名画で読み解く ブルボン王朝12の物語 中野京子

「バスティーユの司令官が殺害され、首が槍先に刺されてパリ中にさらされております」
「それは反乱ではないか」
「いいえ、陛下、革命です」
 ツヴァイク「マリー・アントワネット」における臣下とルイ16世の会話

 悲劇と喜劇に包まれたフランス、ブルボン王朝の物語。最初にフルカラーの絵画が紹介されて、それをとっかかりに話が展開していく。ちょっとだけスペイン・ブルボン王朝の出番もあった。
「鈍感で、何もせず、嘘つきで、卑しくて、腹黒く、(中略)読まず、書かず、考えず、要するに無です」スペイン王フェルナンド7世について(最初の王妃が実母向けの手紙で)
 という感じだったが……。

 スペインより豊かなフランスのブルボン王朝本家が滅びたのは皮肉な話だ。先進的な土地だったゆえに歴史の流れも早く王家に襲いかかったと言えるかもしれない。ただし、農業は遅れているとイギリスの農学者に言われたエピソードも本書には出てくる。

 なんといっても太陽王ルイ14世の与える印象が強い。自分以外には運営できないシステムを構築してしまって後継者の首を絞める残念な独裁者の一人でもあるが。もっとも子供どころか孫にまで自分より早くに死なれて思い通りの引継ができなかった点は同情する。
 ルイ15世の女狂い、ルイ16世の読書家ぶりも「個性」となって物語を彩ってくれた。きっと同時代人には堪えられないけどな。

関連書評
フランス王朝史1〜カペー朝 佐藤賢一
カロリング帝国の統一と分割「ニタルトの歴史四巻」

名画で読み解く ブルボン王朝 12の物語 (光文社新書)
名画で読み解く ブルボン王朝 12の物語 (光文社新書)
カテゴリ:歴史 | 08:00 | comments(0) | trackbacks(0)

近代中央アジアの群像〜革命の世代の軌跡 小松久男

 世界史リブレット人080。
 本文の上に表示される人物略歴の生没年が怖すぎる。だいたいスターリン時代に粛清されて死んでいる人物が延々と連なっていて「革命の世代」が経験した過酷な軌跡がよくわかる。
 中央アジアのイスラム教徒にかぎらず、ロシア人の異民族文化研究者も容赦のない弾圧を受けている。
 知識人層の排除による支配体制という意味でも、ソビエトは現代中国の先を行っていたのだな……酷い政策にさらされた立場の人々が残した経験は、現代においても貴重である。

 革命期ロシアの状況は猫の目みたいに激しく変化していて、自分がこの渦中にあったら、正しい判断ができる自信がまったく持てなかった。最善の判断をしたと思われる人々すら、スターリン時代になってしまえば粛清の対象なのだから……。

 アタチュルクのライバルだったエンヴィル・パシャが人生の最後においてロシア内部のテュルク民族の闘争に関わっていたことが分かって、ロシアとトルコの歴史的な距離感が少しだけつかめた。
 4人の主人公で一人だけ生き残ったヴァリドフも最初の亡命先はトルコだったわけで、やはり黒海を挟んで向き合っている両国は縁が深い。

関連書評
激動の中のイスラーム〜中央アジア近現代史 小松久男
テュルク族の世界〜シベリアからイスタンブールまで 廣瀬徹也

近代中央アジアの群像: 革命の世代の軌跡 (世界史リブレット人)
近代中央アジアの群像: 革命の世代の軌跡 (世界史リブレット人)
カテゴリ:歴史 | 20:37 | comments(0) | trackbacks(0)

帝国主義と世界の一体化 木谷勤 世界史リブレット40

 中江兆民>福沢諭吉
 中江兆民を江兆民と読んで中国人に思ってしまった。アジア人への欧米人の差別を批判した彼にくらべて、脱亜入欧の福沢諭吉は差別構造を壊せない。天は人の上に人を作らず……。

 本書は、帝国主義に関する歴史的な議論を追いかけて、まとめている。ろくでもない研究と主張をした学者の名前が容赦なくあがってきて、後世の審判が機能していると感じる。
 いくら民主主義よりの帝国主義だったと主張しても、イギリスの学者がろくでもないんじゃ視線は厳しくなる。皇帝ヴィルヘルムの黄禍論ももちろんひどいが。

