必見!関ヶ原 監修 小和田哲男 発行 岐阜県

 関ヶ原合戦に絡めて関ヶ原を観光するときに便利なハンドブック。関ヶ原合戦の概要が、それまでの流れまで含めて簡潔に説明されている。また、目立った武将についての説明もある。
 まとめられると島津勢が天下分け目の戦いにおいて私情に囚われる身勝手な連中に思えてきた……小早川勢よりも思い切りが悪いようにすら見えてしまう。島津も最初から迷走しているからなぁ。最後に見せ場を得られなければ、なんと言われていたことか。

 小早川への問い鉄砲はなかったとされると説明しながら、その後の説明では繰り返し問い鉄砲のことが出てくる。
 これでは検証よりもイメージの方が強くなってしまう。
 そもそも関ヶ原合戦の展開自体が疑問をもたれてきているので、流布した通説どおりの方が、関ヶ原の観光にとっては都合がいいのだろうと斜に構えた見方もしてしまった。

 関ヶ原を歩き回るときに巻末資料を利用しなければ、島左近を撃った黒田隊の管六之助の名前がいちばんの収穫かもしれない。

関連書評
戦国の陣形 乃至政彦
フィールドワーク関ヶ原合戦 藤井尚夫

必見! 関ケ原
必見! 関ケ原
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新版 縄文美術館 写真 小川忠博 監修 小野正文・堤隆

 縄文時代の出土品は幅広い。ひとつの遺跡、ひとつの地域、ひとつの時代に固まっていないこともあるのだろうが、同じ縄文土器でも非常に多彩なものが収録されていて感心した。
 他に例のない「作品」も多くあることに注意が必要だが、同時に土器以外の大半が朽ちてしまった生活用品があったことも意識すれば、それなりに物のある生活をしていたのかもしれない。
 これなら定住生活にもなると納得する。

 豪華な土器は特別なときだけで、普段は質素な土器を使うような発想がなかったらしい点が気になる。おそらく、自分で作ったものだから、そういう使い方になるのか?

 モースが縄文土器の命名者であったり、土器に残った指紋から現代の指紋鑑定のヒントをもたらしていたり、改めて偉大さをみせつけていた。時代もあるのかもしれないが、凄い人だ。

関連書評
ここまでわかった!縄文人の植物利用 工藤雄一郎/国立歴史民俗博物館 編
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新版 縄文美術館
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カテゴリ:日本史 | 20:05 | comments(0) | trackbacks(0)

歴史家と噺家の城歩き〜戦国大名武田氏を訪ねて

 中井均・春風亭昇太・斉藤慎一
 山梨県で五つの城を、城郭研究家の二人と城巡りを趣味にする噺家が巡検したところを書き起こした本。タイトルになっているのは躑躅ヶ崎・要害山・白山城・新府城だが、新府城の前にみた能見城のあつかいも大きい。歴史群像では能美長塁の名前で取り上げられていた土木構造物だ。
 おそらく明らかに武田氏の造ったものではないため、本のタイトルにそぐわなかったこともあってか、新府城の章に組み込まれている。あと、未完成だった新府城で話すことが少ない。

 あーでもない、こーでもないと話し合って、それぞれの城をみていくのだが、「正面」「築造者」あたりの議論は必ず出てくる。
 正面は現代人が囚われているだけで当時の人には、強いこだわりはなかった可能性はないのかなぁ。それはそれで議論を投げている?
 築造者については杉山城問題を知った後では慎重になってしまう。しかし、何も言えないのも困ることも理解できる。確証が得られる山城は少ないだろうし、困ったものである。

 正直、話の内容については理解の追いつかないところがあったけれど、城関係の復元イラストを見直してみたい気持ちにさせられる本だった。

関連書評
愛知の山城ベスト50を歩く 愛知中世城郭研究会・中井均
三重の山城ベスト50を歩く 福井健二・竹田憲治・中井均 編

歴史家と噺家の城歩き (戦国大名武田氏を訪ねて)
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カテゴリ:日本史 | 22:38 | comments(0) | trackbacks(0)

戦国の城の一生〜つくる・壊す・蘇る 竹井英文

 「杉山城問題」によって引き起こされた議論をとっかかりの一つに、戦国時代における城の利用をみていく本。
 江戸時代じゃなくて戦国時代の城なのに、軍事的なイメージが薄くて(間接的というべき)新鮮な城の一面を知ることができた。杉山城問題みたいな城の編年と築城者の特定問題は、根本的には「金がない」に尽きてしまいそう。
 潤沢な資金があって専門研究者がいれば、片っ端から発掘調査と炭素年代測定法を使って、面倒な議論を吹き飛ばしてしまえる。それができず在野の研究者に活躍する余地があることは困ったものだが、おもしろい。
 今後もなかなか大量の資金を投入しての研究とはならない気がする。ただ、少しずつは増えていくはずで、そこからの類推で戦国の城像が変化していくかもしれない。
 読んでいて、そんな予感も覚えた。

