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沙中の回廊・下 宮城谷昌光

 士会の視点から観た晋の宰相「趙盾」は他の宮城谷作品の趙盾と比べれば、かなり劣る。上巻の最後で怪しい気配はあったけれど、ここまで厳しく見られるとは意外だった。それでも最後に近づくほど、立ち振る舞いに評価せざるを得ない点が出てくるところは流石だ。素材が悪かったとしても遅くまで成長を止めなかった人間なのだと思う。その点は荀林父にも言えて、ヒツの戦いが彼を見事に成長させていた。
 大器晩成の文公が晋に残した気風が、人臣に行き渡っているのではないか。惜しむらくは君主自体は短命の人物が続いてしまったため、大器晩成できなかったことだ。けっきょく、大夫が成長しすぎて晋自身がつぶされる結果になってしまった。

 大器晩成ぞろいの晋人のなかでも士会は最初から評判が高かったにも関わらず精進することを忘れなかったために、更に頭抜けている。楚の荘王さえも敗退させた兵略以上に、士会の心の持ちようを評価したい。


 それにしても春秋戦国時代の諡号ほど酷いネタバレはないと思う。諡が出てきた時点で、その君主がどの程度の人物であったのか、おおよそ想像がついてしまう。著名な人物については、最初から知っているせいもあり、新鮮味を失わせる結果を招いているように感じた。まぁ、歴史の研究者にとっては便利に違いない。
 「文」の諡をもつ君主は晋の文公や宋の文公のように登場することがあるが、「武」の諡をもつ君主は滅多に出番がない。ちょっと調べてみたら前800年代や前700年代に使われてしまって前600年代には使えなくなってしまっているようだ。人気がありすぎるのも困りものである。
 しかし、荘王の言った「戈を止める」意味での「武」に到達できる武公や武王が何人いたことか……。

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宮城谷昌光「沙中の回廊」に描かれた「城濮の戦い」を戦況図化してみた

沙中の回廊〈下〉 (文春文庫)
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カテゴリ:時代・歴史小説 | 12:27 | comments(0) | trackbacks(0)

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