星界の戦記此縦觜颪陵詭帖宗/慌浩之

 拡大アルコント共和国に今回も存在感なし!人類史上最大の戦争において常に気配を消している拡大アルコント共和国すごいぞ!この戦争のダークホースになってほしい。
 政治が絡んで純粋軍事的に合理的な選択をできない軍隊ばかりだから、せめて拡大アルコント共和国だけは!
 そんな思いである。

 ラクファカール陥落から約10年。アーヴによる人類帝国の反撃作戦が幕を上げた。標的は「人民主権星系連合体」!人類統合隊に片手間で倒されかねないと言われていた連中だ。弱いところから徹底的にボコる!
 ついでにハニア連邦も参戦して、見方によっては一石二鳥の結果になった。対応を迫られるラフィールたちには迷惑だったが……ハニア連邦の遠征軍が正しい選択を取り続けていれば、霹靂艦隊の勝利は危うかった。
 いっそ、スーメイ人に神託を与えている人工知能が、軍事用にも改造されていればよかったのでは?宇宙派(連合派)はどうせ従わないか。

 ほとんど戦争の描写ばかりで、ジントとラフィールの交流が控えめだった点は残念だった。スポールは名前が出てきただけで笑ってしまった。もはや鉄板。
 新顔の提督たちも有能なようで何よりだ。なんだかんだで、まだまだ帝国の人材層が厚いところを見せてくれた。

 四ヶ国連合はせっかくの実戦なのに、まともに人事評価が機能していないのかな。人材的には洗練されてくる目もあるはずなのだが――でも、人類統合体はアーヴに対して残酷なことが、有能なことより評価されそう。

 いまさらラクファカールの陥落が、ゴースロスの爆散と重なっていることに気づいた。ジントやアーヴの先祖の経験から考えても、星界シリーズは故郷を失って羽ばたく物語なのだ。

森岡浩之作品感想記事一覧

星界の戦旗VI 帝国の雷鳴 (ハヤカワ文庫JA)
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宇宙軍陸戦隊〜地球連邦の興亡 佐藤大輔

 特殊な緊急任務をあたえられて惑星ハイリゲンシュタット犬帽澆衫った国場義昭大尉。彼が直面した人類の限界を問いかける恐るべき事態が描かれる地球連邦の興亡の外伝的な作品。
 敵の正体が人類という展開は珍しくないものの、その設定を地球連邦のレゾンデートルである「人類の存続」に絡めて、物語をいっそう奥深いものにしている。
 またALH軍の装備に関して、架空戦記で著者がつちかってきた知識がいかんなく発揮されている。軌道兵器の保有禁止は理解できても、航空兵器の保有禁止はやりすぎに感じられて、ややご都合主義的に思えないこともなかった。海軍まで大型艦が保有しにくい巻き添えを食らっている。
 でもまぁ、宇宙軍が生まれるなら空軍から生まれる可能性が一番高い。

 自由生態党(FHP)軍の指導者たちが、戦隊カラーになっているのは、作者らしい諧謔に満ちた設定だ。カクテルなのは戦隊じゃなくて仮面ライダーだけどな。
 やはりレッドはリーダーで、イエローはおデブキャラなんだ。
 しかし、「人類万歳」と言わせながら「間違いなく人類である存在」を食わせているのは道理が合わない。多様性を主張するなら、ノーマルな人類も人類の内にならねばおかしい。自由生態党は、どんな理屈をつけて自分たちを納得させていたのやら……。
 イエローの様子とピンクの発言から、内戦勃発前の民兵やハンターに襲われていた時代から、FHPの一部は人間を食っていたと思われる。テラフォーミングで危険化した原生生物に被害が紛れていたのだろうか。
 皮肉にも41万の犠牲と引き替えに、彼らも人類であることが国場の判断によって認められた。つまり「人類」は地球連邦によって大量虐殺されうる……殺戮の順番が逆にならなかったのは、意図的だろうな。

