<< 物語 中東の歴史 オリエント五〇〇〇年の光芒 牟田口義郎 | main | 管仲・上 宮城谷昌光 >>

覇者の戦塵1944〜マリアナ機動戦5 谷甲州

 一日二度の出撃で、二隻の空母を屠った陸軍機、飛龍!
 後の戦史ではそんな風に伝えられることになるのかもしれない。指揮をとった朽木中尉の人物は伝説的な領域にまで一気に押し上げられてしまいそうだ。下手をすると、持て囃されすぎて不幸になることがあるので、重々気を付けてほしい――彼が終戦まで生き延びること自体は確信している自分を発見した。エセックス級も別の場所で沈んでいる可能性があるのだが、自分の中でいちばんしっくり来るのは、朽木機による遠距離攻撃だ。


 ともかく翔竜の威力と、数が揃わない事による限界が露呈された戦いであった。
 まずマリアナ機動戦の総括をすれば、そんなところに落ち着くのではないか。自らを誘導し尋常ではない命中率を誇る翔竜は、戦いの様相をまったく違ったものにしてしまっている。新兵器による戦局打開という――悪夢とか野望とかの字で書かれたりする――ゆめが実現しつつある。
 これで陸上発射型の翔竜が数を揃えてしまうとアメリカ軍による本土上陸作戦はおろか、沖縄や小笠原への侵攻も極めて難しくなる。この世界の日本陸軍はまともな機甲戦力をもっているから、意表をついた場所に奇襲上陸しても補給が続かず、力技で状況をひっくり返すことはできないであろう。
 後は陸上発射型の翔竜をお披露目してしまえば、アメリカは戦争の落としどころを探さざるを得なくなる。蓮美大佐のことだから実験で発射したといいつつ、翔竜の一発や二発は隠し持っているだろう。艦砲射撃のため陸地に近付くアメリカの戦艦が心配だ。

 残る問題は核爆弾の存在なのだが、こちらにも核爆弾的人間がいるということで。日本の人々には、うまく開発のタイムラグに滑り込んで勝利をもぎとってもらいたい。


 第一機動艦隊の陣形が「ヒエラルキー」を生んで、士気に悪影響を及ぼす(という危惧を登場人物が抱いた)くだりは、いまの格差が広がる社会を反映しているのかなぁ。前衛艦隊を福島第一原発の現場で働く派遣社員に当てはめて見てしまいそうになった。
 相当の対空戦力を手当てしているとはいえ、精神まで考えない合理主義は本当の合理主義にならないから注意が必要だ。いかにも落ち度がありそうに描かれていた第一機動艦隊が最後にちゃっかり正解を出しているのは流石だった。戦いの早い段階で「勝利の確信」が出て来たときは負けフラグに見えた非常に気を揉んだが。

 さて、マリアナ沖での「勝利」の結果、アメリカ軍は高い反撃能力を維持した日本軍の真ん中に飛び込み、敵が回復する前に次の行動に出なければならなくなった。次こそは世界最強の機動艦隊が崩壊する姿を目の当たりにできるかもしれない。

谷甲州作品感想記事一覧

マリアナ機動戦 5―覇者の戦塵1944 (C・Novels 41-42)
カテゴリ:架空戦記小説 | 23:42 | comments(0) | trackbacks(0)

スポンサーサイト

カテゴリ:- | 23:42 | - | -
コメント
コメントする









この記事のトラックバックURL
http://sanasen.jugem.jp/trackback/1556
トラックバック