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帝国の危機5〜死戦の果てに 林譲治

 たった半年だが、極めて苛烈な太平洋戦争が終わりを告げる。
 林譲治先生の作品でありながら日本がついにレーダーを整備することがなかったくらい、短い戦いだったのだ。それだけに濃密な戦闘で互いの全てを出し尽くした感があった。とくにアメリカ側が太平洋側の海軍戦力を使い潰したことが印象的だ。
 それも失っても船渠からいくらでも湧いてくるという発想ではなく、組織としての海軍に後がないことを思っての作戦だったから良かった。
 けっきょくフレッチャー以上の提督がでてこなかったけれど、この作品ではフレッチャーが最高の提督だろう。けっきょく御留守をつかれたニミッツ大将の方には名誉挽回のチャンスがなかったなぁ。

 海戦におけるレキシントンの惨状描写も凄かったが、ハワイにおける陸戦の描写もとんでもなく、戦場の凄惨さを十二分に伝えていた。
 言葉や概念は簡単だが、現実としての「戦闘力を奪う戦術」を意識させられてしまうと、やっぱり戦争の残酷さに耐えきれないものを覚えてしまう。それで正常なのだろうが。
 お互いに師団が1,2個あるだけで、あんなに激しく戦ってしまって消滅しないのかと思うような戦いだった。ハワイで戦う米軍側にはレジスタンスもいたけれど……組織化の足りないレジスタンスの活動に対して、規律のない軍隊だったら村の焼き打ちをしていたはずって記述は史実の帝国陸軍のみならずベトナム戦争の米軍も痛烈に皮肉っていた。


 そして、多くの犠牲のうえに戦争が落着してはじまった新しい日本は、久遠寺首相による国家総動員……内務省の力を使って政敵を抹殺していった描写がグロテスクだった。せっかくアメリカに勝って(まぁ、負けずに終わらせて)これでは素直に喜べない。
 それでも、4巻の記述によればスーパーコンピューターで初期の計算が行えたのは日本とソ連とあったわけで、海軍力を否定したアメリカはもっと悲惨なことになっていくのかもしれないし――本当に革命が起きるのか?――中島元首相の小さな反抗がやがて大きな潮流となって独裁者久遠寺の理想を押し流していくことになるのであろう。

 ――なんだかずいぶんと遠くまで行けた気分になった。戦記シミュレーションの醍醐味は終わってひらける「平行する新世界」の新鮮さにある。

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帝国の危機〈5〉死戦の果てに… (A‐NOVELS)
帝国の危機〈5〉死戦の果てに… (A‐NOVELS)
カテゴリ:架空戦記小説 | 19:53 | comments(0) | trackbacks(0)

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