戦国軍神伝4〜森蘭丸長定の死闘 神宮司元

 表紙にもタイトルにもなっているのに、残念な散り方をした森蘭丸……直江兼継の引き立て役に終わった印象である。まぁ、近江での激闘に焦点があつまってから、出番がパッとしなかったからなぁ。
 天下人になってもらうには成長描写が圧倒的に足りなかった。

 徳川家康は蘭丸の誘いを断っていなければ大和での戦いに負けなかったのだろうか?しかし、官兵衛は負けない体勢を築いていたので元々計算に入っている森軍が加わったところで押し切れる雰囲気ではなかった。
 けっきょく、武士の意地をみせて官兵衛の首を一直線に取りに行くことが正解だったらしい。

 四カ国以上を手に入れた佐々成政がけっきょく掃討戦でやられてしまったらしきことが残念だった。真田昌幸と同じかそれ以上に無理矢理勢力を成長させられる人物だと思うのだが……やはり人気か。
 富田某みらいに散々戦局をひっかきまわしてくれた津田盛月も印象的な人物だった。戦場での異常な行動が想像に鮮やかすぎる。部下の血を吸って興奮するは、刀についた血を舐めながら戦う姿は、見事なバーサーカーであった。

神宮寺元作品感想記事一覧

戦国軍神伝4 (歴史群像新書)
戦国軍神伝4 (歴史群像新書)
カテゴリ:時代・歴史小説 | 20:32 | comments(0) | trackbacks(0)

戦国軍神伝3〜前田利家の死闘 神宮司元

 死闘と煽られて本当に死んでしまう人物は珍しい。しかも、相手は思いもかけない羽柴秀吉から離反した黒田官兵衛である。前田利家が天下を取る作品が印象的な著者なので、利家の討ち死にには、どうしても特別なものを感じてしまった。

 さて、日本の中心部では家康と勝家、秀吉が争いを繰り広げている。さらに官兵衛が加わったことで非常に流動的な状態になってしまった。電撃的に自らの所領を広げた官兵衛の手腕は流石としか言いようがない。
 後継者にも恵まれているので、天下を取ってもそんなに不安がないところもポイントが高い。長政本人に天下を取らせるのは難しいが、当地なら秀忠に負けないだろう。

 戦いは非常に「足で稼ぐ」傾向の強いもので、日本の地理、道の繋がりを重視した独特のものに仕上がっている。地形図を首っ引きにして読むのが、正しい楽しみ方なのかもしれない。
 参加する武将も多彩なので、前提となる知識が揃っていないと楽しみにくいと感じた。いわいる上級者向けである。

 フィクサーとして活動しはじめた光秀が官兵衛にそそのかされて「できまする。それがしに、できぬことなどありませぬ……」と言い張っちゃうシーンに萌えた。まさか彼の人生にこんな展望が開けるとは――光秀=天海説を許すなら想像できないこともないな。

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戦国軍神伝〈3〉前田利家の死闘 (歴史群像新書)
戦国軍神伝〈3〉前田利家の死闘 (歴史群像新書)
カテゴリ:時代・歴史小説 | 23:55 | comments(0) | trackbacks(0)

弟子 中島敦

 孔子の愛すべき弟子、子路を主人公に据えた中編。快男児である子路と明快なわかりにくさをもつ孔子の対比が鮮やかである。
 中国民衆の二大潮流をなす侠と読書人の最初の接触を描いていると言えるかもしれない。子路本人は自分を侠とは定義していなかったが。

 子路が命を失うことになった衛におけるお家騒動は、盈虚に繋がっている。弟子を読んだ後に盈虚を読めば、ますます虚しくなれそうだ。
 つまらないことで死ぬよりさっさと逃げればよかったのだと考えるのは、奇しくも孔子に近い感覚かなぁ。作中の孔子が自分の時代に生きながら、後世の時代の視点を本当にもっていたことが、ここから分かる。

 「孔子の偉大さは先天的か、後天的か」という疑問も作品を通底する大きなテーマになっていた。王制への考え方にも繋がりそうで興味深い。後天的であるほど帝王学の施しがいがあるとも考えられるのかなぁ。

 論語の言葉がいろいろと出てきて入門用にも良さそうだった。

関連書評
論語 金谷治訳注
声に出して活かしたい論語70 三戸岡道夫・編著/塩塚邦夫・写真
歴史群像シリーズ78 争覇春秋戦国〜五覇七雄、興亡の五百年

青空文庫
中島敦 弟子
カテゴリ:時代・歴史小説 | 19:19 | comments(0) | trackbacks(0)