 スターミィの圧倒的攻撃力については、強力であればあるほど制限(洗脳)が必要との理屈は理解できる。ALHが服用している「アッパー」でも常用しようものなら一人でも惑星を破壊してしまいかねない。
 もちろん人類の存続には寄与しないことになる。
 あと、ヲルラは銀河規模の環境テロリストだったんだな。それはそれで衝撃だった。来襲当時は「ヲルラは地球環境を破壊しすぎた人類に対する神の裁き」だと主張する集団がいたに違いない。

 最後まで読んで、最初からもう一度読み返すと発見することが多くておもしろかった。最初から必要な情報をすべて提示してほしい気もするが、実力を認められた大物作家だからできる話の進め方である。
 いや、そうでなくてもディテール部分に引き込んで読ませるのが、故佐藤大輔の得意技だったかな?

 攻撃目標Gは、シン・ゴジラとはパラレルのパロディ。そんな感覚をもった。

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宇宙軍陸戦隊 - 地球連邦の興亡 (中公文庫)
宇宙軍陸戦隊 - 地球連邦の興亡 (中公文庫)
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突変 森岡浩之 徳間文庫


 人類の暮らす表地球とまったく別の生態系が構築されている裏地球の土地が住民ごと交換される現象が世界各国で頻発。危険な生物「チェンジリング」が表地球上にばらまかれる一方で、裏地球には人類を含めた表地球の人々が送り込まれる。
 そして、日本で三度目の事例が酒河市の一部地域を襲う。この異変に巻き込まれた一般市民の様相を描く群像劇。スーパーヒーローとまで言える人物は登場せず、最終的には銃火器をもった人類が裏地球も征服しそうだが、まだその段階にない状態で送り込まれた人々には慰めにならない。

 異世界転移も、ここまでやってくれれば本格SF小説である。
 転移した人々の法的な問題や、裏地球生物の進化史まで、興味深い情報が盛りだくさんで楽しめる。
 ただし、転移が起こるまでの描写は文章に優れた著者をしても、やや退屈に感じられるので、乗り切る必要がある。

 陰謀論全開の女性市議会議員が強烈であったが、最終的にはちょっとだけ真相に迫っている気がしないでもなかった。
 転移が最近になって起き出した理由はいったい何なのか。そのあたりの謎は解決されていない。
 最終的には表地球と裏地球の土地がすべて交換されて終わるのかなぁ。第二第三の裏地球が?

 最初は救援の当てがない久米島や大阪周辺の話を読みたい気もしていたのだが、終わってみれば先行者がいることの魅力を強く感じさせてくれるストーリーになっていた。
 リセットされた日本の資源開発は興味深い。東北にすごい鉄鉱床があったはず。日本国内の石油や石炭の資源が同じ場所にあるなら、(地質学スケール的に)つい最近まで同じ道筋で生物が進化していたと考えないとおかしいのだが、有笛動物は魅力的だ。あまりのリアリティに実在する動物を発展させまくったと勘違いしてしまった。気嚢のシステムは鳥類に似ている。
 あと関西人が転移したために関西弁が強い。後半に出てきた双子兄妹の掛け合いが癖になる。

 都市がまるごと転移する話としては、伊東市が第二次世界大戦に転移した橋本純の「波動大戦」を連想した。

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突変 (徳間文庫)
突変 (徳間文庫)
カテゴリ:SF | 21:33 | comments(0) | trackbacks(0)

