Q.E.D.証明終了 ザ・トリック・ファイル 加藤元浩

 Q.E.D.の初期の事件と作者インタビューをメインにした解説本。橙馬のキャラクターが作者本人から説明されるので、理解を深めることができる。やっぱり、かなり変わっている。
 加藤先生は理系でも建築出身とのことで数学からはそこそこ離れている。あまりに近いと好きになることもできず仕事に間接的に活かすのは難しかったりするからねぇ。
 金田一少年の事件簿の原作者である天樹先生との対談が収録されていて、ミステリー漫画の醍醐味を知ることができた。最初は天樹先生が喋りまくるのだけど、いつのまにか加藤先生に丸め込まれて同意しているような……「なるべく早くマンガ家さんに渡してあげてください」と言われるオチには笑った。
 そのマンガ家との対談は今となってはいろいろ危険ですが――ある意味でQ.E.D.のネタになりそうだ。うさんくさい人物が、けっこう多い作品だよね。

 ダイジェストでまとめられている話は最近のものより記憶に残っている気がした。最初に読んだときと感想を書くときで二回は読んでいるからなぁ。記憶の密度に差が出てもおかしくはない。

 作者オススメのミステリーとしてアガサ・クリスティの作品が3つも挙げられていた。部長の元ネタ、エラリー・クイーンは2つである。遠慮なく偏っているなぁ。

関連書評
Q.E.D.-証明終了 ザ・トリック・ノート 加藤元浩・月刊少年マガジン編集部
Q.E.D.証明終了1巻 加藤元浩

Q.E.D.証明終了 ザ・トリック・ファイル (KCデラックス)
Q.E.D.証明終了 ザ・トリック・ファイル (KCデラックス)
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Q.E.D.-証明終了 ザ・トリック・ノート 加藤元浩・月刊少年マガジン編集部

 事件をふりかえり、作者のSF(ミステリにあらず)に対する熱い思いを知ることができる一冊。
 疑似科学をはこびらせているのは、科学的なことにこだわりすぎたSFのせいとは気になる考えだ。SFファンの閉塞感を打破できるのはライトノベルと言いたいところだけど、科学への親しみを呼ぶ意味ではどうなのかな。
 SFを新しく書く側には厳しい時代だろうとは思う……なんでこんな方向に脱線しているのやら。
 作者によるオススメ本は妙に読まなければいけない気分にさせられる。特に超上級向きの「道具としての物理数学」。あと「星を継ぐもの」は基礎教養として読みたいものだ。

 作品の内容については事件の概要を読んでも、ほとんどトリックを思い出すことができず、自分の記憶力に絶望した。手に入れた情報を完璧に伝えることのできる可奈なら全部覚えているに違いないのに……でも、数式の説明は忘れていそうだ。
 あと、完全に学術書臭のする連続体仮説やリーマン予想の解説が始まった時はどうしようかと……ちょっと眠くなった。まぁ、他の本を読んでいるときもなるのと同じ感じだったんだけど。
 数学者インタビューもあって真面目だからこそ、最後に収録されているダジャレまみれの話が威力を発揮するのだろうなぁ。心頭に発する強烈な怒りで眠気も吹っ飛ぶ。

 殺人事件の比較的すくないQ.E.D.だが、それでもまとめると71分の30は殺人や殺人未遂だった。警察や高級官僚が橙馬に持ち込んでくる事件は必然的に大きな事件になるわけで、そんなものかな。火サス刑事そんな人もいたね……。

関連書評
Q.E.D.証明終了1巻 加藤元浩

Q.E.D.証明終了 ザ・トリック・ノート (KCデラックス)
Q.E.D.証明終了 ザ・トリック・ノート (KCデラックス)
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GOSICKs-ゴシックエス-掘曾の花の思い出 桜庭一樹

 一弥がヴィクトリカのところへ通い妻をする短編集。いつもは登場人物の掛け合いを楽しみにミステリ部分を乗り切っていたが、歴史が絡んでいることもあって全編に興味をもって読めた。

第一章 純潔
 フランス革命時代のできごと。ロキシーのデザインがすばらしく魅力的に感じられた。
 貞操帯の鍵はどこかで見つかったのだろうか。外した途端に機動力が倍増して、とても強くなったことを希望する。叔父と姪か。

第二章 永遠
 チューリップにまつわるお話。狼と香辛料を思い出した。商人の世界は権謀術数がうずまく。まぁ、これは単なる詐欺だが――けっきょく本物のフィセロイは誰が確保したのか、興味がわいた。姉と弟か。