李陵 中島敦

 わずか5000の歩兵だけで匈奴の単于ひきいる大軍とたたかった李陵をみまった悲劇をえがいた歴史作品。
 武帝が悪いよ武帝が。ぶっていい?
 自分などはついつい短絡的にそんな考えになってしまうのだけど、李陵はいざしらず司馬遷は単純に武帝が悪いとは考えない。巨視的にみれば偉大な人物だからと……そういえば呂后の支配を民衆にとってはけっこうなものであったとまとめた人物だった。
 司馬遷の怒りによって歴史をみる視線が歪んでいないなら後世の人間にとってはありがたい。しかし、すべてを出し尽くして死んでしまった司馬遷の様子には悲しさを覚えた。史実が違った様子であることを祈らずにはいらない。

 李陵の対比に自らを曲げず最後まで祖国に忠義をとおした蘇武が出て来る。鮮烈な生き方をした彼が主人公にならず、李陵が主人公に選ばれた理由を考えてしまう。
 やはり完成された人間よりも、悩みを抱えた人間のほうが描写のしがいがあるのだろうな。弟子でも孔子じゃなくて子路が主人公に選ばれているし、悟浄出世が悟空出世じゃない理由も近そうだ。

 李陵の息子の消息を伝えるラストには、彼の血が文字のない匈奴の歴史に消えていったことの儚さが感じられた。

関連書評
漢帝国と辺境社会 籾山明
興亡の世界史02 スキタイと匈奴 遊牧の文明 林俊雄

青空文庫
中島敦 李陵
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文字禍 中島敦

 ゲシュタルト崩壊を経験したアッシリアの老博士ナブ・アヘ・エリバが気づいた文字の恐ろしさとは?
 文字ばかり観ていて本質が見えていない。現代でも――というよりも時代が進めば進むほど良くあることに思われる。ひどい本の虫となった老人が他人とは思えなかった。
 おそろしいおそろしい。

 粘土版に文字を書くメソポタミアだからナブ・アヘ・エリバは圧死する結果になったが、彼がエジプトの学者だったら火のついたパピルスに囲まれて焼死していたのかなぁ。
 重い粘土版を上げ下げする博士や知り合いの老人は意外にもたくましい腕をしていたかもしれない。そう考えたらちょっと楽しくなってきた。

 文字にならなかった歴史は、歴史ではなくなってしまうという意見には、文献研究が強すぎた時代の影響が感じられた。
 文字の精がいかに強力でも、彼らだけが世の中を支配しているわけではない。

関連書評
図説 メソポタミア文明 前川和也
メソポタミアの神話〜神々の友情と冒険 矢島文夫

青空文庫
中島敦 文字禍
カテゴリ:時代・歴史小説 | 12:37 | comments(0) | trackbacks(0)

盈虚 中島敦

 まぁ、衛だから仕方がない。
 望みを遂げても悲惨な人生をおくった衛侯カイガイの物語。ともかく人生は、人格を歪ませる材料だけには事欠かない。親子の間柄でも油断はできないとパンドラの箱を開けてしまったのはカイガイ本人だった。

 自分を恨んでいる相手に、我が身に代えて宝を渡すときは「助けてくれたら隠した宝をやる」と言うしかないのかな。
 それはそれで「本当のことを言っている保証がない」と殺されそうだ。
 まずは手付けに持っている宝を渡して、他にも隠している宝があると取引に持っていければいいのだが、日頃の行いが末路を決めたと言わざるをえない。

 己氏の妻想いぶりは印象に残った。難民問題とついつい重ねて彼らの境遇を思ってしまった。
 支配者のワガママ一つで追放されるなんて、不安定な立場がつらい。近代以前は、普段は意識していなくても、多くの人が似たような立場で生活していたんだよな。

 あと、情けないことにタイトルが読めなかった。おうきょ?えいきょ??――何とか、えいきょだとわかっても意味は分からない。さらに国語辞典をみて、「1.月の満ちることと欠けること。2.栄枯に同じ」と理解できた。
 でも、カイガイはあまり栄えた気がしない。ただ一時的に焼け太りしただけだ。人の目に満ち欠けしてみえても、月はまったく変化していない。タイトルはそういう意味も含んでいるのかもしれない。

青空文庫
中島敦 盈虚
カテゴリ:時代・歴史小説 | 11:04 | comments(0) | trackbacks(0)

バサラ戦記3〜織田軍団襲来 河丸裕次郎

 真田のふところに飛び込んできた窮鳥、津田信澄。彼を助けるためには主導権を握ることが必要と、あえて望む戦場に織田軍団を呼び寄せることになる。
 総大将が戦場での寝返りをして決着とは、とんでもない展開だ。
 ただし、小牧・長久手の戦いで戦略的にやらかして織田信雄なら絶対にないとは言い切れない気がする……一人で一万人以上を宗旨替えさせることになった伊達政宗がお手柄すぎる。東北全体を与えられても納得せざるを得ない手柄になる、のかなぁ。

