海賊の世界史 桃井治郎

 古代ギリシアから大航海時代、現代ソマリアまで。
 海賊の評価は時代によって大きく変化していく。ある意味で時代の写し鏡としての機能をもっている海賊の歴史をあつかった本。著者も断っていたがヨーロッパの海賊ばかりであり、東アジアの海賊などは触れられていない。それぞれの世情で比較ができたら面白そうなのだが。

 最終的に海賊はフランスが植民地支配を開始する大義名分に利用されてしまった。こころおきなく叩ける「悪」は政治家にとって便利だったんだな。
 海賊を廃止しろと言われた北アフリカ諸国の反応は筋が通っていたのだが……フランスの侵攻は海賊対策を欧州諸国の議題にしたアレクサンデルロシア皇帝の考えからも外れていそうだった。
 虎狼のような欧州諸国に先祖代々の慣例だからと隙をみせてはやられてしまう。

 逆に現代のソマリアは誰も欲しがらないし、国際的に領土に組み込むことができないから、海賊がいてもそれを理由に侵略される事態にはならないのか――エチオピアは一時的に攻め込んだけど。

海賊の世界史 - 古代ギリシアから大航海時代、現代ソマリアまで (中公新書)
海賊の世界史 - 古代ギリシアから大航海時代、現代ソマリアまで (中公新書)
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イギリス断片図鑑〜歴史は細部に宿る エディング編著

 人物・出来事・建造物の三種類からイギリスを紹介する図鑑。
 基本的に歴史よりの内容になっている。最後にブレグジットが来たことには驚いた。ド・ゴールに拒絶され続けたままだった方がイギリス人にとっても幸せだったかもしれない。

 ヘンリー8世の酷い行為の影響が、断片の端々に現れていて、直接人物を描写されるよりも印象が悪くなった。肖像画と違うからチェンジは酷い。よく平和裏に受け入れたなぁ――実は花嫁の方も同じ理由でチェンジと思っていた?

 ハチミツ色の建物がならぶバイブリー村の景色がフィクションの中みたいな美しさ。
 これは一度、散策してみたい。
 きっと映画撮影の舞台に何度もなっているに違いない。

世界とつながる イギリス断片図鑑 歴史は細部に宿る (A book of the knowledge of the fragmentary history to know the United Kingdom more)
世界とつながる イギリス断片図鑑 歴史は細部に宿る (A book of the knowledge of the fragmentary history to know the United Kingdom more)
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渤海国とは何か 古畑徹

 謎多き渤海の歴史。それゆえにロマンをもって語られたり、政治的背景に影響を受けやすい渤海の実像について、著者なりの視点から迫ろうとした本。
 情報が少ないと言っても中国と日本にそれなりの情報は残っていて、時期によっては流れを追うことができる。韓国に情報が乏しいのは基本的に新羅とは対立関係だったからかなぁ。
 せめて北朝鮮の遺跡を発掘調査できていれば……。

 あの時代を新羅と渤海の南北時代と考える北朝鮮・韓国時代の人々の感覚が興味深かった。どうしても現代を過去に投影してしまうところがあって、避けられないならそれも真実の一面を写す可能性があると利用してみるのも手だろうか。

 唐と渤海の間に紛争が発生していて、沿岸地帯を舞台にした意外と激しい戦闘があったのも興味深かった。
 当時の日本は島国の自国にとっても貴重な戦訓になると思って、調べてくれなかったのかなぁ。

 渤海が北部まっかつに対して行った政策は、威信財を使った日本の古墳時代でもおなじみの政策にみえた。日本も小中華ぶるため、それなりに支出をしていたんだな。
 祝賀のあいさつに出席させるため、無理な時期に渡海させて難破のリスクを冒させていた点は、あらためられてよかった。一方、唐は日本に同じ負担を掛け続けたなら、それも遣唐使廃止の理由につながったのかな?