第三章 幻惑
 古代中国の話らしいが、AD23年では語られているような出来事はありえない。春秋戦国時代か五胡十六国時代を意図しているのだと思うけど……。モンゴルにキリスト教徒がいた辺りから、遊牧民に西洋の血が混じる話が膨らむのだろうか。異母兄妹か。

第四章 思い出
 新しい夫のセリフには気付いた。両親のどちらかに似なければならないなんて決まりはあるまい。ヴィクトリカの立場もあって、いろいろ考えてしまう。一弥にとっても他人事ではないな。
 愉快なアブリルの奮闘が涙を誘う。

第五章 花びらと梟
 アブリルとコルデリアによる話。ヴィクトリカを共通の思い出に一弥とアブリルがくっつく可能性が……?まぁ、あまり考えられない。
 話は漫画で先に読んでいるので、あまり感じるものがなかった。強いて言えば父の偉大さを克服したジュニアを讃えてあげたい。

GOSICKs〈3〉ゴシックエス・秋の花の思い出 (富士見ミステリー文庫)
GOSICKs〈3〉ゴシックエス・秋の花の思い出 (富士見ミステリー文庫)
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GOSICKs-ゴシックエス-供漸討ら遠ざかる列車 桜庭一樹

第一章 仔馬のパズル
 生徒たちがバカンスに行く中、学園に残る一弥とヴィクトリカ。こちらはこちらで甘いバカンスである、たぶん。アブリルの噛ませ犬的な扱いが憐れ。屁こきいもりでも噛ませ犬よりはいいよ。
 ところでフランスとイタリアとスイスに国境を接して、なおかつ海に繋がっている西欧の小さな巨人は、フランスとイタリアの国境を接触させていないことになるのでは?フランスとイタリアが味方だった第一次世界大戦はいいけど、第二次世界大戦では思いっきり戦火に巻き込まれそう。たぶん、ヘタリアの北半分を占領するくらいはできるな。その後、ドイツが出てきて偉いことになるのはお察しください。

第二章 花降る亡霊
 アブリルが手紙で伝える不思議な経験。漫画で先に読んだ。
 手紙から事件を解くのは必要な情報がすべて含まれているとは思いにくいから難しい。作品はアブリル視点で細かいところまで書かれているけれど、手紙の内容がすべてを網羅しているとは思えない。ミステリ作家の手腕が問われる手法である。

第三章 夏から遠ざかる列車
 寮母さんと先生の別れからはじまる馴れ初め。先生もたくましいというか、おもしろいというか。意識してみると名前のあるレギュラーキャラクターは変人揃いである。ゾフィーは割り合いまともかな?
 一弥が最もまともと言いたいところだが、女の子の趣味が危ない。

第四章 怪人の夏
 武者小路さん、第二次世界大戦を生き延びてね!その前に陸軍を辞めている気もするなぁ。武者小路実篤先生のおかげで、体育会系名字なのに文化系名字に感じられることに気付いた。7歳の瑠璃に興味を抱くとは一弥と武者小路は気が合いそうだ。7歳の着物を身まとえるヴィクトリカェ……。
 吉良の怪しさ爆発具合も笑えた。
 ヴィクトリカが一弥の部屋に入って来なかったのは、何かされると思ったからなのかな?ニヤニヤ。姉の色恋の疎さを語っている一弥も疎いこと疎いこと。常識的に考えて、同じ年の女の子を寮の部屋に連れ込んだらイカんでしょ?

第五章 絵から出てきた娘
 第一印象最悪に描かれている管理人が酷い目にあう話じゃなかった……こういう時代ってことなのかな。二人組の刑事がいつも手をつないでいるのはヴィクトリカのせいだと判明。警察関係者については、変人奇人にみえるのはヴィクトリカが原因のようだ。良かった――んだけど、変な状況に慣れてしまう点に不安が残る。

第六章 初恋
 叙述トリック!
 悪を倒すためなら「悪魔」と取引することも厭わないグレヴィール警部かっこいい。彼の最終形態はデーモン小暮閣下にございますか?
 両想いだったのに結ばれなかったグレヴィールとジャクリーヌの関係がとてもほろ苦い。もしかして警部になったのも警視総監夫人のためだったり?

