嗅覚はどう進化してきたか〜生き物たちの匂い世界 新村芳人

 岩波科学ライブラリー278

 象さんはお鼻が良いのよね?そうよ、香りも習うのよ。

 そんな知識が身についた一冊。嗅覚に関する人間といろいろな生物の興味深い研究成果が集められている。嗅覚受容体遺伝子の種類から、様々なほ乳類の嗅覚が比較されている。
 我ら人類(約400種)はそれなりに成績のいい方だった。そして、イヌ(811種)よりもラット(1207種)よりも、ゾウ(1948種)の嗅ぎ分け能力が優れていることが分かった。
 「感度」においてはイヌが優れているとされているが、人に比べて一億倍鼻がいいなどと言われる研究データが最も古く最も極端なものであることが指摘されていた。
 ソースを追跡する大切さも学んだ。

 なお、ゾウとは対照的にイルカは12種類の嗅覚受容体遺伝子しか持たず、味覚も塩辛さの一種類しかもっていないそうだ(意外と粗雑なところがある)。代わりにエコーロケーションを発達させているとのことだが、有毒生物は学習で回避しているのかな?
 嗅覚の世界は(三つの色が見える哺乳類は珍しい視覚の世界も)生物が知覚している環境と人間が知覚している環境が大きく異なっていることを教えてくれた。
 案外、ロボットの周辺認識能力に関する研究でも、こういった知識は役に立つのかもしれない。

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嗅覚はどう進化してきたか――生き物たちの匂い世界 (岩波科学ライブラリー)
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プランクトンハンドブック淡水編 中山剛・山口晴代 著

 一次共生に二次共生、生物の世界では光合成の能力でマトリョーシカが作られていた。
 もやしもんを連想させるイラストと光学顕微鏡写真によって紹介される淡水プランクトンの世界。なお、プランクトンと言いながらベントスも紹介している。

 ミカヅキモなどが硫酸バリウムの結晶を体内にもつことを知った。ごく一部の海洋生物の骨格に使われているのは炭酸ストロンチウムだったか。
 用途がわからず不思議である。

 イカダモの単体で育てていても、ワムシやミジンコの「気配」を感じると、群体にもどる性質も興味深かった(この業界では一般トリビアっぽいが)。大きいことは食べにくいことだ。

 ポーリネラ属が藍藻の取り込みという車輪の再発明を行っている最中なのも面白かった。効率では先駆者たちに及びそうもないのに意外と対抗していけるんだなぁ。

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プランクトンハンドブック 淡水編
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カテゴリ:生物 | 21:47 | comments(0) | trackbacks(0)

「おしどり夫婦」ではない鳥たち 濱尾章二 岩波科学ライブラリー276

 性別が生まれてから日夜くりかえされてきた男女の生存戦略。その鳥類における集大成の一端を知ることができる。
 下手に人間にたとえて考えてしまうとドロドロしたものに満ちているので切り離して客観的な意識をもって読んだ方がいい。漫画的な挿し絵は理解を助けてくれるものの、そういう部分でマイナス面も感じられた。「浮気」されている雄や雌に感情移入してはいけない。
 でも、人間でも類似の行動がまったくないとは言い切れない――いくつかのニュースを思い出した。理性で制御するのが理想ではあるが、100人が100人野生の呼び声を押さえ込めると考えるのも傲慢である。

 実は、つがい以外との交尾が頻繁に行われていて、遺伝子の確認からその割合が明らかになっていることは衝撃だった(生息環境などによって割合には違いがある)。
 子殺しなどに比べれば、ヘルパーの存在は明るい話題だ。「家事手伝い」がちゃんと「嫁入り修行」になっていることが実証されている模様だ。……どうしても人間に例えてしまう。

 多夫一妻の鳥では雌の方が派手な外見をしている話もおもしろかった。彼らの先祖である恐竜にも一定の駆け引きがあったのではないかとの妄想も広がる。

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「おしどり夫婦」ではない鳥たち (岩波科学ライブラリー)
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ちなみにしょっちゅう相手を変えるというおしどり自身の話題はなかった。
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池の水をぬいた!ため池の外来生物がわかる本 加藤英明

 池の水全部抜くに出演している加藤英明教授の本。外来生物について子供向けに啓蒙することを目的にしていそうな内容だった。
 コイもしっかり外来生物として扱われている。