関連書評
東アジアの中世城郭〜女真の山城と平城 臼杵勲
東アジア世界と古代の日本 石井正敏

渤海国とは何か (歴史文化ライブラリー)
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図説 古代ギリシアの暮らし 高畠純夫・齋藤貴弘・竹内一博

 アテナイを代表として、古代ギリシアの暮らしを様々な視点から描いた意欲作。当時の人々の日常生活について、分かっていることは多いとも、少ないとも思える。
 裁判の記録が貴重な情報源になっている点は古代メソポタミアと同じく皮肉である。そういえば中国の西域から出て来た木簡でも、もっとも長い文は裁判に関わることだったなぁ。そもそも文字の起源と裁判も結びつきが強そう。

 図説の本だけに、挿入されている図がとても充実していて、そこを眺めているだけでも楽しめる。
 娼婦がおしっこしている壷絵なんて代物まで、あるのはご愛敬?
 壷絵の「ネガ」と「ポジ」が、きれいにタイミングを揃えて入れ替わったため、年代特定の助けになっている点が興味深かった。流行りじゃなくなった壷は一気に使われなくなったのかなぁ。今に多く残っているからには積極的な破壊はされなかったのだろうけど、古代ギリシア人の流行に対する考え方を想像させられた。
 流行といえばファッションや女性の化粧についても言及があった。
 運動場で奴隷は裸になれない。裸になることが自由をあらわす「権利」みたいな面がある点もおもしろかった。

関連書評
世界史リブレット94〜東地中海世界のなかの古代ギリシア 岡田泰介
クセノポーンの馬術・ポダイスキー ヨーロッパ馬術小史 荒木雄豪・編
目で見る世界の古代文明シリーズ2〜古代ギリシア文明 クリストファ・ファッグ

図説 古代ギリシアの暮らし (ふくろうの本/世界の歴史)
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バビロン ベアトリス・アンドレ=サルヴィニ著 斎藤かぐみ 訳

 古代メソポタミアの中心だった「神の門」バビロンに関する文庫。イラク戦争による遺跡の破壊が懸念される中、発表翻訳されたものらしい。とりあえず状況は治まったが、甚大な被害をうけた遺跡も出てしまった。

 個人的にバビロンに関連してはハンムラビ王への関心が強かったのだけど、残した足跡の点ではネブガドネツァル2世の存在も大きいことが分かった。
 新しい時代に大規模な事業をおこしたので当然だが……新しい事業でも基礎は昔の基準にしたがって造っているところはメソポタミアらしい。おかげでネブガドネツァルより前に破壊された遺跡でも概要を知ることができる?紛らわしい部分もありそうだが。

 戦いの女神イシュタルの門が、いちばん敵が到来しそうな方向に造られているのは分かりやすい。門を女性器に、市内を子宮に例えたと想像するのは飛躍しすぎかな。男性の神にあてられた門もあるし。
 楔型文字に書かれた生々しいまでの当時の文章がフランス語からの重訳ながら収録されている点も魅力的だった。古代メソポタミア人の宗教観・世界観が直接的に伝わってくる。

関連書評
バビロニア都市民の生活 S.ダリー著/大津忠彦・下釜和也 訳
世界史人リブレット001ハンムラビ王〜法典の制定者 中田一郎

バビロン (文庫クセジュ)
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インカ帝国の虚像と実像 染田秀藤 講談社選書メチエ129

 征服者たちが残した手記や報告書の多くはインカ帝国を偉大な帝国としてヨーロッパ社会に伝えていたが、それはインカ帝国の実像を正確に描いたものなのだろうか。
 そんな疑問への答えがしっかり考察されている一冊。

 「クロニカ」の新しいものは比較的最近にも発見・出版されていて、目新しい情報を伝えてくれている。スペインとペルーの両方の研究者が盛んに活動していることも興味深い。
 スペイン語を通じて議論が捗っていることであろう(同時代の出版産業の関係でイタリア語の能力もあった方がいいようだ)。