GOSICKs(2) ―ゴシックエス・夏から遠ざかる列車― (富士見ミステリー文庫)
GOSICKs(2) ―ゴシックエス・夏から遠ざかる列車― (富士見ミステリー文庫)
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GOSICKs-ゴシックエス-春来たる死神 桜庭一樹

第一章 春やってくる死神が学園に死をもたらす
 ヴィクトリカの退屈を殺す死神とするなら、必ずしも間違ってはいない。一弥がヴィクトリカに出会うボーイミーツガール回。
 ワイヤーで首切断は、コナン一話のトンデモトリックからの由緒正しきトリックである。一弥が殺したとするなら警部は凶器の所在を証明しなければならない――いちおうしたけど、その時点で容疑も外れてくるだろうと。まぁ、帝国軍人の息子というなら目の前で人の首が飛んで血の間欠泉が吹きだしても気絶するなと……うろたえるな!帝国軍人はうろたえない!
 犯人の動機がまったく語られていないので怖かった。

第二章 階段の十三段目では不吉なことが起こる
 このトリックによれば、ミリィ・マールは自殺?そんなにタイミングよく死ねるものではないはずで、病魔に蝕まれていたとしても最期は自ら命を絶ったと判断せざるをえない。
 イタリアとフランスとスイスに挟まれたソヴュールの国民ならカトリックの可能性が高いわけで、カトリックで自殺は……その辺り綺麗にスルーしているヴィクトリカは優しいなぁ。

第三章 廃倉庫にはミリィ・マールの幽霊がいる
 本物のアブリル登場。お姫様を救うナイトは、武士でした。セシル先生の反応がいちいち可愛すぎる。メガネを外して見えていなければ、何もない。「お化け」相手には有効な対応だが、お化けのフリをした悪人が相手の場合は最悪の対応だ。

第四章 図書館のいちばん上には金色の妖精が棲んでいる
 学園の怪談はクィアランが盗品を隠すために仕込んだものであったという全体的な種明かし。二代目も噂を子供たちに浸透させるために一役買ったのかもしれない。少なくともミリィ・マールは自覚なしにしろ協力させられているな……。
 アブリルかわいいよ。

第五章 午前三時に首なし貴婦人がやってくる
 泥だらけになったヴィクトリカの手をかいがいしく拭いてやる一弥が可愛い。されるがままになっているヴィクトリカも可愛い。年下の幼女なら自然な状況だが、二人は同い年なんだよなぁ。すさまじく倒錯したものを覚える。

序章  死神は金の花をみつける
 セシル先生視点からヴィクトリカと一弥の馴れ初めが描かれる。授業に一度も出ていなくても自分の生徒は生徒。常に気に掛けているセシル先生は良い先生だ。
 第一章の「運命の女の子」が強力に補強されていると感じた。ところでこの時代の日本に黄色の花って本当にないのかな?菜の花なんかは観賞用にはならないか。

GOSICKs   ‐ゴシックエス・春来たる死神‐   (角川ビーンズ文庫)
GOSICKs   ‐ゴシックエス・春来たる死神‐   (角川ビーンズ文庫)
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シャーロック・ホームズの決闘 伊吹秀明

 モリアーティ教授との戦いでホームズの命を救った謎の武術「バリツ」を軸に展開されるホームズのパロディ作品。
 「彼らが生きていた時代」のイギリス社会の雰囲気を見事につかみ、同時代人を巧みに配置して興味深い5編をつくっている。

 やはりいちばんの見所といえるのは、バリツを使ったホームズの格闘シーンで、それまでの推理からちゃんと繋がりつつも、激しい肉体技の応酬をみせてくれた。観戦者が医者であるワトソン博士であることも、格闘描写を緊迫したものにするのに一役買っていたと思う。
 医者を傍観者にした原作の炯眼を、繰り返し見せつけられた気分になる。

 登場人物として大脱出王のフーディーニやドーバー海峡の向こうのあの人物も出てくるのだが、個人的にいちばん興味深いと思った話は盛んだった古生物学にからんだ一編「ピルトダウンの怪人」だった。ネタにされている事件にも聞き覚えがあり、日本における神の右手事件も連想させるものがある。
 そして、負けたらただじゃ済まない相手だけに異「種」格闘戦が手に汗を握らせた。最後の話は「あんたら勝敗をバトルで付けていいの?」とついつい突っ込んでしまうところがあり、熱戦でありながら、どこか滑稽な雰囲気が漂ってしまっている。
 パロディなのだから、ギャグに振れるのは至って自然なことか……。

伊吹秀明作品感想記事一覧

シャーロック・ホームズの決闘
シャーロック・ホームズの決闘
カテゴリ:ミステリー | 21:38 | comments(0) | trackbacks(0)

