オスマン帝国〜繁栄と衰亡の600年史 小笠原弘幸

 ヨーロッパとアジア、黒海と地中海。二つの大陸と二つの海にまたがるオスマン帝国の通史。スルタンを中心に記述されており、彼らが強い権力を長期に渡って保ちえた理由が分かる。
 奴隷制度によってスルタンだけに人間を帰属させる方法論で巨大化した国家が、近代を超えて生き残るのは難しかったのでは?それを言ったら、かつては奴隷貿易をしていた国が制度を変えて生き残ったりしているが……イスラム法による柔軟性の限界も、オスマン帝国はイスラム法に許される限界をこえた解釈で乗り切ってきたようだし、最後は著者も言うように地政学的な難しさが滅亡の原因か。モロッコ王国と比較した論考が読みたくなった。

 トルコ系民族を出自としているオスマンが、途中まで遊牧民国家に劣等感を覚える立場だったのも興味深い。最後はアラブの遊牧民に反乱されて終わったわけで……中国と同じく遊牧民に因縁のある土地の国家を思わざるをえない。

 本書を読むまで自分も、スレイマン大帝の時代がオスマン帝国の絶頂期だと思っていたが、その後も繁栄が続いたことがわかって印象が改まった。
 やはりマフムト2世は成功した背教者ユリアヌスっぽいところがあるなぁ。

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最強の帝国〜覇者たちの世界史 ナショナルジオグラフィック別冊

「真実を述べなさい。真実を行いなさい。それは偉大であり、それは力であり、それは永遠であるからだ。それはおまえに功徳をもたらし、おまえに尊敬を集めることになるだろう」

 古代メソポタミアからユーラシア最後の覇者となった清帝国やロシア帝国まで、最強の帝国を集めたムック。地図によって帝国の版図が表示されているのだが、惜しむらくは地名がすべて日本語にされておらずアルファベットが混じっていること。重要な戦地の名前でもアルファベット表記のものがあった。
 有名なヨーロッパやアジアの帝国にこだわらず、東南アジアのクメール王朝やアフリカのマリ帝国とソンガイ帝国、北米大陸のコマンチェ族まで取り上げている。

 カンボジアのクメール王朝はタイやベトナムとも争っていて三つどもえの勢力争いが興味深かった。初代ジャヤヴァルマン2世はジャワ(シュリーヴィジャヤ?)に捕まっていたこともあるらしい。
 コマンチェ族のありかたが中国から上納金をせしめる北方遊牧民じみていて帝国の収斂進化じみたものを感じた。曲乗りで馬に身を隠しながら弓を敵に向けているイラストが凄い。実際にできたのなら−−できたと信じる−−神業だな。
 地図をみているとインドにもデンマークが支配する港町が一時期あったんだな。西インド諸島には未だに領土があるので植民地主義に乗り出していたことは認識していたが。なお、帝国としてデンマークは扱われていない。

 イヴァン3世は大帝と評価が高く、イヴァン4世は雷帝で悪名が高いらしい。そういえばピョートルも2世の方は散々だったなぁ。

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歴史のなかの子どもたち フィリップ・ウィルキンソン

 スティーブ・ヌーン絵 太田てるみ翻訳

 タケシィィィィィ!!日本からは侍の子供タケシが登場した。記述がいろいろ怪しいのだが、何よりもまず中世の武士の子供で名前が漢字1文字は珍しい。
 君主から1字拝領したり、させられてりするから、2字になりがち。たしか松浦党の当主なんかは珍しく伝統的に1字で3音の名前だったけれど。
 2字で武史の可能性はあるかな−−と変換していて「武士」が出てきたので、そういうことかもしれない。安直だ。

 ほかの子どももタケシ並の精度を疑ってしまうが、欧米の子どもは比較的信用できるか?著者から時代と物理的な距離が離れるほど微妙になる。
 明るい生活をしている子供ばかりでバイアスが掛かっていることを疑ったが、エジプト農民の子供あたりから厳しい生活を送っている子供が出てくる。
 ペストに襲われた時代に生きた子供や奴隷に売られたアフリカの子供など対象年齢の読者は自分の身に照らして想像しているかもしれない。
 マリー・アントワネットやアナスタシア、アンネ・フランクなど実在の子供も紹介されている。高貴な生まれの有名人でも不幸な死に方している人物が多い。
 ブラジル皇帝ペドロ2世は貴重な例外である。親からはブラジルに置き去りにされてしまって愛には恵まれていないが……。

