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ハザール 謎の帝国 S.A. プリェートニェヴァ著/城田俊 訳

 ハザールでござーる。7〜10世紀に黒海とカスピ海の間にあって、ユダヤ教を信望していた国家の謎を、古文書と考古学資料から解き明かしていく、知的興奮に満ちた本。
 かなり大きく、ビザンツやアラブにも大きな影響を及ぼした――逆に影響を与えられることはもっと大きいが――国家であるにも関わらず、名前に聞き覚えがなかったことが、かえって私の関心を引いた。異名である「カザール」なら聞いたことがあったかもしれない。

 ともかく、ハザールは面白い国で、突厥の阿史那王家の人間が母国から独立して創った遊牧民族国家でありながら、ところどころで遊牧民族国家のイメージにあわない文化を示す。遊牧のできない貧困層の人間が定住して畑をおこすところから町がはじまり、いくつもの城塞や都市がつくられていった姿を克明に記す考古学的研究の章が非常におもしろかった。
 国の成り立ちそのものを考えさせるし、時間を早回しにして神の視点から国家の興亡をみている気分になれる。

 ハザールは強敵であるアラブに対してはコーカサスの山脈に陣取って頑強に抵抗してみせたわけだが、末期には同盟であった時代の方が長いビザンツに国内を乱されてしまい、最終的には北からやってきたルシに滅ぼされる。
 原著者はハザール衰亡の原因をユダヤ教を採用したことによる多民族国家の分裂に求める。しかし、訳者による史料を示しながらの意見はそれとは異なっていて、しかしながら根本的な原因を説明するには至らない。
 ビザンツともアラブとも距離をとるためにユダヤ教を選択するというのは、興味深い作戦だと思うのだが……ユダヤ教を採用するにあたってキリスト教徒もイスラム教徒も「先人」を認めるがゆえにユダヤ教を全否定できない点を利用した逸話がおもしろかった。

 少ない情報から思うのは、ハザールがアラブとの戦いや絹不足によって北に国土を拡大したことによって、2面ではなく3面に強敵と接することになってしまった問題だ。しかも、ルシにはアラブと違ってビザンツの押さえも機能しない。
 交通の要衝にあることは大きな利益に大きなリスクを伴うのであった。逆に考えればそんな場所にあって3世紀も命脈を保ったのだからハザールは確かに「帝国」を名乗るにふさわしい偉大な国であったに違いない。

ハザール 謎の帝国
ハザール 謎の帝国
 それにしてもビザンツ帝国の、なんと外交に巧みなことか!
カテゴリ:歴史 | 19:48 | comments(0) | trackbacks(0)

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