世界自然遺産 西表島のいきもの図鑑1000種 堀井大輝 メイツ出版

 沖縄県では沖縄島の次に面積がひろい西表島。環境的にも多様な島に生きる1000種もの生き物が収録された図鑑。イリオモテヤマネコやリュウキュウイノシシのような大型哺乳類がいて、マングローブ林もあって、たくさんの鳥が訪れる。

 和名にインドを冠した生き物(インドハッカとインドヒモカズラ)がいることに南方世界とのつながりが感じられて感動してしまった。
 一方で日本本土とのつながりも強いが、鳥類以外で北海道と共通する生き物はなかなか出てこない。ブラキストン線と渡瀬線の2つを超えるのは難しい。
 台湾と共通する生き物は非常に多くて、生物にとっては国境など関係なく、ほとんど一連の列島なのだろう。潮流の関係もあるかな。

 帰化種もたくさん入り込んでいて西表島の狭い土地を取り合っている生物が心配になった。あまり言い出すと人間の土地利用そのものが悪影響と言えてしまうのだが……。
 特定の川筋だけに限られた個体が存在する貴重な――時には日本にここだけという――植物が出てくるのも西表島らしい。

 イリオモテヤマネコを筆頭に背景がトリミングされていないので輪郭を見分けるのが難しい写真がいくつかあった。おかげで見事な迷彩になっていることも分かるが……生きた姿を現地で撮った写真に拘っているようで、標本や別の土地でやむをえず撮影したわずかな写真には、その旨が書かれていた。

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海獣学者、クジラを解剖する。 田島木綿子 山と渓谷社

「海の哺乳類の死体が教えてくれること」

 クジラ以外もたくさん解剖しているが、とりあえずはクジラである。海岸に漂着して腐敗をはじめた巨体を極めて短い調査期間で解体し、海獣が死亡した原因を探る。国立科学博物館で海の哺乳類を担当している著者の仕事模様が描かれる。
 文章表現だけを読んでも臭いに関することが壮絶。現場で腐敗臭に包まれるのは想像できるが、車での長距離移動中ずっと臭いを落とせない状態はキツい。いわいる鼻がバカになるのかな。飛行機移動をするため現地のお風呂に入る際の苦労も説明されていた。海水浴シーズンならシャワーがある場合もあるかもしれないが、そんな状況はレアであろう。
 アシカやアザラシの営巣地が凄い臭いという話もあって、ますます臭い仕事のイメージが強まってしまった……未来の研究者にアピールするには向いていないかもしれない。強くなりたい情熱を持っている人には分かりやすく真実を伝えていて良さそうだ。

 海獣がストランディングする原因にマイクロプラスチックが関わっているかもしれない話は解決への道筋がイメージできなすぎて、問題を受け止めきれない自分を感じてしまった……あまりにも強い無力感。
 時間が掛かっても何とか人類滅亡以外での解決の道筋が見えてくれば良いのだが。

 国内外の研究者や協力者のエピソードもいろいろ読むことができて刺激的だった。ストランディングでの死因データは、海獣全体での死因からは偏りがあるだろうから、どうやって補正して行くのかなと気になったりもした。
 とりあえずヒレが上がったクジラは爆発の時が近づいているから決して近づかないことは覚えておこう……。


 

カテゴリ:生物 | 00:51 | comments(0) | -

新訂 野外観察ハンドブック校庭の雑草 岩瀬徹・川名興・飯島和子 共著

 小中学校の理科・生物の授業で校庭に出て実習した記憶が蘇る!
 とても身近な雑草がまとまった図鑑。科ごとに分類されているが、その前にロゼット型、直立型、分枝型、つる型などの生態からみた区別が述べられていた。同じマメ科でも木になるニセアカシアから匍匐する草であるシロツメクサまで幅が広いとも。

 図鑑では帰化種も在来種も身近な雑草なら取り上げられている。20世紀前半に帰化した植物なんて有名どころでなければ在来種と感覚的に差が感じられなくなってしまっているなぁ。類似種として精力の衰えた在来種の方が出てくるのは悲しみがある。
 明治時代に帰化、大正時代に帰化、という書き方をしているが昭和時代は長いためか情報の精度が得られるのか、1950年代などと10年刻みで書いていた。今度は1年単位で分かるのかもしれないが、そもそも帰化植物を出さないことが一番だ。

