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銃・病原菌・鉄 上 ジャレド・ダイアモンド/倉骨彰

「歴史は、異なる人々によって異なる経路をたどったが、それは、人々のおかれた環境の差異によるものであって、人々の生物学的な差異によるものではない(35P)」ことの証明を試みる本。
 私の中のヘロドトスが「わー、斬新なテーマ設定だなぁ」と感心している。同じことでも物語風ではなく、データをいろいろ並べて証明できるようになったのはヘロドトスから大きく進歩した点だ。もともとは生物学が専門だった著者は、そっち方面の問題にくわしい。
 大陸間の情報を比較できるようになったことも大きい。何よりもヘロドトスの時代以降に起こったことが著者の疑問の出発点になっている。

 ただ、本書が執筆された時点では判明していなかったのだろうが、今ではクロマニョン人とネアンデルタール人の混血が考えられるように学説が変化してきている。「劣った」ネアンデルタール人の血が混じって強くなったなら奇妙なことに思われるかも知れないが、「雑種」はいろいろ強いものである。
 またポリネシアに関する情報が多くて、最近読んだ本と関連して興味深かったのだけど、最近読んだ本では本書のように「ポリネシアの人々は自然の資源をとりつくしてから食料生産に移行した」のではなく、「食料生産が軌道に乗る前の時間を埋めるために自然の食料資源を利用した」と説明されていた。
 何度も植民を繰り返してきてパターンを持っていたであろうポリネシア人のことだから、最初期はともかく植民に慣れてからは食料生産までの流れが固まっていたのではないか。
 ところで日本語版向けへのまえがきで使った「日本が世界で最初に研磨した石器を使った」というのは御子柴型石斧のことを指しているのかなぁ。執筆時期の関係もあって、たまに疑問も抱いたが、著者の博識ぶりには驚かされた。

 大陸間の歴史には「家畜」の確保が大きな差を生み出す原因になっているのだが、アメリカ大陸では家畜かできる動物が人間によって大量絶滅させられたことも本書は指摘しており、「自業自得」との印象を封じ込めるのが難しかった。一部の読者には植民地化を正当化させてしまう材料を別に与えてしまったのでは?
 まぁ、ユーラシア大陸の人間も警戒心のまったくない野生動物に接触していたら取り付くしてしまった可能性が高い。縄文人だったらある程度のところでブレーキを掛けた気もするのだが、自分たちの生活圏を自由に拡大していける気分になっている人々と、それぞれのグループがぎちぎちに接している人々では考え方が違っても当然かなぁ。
 因果応報の思いこみを封印できても、オーストラリアやアメリカの原住民が取り付くしてしまった動物の中に家畜化できる動物がいたら……という夢は捨てきれない。

 農作物や家畜の情報が東西には広がりやすい話に関しては、著者は触れていないが「遊牧民」の要素も無視できないはず。仮に砂漠地帯が間にあっても彼らがいれば似た気候の場所まで情報を運んでくれる可能性が高まる。
 同様に遊牧民が活動したサハラ南縁の研究が進むことで、遊牧民の媒介としての働きが、大陸間の歴史に与えたインパクトが評価されるようになることを期待する。

関連書評
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オセアニア〜暮らしの考古学 印東道子:オーストロネシアについてもっと知りたい人に
歴史・上 ヘロドトス/松平千秋・訳

文庫 銃・病原菌・鉄 (上) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫)
文庫 銃・病原菌・鉄 (上) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫)
カテゴリ:科学全般 | 00:39 | comments(0) | trackbacks(0)

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