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中東戦争全史 山崎雅弘

 十戒から著者が引用した「あなたの隣人の家を欲しがってはならない」が強烈な皮肉になっていた。イスラエルが武力制圧した地域の保持にこだわらず、国連が決めた範囲に自らを封じ込めつづけていれば、問題の相当量は軽減されたかもしれない。
 しかし、完全に解決された可能性は怪しく、軍事衝突の可能性が残るのならば戦略的な縦深を確保したいと願うのも軍人としては至極常識的な発想である。軍事に政治を従属させてはならないが。
 イスラエルに流入するユダヤ人の波がいつまで経ってもおさまらないため、土地を確保しなければいけない問題もある。でもやっぱり占領地への入植はまずい。重ねて「あなたの隣人の家を欲しがってはならない」である。
 複雑に絡み合った土地への執着が生まれれば、紛争は容易に解決できなくなる。シオニスト活動の初期からその問題は一貫している。
 東欧のユダヤ人がヒトラーの脅威をうけて一刻も早い建国を望んでおきながら、パレスチナに拘っていたのは矛盾していると感じた。まさに人間らしい主張と言わざるを得ない。
 イギリスは人間らしさの極地だが、まったく尊敬できる余地はない。第二次世界大戦ならば存亡の岐路に立たされていた危機感があったと言われると完全否定はできないが、第一次世界大戦のしかも副戦線である中東であの振る舞いは……。

 軍事面ではイスラエル側がチェコスロバキアで武器を買いあさった初期の状況が印象に残る。あの時、チェコが武器を売っていなければ……別の国が利益をあげたことだろう。
 中東戦争も後半になってくると、ソ連製の武器で重武装したアラブ諸国からイスラエルが大量の戦利品をえている。イスラエルの武器体系が複雑化するのも当然だ。
 シナイ半島が戦車戦に適した土地としてエジプト軍とイスラエル軍の間で何度も争奪の的になっていた点が興味深かった。レバノン内戦ではシリア軍とレバノン軍の戦車部隊が衝突していたり、各国にそれなりの経済力があるだけに戦いの規模も大きい。

 イスラエルの首相をつとめるシャロン氏とPLOの議長だったアラファト氏の略歴を知る上でも有用な一冊だった。もし、ラビン首相が暗殺されなければ……空しいが甘い夢である。
 アラファトを含めてテロリストの行動が最後まで意図したとおりの展開を導いていないことも良く覚えておきたい。事態をコントロールする力がないからテロリズムに走るわけで問題は方法は表裏一体なのだが。

関連書評
ユダヤ人の歴史地図 マーティン・ギルバート/池田智
ユダヤ戦記1 フラウィウス・ヨセフス 著/秦剛平 訳
古代ユダヤ戦争史 モルデハイ・ギホン&ハイム・ヘルツォーグ/池田裕 訳

中東戦争全史 (学研M文庫)
中東戦争全史 (学研M文庫)
戦争地図も多数掲載されていて分かりやすかった。
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