<< 図説伊達政宗 仙台市博物館編・渡辺信夫監修 | main | 図説 徳川の城〜よみがえる名城 白亜の巨郭 歴史群像シリーズ >>

帝国戦記 太平洋の凱歌 伊吹秀明

 8巻に及んだ帝国大海戦にまつわる物語を収録した短編集。シミュレーションの中でも読者に知られざる戦いがたくさんあることを意識させてくれる。

南海のゼーゴイセン
 アメリカ、日本、イギリスの三大海軍国ばかりにデカい顔をさせていられない!海洋国家オランダの意地をみせてやる!!
 そんな感じで展開される蘭印を舞台にした通商破壊戦。歴史だけでいえばスペインやポルトガルにも、こういう見せ場がほしいところだが、参加していないか……。
 海防戦艦スラバヤが脱出する方法は本当になかったのか、考えるとやっぱりない。イギリスと日本をまとめて相手にするのは無理だ。アメリカの戦力がよほど厚くない限り、ジリ貧は免れない。
 史実のオーストラリアは、蘭印との戦争も考えたことがあるのかなぁ。やる気満々の姿にそんなことを思った。

猫の戦記
 艦艇を渡り歩いてきた猫視点の話。なんとなくうるうるしてしまった。木村提督が格好いいが、イメージはやっぱり釣り好きのおっさんである。
 猫を殺意をもって追いかけ回す乗員たちは、艦内でのいじめもやっていそうで、非常に嫌な感じだ。
 あと、アメリカの潜水艦がみせたファイティングスピリットが見事。艦を奪われるデメリットを思うと、降伏も簡単ではない。

ラスト・ミッション
 イギリス側からみた最終決戦を描いた一話。かなり駆け足だった帝国大海戦の最後に別の面から光をあてて立体感を出している。スプルーアンス提督の死と、ホーネットの砲撃による撃沈がアメリカ世論に非常に大きく響いたことが分かる。
 それにしても、ルーズベルトを選挙で破ったのはデューイか……まぁ、終戦してくれるなら誰でもいいな!もし、リンカーン大統領の再選をマクレラン候補が防いだら、という南北戦争歴史IFに近いものを感じる。

パラレル戦記「迷霧の荒鷲」
 帝国大海戦の本編から50年以上後の西暦2000年。アメリカ合衆国で流行する戦記シミュレーションの様子を描いた非常に皮肉の効いた作品。戦記しゅみれーしょんの現状(本書発売当時の)に一言もうしている。怪しい編集者も登場するが、著者がそういう人物に当たったことはない、とのこと。
 アメリカで戦記しゅみれーしょんが流行しているのは、戦争に負けて後悔の気持ちが強いから、という分析は現実に負けている日本の現状への皮肉だ。
 架空世界で架空戦記を小説家に書かせる入れ子になった状態は、フィクションの二次創作と考えれば日本では決して珍しいことではない。
 源田実の悪口をネタに大和とピラミッドと万里の長城がアメリカと激突する「世界三大馬鹿 太平洋決戦」という超戦記が馬鹿売れしている様子には笑った。さすがにここまで突き抜けた作品は……一部の作者は突き抜けが足りなかったのかもしれないな。けっきょく映画化までこぎつけた戦記しゅみれーしょんはなかったわけで(それとも私が知らないだけか?)。
 三日で一冊書いた戦記作家の元ネタは誰なのやら。諸元でページ埋めには強烈に見覚えがあって苦笑を禁じ得ない。擬音乱舞は田中先生だったか、谷先生だったか。

「帝国大海戦」アナザー・バージョン
 帝国大海戦のありえた展開をいくつか並べた小論。潜水艦戦でまずイギリスを脱落させる堅実な計画や、パラレル戦記「迷霧の荒鷲」で書かれた北太平洋を侵攻ルートとする作戦が語られている。
 地中海情勢への言及も。イタリアが日英同盟側でフランスを主敵に参戦したことの影響はやはり大きい。

伊吹秀明作品感想記事一覧

帝国戦記―太平洋の凱歌 (歴史群像新書)
カテゴリ:架空戦記小説 | 19:24 | comments(0) | trackbacks(0)

スポンサーサイト

カテゴリ:- | 19:24 | - | -
コメント
コメントする









この記事のトラックバックURL
http://sanasen.jugem.jp/trackback/2136
トラックバック