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仮装巡洋艦バシリスク〜航空宇宙軍史 谷甲州

 航空宇宙軍史のようなSFは私にとって一つの標準であって、ある意味評価する対象ではない。それほどまでに私の中での地位は高いわけだ。
 ちょっと残念なのはせっかくの汎銀河人との戦争がほとんど描かれないことで、前段階をなす人類同士の内輪もめに多くが割かれてしまうことか。軌道傭兵シリーズといい、準備にエネルギーを集中しすぎる人である。まぁ「終わりなき索敵」があるから芯は通っているのだけど。

・星空のフロンティア
 このシリーズの根幹を成す話。少なくとも初めて読んだときはそう思った。読む順番が遅れたせいかも知れない。航空宇宙軍の発足史と外宇宙探査がストーリーの主軸だが、裏ではもっとも恐ろしいことが起こっていたわけで――敵を探す行為が敵を創る行為に直結していたとは滑稽な話だ。
 航空宇宙軍の主力はけっきょくコロニーと月にあって、人口数百億の地球は寄与が小さい感じがする。それでもやはり人口が多いことは強みとなって、人材層の厚さで外惑星連合を圧倒することになる。国力がどう戦力に変換されるかは評価が難しい。
 支援艦シビルのナンバーが11なのはアポロ11号に引っ掛けているのかなと思った。そういえばマリナー探査機も性能と目的が違うのにひとつのナンバー体系に収められていた。

・砲戦距離一二、〇〇〇(ホウセンキョリイチマンニセン)
 単位はキロ。地球直径と等しく、月地球距離の30分の1。ともかく遠いが、水平線地平線のない宇宙空間の距離感覚は地上とは異なるものだろう。人間の感覚では水平線の向こうの世界は一等別世界なのだ――グーグルアースがその感覚を変えるかもしれないと思うとおもしろい。
 純粋なエンターテイメントとして、戦争を楽しめる作品であったりする。戦争による技術の変化が真の進歩といえるのかという問いかけは重いのだが。

・襲撃艦ヴァルキリー
 150歳のダツおじいちゃんによるヴァルキリーとのリターンマッチ。ミステリーのアリバイ並みに時間の扱いが複雑になっている。距離が時間的に効いてくる感覚は新鮮だ。
 航空宇宙軍による圧政には呆れるが、独立側も投資を踏み倒そうとしている面はある。けっきょく兵器開発が地球中心であり続ける点では最後まで変わらないらしい、と「終わりなき索敵」にあったな。緩やかな連合体であることを許して、プロクシマなどに独自の開発能力が生まれていたら未来史は変わったかもしれない。もはや航空宇宙軍史ではなくなってしまうが。

・仮装巡洋艦バシリスク
 表題作。SFとホラーの融合で谷甲州に優る作家を知らない。「冷たい方程式」で少女が弾け死ぬイメージが対抗できるくらいか。幽霊船の描写もさることながら、遭難話のリアリティが高すぎる。
 ケルナー中佐の人望の高さと高潔さは、シビル11のスミス中佐と対比すると興味深い。性を聞いているかぎりでは外惑星連合にはドイツ系が、航空宇宙軍にはアメリカ・日本系が多い気がするのだが錯覚だろうか。
 ともかくネタバレのようでいて肝心な部分には触れきらせない悪女のような狡猾さのある作品だ。

仮装巡洋艦バシリスク
仮装巡洋艦バシリスク
谷 甲州
カテゴリ:SF | 11:58 | comments(0) | trackbacks(0)

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