ニッポンの氷河時代 化石でたどる気候変動 大阪市立自然史博物館

 大阪産古生物のアイドル、マチカネワニが新しい時代の生き物であることを意識した。そもそも大阪には古い地層があまりないわけで、新生代完新世以降の情報を中心にして巧みに展示を組み立てている。
 スノーボールアースに絡めて遥か過去に視野を飛ばしたりもする。

 しかし、一番印象的に残ったのは徳島県の剣山に生きるミヤマハンミョウだった気がする。東日本の内陸部に分布するミヤマハンミョウが、徳島県の剣山にだけ隔離分布していることが面白い。どんな環境の相性があって生き残ったのだろう。
 大阪からみても徳島は対岸なので、親近感はあるのかな。

 レフュージアに寒冷な時代の生物が残存していることから、現在の地球温暖化やそこから生き残ることの難しい生物の話にうまく繋いでいた。
 後背地を都市に占領された葦原には海岸線が後退しても逃げる場所がないのも深刻な問題だ。葦一種の問題ではなくて、そこに生きる様々な生物が関わってくるから、失われてしまうものは非常に多いのではないか。

 チョウノスケソウという日本では高山植物に分類されている植物が、小氷期の名前に使われている「ドリアス」であることを知った。そもそもドリアスが植物の名前であることを知らなかった。
 日本にも生きている植物だと知れば、ヤンガードリアス・オールダードリアスの小氷期もちょっと身近に感じられそうだ。

カテゴリ:地学 | 07:20 | comments(0) | -

自然科学ハンドブック 岩石・鉱物図鑑 クリス・ペラント/ヘレン・ペラント

 貴治康夫/柴山元彦 監訳、山崎正浩 訳

 海外で編まれた鉱物と岩石の図鑑。元素鉱物から珪酸塩鉱物までの結合に注目した分類で鉱物が紹介されている。ガーネット類で出てくるのが3種類と書けば、取り上げられる鉱物種のバランスがなんとなく分かるだろうか。
 それでも見覚えのない鉱物がいくつか出てきた。それらは英名をカタカナにしただけで、意味を翻訳された和名のない鉱物が多いので比較的新しい鉱物が中心なのかな。知っている和名が使われなくなっただけの可能性もあるから注意しないといけない。

 鉱物・岩石の産地は残念ながら掲載されていない。ただ、生成される環境についての記載が表で必ず載っていること、「検査」欄として加熱や各種の酸による見分け方の特記事項があることなど、同定に役立つ情報を載せたい意識は感じられた。硬度・比重・断口・へき開の早見表も別に載っている。
 磁鉄鉱が緑色を帯びて見えるなど、写真のカラーバランスは気になることがあった。青金石もコントラストが強すぎて微妙だったかな。

 後半の岩石が期待したよりも興味深くて、含まれる化石の情報などを関心をもって読むことができた。頁岩が堆積岩に分類されていること――最弱の変成岩と認識していた――大理石が石灰岩の変成岩の名前に採用されていることが――個人的にはこれで習っているので親しみやすいが――少し変わっているように感じた。

鉱物関連記事一覧

カテゴリ:地学 | 12:53 | comments(0) | -

起源がわかる宝石大全 諏訪恭一・門馬綱一・西本昌司・宮脇律郎

 非常に美しい宝石の写真が硬度順に解説される宝石図鑑。原石・ルース・装飾品などの写真が楽しめる。原石でも宝石に加工できるクラスの、非常に品質の高い標本が多い。メジャーな石については美しさと濃淡の二次元評価で、宝石の評価が参照できるようになっている。
 また類似宝石として、他の鉱物(模造ガラスもある)もまとめられていて、そこでしか見ることのできないルースの写真もあったりした。
 硬度順については7〜5のあたりで前のページほど硬度が高い法則性が乱れている。理由は良くわからないが。ロードナイトがそこそこ硬いのにロードクロサイトの前に置かれていたのは理由が良く分かる。