 問題となる情報の不確実性については自分たちの価値観でインカ帝国をみたヨーロッパ人のバイアスのみならず、ヨーロッパ人の取材をうけたインディオのバイアスがあることに衝撃を受けた。
 彼らは一枚岩とはまったく言えず、所属する集団に応じてもちあげる皇帝が違っていたらしい。インカ帝国内部の抗争を利用して勝利したわりに、クロニスタたちはそこに気づいていなかったのかな。違和感があっても、口述にたよらざるをえない点で限界があったのかもしれない。

 著者たちの経歴が簡単に紹介されることで、レコンキスタドールの簡単な伝記としても楽しめた。動機はともかく根性あるわ……。

関連書評
インカ帝国史 シエサ・デ・レオン著 増田義郎 訳
インカ帝国〜滅亡の真実 ナショナルジオグラフィックDVD
大陸別世界歴史地図4〜南アメリカ大陸歴史地図

インカ帝国の虚像と実像 (講談社選書メチエ)
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名画で読み解く ブルボン王朝12の物語 中野京子

「バスティーユの司令官が殺害され、首が槍先に刺されてパリ中にさらされております」
「それは反乱ではないか」
「いいえ、陛下、革命です」
 ツヴァイク「マリー・アントワネット」における臣下とルイ16世の会話

 悲劇と喜劇に包まれたフランス、ブルボン王朝の物語。最初にフルカラーの絵画が紹介されて、それをとっかかりに話が展開していく。ちょっとだけスペイン・ブルボン王朝の出番もあった。
「鈍感で、何もせず、嘘つきで、卑しくて、腹黒く、(中略)読まず、書かず、考えず、要するに無です」スペイン王フェルナンド7世について(最初の王妃が実母向けの手紙で)
 という感じだったが……。

 スペインより豊かなフランスのブルボン王朝本家が滅びたのは皮肉な話だ。先進的な土地だったゆえに歴史の流れも早く王家に襲いかかったと言えるかもしれない。ただし、農業は遅れているとイギリスの農学者に言われたエピソードも本書には出てくる。

 なんといっても太陽王ルイ14世の与える印象が強い。自分以外には運営できないシステムを構築してしまって後継者の首を絞める残念な独裁者の一人でもあるが。もっとも子供どころか孫にまで自分より早くに死なれて思い通りの引継ができなかった点は同情する。
 ルイ15世の女狂い、ルイ16世の読書家ぶりも「個性」となって物語を彩ってくれた。きっと同時代人には堪えられないけどな。

関連書評
フランス王朝史1〜カペー朝 佐藤賢一
カロリング帝国の統一と分割「ニタルトの歴史四巻」

名画で読み解く ブルボン王朝 12の物語 (光文社新書)
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近代中央アジアの群像〜革命の世代の軌跡 小松久男

 世界史リブレット人080。
 本文の上に表示される人物略歴の生没年が怖すぎる。だいたいスターリン時代に粛清されて死んでいる人物が延々と連なっていて「革命の世代」が経験した過酷な軌跡がよくわかる。
 中央アジアのイスラム教徒にかぎらず、ロシア人の異民族文化研究者も容赦のない弾圧を受けている。
 知識人層の排除による支配体制という意味でも、ソビエトは現代中国の先を行っていたのだな……酷い政策にさらされた立場の人々が残した経験は、現代においても貴重である。

 革命期ロシアの状況は猫の目みたいに激しく変化していて、自分がこの渦中にあったら、正しい判断ができる自信がまったく持てなかった。最善の判断をしたと思われる人々すら、スターリン時代になってしまえば粛清の対象なのだから……。

 アタチュルクのライバルだったエンヴィル・パシャが人生の最後においてロシア内部のテュルク民族の闘争に関わっていたことが分かって、ロシアとトルコの歴史的な距離感が少しだけつかめた。
 4人の主人公で一人だけ生き残ったヴァリドフも最初の亡命先はトルコだったわけで、やはり黒海を挟んで向き合っている両国は縁が深い。