 「縄張り」が同時代にはあまり言われていなくて「鍬立」などの言葉が使われているなど、トリビアもあった。城内の草木は意外と残っていたそうで、むしろ竹木の存在が城主の繁栄と同一視される部分もあったという。
 「城をわる」行為については特に詳しく述べられていて、破城にもいろいろな段階があって、場合によっては――というよりも、もしかしたら頻繁に再利用される事例があったことが分かる。
 また城の選地は大名といえども自由にできるとは限らず、地元住民や寺社の抵抗に遠慮する場合もあるらしい。あるいは忌み地や縁起のいい土地もある。今後はそういうことも考えて城の立地を読み解かなければならないようだ。

関連書評
中世城郭の縄張と空間〜土の城が語るもの 松岡進
カラー図解 城の攻め方・つくり方 中井均・かみゆ歴史編集部
「城取り」の軍事学〜築城者の視点から考える戦国の城 西股総生

戦国の城の一生: つくる・壊す・蘇る (歴史文化ライブラリー)戦国の城の一生: つくる・壊す・蘇る (歴史文化ライブラリー)
カテゴリ:日本史 | 15:05 | comments(0) | trackbacks(0)

徳川綱吉〜犬を愛護した江戸幕府五代将軍 福田千鶴

 日本史リブレット人049
 生類憐れみの令でよく知られた犬公方徳川綱吉の人生観を読みとるリブレット。再評価がされてきているとは言っても、犬の維持費に年間9万8千余両を費やしたことには引いてしまう。将軍になってから二年目に年間10万石の維持費が掛かる安宅丸を破却したのは何であったのか?
 まぁ、箱物よりも動物愛護にお金を使ったと考えれば、ましなのかもしれない。ジャイナ教徒がインドでやっている動物の愛護施設を連想するなぁ。

 綱吉は兄綱重に跡継ぎがなかった上に、兄弟が死亡したため思いがけず将軍になった人物だった。そのため、権威において不安が残り、それを払拭するためにも儒教を利用した独特な権力構造を指向していく。同じくピンチヒッターだった吉宗の場合と比較しても面白いかもしれない。吉宗のために地均しをした部分はありそうだ。

 非常に穢れを嫌う性格をしていて、赤穂事件の処分にも、それが大きく影響した(処分の主な理由)との分析は興味深かった。でも、民衆まで綱吉の思想が伝わっていなかったのだろうな。
 「潔癖性」の綱吉の影響で城内は異様な雰囲気だったはずと著者は述べている。やっぱり、あまり下で働きたい人物ではない。

関連書評
はしかの脅威と驚異 山内一也 岩波科学ライブラリー26

徳川綱吉―犬を愛護した江戸幕府五代将軍 (日本史リブレット人)
徳川綱吉―犬を愛護した江戸幕府五代将軍 (日本史リブレット人)
カテゴリ:日本史 | 23:48 | comments(0) | trackbacks(0)

江戸の長者番付〜殿様から商人、歌舞伎役者に庶民まで 菅野俊輔

 江戸時代のお金のことをまとめた「下世話」な文庫。「江戸時代の100円ショップ」の定価4文を100円に換算して現代での金額も算出している。
 それで、そんなに外れていない雰囲気になっているから面白い。書く前にいろいろな換算方法を検討したんだろうな。

 江戸時代の格差は強烈であるが、将軍や前田家当主の収入を藩からの収入としてしまっているのは、いかがなものか。まぁ、現代の政治家や経営者とは感覚が違っていたことも確かとは思われる。
 というか、現代の政治家・官僚・経営者にも、ともすれば現代に生きる大名以下の倫理観の持ち主が……。

 越後屋あたりの大商人はさすがに豊かだった。千両役者や花魁も儲けている。
 江戸屋敷の留守居がやりたい放題なのは知ってた……諜報活動だから兵法を知っているほど歯止めが掛からない。

 庶民や隠居の生活費もあつかわれていて、江戸時代の人々を身近に感じることができた。

関連書評
近世村人のライフサイクル 大藤修 日本史リブレット39
近世商人と市場 原直史 日本史リブレット88

江戸の長者番付 (青春新書インテリジェンス)
江戸の長者番付 (青春新書インテリジェンス)
カテゴリ:日本史 | 23:36 | comments(0) | trackbacks(0)

古墳空中探訪[奈良編] 梅原章一 今尾文昭・解説

 奈良盆地に存在する多くの古墳を小型機で空中撮影した写真集。1970年代の写真がふくまれており、昔の奈良盆地の姿まで分かる。いくら史跡が豊富な奈良盆地といえども時間が止まっているわけではない。
 開発もあり、古墳の整備もあり、昔からここに住んで古墳を巡っている人には価値の高そうな本だった。
 奈良にほとんど足を踏み入れたことのない自分としても、疑似的な土地勘が養われる感じがした。

 黒塚古墳や藤ノ木古墳など重要な出土品で有名な古墳がしっかり撮影され、コラムで詳しく解説されている点もよかった。
 遺跡を学ぶシリーズでも著者の撮影した空中写真をそれと知らずに見ている予感がする。