 第一次世界大戦でイギリスとフランスは植民地から大量の動員と搾取を行っていて、後々まで非常に大きな影響を及ぼす結果を招いている。第一次世界大戦によってアメリカの黒人兵士が急速に増えたことも興味深かった。
 差別はしつつも、白人だけが血を流しまくる覚悟はなかったんだな。

関連書評
アフリカの植民地化と抵抗運動 岡倉登志
韓国歴史地図 韓国教員大学歴史教育科・著 吉田光男・監訳
ンクルマ〜アフリカ統一の夢 砂野幸稔

帝国主義と世界の一体化 (世界史リブレット)
帝国主義と世界の一体化 (世界史リブレット)
カテゴリ:歴史 | 12:20 | comments(0) | trackbacks(0)

アトラス世界航空戦史 石津朋之+千々和泰明 監訳

 アレグザンダー・スワンストン&マルコム・スワンストン著。
 航空戦力の面から世界の戦争の歴史をえがいた地図集。イタリアがオスマン帝国のリビアとドデカネス諸島に侵攻したイタリア・トルコ戦争からはじまって、アフガニスタンにおける戦争までが解説されている。残念ながら日露戦争やシリア紛争はない。フィンランド戦争はあっても冬戦争はない。
 第二次世界大戦の部分は流石に長くて、あとに朝鮮戦争やベトナム戦争がなければ第二次世界大戦の航空戦をえがいた本と記憶しかねなかった。

 説明文はかなり怪しく表と本文に出てくる生産数が合わないことは普通だし、ガダルカナルで日本のブルドーザーが鹵獲されて海兵隊に利用されたなどの?な説明もあった。
 頭を空っぽにして読んでいる分にはいろいろな戦争や作戦が適度に要約されていて愉しいのだが、まじめに歴史を勉強しようとするには不適切な本かもしれない。翻訳者も文章のおかしさを補い切れていない。あるいは増幅している。

 第一次世界大戦の空においてはフランスの航空機が慎重で、イギリスの航空機が攻撃にこだわりすぎて損害を出していたことは意外だった。
 本土を占領されていたのに第二次世界大戦後にフランスの航空産業が機能しているのは……ナチスドイツのために生産がつづけられていたからか。
 連合国と枢軸国の航空機生産数比較が圧倒的な差で、後出しじゃんけん視点では戦争をはじめる気になった理由がわからなくなる。カナダの方がイタリアよりも航空機を製造している事実……最初はイケイケ、後半は死守命令で部下に大量の犠牲を強いるヒトラーの行動はブラック企業の社長によく似ているなぁ(逆か?)。

関連書評
史上最大にして最後の機甲戦〜湾岸戦争大戦車戦・上 河津幸英
第一次世界大戦の歴史大図鑑 H・P・ウィルモット
図説 第一次世界大戦・下 1916-18〜総力戦と新兵器

アトラス世界航空戦史
アトラス世界航空戦史
カテゴリ:歴史 | 23:17 | comments(0) | trackbacks(0)

世界から消えた50の国1840-1975 ビョルン・ベルゲ 角敦子

「誰かを日陰に追いやるのは不本意である。ただわれわれも日の当たる場所を必要としている」ベルンハルト・フォン・ビューロー(ドイツの外相)1897年12月

 切手に痕跡をのこす歴史のあだ花。かつて存在した50の国というか切手を発行した地域を描いた一冊。これら国家の出現にはエキセントリックな人物が関わっていることが多く、変人列伝としての読み方もできた。
 日本周辺では満州国とアメリカ統治下の琉球があげられている。
 満州国の主なエピソードは731部隊の人体実験だった……五族共和をうたっている裏での激しいコントラストを表現するのに向いていたのだろうな。
 琉球はいまだに基地負担が重くのしかかっていることが紹介されており、形だけでも切手を発行していた時代の方がよかったなどと単純化はされていない。
 著者はノルウェー人である関係から、北欧関係の泡沫国家は取り上げられがちに感じた。

 イギリスは流石というかロクでもないことを盛んにしかけまくっている。個人プレーの変態国家建設を国家的組織的におこなっている変人国家だ。
 でもヘジャズはイギリスが計画した通り残っていた方が、今よりもマシだったんじゃないかと、つい思ってしまった。戦間期のアラビア半島は戦国時代だからなぁ。

