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世界の戦争3〜イスラムの戦争 牟田口義郎・編

 予言者ムハンマドの戦争から、オスマン帝国のコンスタンティノープル占領まで。イスラムが経験した劇的拡大の戦争を描いた本。四日間に及んだカーディーシャの戦いやスペインにおけるグラナダ王朝の落日など、予想以上にロマンを感じる内容に溢れていた。
 振り返ると全編を通して、東ローマ帝国の気配が存在しつづけていた事に気付いて慄然とする。斜陽に入ってからがやたらと長い帝国であったことよ。ササン朝ペルシアと東ローマ帝国の死闘が、アラブ帝国に拡大の好機を与えて、ついにはペルシア帝国を滅ぼすに至ってしまった点は歴史の皮肉を感じた。

 皮肉と言えば、ヘラクレイオス帝とバヤジット一世の運命に共通するものがあるところも皮肉だ。どちらも勢威の絶頂と新興勢力に打ち砕かれる失意を経験している。まぁ、オスマン帝国の方は、バヤジットが四代目なので、自らも新興勢力と言えるのだが。
 ティムールの章とオスマン帝国の章、両方でアンゴラの戦いが扱われていて、それぞれの視点から同じ戦いを見ることができ、興味深かった。

 ティムールは三男のミーラーン・シャーが妙に気になる。名前の語感がいいせいか。戦傷が元でびっこでありながら長生きしたティムールが子孫に先立たれることの多さは、ティムール帝国の命運を思えばもったいない。
 長男の早すぎる死に毛利元就を連想したが、元就だって孫の輝元には先立たれていない。ムハンマド・スルタンが長生きしていたら、歴史は変わっていたはずだ。孫にピール・ムハンマドが二人いるのは、混乱しないのかな。
 まぁ、ムガール帝国に繋がっただけでも良しとするべきか。

 遡ってスペインの後ウマイヤ朝の章はやたらと情緒的な文章が異彩を放っていた。教えのおかげもあって清潔を心掛けているイスラム教徒と、あえて不潔にしているキリスト教徒の対比が印象的だ。フィリペ二世は余計な布告をしたものである。
 衛生環境が人口動態に与える影響は決して小さくなかったはずで、そこに宗教の間接的な影響をみた思いがした。


 最後に予言者ムハンマドがバドルの戦いでの有名な演説を引用しておこう。
「もしおまえたちのなかに忍耐強い者が二十人いれば二百人に勝てるだろう。百人いれば千人に勝てよう。不信のやからは分別も何もないのだから」

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世界の戦争 (3)
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