になっている。著者の左派への批判はどれほど真摯に受け止められたのか……。

 ペレストロイカには痛みが伴わざるをえないが、それに耐えきれない現実から、反動や急進化が進んでしまう事情が恐ろしい。そうしてロシア内部はまっぷたつになったようで、ある意味で彼らが先進国の先を行っていたようにも見えてくる。
 双方の了解をえない「常識」の乱用などは現代日本においても進行中の現象ではないか。

 少しでも未来の痛みを和らげるために、やはりソ連の最後から学ぶべきことは多いと感じた。

ペレストロイカの終焉と社会主義の運命 (岩波ブックレット―シリーズ ソ連社会主義 1917‐1991)
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ロシアの経済改革 山村理人 シリーズソ連社会主義

 1991年ごろのエリツィンによるロシア経済改革をリアルタイムに紹介していたブックレット。
 非常に困難な状況にあるロシア経済を再建するために模索された手段がわかってくる。南米やポーランドやチェコスロバキアなど東欧の経験が利用されているが、ロシアには資本主義経済の伝統がなく、いきなり経済統制をはずされる「ショック療法」を受けても思うようには物価が変化しない。

 ソビエト連邦は壮大な社会実験だったと言われるけれど、ソビエト解体後の経済政策も壮大な社会実験であったらしい。
 それに巻き込まれた人々はついていなかったと言わざるを得ない。まぁ、アメリカで行われている社会実験も同じことかもしれないな。

 財政赤字の大きな日本も他人事ではなくて、なまじ資本主義の殻を被っているから、改革に持ち込みにくい問題を感じた。人類の愚行じゃなくて貴重な経験として記憶され、未来に活かされることを願わずにはいられない。

ロシアの経済改革 (岩波ブックレット―シリーズ ソ連社会主義 1917‐1991)
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見て楽しい宝石の本 松本浩

 写真が綺麗でわかりやすい構成の宝石の本。宝石の手入れ方法なども軽く紹介されている。
 四大宝石に、誕生石、希少石ときて、最後はパワーストーンの章があったりするのは、おなぐさみ。数学やデータをあつかう人間に蛍石が人気と書いてあるけれど、パワーストーンを信じる人にデータを任せたくはないなぁ。

 原石とカットされた石の写真を並べてくれているのは良かった。産地も書いてある。
 熟練した宝石商なら石から産地まで見抜けるというのは凄い。それくらいの技能がなければやっていけない厳しい業界とも考えられる。

 結婚記念日ごとに細かく宝石名が書いてあるリストには笑った。笑った……そこまでして売りさばきたいか。
 新しいデザインを開発していくのは、リフォームをうながして宝石店の利益を確保する目的もあることが伺えた。

 あと、タンザナイトの多色性について、欧米人は少ない方を好み、日本人は強い方を好むらしい。日本人が多色性を好むのは「へうげもの」の精神が微妙に生きているんじゃないかと少し楽しい想像をした。

関連書評
おもしろサイエンス〜宝石の科学 宝石と生活研究会
美しすぎる世界の鉱物 松原聰

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美しさと価値がわかる 見て楽しい宝石の本
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ブラタモリ10〜富士の樹海・富士山麓・大阪・大坂城・知床

 自然豊かな富士山や知床と、非常に都市化した大阪の両極端な話が収録されている。
 富士山麓の町は比較的中間かもしれない。富士山や知床であっても人間活動と無縁ではなくて、蚕の卵が低温保存されたり、開拓が試みられたりしている。
 知床での硫黄採掘の件はすでに知っていた。タモリ氏は豊かな海洋資源などを火山のたまものと言っているが、テクトニクスのたまものであって、火山の生成もその一つと解釈するべき。
 青い布によった皺をつくるエネルギーが本題だ。

 富士の樹海に関連して「赤色立体地図」の誕生秘話を読めて、興味深かった。地学の先生がさかんにプッシュしていたことを思い出した。
 大阪などでも赤色立体地図は活躍していて、この番組になくてはならない存在だと分かった。溶岩の皺まで分かるなんて大した発明である。国外ではどのくらい普及しているのかなぁ。宇宙でも使えるかも?

 大阪の両側町が秀吉のアイデアにされていたが、京都でも同じように自治体が発達していたと、戦国京都の大路小路で読んだばかりで本当に秀吉の功績なのか疑った。ソースを出してほしい……。
 もしも、秀吉の持ち上げ過ぎならば江戸以降の大坂城が秀吉のものではないと説明しつつ、やっぱり秀吉の功績を多めに見てしまっている可能性があるな。

関連書評
赤色立体地図でみる日本の凹凸 千葉達朗

ブラタモリ 10 富士の樹海 富士山麓 大阪 大坂城 知床
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作家の家 コロナ・ブックス 平凡社

 個性的な家、普通だけど住んだ作家のこだわりが現れている家、人の歴史に見るべき物のある家。
 作家の暮らした家を写真と本人に近い人物の文章で紹介してくれる本。巻末には間取りのスケッチも収められている。
 本書の作家は定義が広くて、建築家や画家も含まれている。さすがに彼らは面白い家をデザインして暮らしている。なんか真似しようとして酷い物を造りたくなる。それにもお金が掛かるわけだが。

 けっこう若くしてなくなった人も多くて、作家より長生きをしている家が生き証人みたいだ。
 設計だけがあったものを市民が造り上げた立原道造のヒアシンスハウスは、ちょっと特殊。毎日暮らすにはどうかと思ったら、別荘だったので一気に楽しい感じがしてきた。
 山口瞳氏の「変奇館」は鯉が泳いでいる様子を横から覗ける構造がおもしろい。

 いろいろと生活のイメージができるから、家を見ていくのは楽しい。それらが全部、うたかたの夢で、我が身を振り返ると悲しくなっちゃう状況はどうしたら、いいのだろうな。岡部伊都子氏のような偉い人を前にしてしまうと、泣き言もむなしい……。
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南十字星の輝く国 ニュージーランド 柳木昭伸

 1986年に発行されたニュージーランドの写真集。
 ニュージーランドの自然と牧畜にいきる人々の暮らしを写している。自然についても植生には大きく手が加えられていて、大量の動植物が持ち込まれた後の姿であることは注意したい。
 特にどこまでも続くような牧草地は自然からかけ離れた存在である。

 だがまぁ、ニュージーランドの主要産業である(あった?)牧畜に関する写真は、くわしい解説がついていたこともあって興味深かった。
 降水量などの自然環境に応じて肉用や乳用、毛用の牛や羊が分けて育てられている。少人数の家族経営でやっている農場が多いことも印象に残った。
 滅多に休みがとれず、大変そうだ。
 また、そんな牧畜業に携わっている人口が意外と少ないことも面白かった。その他の人々は町で暮らしているのだろうが、外貨を稼いでいない以上は国内向けの産業に従事していることになるのか。
 解説にあった地熱発電の話などと絡めて考えてみることもできる。

 ニュージーランドは日本と似ている面がよくあげられるけど、実際には似た要素があるために違っている部分がよく目立っていた。美しい氷河の存在などは、その最大のものと言える。
 夏の平均気温が低いことが氷河の維持を助けているそうだ。

ニュージーランド―南十字星の輝く国 (Newton Books)
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