航空宇宙軍史 完全版五〜終わりなき索敵 谷甲州

 SGのセンシング馬鹿の一つ覚え主張に見覚えがあると思ったら、「ミッドウェー海戦にレーダーさえあれば論」だった……さすがに現在はそんな乱暴な論理は影を潜めているので多少は進歩している、のか?
 艦隊を分散するべき理論も各個撃破されて終わっちゃうオチが見えている。作業体Kを送り出してしまう意味でもSGの盛大な独り相撲だから、末期のラザルスと構造が相似している。ジャムツォ中将の精神力はラザルス関係者に比べられるほどのものとは思えないけど。
 SGに干渉されなかった最初の汎銀河連合との接触をイメージしてみようと思ったけれど、SGがなければ作業体Kの送り出しも、シマザキの航宙もないので、そんなものは存在しないのかな。
 小宮山中将の精神衛生にとっては、もし一周目があるならそれが一番幸せな気がする。外惑星動乱も起きないはず?
 どうせループするとわかってはいるけれど、外部記憶装置なしで戦った場合は気になる。どうも航空宇宙軍の人材は高位ほど外部記憶装置を通じてSGによる洗脳を受けている気がする。

 惑星バラティアの占領政策について、第二次外惑星動乱でタイタンがとった手法が使われない理由が気になった。
 おそらく人工知能による省力占領には何か致命的な欠陥があって、第二次外惑星動乱で、それが露呈することになる。だからロックウッドたちも占領政策を研究するにあたって採用をしなかった。
 ちょうど人間の脳を戦闘艦に搭載する方法が主流にならず、最終決戦でもサイボーグ化された人間たちが戦っていたみたいな具合であろう。

 実際に連絡をとりあわなくても同時多発ダムダリが起きてしまう現象は超光速通信よりも恐ろしいと思った。あと伝説による補強も、汎銀河世界が短期間で強大化する理由を説明している。移動距離だけが問題ではない……。
 最後にバラティアの悪役国家スワジットサルが名前からインド洋周辺の国家に思えた。カタカナの「スワ」の力である。

関連書評
終わりなき索敵・上 谷甲州
終わりなき索敵・下 谷甲州

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航空宇宙軍史・完全版 五: 終わりなき索敵 (ハヤカワ文庫JA)
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航空宇宙軍史・完全版4〜エリヌス―戒厳令―/仮装巡洋艦バシリスク

 完全版において初期作が後方におさめられている。読者にあたえる効果について解説でいろいろと論じられていたけれど、昔の作品から読んでいる自分には関係ない。
 それよりも変更点が大事なはずが、自然すぎてロクに気付くことが出来ていないらしかった。言われてみれば星空のフロンティアでのコーヒーに関する記述がうるさくなっていた気はする。
 あの(義理)一子相伝になりかけたキム大尉の代用コーヒー技術も宇宙に流出してしまったんだなぁ。オグが代表する歴史の流れに飲まれる個人の怒りは結局勝てないようでいて、星空のフロンティアの結末まで考えれば?
 歴史は集団が動かすのか、個人が動かすのか。集団も個人の集まりのはずが、統一された奇妙な意志的なものを持ち始めるからややこしい。

 襲撃艦ヴァルキリーは現実がおいついてきたために怖さが増した。自分が遭遇したら生き残れる気がまったくしない。奇しくもどちらの話でも皆殺しを選択しているから余計に怖い。
 溝口艦長は戦いを兵器と兵器の技術開発競争とみていたが、人類と人工知能の知恵比べ的側面も強く感じさせられるのであった。そうするともっとハンティング・ファルコンに似てくるなぁ。
 航空宇宙軍史の先進性を感じさせてくれるハードウェアと言える。

 それにしてもエリヌス―戒厳令―はボリューム感たっぷりだった。そして、登場人物の殺されっぷりが凄まじかった。完全版の順番変更によりカミンスキィ中佐の死がきわめて印象的なものになっている。
 SPAの組織は三大幹部にシリウス隊長まで失って壊滅状態のはず。「襲撃艦ヴァルキリー」において活動していたことが奇跡に思える。
 だが、新・航空宇宙軍史を知ると、タイタンが主導する第二次外惑星動乱では邪魔者となりかねないSPAがエリヌスで大打撃を受けたことは、戦乱の流れを加速させたようにも思える。非常に皮肉な話である。
 シリウス隊は教授の言葉を無視して、やったことだけを見ると、非常に勇敢で優秀な部隊にしか見えなかった。とりあえず自分には絶対に真似できない。

