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図説 メソポタミア文明 前川和也

 図説の名に恥じない密度とクオリティで写真資料を駆使しながらメソポタミア文明の実際を描いてくれる本。ウルのスタンダードとバビロンのイシュタル門が放つ青色が目にまぶしい。雨の降らないメソポタミア南部の空は、こんな色をしていたのかな。アフガニスタンから送られてくるラピスラズリの色だと承知しつつ、そんなことを思った。

 個人的には当時の戦争技術について詳細な考察を展開してくれているところが良かった。
 「禿鷲碑文」によれば前25世紀のラガシュ兵は盾兵と槍兵が分業した密集方陣を作っていたらしい。突き出される槍の長さが下に行くほど短くなっていたら分かりやすかったかな。ともかく、なかなかの圧迫感をもっていて密集方陣の威力を感じさせてくれる。
 一方「ウルのスタンダード」はロバを使った戦車の威力を描いている。図像を下から上に読むルールがあることの解説と合わせて「ウルのスタンダード」見ると、戦車が敵の歩兵を蹴散らし、その後を追う歩兵が残敵を掃討する戦術を取っていたことが読めてくる。ロバの背中に載せられた轅がゼンマイおもちゃのねじまきに見えてしかたがない。

 コラムも充実していて、基本的に満足できる内容だったが、いろいろ読んできたせいでメソポタミア文明を通説するのではなく、一時期を切り出して詳説する本が読みたいと思ってしまった(例えばハンムラビの時代)。
 しかし、それが難しい事情も最後に解説されており――最も多く出土する史料が行政文書である性質上、どうしても時期が偏ってしまうとのこと――調査の進展を待つしかないと思い知らされるのであった。
 未公刊の資料が各地の博物館にあるという情報が心強い。かんばれ石板読み!イラク情勢については落ち着いてくれることをひたすら願うしかない。


 巻末には「最近の」アッシリア帝国の興亡をえがいた章もあって、わかりやすく興味を引く闘争に満ちているだけに楽しく読めた。アッシリアが征服したバビロンの文明に絡めとられているところが、ローマとギリシアの関係を思わせる。歴史は繰り返す。

関連書評
NHKスペシャル四大文明[メソポタミア] 松本健:資料提供者に松本健先生の名前が出ていた
メソポタミアの王・神・世界観 シュメール人の王権観 前田徹:この本の版図図が本書に引用されている

図説 メソポタミア文明 (ふくろうの本/世界の歴史)
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