関連書評
中国史のなかの諸民族 川本芳昭 世界史リブレット61
学研第2次大戦欧州戦史シリーズ1〜ポーランド電撃戦

世界から消えた50の国 1840-1975年
世界から消えた50の国 1840-1975年
カテゴリ:歴史 | 23:35 | comments(0) | trackbacks(0)

水中考古学〜クレオパトラ宮殿から元寇船、タイタニックまで

 井上たかひこ著
 水中考古学の第一人者バス博士に学んだ著者による水中考古学の入門書。おそらく日本における水中考古学の第一人者なのであろう。
 タイトルにある事例も興味深いが、日本周辺に沈んだ開陽やエルトゥールル号、黒船ハーマン号の情報にも触れている。幕末から明治にかけての船ばかり名前があがっていても、もっと前から多くの船が日本周辺で沈んでいたはずであり、水中考古学の進歩を期待せずにはいられない。
 地中海などより水深が深いことがネックになっているのかなぁ。日本海はどうだっけ?

 船に積まれていた財宝の情報を知ると、その荷を受け取れなかった人々の悲しみを想像してしまう。破滅した人も一人や二人ではなかったはず(おそらく乗員はほとんど亡くなっているが)。
 危険を知りつつ海に挑戦した人々の想いも、沈没船からは感じられた。

 保存に苦労しながら開陽から文書が回収されて読まれているそうなので、もっと古い時代の文献についても水中からの復活を願ってしまった。それこそ日本は絶対に大量の文献を取り寄せているのだが!?

関連書評
琵琶湖に眠る縄文文化〜粟津湖底遺跡 瀬口眞司
大西洋に眠る戦艦ビスマルク ナショナルジオグラフィックDVD
豪華客船タイタニックの悲劇 ナショナルジオグラフィックDVD

水中考古学 - クレオパトラ宮殿から元寇船、タイタニックまで (中公新書)
水中考古学 - クレオパトラ宮殿から元寇船、タイタニックまで (中公新書)
カテゴリ:歴史 | 20:18 | comments(0) | trackbacks(0)

スキタイ 騎馬遊牧国家の歴史と考古 雪嶋宏一

 ヘロドトスがペルシアの侵攻をはねのけた民族として注目したことで歴史に名を残したスキタイ。その歴史の謎を史料の精査と発掘調査の結果をあわせて、少しずつ解き明かしていく一冊。
 ロシアにおける考古学調査が重要なボリュームを占めていて新鮮だ。ただし、スキタイはウクライナの領土にも関わっているから、近年は研究が阻害されることもあるらしい……。

 スキタイの王族は名前からイラン系と考えられるそうで、それだけでも東から西へのベルトコンベアーで単純化してイメージしてしまう遊牧民の動きに変化が出てきた。
 キンメリオイを追ったスキタイもサウロマタイに追われて弱小勢力になってしまうのは歴史の流れであろうか。クリミア半島で踏ん張っていた小スキティア時代も興味深かった。
 ビザンチオン帝国やハン国しかりで、クリミア半島はいろんな勢力の最後の拠り所になりやすい地理的要素をもっているらしい。

 やはり盗掘による遺跡の攪乱が目立つ点は残念である。シベリア鉄道に乗った金ハンターどもめ……黄鉄鉱でも拾ってろ!

関連書評
興亡の世界史02 スキタイと匈奴 遊牧の文明 林俊雄
歴史・中 ヘロドトス/松平千秋・訳
遊牧国家の誕生〜世界史リブレット98 林俊雄

スキタイ騎馬遊牧国家の歴史と考古 (ユーラシア考古学選書)
スキタイ騎馬遊牧国家の歴史と考古 (ユーラシア考古学選書)
カテゴリ:歴史 | 19:45 | comments(0) | trackbacks(0)

オスマン帝国の近代と海軍 小松香織

 世界史リブレット79
 地中海の覇者から、ボスポラス海峡を塞いでくれればいい存在まで。
 オスマン帝国の衰退にあわせて力を失っていったオスマン帝国海軍の物語。ドイツの軍艦を購入したことが、オスマン帝国を第一次世界大戦に引き込んだところもあるので、最後は軍事が政治を優先させて道を誤らせてしまった感じがある。