 説明文からタンザナイトの評価が昔より下がってきている印象を受けた。オパールの産地がオーストラリアからエチオピアに移動中などの情報も見逃せない。紛争地帯が産地になっている宝石は犯罪の資金源になっていないか心配になる――ミャンマーなど。
 トルコ石の産地違いにやたらと詳しかったのは宝石のほんVol.03トルコ石 飯田孝一を思い出した。よく調べると謝辞のページで飯田孝一氏の名前が出ている。

 コーラルの球を各種の液体に漬けて破損具合をみた実験が印象的だ。レモン汁に12時間つけると消滅してしまう。食事のある場所に着けていくのは厳禁な宝石だなぁ。透明な鉱物でカバーされたアンモライトのジュエリーは美しくて安心して使えそうだった。
 メジャーな宝石がキレイなのは当然だと思ってしまうけど、マイナーな宝石がハッとするほど美しいのは心に強く印象に残ってしまう――でも実用上は硬度や劈開で問題がある場合が多い。

 翡翠原石館提供の標本に素晴らしいものが多くて、翡翠原石館にも興味が湧いた。東京都品川区の博物館のようだ。国立西洋美術館の橋本コレクションから歴史的なジュエリーも多数紹介されている。
 命名の理由や利用の歴史など、宝石と人の歴史的な関わりが見えてくる本だった。

カテゴリ:地学 | 13:55 | comments(0) | -

富士山噴火に備える 『科学』編集部 岩波書店

 宝永噴火以降不気味な沈黙を保っている活火山の富士山。もしも今富士山が噴火したらどれほど大きな被害を生じるのか。現在までに分かっている研究成果がまとめられている。後半では鬼界カルデラをはじめとする大規模なカルデラ噴火についても論じている。箱根カルデラにも触れるので最後に東京の近くに戻ってきた。
 どっちにしろ降灰によって脆弱な東京のインフラは大打撃を受けて、多くの被害者が生じるだろう。鬼界カルデラの場合、近い地域はそれどころでは済まないが……沖縄だけが辛うじて安全地帯なのかなぁ。北海道も内部にたくさんのカルデラ火山を抱えている。

 火山灰の走行実験で四輪駆動車の強さがはっきりと示されていた。またチェーンが火山灰に対しては逆効果であることも明らかになっている。この事実は降灰のリスクが高い地域で周知されていてほしい。

 後半では火山と原発の関係についても頻繁に触れられている。基本的に日本の土地に原発は向かない。最後の論文では放射性廃棄物を大陸に輸送する体制を整えてほしいとすら提言している。最初から持ち込まなければ良かったのにな……。
 似たような立場のインドネシアでは原発建設の議論が一時あったものの、けっきょく原発を建てていないそうだ。そして、大きな噴火にたびたび見舞われている。

 日本では何故か富士山をはじめとして活動が落ち着いている火山が多いので油断してしまっているが、御嶽山の噴火もあったように、いつどこで火山活動が起こるか分かったものではない。
 ミューオンによる透視が成果を上げてきているように、より高精度の火山監視が求められるし、それでも被害をなくせるわけじゃない覚悟も必要だ。

カテゴリ:地学 | 11:44 | comments(0) | -

鉱物きらら手帖 さとうかよこ

 本当に手帖みたいな装丁で非常に大胆だ(帯がなければ)。中身はカラー写真が使われた鉱物コレクター向きの図鑑に近い。50音順で紹介しているのは、かえって新鮮だった。フォスフォフィライトが最後に来るのか。

 紹介の内容は著者が鉱物商から聞き込んだ話や最近の市場動向なども載っていて興味深かった。すっかりミネラルショーに行かなくなってしまったのでモコモコのオーケン石が貴重になったことを知って驚いた。
 エチオピアのオパールも高騰しているようで隔世の感がある。

 収録されている標本は小さいようだが、どれも美しくてコレクター心をくすぐる。でも、黄銅鉱をあえて酸で処理したものや藍晶石にチタン蒸着をしたものは、あまり興味ないかな。ビスマスの人工結晶は許せるあたり、歴史の差が問題なのかもしれない……。