 空間を1平方mごとに区切って10年間の変化を追いつづけた調査はプロの仕事だったが、校庭の植物分布を調べて図にするのは小学生にも挑戦できるし継続的なデータが得られれば貴重な資料にだってなる。
 図鑑が終わってからの第3部ではそんなことがまとめられていた。
 本書を小脇に抱えた小さなアマチュア植物学者がいっぱい生まれてほしいんだろうな。

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陸の深海生物 日本の地下に住む生き物 小松貴・著 じゅえき太郎・漫画

 タイトルからちょっと別のものを想像していた。どうも森林の微生物が海底下の微生物に生まれ変わった話のイメージが影響しているようだ。
 本書があつかうのはそこまでハチャメチャに深い場所ではなく、洞窟や地下水から発見される肉眼でも見える生物である(一部にギリギリのものもいる)。

 最初にもってこられたのがメクラチビゴミムシの仲間で、「メクラ」の伝統的な名前を使うことの意味を強く訴えていた。使われている例が出てきた「メナシ」だったら「メクラ」ほどは批判を受けなかったのかなぁ。
 「メクラ」は目の構造は残っているが見えていない、「メナシ」は痕跡もわからないほど退化しているみたいに使い分けすれば意味が正確になるような……?

 洞窟に生きているから種の分化がしやすくて貴重な生物が多いのだろうと思っていたら、人間には立ち入れない小さな地面の隙間を頻繁に行き来しているはずだとコラムで説明があった。
 ゆえに絶滅したと思いきや何とか生きていることが確認された生き物が何種類も出てくる。

 石灰岩採掘のために洞窟ごと爆破されるなど酷い目にあっていることの慰めにはならないが……著者は保護や理解の問題に関して鬱屈した思いを抱えている様子で、それを割と真正面から叩きつけられた。呪詛かな?
 じゅえき太郎先生による穏やかな4コマ漫画が程よい箸休めになっていた。最初は薄いと思ったけれど、最終的にはちょうど良かったと感じた。

 基本的に生きた姿の写真のようで虫たちの透明感のある白や赤色のボディが美しい。フジマシラグモに至っては透明で繊細な足が構造色で紫色に見えていて芸術品のようだった。

カテゴリ:生物 | 22:08 | comments(0) | -

けなげな野菜図鑑 稲垣栄洋・監修 ヒダカナオト・絵

 アマナNATURE&SCIENCE・編

 表情豊かな野菜のイラストが楽しいやや子供向けの野菜図鑑。よみがながたくさん振ってあるので安心して読めるはず。
 スイカはメロンと一緒にすると腐るとアオっていてスイカゲームのことを思い出してしまった――あれはそれ以前の問題だな。
 エチレンが原因という単純な理由だったのでリンゴにだって気をつける必要がある。

 日本人しか食べない野菜にゴボウが挙げられるのはもちろん、生のキャベツ、未成熟な大豆(つまり枝豆)もあげられていた。文化がちがーう!ただし、枝豆はEDAMAMEとして、そのまま通用するようになりつつあるらしい。

 イチゴが旬をずらすために催眠術に掛けられている絵が見事なグルグル目で笑ってしまった。大量のエネルギーを使ってクリスマスにイチゴを用意しているの、考え直さなければならない時代が来るんじゃないかな。
 まぁ、冬にもビタミンを摂れる食べ物はどうしたって必要なので人間の福祉が優先されるのは仕方がない。
 カボチャみたいに夏が旬でも冬まで保存できるものが力をつけてほしい。

 新鮮な野菜の選び方も説明されていて、育てるよりも食材として利用する視点が強かった。知識を覚えておいて上手く活かせるといいのだが――見切り品の断面が盛り上がった白菜を買ってしまいそう。わかった上で利用するないいか。