注文の多いパズル 夏の雪に溶けたパスワード 雅孝司

 箱田真紀先生の挿絵だったので。いろいろと続編への展開を残しているけれど、それが理由で出せなかったのだとしたら原作者の人も可哀想だ。ライトノベルで挿絵は大事だからなぁ…。

 内容は知英大学にある東西南北4つの付属高校から集まったミステリー好きの4人組が屋内スキー場で遭遇した不思議な現象の謎を追っていくというもの。メーリングリストを使った情報交換やパズルの出題など、独特の雰囲気を醸し出す趣向が凝らされている。
 まぁ、少年探偵団ものの弱点の常としてキャラクターを活かしきるのが難しく、紹介だけで手間取って事件が追えなくなってしまえば本末転倒という問題があり、回避しきれていない。それだけのリスクを冒す代償として続きを期待していたと思われるのだが……。

 事件が集団失踪で警察沙汰にもされていない、というのは地味であったものの理由やコストの問題から競争相手が払い落されていき道楽で首を突っ込んでいるパズラー探偵団だけが残されたのは納得がいく展開だった。
 あまり興味がない分野とはいえ、掘り返してみれば意外なおおごとが眠っていたわけでもあるし。

 肝心のトリックは金田一の少年の事件簿でも使われていたネタをミスリードに活かしており、パズルらしい解法が二転三転する展開が悪くなかった。ただ、あのトリックも有害性が皆無ではないような……屋内スキー場なのに雪目になる観客とかでなかったのだろうか?
 まぁ、一瞬の仕掛けだから大した問題はないか。
 それよりも長期間浴び続けることになる人々が心配だ。下手な日焼けは「商品価値」さえ損なうっていうのに。
 まぁ、高野社長の転んでもただでは起きない強かさが感じられるから良し。探偵団よりもキャラが立っている女傑だったと思う。

夏の雪に溶けたパスワード―注文の多いパズル (富士見ミステリー文庫)
夏の雪に溶けたパスワード―注文の多いパズル (富士見ミステリー文庫)
雅 孝司

夢見が丘:同じく箱田真紀先生が挿絵を担当されている作品
カテゴリ:ミステリー | 18:30 | comments(0) | trackbacks(0)

スパイラル完全解説本 LIFE IS SPIRAL 城平京

 スパイラル完全解説本を名乗るなら全話の解説しろよ…てめッ、コノ!と当時は完結していなかったのに理不尽なツッコミを入れてしまいたくなる。水野先生のかかわっている部分は装丁周辺だけで、内容はほとんどが城平先生の手によるものだ。

 メインとなるのがストーリーにそった解説というか苦労談で、作品の経緯や方向性を知っていく事ができる。城平先生の捻くれた「ありがちなことはしなくない。でも自分の非才も認めるから戦場を狂ったところに設定する」態度もみえてくる。何より文体がおちゃらけている。
 作者本人も寄稿している人も物理的なナンセンスは承知していて、それを理解した上で楽しませる方法を探るのに熱心だが、やはり浅月以降の「政治的判断」は気になってしまった。これと担当編集者の「動きのある推理を」という要望のふたつが、ストーリーに及ぼした影響は甚大といえるのではないか。それに加えてカノン戦以降の「ゲームによる戦いではなく、戦いをゲーム化させる」方針が勢いの減速をもたらしてしまった。
 文章で言われる狙いはとっても素晴らしいと思えるのだけれど、少々割り切りがあったほうが良かったんじゃないかな。勝負そのものはゲームを主体にして、それらを伏線に一つ上のレベルの戦いを組み立てる形式にできれていれば面白かったかもしれない(まったく読者は気楽に難しいことをいう)。

 あと、アライヴの解説で本編のキャラクターはメインになりませんと宣言しているのが……あれあれ?今のアライヴをみるとブレードチルドレンの独壇場なんですけど……ラブコメがレーゾンデートルという方針のほうは中心キャラが変わっても守られているか。
 まぁ、作者贔屓のまどかおねーさんをゴリ押ししているわけじゃないのは偉いと思うよ。あまり真剣に需要に応えようとしすぎるのも作品にとって不健康なのかもしれないな。


 どうでもいい余談だが、付属ラジオドラマのひよのの語りが絶品。「いえ、私的にはいいんですけどね。すごくいいんですけどね」の言い回しには魅かれるものがある。


続・LIFE IS SPIRAL:原作者による50話までの解説

まとめ考察記事
スパイラル〜推理のプリンキピア〜:360度の方針転換

スパイラル完全解説本 LIFE IS SPIRAL
スパイラル完全解説本 LIFE IS SPIRAL
城平 京,水野 英多
カテゴリ:ミステリー | 12:08 | comments(0) | trackbacks(0)