 前方部の先端(濠のある場合は、濠を挟んだ位置)に拝所が作られていることも空中写真だと分かりやすくて印象的だった。深い緑に包まれた姿は昔のものではないが、灰色の石に覆われた姿だと町にとけ込んで全体的な配置は観察しにくいかもしれない。

関連書評
斑鳩に眠る二人の貴公子〜藤ノ木古墳 前園実知雄
筑紫政権からヤマト政権へ〜豊前石塚山古墳 長嶺正秀

古墳空中探訪 奈良編
古墳空中探訪 奈良編
カテゴリ:日本史 | 23:05 | comments(0) | trackbacks(0)

幕末明治の江戸城 平井聖・監修 浅野信子・解説

「現状比較 地図と写真で見る」がタイトルの頭についている。
 明治維新直後、荒廃する江戸城の姿を憂えて写真撮影をおこなった蜷川式胤という立派な人物がいて、彼の江戸城写真(多くが彩色されている)をメインにして若干の写真を加えたものが収録されている。
 地図で視点の方向を表示し、同じアングルから現在の写真も載せているので、非常にわかりやすい。かつての面影を残している場合は、石垣や土塁、濠のおかげで構造物はかなり貴重である。
 たまに門が残っていて重要文化財にされてはいる。

 後半では政府の陸軍が内乱にそなえて整備したのではないかという物騒な経歴をもつ江戸城周辺の地図が収録されていた。
 ほとんどの地域が大きく様変わりしていて、写真では激変していても江戸城の方がまだ落ち着いていると感じられた。関東大震災に東京大空襲と町の姿を一変させる出来事があったことも意識できる。
 明治時代から動いていないイギリス大使館が地味に凄い。なにが起こったらイギリス大使館が動くことがありえるだろうか……核攻撃かな。

関連書評
日本の名城〜城絵図を読む 別冊歴史読本
鳥瞰イラストでよみがえる日本の名城 西ヶ谷恭弘・荻原一青

現状比較 地図と写真で見る幕末明治の江戸城
現状比較 地図と写真で見る幕末明治の江戸城
カテゴリ:日本史 | 12:45 | comments(0) | trackbacks(0)

写真家大名・徳川慶勝の幕末維新〜尾張藩主の知られざる決断

 NHKプラネット中部 編、(財)徳川黎明会 監修
 幕末の政治情勢に大きな影響を及ぼした徳川慶勝の特集本。西からの軍勢を防ぐため尾張に配置されていたのに、西軍に寝返って東海道筋の大名を調略しまくるとは、関ヶ原の戦いにおける福島正則と同じことをしている。
 尾張に配置された大名は狙い通りには動いてくれないようだな……。

 慶勝の兄弟は、高須四兄弟と知られて、それぞれ大きな役割を果たしていた。対談で出てきた大河ドラマに高須四兄弟はよさそうだ。
 四人の集合写真は55歳、44歳、33歳のゾロ目だったから記念に撮った気がする。48歳は仲間外れ。

 1851年の尾張藩藩政改革で藩主が使える御手許金を年1万9千両から200両に切り詰めたことは、お仲間の蘭癖大名が趣味で藩の財政を傾けているのに比べて偉い。

 貴重な写真を残したことでも慶勝の役割は大きかった。でも、金鯱を鋳つぶして政府の資金にしてくれなんて、言ってほしくなかったな。現実には名古屋城も金鯱も(そのときは)遺ってよかった。

関連書評
幕末戦史 歴史群像アーカイブvol.12
カメラが撮らえた会津戊辰戦争 「歴史読本」編集部・編
輪中と治水 岐阜県博物館友の会

写真家大名・徳川慶勝の幕末維新―尾張藩主の知られざる決断
写真家大名・徳川慶勝の幕末維新―尾張藩主の知られざる決断
カテゴリ:日本史 | 22:17 | comments(0) | trackbacks(0)

近世村人のライフサイクル 大藤修 日本史リブレット39

 江戸時代の村に生きた人々のライフサイクルを宗人門別帳などの人口データ研究をふまえて描き出したリブレット。三行半などで女性の立場がある程度、強かったという考え方に対して、否定的な分析がなされていたりして江戸時代への幻想が打ち砕かれる面がある一方で、子育てや老衰者の世話は家長に責任があるとされていたと説明しており、近世観への見直しが迫られた。

 小規模農家が徐々に権利を獲得していたり、若者の集まりが休日を増やさせていたり、興味深い事例があった。「明治や戦後に人権は上から与えられた」という考え方を修正できるかもしれない。
 ただ彼らが直接的に権利を獲得した相手は公儀ほど大きくないのだが。

 子孫に家を継がせ祖先として祀ってもらえる立場になって初めてライフサイクルを完結させられるという古代中国の貴族みたいな考え方が、農村にまで広がっていたことは覚えておきたい。

関連書評
伊能忠敬〜日本をはじめて測った愚直の人 星埜由尚

近世村人のライフサイクル (日本史リブレット)
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