歴史のなかの子どもたち
フィリップ・ウィルキンソン, スティーブン・ヌーン, 太田 てるみ
岩崎書店 (2019-12-16)
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古代史マップ〜世界を変えた帝国と文明の興亡 ナショナルジオグラフィック

「他国に攻め入れば殺戮と死が生まれ、その土地に住む民を追放しなければならない。これほど我が身を苛むものはない」アショーカ王

 いいこと言っているのに大文字での表示はされていなかった。アショーカ王の後を継いだ王にとっては大変なことをしてくれたからかな?変心のいいところしか描かれていなかったが。

 本書では古代の帝国や文明の勢力が地図で魅力的に表現されている。クレタとギリシアの地図にグルニアとレフカンディの地名をみつけた。ファイアーエムブレムが元ネタをとったのは、この辺りか……。
 それぞれは薄味ながら北アメリカのカホキアを中心とするミシシッピ文化やアフリカのマリ帝国とソンガイ帝国まで扱っている。ソンガイ帝国を滅ぼしたモロッコも強いのでは?古代史の範囲じゃなくなるから出番がないのかな。インカ帝国も。
 エキゾチックな勢力のなかに北ヨーロッパの巨石文明も含まれているところがユニークだった。

 アショーカ王の考えは尊いものだが、歴史上は「支配をやめれば、たちまち支配されることになるだろう」というアルキビアデスの言葉が優勢だったと感じざるを得ない。

古代史マップ 世界を変えた帝国と文明の興亡 (ナショナル ジオグラフィック 別冊)
ナショナル ジオグラフィック
日経ナショナルジオグラフィック社 (2019-01-31)
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トリノの聖骸布-謎に包まれた至宝-

 解かれた封印 古代世界の謎3

 キリストの遺体を包み、その顔が写されたと言われるトリノの聖骸布。その論争の経緯がまとめられている。1998年なので、いいかげんに決着がついているのかなぁ。
 炭素同位体による年代測定すら、ややこしい話になっているし、宗教は人から冷静さを失わせる。自分が「科学的」な立場にあって否定していると思っている人間にまで、それはあてはまるようで、聖骸布の制作者がレオナルド・ダ・ヴィンチであり教会への時限爆弾として仕掛けたという与太話には吹き出してしまった。

 ところで遺体を布で包んだら何か影が写り込むことはありえるのだろうか?
 本書でかかれている範囲では、再現実験が行われていないことが気になってしまう。
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地上絵-古代人の遺した謎のメッセージ- ポール・G・バーン

 解かれた封印 古代世界の謎8

 キルバーンの地名が出てきてダイの大冒険を連想していたら、著者の姓がバーンだった。どうでもいいが。
 地上絵の言葉だけで「ナスカの地上絵」を連想してしまうが、本書ではさらに幅広くイングランドやアメリカなどの地上絵にも触れている。
 イングランドの全裸の男をえがいた地上絵「サーニー・アバス・ジャイアント」には度肝を抜かれた。古代の遺跡ならポルノには当たらない。ヘソがペニスの一部と間違えられて、長さが追加されてしまったエピソードがバカバカしくて素敵だ。
 ニュージーランド軍も英連邦軍としてブリテン島に出征したときに巨大なキウイを描いていたとは面白いことをしている。

 地上絵の構造についても簡単に説明していて、それらが作られた方法や年代が分かってきた。

地上絵―古代人の遺した謎のメッセージ (開かれた封印 古代世界の謎)
地上絵―古代人の遺した謎のメッセージ (開かれた封印 古代世界の謎)
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ミイラ-紐解かれた過去- ロザリー・デイヴィッド

 開かれた封印・古代世界の謎9

 ミイラの語原は瀝青。医学的な効果があると思いこまれた瀝青の代わりに同じく色が黒いという下らない理由でミイラは薬品にされてしまっていたという……カニバリズムじゃん。
 近世までは迷信の側面からカニバリズムへの志向が残っている部分があるよなぁ。