 鉱物の化学組成を表すフォントが珍しいもので、最初は文字だと気づかなかった。産地や英名も載っていて不足はない。
 三方晶系の説明文が三斜晶系と同じだったのは間違いだと思われる。

鉱物関連記事一覧

カテゴリ:地学 | 11:40 | comments(0) | -

世界観構築のための宝石図鑑 飯田孝一

 赤いルビーから複数色を示すラブラドライトまで。色ごとに宝石をまとめて4ページで歴史や名前の由来、昔の人が信じていた効用などを解説する。載っている宝石の写真はどれも素晴らしい。だいたいルース、原石、宝飾品の3種類の写真が示される。
 表紙の中央下にあるアイオライトの立方体が見事に多色性を示しているのも素敵だ。宝石をふんだんに使った工芸品も見応え十分で、作成した職人の宝石の性質を活かす見事な技量に感動できた。
 トルコ石の全体でリボンのような形に加工されたネックレスなどは作業を想像すると気が遠くなる。
 面白いところではアクアマリンで作った耳栓なんて変わり物もあった。作らせたインドの大富豪は実際に常用していたのかな。

 タイトルに「世界観構築」と入っているのは昔の人が信じていた「まじない」的な効果を紹介しているためか。しかし、パワーストーン本みたいに現代人が本気で信じている感じの書き方にはなっていないので、そういうのが苦手な読者でもあまり抵抗を持たずに読むことができた。

 宝石ごとにいろいろな作品から文章が引用されている――ただし、引用元がないものは著者のオリジナル?
 いくらでも持ってこれるはずの宮沢賢治は自重して3つ、江戸川乱歩も同率で3つ。コナン・ドイルから2つ、伏兵のオスカー・ワイルドが2つなど、国内外の著者が並んでいた。自分も宝石の魅力をうまく文章に取り込みたくなった。

鉱物関連記事一覧

カテゴリ:地学 | 00:09 | comments(0) | -

海の底を空想散歩 体感!海底凸凹地図 加藤義久・池原研

 海底地形がコンピューターグラフィックスで立体的に表現されて、世界中の海底地形を楽しむことができる。最初に大洋規模の地形が示されて、より細かい部分の海底地形が紹介される流れである。
 やはり日本の周りが詳しくて富士山から急激に落ち込む駿河湾の深さもよく表されている。日本海側の富山湾にある富山深海長谷が興味深かった。現在の海洋底で侵食が起こっているようで。
 アメリカの本だったらモントレー湾が出てきそうな本だけど、本書では出番がなかった。研究の歴史から情報量は多いだろうに、日本人の親しみが足りないのか。

 インド洋の東経90度海嶺、北極海のロモノーソフ海嶺、マンデレイヤー海嶺のような海洋底の拡大に現在関わりがなさそうな海嶺にも個人的な関心を覚えた。
 地図でみた感じ海洋底が一番古い場所は地中海で合っているのかな。地学的にも水を抜いて調べたくなってしまう。

 パナマ海峡がパナマ地峡になって海流が変化し、地球環境も大きく変化したのを読んで、もしパナマ運河が閘門なしで造られたら海流に影響したのかと少し考えてしまった。さすがに幅が足りない?
 核でパナマの陸地が吹き飛んでいるフィクションの世界においては海流も影響を受けているだろうな。

カテゴリ:地学 | 20:40 | comments(0) | -

図説 空から見る日本の地すべり山体崩壊 八木浩司・井口隆

 豊富な空撮写真で説明されるいろいろな地すべり地形。地すべりの意味を広義に使っていて英語にすると7種類に分けられるとの説明があった。私が別の本で「山崩れ」と覚えた現象も本書では地すべりに含まれてくる。
 防衛大学校に勤めていたことのある著者が、年に数日自衛隊の航空機を教育・研究目的で利用することが出来たことが本書の見事な写真につながったようだ。UAVの使用や小型機のチャーターなども行っており、謝辞の対象にパキスタン陸軍があることからパキスタンの地すべり撮影ではパキスタン陸軍のお世話になったようだ。
 衛星写真に標高データを合成した3D画像じゃなくて、本物の斜め撮影写真で観察できるのは良い。