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航空宇宙軍史・完全版 四: エリヌス―戒厳令―/仮装巡洋艦バシリスク (ハヤカワ文庫JA)
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航空宇宙軍史・完全版三〜最後の戦闘航海/星の墓標 谷甲州

 第一次外惑星動乱に関連して行われた鬼畜の所業を集めた一冊。ガニメデは作業体Kに代表されるサイボーグ計画の人体実験、タイタンは12個の生体脳を利用したラザルス、航空宇宙軍はシャチのジョーイを乱暴きわまる方法で捕獲してのオルカ・キラー建造と、カリストだけがまともかと思ったけれど、先にオルカ戦隊を整備したのはカリストであった。また、ラザルスの研究をひきついでヴァルキリーを完成させてもいる。
 まったくどいつもこいつも……航空宇宙軍には開戦前から前科があったんだっけ。

 最後の戦闘航海が漂わせるブラック労働の雰囲気が最初に読んだころとは異なって感じられた。
 人間の態度次第で緩和される部分もむしろ悪化している事実が醸し出すどん底感が半端ではない。ろくでなしに限って幅を利かせる現実は人類が宇宙に進出しても変わらないらしい。
 かなりホラー仕立ての雰囲気で非常に怖い感じだったのに、作業体Kが接触してきてから急に「弛緩」してしまった。おっさんおっさん言うせいか?
 作業体Kよりも意志を持った機雷群が怖かった気もする。セリフもあるのに掃海員の二人は名前を出してもらえなくて可哀想。

 ジェイムズ・ランド中尉戦記こと星の墓標はけっこう読みにくい。
 特にジョーイ・オルカ視点の話には抵抗が強かった。昔はそんなでもなかった気がするのだが……大幅な加筆があったことよりも自分の変化が大きそうだ。
 ダンテ隊長がオルカ・キラーにミサイル2機を搭載してやらなければ、無事に回収ができたと思うと皮肉である。トラッパー・キリノは悪人ながら最期にみせた意地は見事だった。
 オロイのおかげで地球に帰還する軌道に乗ったと言っても、突入前に航空宇宙軍に阻止されて回収されてしまう予感しかしない。それともタイタン軍に回収されて、第二次外惑星動乱の材料にされるか。
 外宇宙に飛び続けたバジリスクに比べてロマンで終われそうにない……。

 ヴァルキリーとジョーイの戦闘は熱かった。あんなヴァルキリーの攻撃から生き延びたジョンソンたちも本当に凄腕だなぁ。
 ジョーイがミサイルを利用したチャフを思いついていればダンテ隊長たちも助かったのに。そういえばピートはロッドなのか?ちょっと専門分野の方向性が違う気もする。
 タイタン脱出時には隊員が100人を超えていたと言うから、ミッチナー将軍でなくても人材を再配分したくなるはずだ。

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航空宇宙軍史・完全版 三 最後の戦闘航海/星の墓標 (ハヤカワ文庫JA)
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航空宇宙軍史・完全版二 火星鉄道一九/巡洋艦サラマンダー 谷甲州

 第一次外惑星動乱の全体的な流れが一冊でわかる。完全版一では開戦までの経緯と、開戦劈頭の奇襲攻撃が分かったわけで、こうしてみると短編集の集合体でも上手くまとまっている。