関連書評
激動の中のイスラーム〜中央アジア近現代史 小松久男
テュルク族の世界〜シベリアからイスタンブールまで 廣瀬徹也

近代中央アジアの群像: 革命の世代の軌跡 (世界史リブレット人)
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カテゴリ:歴史 | 20:37 | comments(0) | trackbacks(0)

帝国主義と世界の一体化 木谷勤 世界史リブレット40

 中江兆民>福沢諭吉
 中江兆民を江兆民と読んで中国人に思ってしまった。アジア人への欧米人の差別を批判した彼にくらべて、脱亜入欧の福沢諭吉は差別構造を壊せない。天は人の上に人を作らず……。

 本書は、帝国主義に関する歴史的な議論を追いかけて、まとめている。ろくでもない研究と主張をした学者の名前が容赦なくあがってきて、後世の審判が機能していると感じる。
 いくら民主主義よりの帝国主義だったと主張しても、イギリスの学者がろくでもないんじゃ視線は厳しくなる。皇帝ヴィルヘルムの黄禍論ももちろんひどいが。

 第一次世界大戦でイギリスとフランスは植民地から大量の動員と搾取を行っていて、後々まで非常に大きな影響を及ぼす結果を招いている。第一次世界大戦によってアメリカの黒人兵士が急速に増えたことも興味深かった。
 差別はしつつも、白人だけが血を流しまくる覚悟はなかったんだな。

関連書評
アフリカの植民地化と抵抗運動 岡倉登志
韓国歴史地図 韓国教員大学歴史教育科・著 吉田光男・監訳
ンクルマ〜アフリカ統一の夢 砂野幸稔

帝国主義と世界の一体化 (世界史リブレット)
帝国主義と世界の一体化 (世界史リブレット)
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アトラス世界航空戦史 石津朋之+千々和泰明 監訳

 アレグザンダー・スワンストン&マルコム・スワンストン著。
 航空戦力の面から世界の戦争の歴史をえがいた地図集。イタリアがオスマン帝国のリビアとドデカネス諸島に侵攻したイタリア・トルコ戦争からはじまって、アフガニスタンにおける戦争までが解説されている。残念ながら日露戦争やシリア紛争はない。フィンランド戦争はあっても冬戦争はない。
 第二次世界大戦の部分は流石に長くて、あとに朝鮮戦争やベトナム戦争がなければ第二次世界大戦の航空戦をえがいた本と記憶しかねなかった。

 説明文はかなり怪しく表と本文に出てくる生産数が合わないことは普通だし、ガダルカナルで日本のブルドーザーが鹵獲されて海兵隊に利用されたなどの?な説明もあった。
 頭を空っぽにして読んでいる分にはいろいろな戦争や作戦が適度に要約されていて愉しいのだが、まじめに歴史を勉強しようとするには不適切な本かもしれない。翻訳者も文章のおかしさを補い切れていない。あるいは増幅している。

 第一次世界大戦の空においてはフランスの航空機が慎重で、イギリスの航空機が攻撃にこだわりすぎて損害を出していたことは意外だった。
 本土を占領されていたのに第二次世界大戦後にフランスの航空産業が機能しているのは……ナチスドイツのために生産がつづけられていたからか。
 連合国と枢軸国の航空機生産数比較が圧倒的な差で、後出しじゃんけん視点では戦争をはじめる気になった理由がわからなくなる。カナダの方がイタリアよりも航空機を製造している事実……最初はイケイケ、後半は死守命令で部下に大量の犠牲を強いるヒトラーの行動はブラック企業の社長によく似ているなぁ(逆か?)。

関連書評
史上最大にして最後の機甲戦〜湾岸戦争大戦車戦・上 河津幸英
第一次世界大戦の歴史大図鑑 H・P・ウィルモット
図説 第一次世界大戦・下 1916-18〜総力戦と新兵器

アトラス世界航空戦史
アトラス世界航空戦史
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