 表紙になっている凄まじい地すべりの写真は2018年の北海道胆振東部地震で生じたもの。先に出てきた新潟県中越地震の地すべりも巨大で、こちらのものと誤認した。地震が原因の地すべりは融雪の状況などに影響されるので地震の起きる時期によって被害が大きく変わってしまうようだ。
 御嶽山の地すべり写真では直後と時間の経ったものが載っていて、新鮮な露頭と風化した露頭の色の違いも認識できた。

 地すべり対策工事が行われている山も多く出てくるのだが、有名な富士山の大沢崩れに関しては対策工事の話がなくて、工事の基準などが疑問に思えてしまった。麓が衰退して見直しが必要な工事もあったりしないのかな。
 線状凹地の単語は知っていたが、それに関連する地形として「山向き小崖地形」が出てきた。山向き小崖地形については導入部での図解がほしかったところ。尾根線上に素敵な池ができているのは、こいつらのおかげだったのかー。
 標高2000m寸前の七面山に敬慎院というお寺が置かれていることも知ってしまった(本書の説明文では日蓮宗身延山久遠寺の奥の院とされるが、検索すると間違いと思われる)。生活するだけで修行になるわ……。

カテゴリ:地学 | 12:45 | comments(0) | -

ひとりで探せる川原や海辺のきれいな石の図鑑2 柴山元彦

 日本や世界の水辺できれいな石探しをする本の2巻。最初に紹介される鉱物が1巻と同じ並びで改訂版に近いようにも思ったが、あとがきによれば説明文を削って採集地の紹介を増やしたとのこと。相補的な関係にあるようだ。

 ジャスパーの説明にチャートとの見分け方を書いていないので、実際に本書だけで石探しをした場合は誤認をする可能性がある――知識があっても模様や不純物の見えないチャートだと見分けられないかも。
 鉄電気石も角閃石などを見誤る可能性があるかもしれない。カラフルな電気石はリチア電気石(緑は苦土電気石などのことも)なのに、その説明はなく色ごとの異名が紹介されていたので注意。
 カラフルな電気石がほしいと鉄電気石の産地を探し回っても見つかることはあるまい。

 産地はどこも川原や海辺で駅からのアクセスも書かれている。手に入る鉱物のレベルは決して高くないが、探すことそのものが楽しめるなら非常に役に立つはず。
 京都の木津川で採れたカーネリアンが綺麗だった。玉髄関係はそこそこ良いものがある。くさび石と大隅石、ひすい辺りは造岩鉱物じゃない点でも貴重だろう。今後も採集が楽しめる環境が維持されて欲しい。

鉱物関連記事一覧

カテゴリ:地学 | 19:15 | comments(0) | -

楽しいインクルージョンの鉱物図鑑 Atelier Ruchi

 門馬綱一・監修

 インクルージョンになっている鉱物に専門化した図鑑。かなりニッチなところを狙っている。外側の鉱物は水晶が大半で、同じ石英だがメノウ系が別にあげられている。最後に少しだけトパーズやベリルなどの鉱物に含まれるインクルージョンもあった。

 どのインクルージョンも美しかったり独特の「風景」になっていたりで、小さくても見応えがある。コベリンが細かくなると特有の青さを失って反射光ではピンクに見えることさえあるのが面白い。
 チューブ状の空間が鉱物の内部にできている場合(空気や液体のインクルージョン)、シャトヤンシーが生じている様子の説明も拡大写真があって分かりやすかった。
 日本の湿度では分解してしまいやすい白鉄鉱もインクルージョンになってくれれば安心だ。単体標本では地味なことの多いゲーサイトが美しい。カコクセン石に見えてしまう。

 含まれる鉱物名はカタカナ表記が多くて、漢字の和名があると表のところで表記されている。化学組成もないので脳内ですぐに名前が一致しないことがあった。産地も一貫した表記はされておらず(説明文には国名レベルで書かれていることはある)ちょっと残念だった。

鉱物関連記事一覧

カテゴリ:地学 | 10:03 | comments(0) | -
| 1/38PAGES | >>