カテゴリ:生物 | 19:08 | comments(0) | -

ウォーキングで出会う!!日本の固有植物図鑑 海老名淳・監修 山川出版社

 意外な植物が日本固有で世界ではありふれた存在じゃないことを知る――ただし園芸種や外来種として世界に羽ばたいている場合もある。
 ブナのような名前が漢字一文字で表せそうな植物は特に固有種であることに驚く。ただし、近縁種が世界中に分布しているパターンもあるが……いろいろあって素直に驚いていないな。
 ガクアジサイも日本固有種なのだが、栽培種がトゥンベリィ氏に採集されて学名がついたため、野生種の方が品種になっているらしい……。

 キク属に10倍体までの高次倍数体があると聞いて

キク「ワシの倍数体は10次まであるぞ…!」

 という声が聞こえた。本書に出てきたリュウノウギクは祖先を研究する上で貴重な二倍体種とのこと。遺伝子解析の進展もあって分類に変化のあった植物もチラホラ出てくる――あいにく変化前の知識が自分に足りないが。

 シデコブシの説明で「東海丘陵要素」をもつ土地の対象が愛知・岐阜・三重の三県になっていて、やっぱり静岡県は東海地方に入りにくいと感じる。
 シダ植物は胞子が遠くまで飛散しやすいので一国の固有種は少ないらしいが、シシガシラは日本を拠点にアメリカに近縁種を広げて、さらにヨーロッパまで仲間が到達しているとのこと。風船爆弾の先祖みたいな奴らだ。

「日本固有種ワンポイント」の囲みのあるページが追加解説のように見せかけて「本種の概要」がなくて「日本固有種ワンポイント」だけで説明される種があるなどいささか混沌としていた。

カテゴリ:生物 | 20:31 | comments(0) | -

Gakken 増補改訂フィールドベスト図鑑vol.5 日本の樹木

 お手軽サイズで情報量の多いフィールドで使える樹木の図鑑。食用・薬用・有毒・教科書の頭文字がついたマークがあって、イチイが食・薬・毒の三冠王を達成していた。教科書は一位様を載せろや!仮種皮は甘くて食べられるが種は毒、葉は薬用になる絶妙さよ……毒と薬は紙一重だからなぁ。
 その割に両方のマークがついている樹木は目につかず、食と薬がついている樹木はそれなりにあった。

 食の分類は微妙なところがあって、イヌビワは食べられなかったかと思いながら読んでいた。「雄花のうは赤くなるが食べられない」の説明は雌花のうは食べられることを意味しているはず。そもそも「果実が美味とはいえない」からイヌビワだと説明しているわけで毒はなくても味が悪いと食には入れてもらえないようだ。縄文人が食べたであろうドングリの中にも食用に入れてもらえないものがある。今でも食文化が残っていることが重要か。
 説明ではっきりと美味しいと書かれていたのはクロマメノキとシャシャンボで、どちらもツツジ科のブルーベリーに近い仲間だった。クロマメノキは深山・亜高山に分布とあるが何とか近くで見つけられないものか。シャシャンボは人里付近や山野なので相対的にチャンスがある。

 ハコネウツギの説明に「箱根には自生しない」と書いてあるのには命名者を屋上に呼び出したくなった。生物の世界では良くあること……落ち着け。

 巻末にはサクラとモミジの検索表が特別に付けられている。読者の関心が特に強いことが伺える。

カテゴリ:生物 | 08:59 | comments(0) | -

DEEP LIFE 海底下生命園 生命存在の限界はどこにあるのか 稲垣史生

 日米の海洋底掘削船に乗船して多くの海洋底探査に関わってきた著者が伝える、地底生命圏の最新事情。ゾイエス・レゾリューション号の名前でうろ覚えしていたアメリカの掘削船はジョイデス・レゾリューション(JS)号と表記されていた。
 JS号はライザーレス掘削のみなのに対して「ちきゅう」はライザー掘削ライザーレス掘削の両方が可能になっているところが日本の船らしい……。それぞれに特化した船を二隻造ることは考えなかったのかな。まぁ、運用も予算が掛かるからな。

 ともかくこれら掘削船の活躍もあって海底下にたくさんの生命が生息していることが明らかになっていく。ただし、最も厳しい環境では生きるのにギリギリで分裂など思いもよらない極限状態に追い込まれている……。
 そうやってただ生きることが目的の生物が進化して来れるはずがないので、もっと好適な環境では繁殖を行い、厳しい環境になると耐久のモードに切り替わる生態を持っているはず。単純な生物なのに、そんな真似ができることが凄い。
 そのような極端なシチュエーションへの対策は無駄として切り落とした生物は地下生命圏では生きられない。
 著者が想像するように付加体側にくっついて泥火山で戻ってくる生物もいるのだろうな。数十億年の時間ではそれが無視できないほど繰り返されていると――プレートテクトニクスが始まる以前は流石にいなかったのかなぁ。

