世界遺産アンデス・インカをゆく 義井豊 小学館

 天野芳太郎の逆転人生に惚れ込む。海外で実業家として成功したが、第二次世界大戦で全てを失い収容されて、それでも再び成功者になっている。そしてペルーに重要な博物館を遺した。自分の人生も間接的に訪問者に考えさせることになっているのが上手い。

 本書は世界遺産になった遺跡などを中心にペルーの歴史や風土を1974年の初訪問以来撮りためられたであろう貴重な写真で紹介している。子どもたちはどこにいても笑顔で元気だが、顔に表れた日焼けの強さに高山地帯の紫外線の強さも感じられた。
 おかげで頬がカチンコチンであると触感の情報も言及されている。

 定番のマチュピチュ遺跡について、たくさんの写真があって、3050mのマチュピチュ峰から遺跡を見下ろして撮った写真はまるで空撮のようだ。
 ハイラム・ビンガム道にも迫力があった。

 インカ帝国関連だけじゃなくて、それ以前の文化・文明もとりあげており、有名なナスカ地上絵から東京大学古代アンデス調査隊が発掘しているクントゥル・ワシ遺跡の金製品などいろいろな写真が楽しめた。
 トラクターで大規模な盗掘を行った荘園主アウリッチはちょっと許せない。

 刑務所にされていたチチカカ湖の月の島で起きたというサッカー大会日の大脱走が太陽の島の伝説と並ぶものに感じられてしまって興味深かった。

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世界でいちばん美しい夜空と星たちの物語 MdN編集部

 ヨーロッパ、アジア、アメリカ、世界の星空に関する神話を現地の夜空の写真を添えてまとめた本。
 天の羽衣伝説(イギリスの「月の女神エスニャ」)やオオカミと七匹の子ヤギにとても良く似た物語が出てきて類似性が興味深かった。おそらくプレアデス星団を指しているのだろうと思われる物語(タイの「七羽のひよこ星」)もあったのだが、解説がないので正体が分からなかったりもした。
 月の模様を説明する物語は流石に多い。ご褒美に星空にあげる物語の多さが地上での生活の辛さを想像させる。継母にイジメられていた売られた花嫁ボヤムチガが月に救いを求めるのは自然だ(中国の神話)。ロシアの「みなしごと月」の話も起源が絶対同じだと確信するほどボヤムチガの話に似ていた。

 西域を探検した張騫が天の川を遡って織姫と彦星の逢瀬に出くわしてしまった話は、張騫が伝説的な人物になったことを示していて興味深かった。「大きな星」とまで言われているからな。

 ルーマニアのグレウチャーヌと竜人の話は、ツッコミどころが多い!一緒に旅立った弟は役に立たないし――討伐後に合流――竜人の姉妹と母は兄弟や夫の待ち伏せに役立つ情報をグレウチャーヌに与えてしまうし、めでたく結ばれた王女は影が薄い。
 そういうところが逆に印象に残ってしまう。

 ミャンマーのヘーソワニー、トーソワニー、ピューソワニーの物語がオオカミと七匹の子ヤギながらオオカミ役はトラである。そして月に逃げる姉妹を追いかけてきたトラが糸が切れて落ちるオチが「蜘蛛の糸」である。

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世界の美しい廃城・廃教会 パイインターナショナル

 平和な修道院はヘンリー8世とフランス革命で放棄されている。戦争の城は、それぞれ異なる理由で放棄されている。

 まぁ、城もクロムウェル絡みが2件あったが。
 ヨーロッパの廃城と廃教会の本。途中でベトナム北部のフランス式廃教会が出てきて、ここからはアジアの廃城・廃教会になるのかと思いきや、あっさりヨーロッパにUターンした。他にブラジルとアメリカの廃教会が1つずつある。それならヨーロッパ人が植民地に築いた廃城も出てきて良さそうなのになぁ。

 存在する国も不明と書かれた物件が2つあって怖い。許可を得ずに侵入したことがバレるから大っぴらに書けないだけとも疑ってしまったが。
 侵入と言えば廃墟マニアに人気のベルギーのミランダ城が2017年に解体されたのは惜しい。1866年から1907年にかけての建造なら歴史的価値も認められそうなのに。日本で言えばギリギリ江戸時代にかすれなくて明治に入ってしまった城である。

 フランスの屋根が落ちた廃教会ボーポール修道院では内部に花を咲かせる木が植えられている。元々は床があったと思うのだけど石畳じゃなくて朽ちやすいものだったのだろうか。
 廃棄後の経緯にもいろいろありそうでドラマを感じる。

カテゴリ:写真・イラスト集 | 10:43 | comments(0) | -

サバンナのネコ 井上冬彦 集英社

 サーバルに始まりカラカルに終わる。東アフリカのサバンナに生きるネコ科動物の写真集。遭遇の難しい種は挑戦した回数と出会えた回数が書かれていて、その撮影の難しさが想像できる。一回の旅行は2週間ていどのようだ。
 出会いにくさはアフリカンワイルドキャット(リビアヤマネコ)>カラカル>サーバルとのこと。