 やっぱり目立つ存在は外惑星連合唯一の正規巡洋艦であるサラマンダーに関する物語であろう。
 土砂降り戦隊からサラマンダー追跡までの4本が巡洋艦サラマンダーに関連する話になっている。航空宇宙軍のあまり冴えない部署に配置された個人の働きがつながって、歴史を完全に変えてしまう様子が分かる。
 これぞ歴史の一面と言えるが、本人たちでも正確に認識できないほど事情は複雑である。サラマンダー側の立場になって考えると、ついていないにも程がある。
 まぁ、幸運だったとしても末路には大差がなかったかもしれない。アナンケ迎撃戦で、死すべき定めの作戦に投入された囮艦隊と仮装巡洋艦隊が一隻の犠牲も出さずに済んだのは、シュルツ大佐の加護と思いたい。

 サラマンダー追撃戦の様子がここまでビスマルク追撃戦を連想させる内容だとは最初に読んだときは感じなかったなぁ。
 そう思ったのだけど、古い単行本の感想を確認したら、ちゃんとビスマルク追撃戦に言及していた(あの感想を書いたときが初見じゃないけど)。
 過去の感想と照らし合わせるのも大事だな。

 敵がもっている兵器を我が一から開発する点で、タイタン航空隊と巡洋艦サラマンダーは似ている。そうして考えると、外惑星連合の開発陣はかなり健闘したと思われる。
 もっとも、タイタン航空隊の場合は「寄生戦闘機ゴブリン」みたいな運用上の制限も大きかった。タイタンの大気組成について最初の執筆時とは比べものにならない情報が得られたので、さすがに話の雰囲気が変わっていた。

 終戦時の混乱がわかる最終兵器ネメシスを読むと、開戦時と同じく政変はカリストで起こっており、ガニメデの政治的な安定感が際立つ。巻末の組織表によれば外惑星連合軍の主席司令官はガニメデ宇宙軍参謀総長であるのも、その関係だろうか?それこそ開戦時にミソをつけて、幕僚会議議長が交代した影響が大きいのかな。
 カリストからの重水素輸出がガニメデやタイタンからの物よりも遙かに多いという「ドン亀野郎ども」の情報も両国の政治的な安定度の差に影響していそうだ。
 それにしてもエウロパの気配が薄いな……あちらはイオと違って地上都市で生活できるだろうに。水分が多すぎてガニメデやカリストに比べると鉱物資源には恵まれないのかなぁ。

谷甲州作品感想記事一覧

航空宇宙軍史・完全版 二: 火星鉄道一九/巡洋艦サラマンダー (ハヤカワ文庫 JA) ( )
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カテゴリ:SF | 23:47 | comments(0) | trackbacks(0)

航空宇宙軍史・完全版1 谷甲州

 カリスト-開戦前夜-とタナトス戦闘団を大幅に加筆修正して、まとめて収録した完全版の一冊。おおむね外惑星動乱の時系列に沿った順番で刊行されている。

 カリスト-開戦前夜-ではやはりダグラス将軍の殺害に関する意志決定が不明瞭に感じられた。ヒュン少佐が航空宇宙軍の回し者だったとも思えないのだが、どうしてこうなったのやら。
 キンズバーグ財務部長のあつかいを考えれば、エリクセン准将も自殺するべきではなかったかもしれないな。生きて激しく主張した方が彼の考えは生き残ったのではないか。
 それともエリクセン准将がすべての泥をかぶったから、キンズバーグ財務部長が顧問として影響力を残せたのかな。どれだけ主張しても相手の考えを変えることのできない無力感に苛まれていたエリクセン准将に、実力行使に出た後も尽くした言葉をさらに尽くせと強いるのも酷ではある。
 けっきょく彼の思想が叶えられるまでに、とてつもなく長い時間が掛かってしまった。エリクセン准将は汎銀河連合を自分の夢を受け継いでくれた存在と認められるのであろうか。
 軍令部のアホコンピューターと違って、生きていないので分からない。

 タナトス戦闘団はカリスト-開戦前夜-でも活躍したダンテ隊長が激しく動き回って月面のセントジョージ市の工場を破壊する。
 電線火災を利用して工場を焼き尽くす作戦は、第二次世界大戦の空母で起こった「船火事」をふまえたものに思われた。セントジョージ市の豊かさが、戦争に勝ち目のないことを物語るのも、戦前の知米派がもっていそうな感覚である。
 だが、楽観的で鈍感なダンテ隊長はそれを感じていなかった模様。