ミステリ・アンソロジー機〔消議紊蓮△海海砲い

神影荘奇談:太田忠司
 伝奇的な雰囲気を狙い過ぎていて妙な具合になっているといわざるをえない。けっきょく被害者と同じ轍を作者が踏んでいるようにみえた。まぁ、事件というよりヨタ話の一種として聞くには良さそうな話だ。
 配役も多すぎて微妙だが、それは世界観の必要性からか。

Aは安楽椅子のA
 とても奇抜だった。なるほど安楽椅子探偵、なるほど。隠し場所はおおよそ想像がついたものの屈折率を利用したトリックではないかと無駄に深読みしてしまった。
 作品を成り立たせる条件はかなり特殊だがそれだけに独特の空間を構築する事に成功している。オチは読めた。

時計じかけの小鳥
 たった一冊の文庫から開けていく世界の広いこと、きりのないこと。そして少女を大人へ成長させる切っ掛けにもなったというオチが美しい。
 ともかくひたすら考えを連ねていって確からしいことに到達する流れには驚嘆させられた。書店という空間もいい。

納豆殺人事件
 納豆が絡んでいい大人の刑事たちを驚かせまくるのが楽しかった。固定観念にこりかたまることの滑稽さと危険さを同時に伝えている。そもそもの前提の置きかたを変えてしまえば、状況はまったく変わってみえてくるわけだ。
 問題のセリフには違和感を覚えていたのだが、推理しないミステリー読者でかたじけない……あと幼女が可愛かった。ようじょようじょ!

名探偵は、ここにいる―ミステリ・アンソロジー〈1〉
名探偵は、ここにいる―ミステリ・アンソロジー〈1〉
太田 忠司,鯨 統一郎,西澤 保彦,愛川 晶
カテゴリ:ミステリー | 00:26 | comments(0) | trackbacks(0)

マニラ・サンクション 谷甲州

 勢いで刑事をやめた中年絡みの男がアジア各国に飛び出していって泥臭い人間のしがらみに巻き込まれる。なんとも目の据わった一人称と肌に伝わる現地描写が魅力的なハードボイルド。
 サブタイトルの語呂がとても良く、それを挙げたいがためにバラして感想を書いてみる。

・マニラ・サンクション
 ずいぶん派手に戦場にしたせいもあって日本人が必ずしも好かれているとは言えない様子。その辺りの知識はルソン島 戦場の記録で何となく印象がついていた。同時に売春絡みの問題もあるが、ヤクザに対する現地人の認識がなんだか滑稽だった。
 いちばん恐ろしいのは頭の悪い女だと思う。

・ホンコン・コンフィデンシャル
 育ちの良い人間に限って歪みはじめると留まるところがない。元から薄汚れている人間は芯では素直さを保っていたりする。そういうことか。
 問題そのものよりも口八丁で状況をまとめあげた武田の手腕に感心した。

・エンジェルシティ・バンコック
 タクシーの運ちゃんが問題の人物かと思ったが流石にそれはなかった。元刑事がそんな簡単な見逃しをするわけもないか。日本人はそっちのけでバンコックの界隈に愛着が湧いてしまった話。
 家族がひたすらマイナス要因なんて悲しいね――それでも活力を失わないおっちゃんに惚れた。

・ジャカルタ・ジャッジメント
 ウスマン氏の日本人への親切心は望郷の念と重なった部分もあるのだろう。はじめからお嬢さんが同行してくれれば簡単に片付いたのだが……それじゃあ話にならない。
 武田が軍人相手にビビったり、妻子もちゆえの所帯じみた感覚で行動するところがいちいち良かった。それでもやることが刑事の仕事に関連してくると度胸も据わるのだから不思議な男だ。
 犯罪者の大量殺害は日本では決して真似できないが、発展途上国でやる分には有効性もあることを認めざるをえない。フィリピンで似たようなことをしている市長もいるらしい。

・ソウルフル・ソウル
 北との緊張関係からちょっと毛色の違ってくる話。緊張感に満ちた国際関係の問題も気宇壮大でよろしい。振り回されっぱなしで完全に道化を演じることになった武田がちょっと憐れだったが、なんのことはない。こいつも最後にはのろけてやがる。
 つまり、いちばんの道化は読者の私か……けっ。

マニラ・サンクション
谷 甲州
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