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レッドサンブラッククロス秘録 佐藤大輔

戦艦<土佐>夜戦艦橋の悪夢
 キューバ沖、ユカタン海峡北西で行われた独仏と日英米の激しい夜戦。キューバ周辺はソロモン海戦に汎をとっているらしいが、電探の使用に関しては捻くれた見解が行われている。ジェット機ともども開発途上にあったがゆえの歪みであろう。
 水平弾道弾ばかりとはいえ、日本海軍秘蔵の水中弾道弾が効力を発揮してくれれば戦いをかなり有利に展開できた気がするのだけど、ツォルンドルフを脱落させるので精一杯だったのは旧式戦艦であるがゆえか。
 装甲巡洋艦も互いの戦力を削りあいながら、残存していても指揮官に過剰な期待を抱かせていない事が引き分けをもたらした一つの要因になっている。あえて無理をいえばハバナへの攻撃をふせいだドイツ側が判定勝ちだろうが、政治的にはともかく軍事的には――策源地までの距離と回復力を考えると――引き分けとしか言いようがない。
 まともな軍人ならいかにも嫌いそうな戦いである。でも愉しい。

十式戦爆今日もまた大空に在り
 ミシシッピー戦線での戦術爆撃任務の話。本編で親しんできた山田大尉が地上撃破エースであることが判明。安直にいえば和製ルーデルか。彼の五式戦闘爆撃機による対地支援任務に比べればジェット機が配備された後の戦いはマシに思える。もちろん、過酷であることは戦争である以上変化してくれるわけじゃないけれど。
 それにしてもパイロット話なのに地味だ。

北米に長一〇サンチの残響哀し
 七式中戦車の開発経緯と実戦投入。貧乏な軍隊は辛いのである。史実でも海軍の艦艇に積まれていた大砲が遊んでいて、陸軍に回してやれば有効利用できた例があったような……あまりに立場が弱いRSBC日本陸軍だからこそ強力な主砲を備えた戦車を開発できたとすれば皮肉だ。
 戦闘は陣地防衛戦になっており、新型戦車に期待されるような機甲戦のテンポはない。そんな状況にあったら数的劣勢な日英軍が一方的に飲み込まれて殺られてしまっている。独軍の主攻正面は合衆国なのである。
 キューバ沖に続いて、ちょこちょこと働いているヴィシー・フランス軍が可愛い。

三人の語る第三次世界大戦
 佐藤氏はふざけすぎにしても三者三様の見方で第三次世界大戦が分析されるのは興味深かった。それぞれの視点で戦争の行く末を同じように予見しており、それは正鵠を射ている。専門家には結果が分かっているのに、なぜ戦争が起こるのか不思議になってしまう。それが歴史の魅力と片付けられなくもない。
 そもそも第二次世界大戦にドイツが勝利した悪夢について、まっとうな彼らが予言できた可能性は低いわけで、いっしゅ矛盾しているところがある。
 スターリンの敗北が興味深かった。大祖国戦争に移行できずに政治家のための戦いに終始してしまった模様。

付・昭和二三年度陸軍戦車総覧
 砲身長のデータがあると直感的に分かりやすい。イギリスの17ポンド砲は流用しないのかな――生産拠点から考えればイギリスが日本の砲を流用すべきか。

列強各国重要人物(秘)便覧
 これはとても便利。ギースラー兄弟の伏線や予備士官たちの戦いが脳裏に甦る。たまに簡略すぎて説明になっていない説明が混ざる。フォン・ブラウンの副長=フォン・ブラウンの副長、フォン・ブラウンの砲術長=フォン・ブラウンの砲術長って何やねん!

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カテゴリ:架空戦記小説 | 12:24 | comments(0) | trackbacks(0)

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