 コラムやちょっとした図鑑である培養された海底下の生物ベスト5などで飽きないように楽しませてくれた。あと、われら古細菌の末裔 微生物から見た生物の進化で読んだアスガルドアーキアの培養について、より詳しい情報が得られた。細胞濃度が倍になるのに半月〜一ヶ月はたまらない。
 コアオンデッキの言葉に憧れに近い感情を抱いた。研究の日本における中心が高知県なのは珍しいが、長期間の船上生活を最初から許容している人達なら、それほど東京へのこだわりはないのかもしれない。

カテゴリ:生物 | 18:49 | comments(0) | -

そもそも島に進化あり 川上和人 技術評論社 生物ミステリー

 鳥類学者が今度は島を語る。著者が小笠原諸島を主なフィールドにしていることを知った。そういえば西之島についてマスコミの取材にコメントしていた記憶があるな。

 島は進化の実験場。特に海洋島は大陸島よりもスタート時点の生物種が少なくて独特な生態系が発展しやすい。ただし、大陸島でも長く大陸から離れていれば絶滅が生じることで海洋島のような生態系に近づいていくこともある。
 いろいろな実例をあげてその辺りのことを説明してくれた。あとおもしろい文章を心がけているようだった――カッパだのチュパカブラだのを出してきて、免疫のない読者を煙に巻くことがある。
 ページ下部の解説が真面目な生物学的な話題よりも、ネタ解説で埋まっている。

 外来生物の問題について島特有の深刻さを訴えつつ、外来生物対策が「本業」でないゆえの本音も暴露していた。
 いったん定着して他の生物を滅ぼして生態系のニッチを確保してしまった外来生物は滅ぼすことで新しい問題を起こしかねない。ジェンガの木が外来生物に置き換わってしまった感じだろうか。一旦そうなってしまうと引っこ抜けない。
 だからと放っておくと固有種に害を与え続ける恐れもあって対策は非常に難しいものと想像できる。

 外来種全部抜けば近隣から在来種が戻ってきてくれる大陸や大きな島とは異なる島における外来種対策の難しさだけでも意識しておきたい。

カテゴリ:生物 | 00:06 | comments(0) | -

深海魚摩訶ふしぎ図鑑 北村雄一 保育社

 見事なイラストと子供にも分かりやすい文章で深海生物の生き様を描き出す。タイトルは深海魚になっているけれど、タルマワシのような甲殻類なども普通に含まれている。表紙イラストは魚に限定していてタイトルに合わせている?

 発光生物や口や胃袋の大きい生物など分かりやすく高性能な生物だけじゃなくて、異常なまでの省エネで生存できる生物も紹介してくれていることが深海の多様性を伝わりやすくしている。
 物質が限られる深海だからとセキトリイワシが身体を水で文字通り水増ししているのは究極の選択って感じだ。生き方でクラゲとニッチ争いになったりするんだろうか。

 シンカイヨロイダラの餌が落ちてくるのを待つ忍耐力が人間にあったら家康を超えそう。エウリセネス・グリルスもシンカイヨロイダラと似た待ちと駆けつけの戦略を取りながら、少し海流のある海底から離れたところで待機することで、いち早く匂いを検知しようとする戦略がおもしろい。

 化学合成エネルギーを使って生きる深海生物もいろいろと出てくる。メタンが噴出して海水と混ざると硫化水素が発生するという説明は化学式にしてくれないと直感ではついていけなかった。
 海水中の硫酸イオンがメタンと電子を交換して硫化水素の発生をもたらすのかなぁ。どうしても塩化ナトリウムを主成分と考えてしまうから、どこから硫黄が来たとなってしまう。
 でも確かに海水を乾燥させたときに出てくる石膏はけっこうな量だったな。

カテゴリ:生物 | 02:46 | comments(0) | -
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