 人間に品種改良された子孫がそこら中に溢れているアフリカンワイルドキャットが最も遭遇の難しいネコ科動物なのは皮肉な事実に感じた。
 人類との最初の出会いと馴らして行くのも大変だったんだろうな。あるいは特別に人馴れしやすい個体がいたか。

 サーバルは大きな耳を側面に向けた写真と正面に向けた写真があって、その可動範囲と聴覚を駆使していることが伺える。
 車が動かなくなって困っていた時に、筆者が(サーバルが来てくれ)と願ったらオスのサーバルが本当に水を飲みに来たエピソードは不思議だなぁ。それも実際にサバンナに繰り返し行ったからこそ起こった奇跡なんだろう。

 もちろん、ライオンやチーター、ヒョウの写真もある。みんな巨大でもネコはネコだと感じさせられる表情を見せていた。

価格: ¥ 1,870
ショップ: 楽天ブックス

カテゴリ:写真・イラスト集 | 15:24 | comments(0) | -

みやぎの海辺 思い出の風景 航空写真集2011.3.11を境に 河北新報社

 宮城県の海岸部の空撮写真を東日本大震災の前後で比較して災害の大きさを確認できる写真集。福島県北部と岩手県南部の写真も少しだけ収録されている。
 津波前の写真を豊富に持っているところは流石、地元の新聞社である。

 地震後の写真が3月や4月の物が多くて緑が豊かになっていないのに対して、地震前の写真はいろいろな時期に取られたものがあり――夏が比較的多いように見えた――災害とは関係ないところで印象に差が表れている可能性に気をつける必要がある。
 ただし、海岸の防風林については容赦なく津波で薙ぎ倒されている場合が多いので、そこを気にするまでもない……。砂浜がえぐれたり、桟橋が途切れている場合もある。

 津波による破壊は立地が大きく明暗を分けて、高台にある建物はまったく姿が変わらず、低地にある建物は跡形もない。高台にある建物の場合も浸水被害を受けている可能性はあるけれど、空撮写真ではそこまでは読み取れない。頑丈な建物だけが低地に残っている時は内部の惨状が想像できる。
 特に南三陸町の被害の凄まじさが津波が地形で大きくなったことを示唆していた。逆に松島の変化は見つけにくい。
 単純な高さだけじゃなくて周囲の地形も考慮して住む場所を選ぶことの大切さを教えてくれる。

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新駅舎・旧駅舎2 日本全国「あの駅」の改築前・改築後をさらに比較!! 西崎さいき

 現在ではグーグルストリートビューで時期を遡って変化を見比べることが出来たりするが、ずっと前から駅舎の写真を撮り続けてきた著者のおかげで、そういう記録が得られる前からの貴重な写真がたくさん残っている。
 定期的な観測と、その情報の整理の力を感じる。

 駅舎の改築には綺麗な大きなものになる場合と、質素な小さなものになる場合があって、人口の増える地域と縮小する地域の明暗が駅の姿にも表れていると感じてしまう。
 しかし、厳しい状況でも他の施設との合築にするなどの工夫によって立派な駅舎を確保している地方の駅もあった。入居している飲食店やコンビニなどの行方も、そこで働いていた人の人生と合わせて想像をさせられる。

 建て直しながらも前の駅舎の意匠を取り込んでいる駅舎もある。バス待合室が旧駅舎の姿をしているパターンなんかもあった。それだけ地域住民が慣れ親しんで愛着をもっていたものなのだろう。
 駅名にもいろいろと地域のこだわりが表れていた。

 個別で見ていくと「阿波川口駅」の汽車狸をモチーフにした改修後の姿は浮かれすぎでギョッとする。日向市駅の駅前広場は改築前の南国ムードが失われるには惜しいと感じた。行橋駅のデザインテーマ「やさしいモンスター」は意味が分からなくて記憶に残ってしまう。

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新日本の絶景 山梨勝弘・山梨将典・富田文雄 パイインターナショナル

 三人の写真家によって撮られた日本の名景。山梨勝弘氏と山梨将典氏は親子とのことで、ちょと珍しいかもしれない。北海道・東北などで章を分けているが、その中では北から南の順番と決められておらず東西南北に行ったり来たりする。

 信濃川の写真で一目で秋と分かると書かれているのに、そう思えなくて動揺してしまった……。雁の移動で分かる季節感を身に着けたい。あと川面の霧も秋ならではなのだろうな。