 人口30万人のセントジョージ市の様子は間接的に月面都市観光をしている気分で楽しめた。地球人観光客とカリスト人であるダンテ隊長の感覚の違いもおもしろかった。
 ロドリゲス一族が「パソコンに強い」ことはムルキラに定めづけられたレベルで真実なんだろうな。

 一番かわそうなのはアンドレーエフだと確信した。あまりにも手強い女性に出くわし、人生を振り回され、種々の薬物投与まで受ける羽目に……。

関連書評(加筆修正前の文庫感想)
カリスト-開戦前夜- 谷甲州
タナトス戦闘団 谷甲州

谷甲州作品感想記事一覧

航空宇宙軍史・完全版一  カリスト-開戦前夜-/タナトス戦闘団 (ハヤカワ文庫JA)
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カテゴリ:SF | 15:37 | comments(0) | trackbacks(0)

大東亜の矛―太平洋封鎖戦― 林譲治

 気がついたら日本がアメリカに戦争で負けていた。倭国の内乱に振り回されているうちに、どうでもよくなっていたが、影響力を考えるとやっぱりどうでも良くはなかった。
 いっそ東條首相を巻き込んで彼の首を飛ばしていた方が歴史を変えたのではないかなぁ?そういえば山本連合艦隊司令長官も戦死していないのでは?
 できれば本土空襲を受ける前に降伏していてほしい……。

 木梨潜水艦長が物語の最初から地味に関わっている重要人物なのもおもしろい。伊号潜水艦で技術的に遥かに上を行く潜水艦を沈めてしまう手腕に惚れ惚れした。

 倭国での話は思わぬ展開を見せ続けた。登場人物全員グルじゃねぇか!なんだ、これ。
 魁姫と導姫の役割が逆転する結末がおもしろかった。南の導姫は何にもしない内にとんでもないライバルに……。

 姫士という役職があるのに、ひとりも囚われの身にならなかったのが、地味に残念だ。憲兵が大活躍の作品なのだから、なおさらチャンスは多かったのに、逆に憲兵が捕まりまくっている始末……くっ!
 パラレルワールドは予想の範囲内だけれど、倭国が支配に苦労しまくっている事実は日本の鏡として興味深い。倭国が日本を鏡にしようとしていたように、日本も倭国を鏡にできるのだ。

関連書評
宇宙戦争1941 横山信義
第二次宇宙戦争 マルス1938 伊吹秀明

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大東亜の矛 太平洋封鎖戦
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カテゴリ:SF | 21:46 | comments(0) | trackbacks(0)

大東亜の矛―ニューギニア航空戦― 林譲治

 弓家参謀の技術にしか興味がない態度に感心していたので最後の出来事には失望した。
 ヘリコプターマニアと化した弓家参謀はヘリコプターさえあれば美少女がどうなっても心が痛まないのか!ある意味でマニアの鑑だな……。

 2巻では倭国内部での政治抗争が激化していることが示されて、アメリカ軍との戦いは片手間になってしまう。
 いったい何と戦っているのか、何と戦うべきなのか、よくわからなくなってくる。悪い奴がいて、そいつを倒せば解決するほど、問題は単純じゃないのだろうな。
 史実の戦争ならすぐに理解できることも、フィクションの国家についてだと幻想を抱いてしまいがちだ。

 倭国については平行世界の日本に思える情報がそろってきた。しかし、人口10億を支配しているのに人材不足とは……?
 高度な技術と人口の少なさで、不思議の海のナディアを連想していたが、アトランティスよりは土台がしっかりしているようだ。

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大東亜の矛 ニューギニア航空戦 (朝日ノベルズ)
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