 池は人が造ったもので、天然の湖や沼とは区別されることを初めて知った。人が造った関係でヘドロなどが流れて行きにくく「かいぼり」が求められるわけだ。
 淡路島の漁師が協力してかいぼりをしたら養殖海苔の育成にもいい影響があった事例がおもしろかった。昔は農家の必要でやっていたことから、無償で利益を受けていたんだな。運が良かった。
 池の魚を捕まえているところのシーンはさすがに漁師なので得意そうだった。

 後半には外来生物図鑑があって、ちょっとした怪獣図鑑のおもむきすら感じた。日本や世界のワースト100も迫力をあげるスパイスになってしまう一面がある……ワニガメの最大体重10kgは巨大だ。
 50年以上静岡大学で飼育されているカミツキガメは折り返しの著者近影にも写っていた。

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[超微細]美しい昆虫写真 レヴォン=ビス 丸山宗利・訳

 オックスフォード大学博物館におさめられた昆虫の見事な光学顕微鏡写真を多数おさめた写真集。
 昆虫の表面が肉眼ではとらえきれないほど細かい構造によって作られていることが分かる。構造色が美しく彼らの体を彩っている。
 白い昆虫は珍しいとのことでナミビアのシロクロキリアツメとブラジルのオシロイトゲバネコブゾウムシがあえて取り上げられていた。

 ペルーのオオムラサキニジダイコクの美しさが妖しい。最高級のタンザナイトにも負けていない。これで腐肉食性というところも興味深い。

 アフリカコンボウビワハゴロモは写真と名前をみたときは言い得て妙と思ったのだが、棍棒で琵琶で羽衣なんて要素を集めすぎにも思える。

 美麗な写真はピントを少しずつずらして撮影していき、場所によって証明も調整するので、1枚の完成までに約三週間かかるとのこと。フォトショップすごい。

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昆虫のすごい瞬間図鑑 石井誠
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[超微細]美しい昆虫図鑑
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世界で一番美しいクジラ&イルカ図鑑 水口博也

 写真家たちのとらえた決定的な瞬間。クジラやイルカたちの驚異的な姿を写した写真集。
 さすがにクジラは大きくて全容をつかみやすい水中写真は珍しい。そのおかげでクジラのもつ圧倒的なスケールが伝わってくる。シロナガスクジラは生まれたてでも全長7m、体重4トンもあるらしい。まぁ、生まれた直後に泳いで呼吸ができないと命に関わるから、しっかり準備して生まれてくるのもあるだろう。

 クジラとイルカの関わりも興味深い情報で、クジラがお産した瞬間にイルカたちも騒いだ事例が報告されているらしい。
 同じ海生ほ乳類として通じ合うものがあるにしろ、不思議なできごとに感じられる。霊長類では同じような現象が……起こるかも。ただ、日頃から親しんでいる個体に限るかな。
 イルカの方が息が続かないので、クジラにまとわりついているイルカが、息継ぎ時にクジラの位置を教えてくれることも面白かった。

 白いクジラ&イルカに限定したコーナーがあったのも、彼らならではと思われる。食物連鎖の上位だから目立っても長生きできるのだ。

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サボり上手な動物たち〜海の中から新発見! 佐藤克文・森阪匡通

世界で一番美しい クジラ&イルカ図鑑: 絶景・秘境に息づく (ネイチャー・ミュージアム)
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カテゴリ:生物 | 21:44 | comments(0) | trackbacks(0)

世界で一番美しいペンギン図鑑 水口博也・長野敦

 南半球に特有の飛ぶことをやめ、泳ぐことに特化した鳥たちペンギン。
 その姿を南極をはじめとする秘境でおいかけた写真集。どうやって接近したのやら行っただけでも驚異に思える絶海の孤島の貴重な写真がたくさん撮られていた。南極半島はむしろ行きやすい方なのではないか。

 最初から多数のペンギンが特殊な島で紹介されていて、ペース配分を疑問に感じた。しかし、最後はきっちりコウテイペンギンが決めてくれた。まさに最後に現れる主人公。
 でも、育雛期間はオウサマペンギンの方が長くて、そのせいで3年に2回の子育てという特殊なリズムになっている。

 ペンギンは2個の卵を生む種類が多いけれど、けっきょく片方しか育てないもの、運が良ければ両方育つもの、片方だけの場合も先に生まれた方と後に生まれた方のどちらを育てるかなどの違いがあって興味深かった。
 地球温暖化の影響を受けたアデリーペンギンとジェンツーペンギンの勢力変化も非常に面白い。水蒸気がふえる温暖化のせいで雪が増えて、産卵時期の早いアデリーペンギンが劣勢になるとは意外だった。
 ちゃんと保護できれば、これからも環境の変化を反映した変遷をみせてくれることだろう。

