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高度36,000キロの墜死 谷甲州

 21世紀、静止衛星軌道上の都市サイナス市で起こった謎だらけの殺人事件。広沢部長ひきいる保安部はサイナス社の内部問題に絡む犯罪に肉迫していくが……やりかたが強引すぎるので、どちらが犯罪者なのか分からないのである。どうして谷先生のSFキャラは揃いも揃って結果オーライで行動するのだ?みている方はハラハラさせられ通しである。
 読んでいてひとつ気付いたのは事実上、一私企業の占有物である軌道都市においては人間の労働力だけではなく人生までもが企業に購入される危険に満ち満ちているという事だ。まさしく生殺与奪の権利が企業の一手に握られているに等しいのだから抵抗など考えようもないし、軌道都市の特殊な重力で育った人間が別の仕事を探すのはひどく難しくなる。最悪の場合は企業による労働者の奴隷化が起こってしまうし、サイナス社のやりかたはそれに近いところがあった。

 そんな世界だからこそ多少は強引であっても公権力には活躍してもらわねばならない。ただ、ダグやエレナの捜査は多少強引なのではなくて「多大に」強引なのでやっぱり引いてしまう。パイロットにはじまって何も知らない警備課員まで巻き込まれた人々の可哀相なこと、筆舌に尽くしがたいところがある。
 しかし、そんな連中に親しみが湧いてしまうのも事実だ。キャラクター造形の巧みさというか、体臭すら感じられそうな生々しい人物描写がまるで彼らを未来に生きた人間であるかのように錯覚させ、感情移入を許す。
 特にエレナは粗暴もえくぼ、良質のツンデレとして再評価する事ができた。頭の中でワイルダネスのエナを浮かべていた事も影響しているだろう。まぁ、クレイジーさではエレナが数倍上回るが。

 弾道飛行の軌道計算によるアリバイ問題や鉄アレイ状をしたSOE32の内部の詳細も興味深かった。SFとしてもミステリとしてもラブコメとしても楽しめたが、だからこそ物足りなく感じる側面があったことは否めない。欲張りすぎる作品だ。

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高度36,000キロの墜死
谷 甲州
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