 愛媛県宇和島市の遊子水荷浦の段々畑は、畑の幅がとても狭くて作業効率が悪そうだ。石積みの様子から、これ以上高くすることができずに畑の幅も確保できないことが想像できた。これをこのまま維持し続けるのはとても大変である。
 浜野浦の棚田も手植えっぽくて似た感想を抱いた。

 相倉集落の合掌造りはジオラマのように写真の中に手が届きそうで風景を愛しく感じた。本書には白川郷も載っていたが、見比べると流石にこちらは規模が大きい――コンパクトに撮ることもできるはずだが、一枚だけを見せるなら全体像のつかめる写真になってしまうのだろう。

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ベン・ロザリーが描く最恐で危険な動物たち 久保美代子・訳 今福道夫・監修

 まるで写真と見間違うような、毛の一本一本まで生き生きと描写されたイラストを描くベン・ロザリー氏による怖い動物のイラスト集。ハイイログマの毛描写などは癖の付け方までリアルで驚きである。
 カバが真上を向いて大きく口を開いているイラストなどでは、写真では難しいであろう構図の表現もしていた。

 ハンター系肉食動物の狩りの成功率がいろいろな動物について言及されている。データが収集された条件が一定とは言えない予感がするのだが――そもそも狙われる動物にも違いがあるはず――興味深いのも間違いない。
 クロアシネコ:60%、トラ:5=10%、リカオン:70〜85%、ライオン:30%、チーター:60%と、トラやライオンが強力なイメージに反して成功率が低いと引き立て役みたいにされている。

 ハヤブサが南極とニュージーランドにだけいないこと、蚊が南極とアイスランドにだけいないことも、例外にされている地域の意外性で記憶に残った。
 蚊は太平洋の島にもかつてはいなかったのだが……。

カテゴリ:写真・イラスト集 | 18:34 | comments(0) | -

世界の断崖おどろきの絶景建築 バイインターナショナル

 防衛や宗教の都合で崖っぷちに建てられた建築物の写真がたくさん収録されている。そこでの生活もスリリングだが、行くことさえ困難な場所での建築の苦労を想像して気が遠くなってしまう。
 中国の華山で道の険しさを説明していたところを読んで、そんな道を建材を一つ一つ手で運んだのだろうかと気になった。場合によっては人間は無理でも建材ならロープで引き上げられる環境もあったのかもしれない。滑車を使えば地面側から引っ張って上まで持っていくこともできよう。
 しかし、出てくる建築にはあまりに高すぎたり地面側にも足場のないものもある。それでも建物を造ってしまう人間の情熱には驚かされるばかりだ。

 地中海北側の建物が多くて、特にスペインとイタリアが目立った。ギリシアは相対的に少な目でフランスは意外と多い。
 ドイツのケールシュタインハウスは漫画「ジパング」でヒトラー暗殺未遂事件が起きた舞台になったところかな。行ったことがないのに懐かしく感じてしまった。

 日本からは三佛寺投入堂のみが参加。基本的には立ち入りできないが、入る場合は下から潜って裏に回りながら入ることを初めて知った。

 スリランカのシギリヤに立て籠もった国王は11年後には滅ぼされたのか……方法までは書いていなかったがマサダ要塞も落ちたわけで、いくら難攻不落に見えても人が近づけた場所である以上は、落とせない要塞はないな。

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本のある空間採集 個人書店・私設図書館・ブックカフェ 政木哲也

 北から南まで日本中のこだわりのある個人書店・私設図書館・ブックカフェを実測し絵に起こした本。沖縄はあるけれど北海道はない。あとがきで取材したかったけど出来なかったところがあると書いていたから、候補には北海道の物件もあったのかもしれない。
 書店は古本屋も新刊を扱う書店も、どっちも出てくる。両方扱っている書店すらあったりする。ブックカフェが併設されていることも多くて、雑貨や駄菓子の取り扱いも珍しくはない。業態はなかなか混沌としている。
 正直、経営面に関心を持ってしまうのでブックカフェに常連客がいると読めば、なんとなく安心してしまうのだった。立地によって固定費は大きく違ってくるはずだが、期待できる客の数も違ってきて、大変そうである。
 私設図書館まで割り切っていると、あまり気にしなくなる。

 居抜き物件が多くて、前歴の使い方が見どころの一つだった。元牛小屋の書店は強烈なインパクトがあった。電話ボックスをリノベーションした小さな図書館も面白かった。
 本棚を創るのは実物の本を相手にしているからこその楽しみだろう。自分のスペースをもってディスプレイを楽しんでいる利用者のいる物件がいくつかあった。
 二階や裏手に住居がある店舗は表現されないゾーンの存在になんとなくドキドキする。実際に行った時はプライバシーを最大限に尊重しないといけないけれど。

 実測と作画の方法を説明するコラムも面白かった。大変な作業の中で本を一冊一冊描き込むところに喜びを覚える著者も相当であった。

カテゴリ:写真・イラスト集 | 18:13 | comments(0) | -
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