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興亡の世界史1〜アレクサンドロスの征服と神話 森谷公俊

 日本のアレクサンドロス研究第一人者による思想面を重視したアレクサンドロス本。アレクサンドロスが時代の「鏡」として、描かれてきたことを巧みに伝えている。
 散逸している一次資料の段階からプロパガンダが混じりまくっているので始末に負えない。だからこそ実像に迫る行為にやりがいがあるのかもしれない。
 そもそもプロパガンダに使う価値があったからこそ、ここまでアレクサンドロスの存在が流布されていることも著者は述べている。

 英雄として高い評価を受けることもあるアレクサンドロスだが、著者は彼の――現代的な価値観からみたときの――残虐行為にもしっかりと焦点を合わせている。
 神官の末裔に対する虐殺行為の逸話は、直接的に戦闘が絡んでいないだけに、抵抗が大きかった。兵士の一時的な憂さ晴らしのために、失うものは非常に多いが、憂さ晴らしができなければ兵士を困難な状況に進ませることは難しい。
 それを何とかやってしまった結果、後代に大きな影響が残されているわけで、歴史とは複雑なものだ。
 あと、テーバイを破壊するときに処置をギリシア人に決めさせる体裁をとったことが、北九州の凶悪犯罪者を連想させた。自らは責任を負わず、罪悪感で被征服者を縛る。一石二鳥の恐ろしい政策である。
 著者がいうように、アレクサンドロスに支配されることが幸福とは到底思えない。

 流石というかアレクサンドロス周辺の細かいエピソードにとても詳しく――全てを知らないと自説を補強するのに都合のいいエピソードを抜き出しているようにも感じるが――感心させられることが多かった。
 セレウコスがペルシアの跡地に広大な帝国を維持できた背景には、スピタメナスの娘、アパマを妻として愛し続けたことがあったようで面白い。それが集団結婚式の産物なのだから、大王の意図はともかく、あれが文化融合の役に立っていないわけでもないのだな。

 一方、漫画で有名になっているエウメネスの情報が非常に乏しかった(ペルガモン王のエウメネスは出てくる)。クラテロスの死因としても名前が挙げられていないのだ。
 ペルシア人とマケドニア人の間にあって、落っこちた感じがした。

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アレクサンドロスの征服と神話 (興亡の世界史)
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