「だとぉ!?」の語尾で登場人物がしゃべるごとに知能指数が低下する。
 いくさなのだから、そこまでは想定外の事態じゃないだろうと思うことにも「だとぉ!?」だから、呆れてしまう。
 政宗と幸村の若さにあふれる掛け合いなどは良かった。
 この世界の信澄のことだから、三法師が元服したら普通に家督を譲りそうである。娘がいれば娶らせるかもしれないが、女性関係の情報がまったく出てこなかったなぁ。
 そういえば幸村も結婚相手が変わりそうである。政宗だけはすでに結婚しているので変化なしか。

バサラ戦記〈3〉織田軍団襲来 (歴史群像新書)
バサラ戦記〈3〉織田軍団襲来 (歴史群像新書)
カテゴリ:時代・歴史小説 | 12:38 | comments(0) | trackbacks(0)

バサラ戦記2〜清洲の陰謀 河丸裕次郎

 天下人への執着心に目覚めてしまった羽柴秀吉は、津田信澄を蹴落とすための陰謀をめぐらせる。
 まんまと柴田勝家を抱き込んだ秀吉によって、信澄は清洲城での挟撃を受けることになるのであった。

 中川清秀が大活躍だった。今度のピンチに関しては政宗と幸村のコンビもまったくセンサーが働かず、別の場所から発覚した点がよかった。
 蒲生氏郷は見抜けなかったと反省していたけれど、彼が池田恒興をねじ込んだおかげで何とか助かったのである。池田恒興は史実でも「なぜか清洲会議にいる」状態だったよなぁ。
 信澄を間接的に助けることになった池田恒興の立場が気になる。優柔不断の恒興は無理でも高山右近が手勢と逃避行に同行してくれれば、もうちょっと楽になったのに……共に地獄をくぐりぬけた一行の結束がより強まったことは間違いない。

 信濃に逃げた信澄を庇護した真田昌幸にとっては、武田勝頼相手にできなかった救援を津田信澄相手にやることになりそうだ。敵は織田勢で変わっていないし、前々から練っていた計画が応用できそうだ。

バサラ戦記2 清洲の陰謀 (歴史群像新書)
バサラ戦記2 清洲の陰謀 (歴史群像新書)
カテゴリ:時代・歴史小説 | 23:03 | comments(0) | trackbacks(0)

妖氛録 中島敦

 傾国の美女、夏姫の物語。
 存在するだけで国家を傾けさせずにはいられない夏姫の外観描写から始まって、彼女が歴史に与えた影響が描かれる。そこに夏姫本人の意志があったわけではない。だからこそ恐ろしい。
 夏姫は自分の毒で中らないようになったけれど、それ以上にはなれなかった様子である。彼女に人生を狂わせられれば人の内部に巣食う魔物の存在を信じられるかもしれない。なぜだか夏姫が王族であることを忘れそうになる。
 息子の夏徴舒がかなり可哀想である。当然の怒りを形にしたら車裂き……待ち伏せするなら大臣の二人も仕留めてほしかった。

 楚の荘王や共王など話が短いわりに登場人物が多い。戦いも大会戦である邲の戦いと鄢陵の戦いが名前だけ出てくるなど春秋時代の導入に意外と向いているのではないか。

関連書評
夏姫春秋・上 宮城谷昌光

青空文庫
中島敦 妖氛録
カテゴリ:時代・歴史小説 | 23:00 | comments(0) | trackbacks(0)

バサラ戦記1〜三日天下 河丸裕次郎

 甲斐で出会った同い年の真田幸村と伊達政宗が意気投合して、織田信長見物に出かけ、本能寺の変に巻き込まれる歴史小説。
 シミュレーションというには破天荒すぎる展開であるが、織田信澄に活躍の機会を与えており、非常におもしろい配役になっていた。

 幸村の呼吸を飲み込んだ発言がよい。

 織田信孝の襲撃を撃退したあとの流れなど強引に思えたのだけど――取り込んだ信孝兵の口に戸は立てられないので――じゃあ、実際にどうなるのか?と聞かれるとよく分からないのも確かである。
 史実の十一日天下は本当の三日天下になってしまい、本当を嘘にする物語が、嘘を本当にしていた。

バサラ戦記1 三日天下 (歴史群像新書)
バサラ戦記1 三日天下 (歴史群像新書)
カテゴリ:時代・歴史小説 | 12:49 | comments(0) | trackbacks(0)
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