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ペンギンのしらべかた 上田一生 岩波科学ライブラリー182
コウテイペンギン〜氷の世界のスーパーアイドル

世界で一番美しい ペンギン図鑑: 絶景・秘境に息づく (ネイチャー・ミュージアム)
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子どもと一緒に覚えたい 野鳥の本 山崎宏・加古川利彦

 かなり身近な野鳥を中心に特徴と覚え方をレクチャーしてくれる本。子どもを持っている親が読んで一緒に野鳥を学ぶ想定らしい。
 もちろん初心者の身近な野鳥図鑑としても使える。見間違えやすい鳥を写真付きで紹介し、鳴き声の「聞きなし」も載せている。表記された鳴き声と聞きなしが離れていることもあるが……変化していたりするのかなぁ?

 それぞれの鳥を紹介するときには最初に英名入りのイラストが置かれていて、かなりかっちょいい感じがした。手書きでクローズアップして描かれれば小鳥にも威厳が生じる。

 カワセミはなぜか近くの川にいるのだが――意外と汚い川にもいることは本書にも書かれている――ヒレンジャクやルリビタキなど憧れの野鳥が増えた。
 スズメやツバメなど知っている鳥への愛着も増した。

関連書評
野鳥フィールドノート 水谷高英

子どもと一緒に覚えたい 野鳥の名前 (momobook)
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カテゴリ:生物 | 19:46 | comments(0) | trackbacks(0)

美しいプランクトンの世界 クリスティアン・サルデ

 調査船タラ号の世界一周航海をプランクトンたちの美麗な写真で追体験。世界各地に棲息するさまざまな種類のプランクトンが目で楽しめる。ウェブサイト「プランクトンクロニクル」へのQRコードもついていて、リンクを踏めば動画と英語の説明音声を聞くこともできるらしい。

 プランクトンと言ってもいろいろな種類の生き物がいて、それぞれが無視できない役割をはたしながら、複雑に関係しあっている。
 それなりに進化したホヤたちの作り出すゼラチン状物質の働きが興味深い。彼らのおかげでマリンスノーが生まれ、深海への栄養循環が起こっているのだとすれば、いなかった時代の栄養循環はどんなものであったのか。
 まぁ、比較的進化した形態と言っても十分昔からいただろうし、いなければいないで近い生態的な役割を果たす動物は出てきそうだ。

 タルマワシの賢い生き方も印象的だった。まさか子育てまでしてのけるとは、生き方に愛嬌があるなぁ。タルにされる生き物にとっては恐怖でしかないけどな!しかも、ずいぶん頻繁にタルを代えるそうで、それだけ豊かな海に生きているとも思われる。
 まったく(普通は)隠れる場所のない水中は生存競争の地獄だぜ!

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美しい海の浮遊生物図鑑 若林香織・田中祐志 著 阿部秀樹 写真


美しいプランクトンの世界: 生命の起源と進化をめぐる
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フィールドの生物学19〜雪と氷の世界を旅して 植竹淳

 究極の環境である氷河の上にも実は生息する生物がいた。著者は世界をまたにかけて、それを追いかける奇特な研究者。
 進路に迷っていた大学4年生時代から、研究者として独立した現在までにいたる著者の足跡が記されている。南極のコケに住み着いている菌がいて、それを追いかけている人の本は読んだことがあったが、氷の上に直接生きている連中までいるとは驚きだった。
 氷河や氷床はよくみる衛星画像の白や青ばかりじゃなくて、微生物により赤(緑や黄色もあるらしい)に染まる場合があるのだ。
 生き物の大半は微生物だが、コオリミミズなる動物も北米大陸にはいるらしいし、コケが特殊な形態で生きている場合もあった。

 氷河の後退を防ぐためにコオリミミズを旧大陸に導入したら、微生物を食べることで氷河のアルベドを改善してくれないか?昼は氷雪の下に潜んでいるのでコオリミミズがアルベドを下げることはない。
 まぁ、ただでさえ繊細な生態系を激変させるような外来生物の導入が今時できるとも考えがたいけど、アフリカの熱帯氷河はどちらにしろ消えてしまいそうだ。

 著者たちの圧倒的な行動力は我が身と比べて溜息が出るほどだった。人によっては、これだけ世界を動き回れるのだと、子供たちにはできるだけ若いうちに知ってもらいたくなる。

関連書評
菌世界紀行〜誰も知らないきのこを追って 星野保:行動範囲が重なっていそう
雪と氷の図鑑 武田康男

雪と氷の世界を旅して: 氷河の微生物から環境変動を探る (フィールドの生物学)
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