 本書が書かれたのはミイラの研究に内視鏡が使われたころのようで、大きな傷をつけずに内部をみたり、組織の一部を切り取ったりできる効用が取り上げられている。

 他には歯に関する研究でエジプト人の歯が、パンにまじってくる砂や小石による深刻な磨耗にさらされていたことが紹介されていた。
 庶民から王まで同じ問題を抱えていたのだろうか?製粉作業をする場所に注意すれば、ある程度は回避できそうなものだが。

ミイラ―紐解かれた過去 (開かれた封印 古代世界の謎)
ミイラ―紐解かれた過去 (開かれた封印 古代世界の謎)
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ヒエログリフ-石に刻まれた記憶- スティーヴン・スネイプ

 解かれた封印 古代世界の謎19

 古代エジプトの文字ヒエログリフにまつわる話。
 100年ていどで一応は使われていたヒエログリフの知識が失われてしまったことに恐怖した。その前段階として神秘性をあげるために文字をやたら追加した時期があったので当然の帰結なのかもしれないが……。
 ロゼッタストーンなど参考になる情報があったおかげで再び解読されることになって良かったと心の底から思う。

 右から左でも左から右でも上から下でも書くことができて、対称性のある文字選びができる点など、なかなかおもしろい特徴をもっている。日本語が右から左に書くのを左から右に書くのに変えたのは話が違うか。
 語尾に追加される「決定詞」の機能も興味深いものだった。

ヒエログリフ―石に刻まれた記憶 (開かれた封印 古代世界の謎)
ヒエログリフ―石に刻まれた記憶 (開かれた封印 古代世界の謎)
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迷宮のミノア文明〜事実になった神話 ルイズ・スティール

 開かれた封印 古代世界の謎16

 アーサー・エバンズ卿の紹介からミノア文明の物語は始まる。
 父親の友人だったというシュリーマンの大発見にも刺激されて、エバンズはクレタ島で豪華で複雑な宮殿を発掘することになる。

 民衆から穀物を宮殿に集めて、その穀物で養った職人によって、貿易に使う工芸品を生産する。税金を取り立てていなければ生まれなかった富をつくりだす仕組みが見事に回っていたようだ。
 分業は都市の特徴と言われるが、宮殿の主は半ば人工的に分業を強いていた感じもする。

 絵画の分析から巫女の役割がそれなりに大きかったらしいことも印象的だった。エバンスが「玉座の間」と勘違いした部屋の「玉座」に腰掛けたのも女神を演じる巫女だったのではないかと書かれている。
 なお、宮殿が複雑な構造をしているのは、計画性のない増築のせいらしい……。

迷宮のミノア文明―事実になった神話 (開かれた封印 古代世界の謎)
迷宮のミノア文明―事実になった神話 (開かれた封印 古代世界の謎)
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沈黙の都市マヤ〜密林に眠る驚異の文明 コンスタンス・コルテス

 開かれた封印 古代世界の謎5

 マヤにおける二つの都市パレンケとコパンを例にマヤ文明を紹介している。
 密林という地形と気候で文明の発達に難しそうな土地で、なぜマヤ文明が発達したのか、サブタイトルからあらためて気になったが、そのあたりの説明は特にされていない。
 アマゾンにも古代文明の形跡がみつかってきたし、気候の問題は思いこみに過ぎないのか?

 パレンケにはパカン王とチャアン・バラム王という二代にわたっての栄光が遺されている。パカン王の長生きと母親の生まれからもわかる婚姻政策がパレンケ繁栄の原動力だったのかな。
 スペイン人に多くの文章が焼かされてしまったことが残念でならない……。

 コパンは衰退の時代にまで話が続いている。石に複雑な文字を彫るメディアの問題で緊急事態のリアルタイムでの記録は期待しにくいが、著者の予想が外れて今後の発掘調査によって永遠の謎とならないことを期待したい。

沈黙の都市マヤ―密林に眠る驚異の文明 (開かれた封印 古代世界の謎)
沈黙の都市マヤ―密林に眠る驚異の文明 (開かれた封印 古代世界の謎)
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