 いつのまにか海賊の採用が中心じゃなくなったオスマン海軍にとって「ルーム」と呼ばれるギリシア系住民の雇用が非常に大きな意味をもっており、ギリシアの独立は致命的な影響を与えていた。
 オスマン陸軍にとって騎兵の供給源であったクリミア・ハン国が脱落したことで深刻な影響があった現象に似ている。他民族国家の有利を享受していた国が、民族主義の高揚によって受けるダメージの深刻さが伺われる。

 古代ローマ人じゃないけれど、餅は餅屋に任せっぱなしで、海岸に進出したから漁業や通商にも挑戦してみるとはならないのだなぁ。
 深い部分でのアイデンティティの問題が関わっていそうだ。まぁ、どうしても自分たちでやるしかないとなればやれるのだが……。

関連書評
興亡の世界史10〜オスマン帝国500年の平和 林佳代子
世界の戦争3〜イスラムの戦争 牟田口義郎・編
オスマン帝国衰亡史 アラン・パーマー/白須英子

オスマン帝国の近代と海軍 (世界史リブレット)
オスマン帝国の近代と海軍 (世界史リブレット)
カテゴリ:歴史 | 23:21 | comments(0) | trackbacks(0)

日本語の歴史1〜古代から平安時代 倉島節尚・こどもくらぶ

 琉球語の抹殺ぶりが怖い。アイヌ語は孤立語として取り上げていながら、日本語には他にまったく類例がない言語だとしている……どうして、そういう書き方になった?
 琉球独自の漢字受容があったことが想像できるだけに実際のところが気になった。

 紹介されている昔の文章で、竹取物語の方が源氏物語より原文が読みやすい感じで、ちょっと不思議。宮中の狭い連中がつかう言葉に偏っているせいなのかもしれない。
 日本語は話し言葉としては学びやすいが、読み書きは難しいという位置づけも面白かった。たしかに漢字の読みは難しい。呉音に漢音、唐音と音読みだけでも三種類が存在し得るとか……。
 あと、大テンの心がおちんちんの絵に見えてしまって……ある意味で覚えやすかった。

見て読んでよくわかる!  日本語の歴史1: 古代から平安時代 書きのこされた古代の日本語 (単行本)
見て読んでよくわかる! 日本語の歴史1: 古代から平安時代 書きのこされた古代の日本語 (単行本)
カテゴリ:歴史 | 20:45 | comments(0) | trackbacks(0)

ギリシャ・ローマの戦争 ハリー・サイドボトム

 吉村忠典・澤田典子 訳
 欧米で話題になっている「戦争の西洋的流儀」なる学説に対して、著者が独自の視点から検討をくわえた本。ハリソン氏の「戦争の西洋的流儀」については最後に訳者が解説してくれている。
 キーガン氏の「一般兵士の立場からみた戦場」の研究なども取り入れて、古代人の心性と世界観に迫っている、らしい。

 それぞれの章で興味深い議論が展開されていたが、慎重ゆえに強い印象には残らない。「戦争の西洋的流儀」ドグマほど乱暴でないための弱点かもしれない。
 まぁ、完全に対立する意見ではなくて、実体よりもイデオロギーとして、「戦争の西洋的流儀」はあったというのが著者の意見であるらしい。

 エブロネース族とローマ軍の戦いは、経過説明でありながら生き生きとしていて、アドレナリンを分泌させるものだった。
 カエサルによる指揮官の資質の考え方が詳細に分析されていて興味深かった。将軍に求められる役割は時代によっても地域によっても変化して、単純ではない。
 文句のない結果を出し続ければ価値観そのものを変化させることも可能であるから、なおさらだ。


 「戦争の西洋的流儀」のハリソン氏については、後から現代の政治についての余計な意見を述べたことで自分の成果すら台無しにしている感じがしないでもなかった。
 彼がブドウ農家をやっているカリフォルニアは、古代ギリシャ・ローマと同じ地中海性気候でもあるのだな。

関連書評
古代ギリシア重装歩兵の戦術 長田龍太
会戦事典 古代ギリシア人の戦争 市川定春
戦闘技術の歴史1〜古代編3000BC-AD500

ギリシャ・ローマの戦争 (〈1冊でわかる〉シリーズ)
ギリシャ・ローマの戦争 (〈1冊でわかる〉シリーズ)
カテゴリ:歴史 | 00:05 | comments(0) | trackbacks(0)
| 1/78PAGES | >>