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国宝土偶「縄文ビーナス」の誕生〜棚畑遺跡 鵜飼幸雄

 縄文王国(固有名詞)の棚畑遺跡からたなぼたのように発見された美麗な土偶、縄文のビーナス。彼女が生まれた背景には豊富な黒曜石資源を背景に繁栄した縄文人たちの姿があった。
 尻は大きく、胸は小さい。なかなか魅力的な体をした土偶である。なによりも雲母が粘土に含まれていて、キラキラ輝くところが素晴らしい。制作者の気合いを感じる。
 尖石縄文考古館の土偶作り教室で制作にチャレンジするものの、失敗する人が多いという焼成の難しさも印象に残った。「普通」の縄文土器でも簡単に焼ける形には見えないからなぁ。

 表紙の写真やタイトルと、本の中で著者が語りたいことがズレている本がある中で、こちらは直球に縄文のビーナスを攻めている(真ん中では遺跡や地域の背景の話になるが、最後には縄文のビーナスに戻ってくる)。
 表紙から図6まで全部縄文のビーナス。X線写真もあるよ!そんな気合いの入り方だった。四方向からの写真が載っているのはともかく、出土状況の写真すら二方向からあるのはやりすぎ……もう特別付録に縄文のビーナスフィギュアをつければ良いんじゃないかな!?新泉社さん!

 八ヶ岳、霧ヶ峰周辺の黒曜石が豊富な地域の縄文遺跡といえば宮坂英弌で、もちろん名前が出てくるのだが、本書では別の縄文王国英傑が登場した。
 その名も医師の田実文朗という。石器を集めるために米沢で開業したと噂されるほどの彼は、藤森栄一氏のカウントによれば52652個の石鏃を収集していたという……さすがにこの数の原位置を動かすのは問題じゃないのかなぁ。
 現地では子供も畑で黒曜石の石鏃を拾う遊びをしていたと言うから、詮無いことかもしれない。収集品は博物館に収蔵されているわけだし。
 凄いには凄いが、ちょっと考えさせられる。

 さて、棚畑遺跡のことだが、黒曜石で新潟の翡翠や銚子の琥珀まで手に入れていた彼らの繁栄は交易網の維持という不確定要素に左右されるものであったことが気になった。黒曜石が食料と交換できるからと調子に乗って人口を増やしすぎると、酷いことになる。
 だが、縄文のビーナスや後半に出てきた手間の掛かりすぎた土器をみていると、そんな危険も考慮して富を人口の量よりも生活の質に変換していた縄文人の賢さが垣間見える気がした。

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国宝土偶「縄文ビーナス」の誕生―棚畑遺跡 (シリーズ「遺跡を学ぶ」)
国宝土偶「縄文ビーナス」の誕生―棚畑遺跡 (シリーズ「遺跡を学ぶ」)
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