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航空宇宙軍史〜終わりなき索敵・上 谷甲州

 外惑星動乱直後、太陽系に亜光速で接近する謎の重力波原体「SG」を観測するために航空宇宙軍外宇宙艦隊の観測船ユリシーズが飛び立った。それが艦長のロックウッド大佐と員数外乗員の作業体Kにとっての長い長いオデュッセイアになるとも知らず――。

 航空宇宙軍史の集大成といって良い作品。上下巻の中に外惑星探査と対汎銀河連合戦争を組み込んで複雑で意味深な物語を生み出している。
 超光速航行技術が確立された航空宇宙軍史世界においては時間も空間と同じように可変の要素として扱われ、SGによる歴史干渉からその揺り戻しにいたるまで複雑な流れを作り出している。
 そのせいで登場人物の記憶までもが錯綜し、もともと客観性を極端に高めた谷甲州の一人称表現が、鮮やかに主人公格を転移させていく。機械による外部記憶やテレパシー的情報――あるいは人格流入は硬派な深宇宙SFでありながらサイバーパンクの最良の部分を換骨奪胎しているところがあった。
 ともかく、今までの長編・短編の積み重なりも利して極めて深みのある凄い作品になっている――だからこそ新規の主人格としてロックウッド大佐の果たした役割はかなり大きかった。

 ガンガ級主力戦闘艦に座乗して汎銀河連合軍と戦ったジャムツォ中将の認識が「前世」の航空宇宙軍に強烈な影響を与えている。彼の主張をみると旧日本軍がレーダーさえ配備すれば戦争に勝てたとする乱暴な論理を思いだす。けっきょく、運用思想を抜本的に変えなければ解決には至らないというのに……つまり総力戦の結果を決めるのは国力でなければ「国民性」そのものなのかもしれない。
 汎銀河連合がジャムツォ艦隊を撃破できたのは、同規模星系の連合体である彼らが地球の集中度に対抗するために必然的に通信・交流能力の強化を追求したからだとも考えられる。それはアメリカ合衆国が広大な国土をもつがゆえに高度な通信網を整備していった様子に似ていないだろうか?あの国では戦前にテレビが普及していたのだ……。
 もう一点あげればシャフトの強制形成などを可能にするような強引な自然干渉に、汎銀河人はそれこそ「生まれてくる前から」高い経験値を誇っていた。深層心理的な知識量と自然干渉への適性では地球人を遥かにうわまわっていたのではないか。
 対する地球側は事実上「航空宇宙軍」という文化しか持たずに戦う破目になった。多様性を認めず、あくまでも人間や組織の枠内で環境を処理しようとした彼らは戦争ではなく宇宙への適応競争に敗れたのかもしれない。

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終わりなき索敵〈上〉航空宇宙軍史 (ハヤカワ文庫JA)
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谷 甲州
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コメント
はじめまして。最新のSFマガジン2010年2月号
ご覧になりました?ついに航空宇宙軍史15年ぶりの復活!
懐かしきあのタイタン軍のパイロットが主人公です。
長編構想の一編だそうです。


2ちゃんねるのSF板スレに行ったんですが、誰も
気付いてないんです・・どうなってるんだろう?
私はダイアルアップ規制で書き込めなくて見るだけ
なもので、できましたら2ちゃんねるの同志たちにも
知らせてあげていただけんでしょうか?
お願いいたします。
| ほげほげ | 2009/12/27 12:46 AM |
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