<< 宝石 ロナルド・ルイス・ボネウィッツ/文 伊藤伸子/訳 | main | 香乱記・中 宮城谷昌光 >>

香乱記・上 宮城谷昌光

 始皇帝時代の末期から大乱の始まりまで、あまたの群雄が活躍した時代を斉の田横を主人公にして描く歴史作品。劉邦と項羽の戦いの側面を飾っていた印象の人物が、意外や大器であったことが分かる。
 斉の王室の血を引いていることが、かえって彼の枠を天下まで広げてくれなかったのかもしれない。

 項梁が田横に剣を教えていたり、近くで活動している盗賊の名前に彭越が出てきたり、英雄たちのニアミスっぷりが楽しい。特に扶蘇との関わりは強くて、皇太子の惜しさがよく分かった。彼の代わりに立つのが胡亥では悔やんでも悔やみ切れない。

 対照的に生き延びてはいるが残念なのが名宰相だったはずの李斯である。守るものが増えすぎた彼は、ただひたすら苦悩を続けている。ちょっとした勇気があれば世界を救える位置にいたのに、しかも賢明な人物なのに、どうしてこうなってしまうのか。人間の不思議を感じざるを得ない。
 思えば呂后が猛威をふるっていた時代の陳平も、あのまま没していたら李斯の轍を踏むことになったはずだ。謗りを受ける可能性があったのに、よくぞ耐えたものである。

 あいかわらずヒロインが豊富で、李桐の賢さと可愛さには打たれるものさえあった。だが小珈の死の悲しみが、無くなるわけではない。田氏が襲われた悲劇は、法治国家の弱点が良くみえるエピソードだった。

宮城谷昌光作品感想記事一覧

香乱記〈上巻〉
香乱記〈上巻〉
カテゴリ:時代・歴史小説 | 18:11 | comments(0) | trackbacks(0)

スポンサーサイト

カテゴリ:- | 18:11 | - | -
コメント
コメントする









この記事のトラックバックURL
http://sanasen.jugem.jp/trackback/2487
トラックバック