<< 航空宇宙軍史〜終わりなき索敵・上 谷甲州 | main | 惑星CB-8越冬隊 谷甲州 >>

終わりなき索敵・下 谷甲州

 汎銀河連合との接触に成功した航空宇宙軍はロックウッド准将を含む艦隊を派遣。徐々に侵略的な姿勢を強めていく――SGによって伝えられた未来を厳密になぞるように。

 戦士ダムダリの飛翔ほど印象的なものはなかった。ほとんど生身で軌道上の艦隊を攻撃する弾道飛行をなしとげてしまったのだから、まったく谷甲州的超人の集大成といえる人物である。彼は地球人的感覚で捉えるのが間違っていて、一種のアーヴだと考えれば多少は納得できるかもしれない。
 日本海軍の夜間見張り員やサバンナに住む部族の視力を考えれば、日常で感じている人間の限界の範囲が狭すぎるだけとも考えられる。ともかく、あれはダムダリ以外の誰にもできないだろう、そんな確信を抱かされる行為であった(しかし、航空宇宙軍は同種の攻撃を同時多発的に受けている。他の汎銀河惑星にも超人がいるらしい……)。
 ダムダリの攻撃を語るときには蒼龍という腔腸動物から進化した気配のする驚異的な生物の存在も忘れてはならない。空気中のプランクトンをかき集めて生活するだけでも信じがたいのに、体内にレールガンもっているのだから想像を絶する。
 ある意味、ダムダリの攻撃は航空宇宙軍にとって進化学的奇襲であった。あくまでも軍組織である彼らに防ぐのは不可能だったに違いない。これが生物学者や博物学者をくわえた「普通の」探査艦隊であれば関係が悪化しても、ここまで酷い衝突にはならなかったはずだ。
 まったくSGによって捻じ曲げられることで決定されてしまった未来に果敢に挑む航空宇宙軍の敢闘精神には尊敬の念すら覚える。ジャムツォ中将は馬鹿にみえるが、じつは大馬鹿なのだ。この事実は大きい……。

 何度もさかのぼればSGによる干渉なしで汎銀河連合に遭遇した宇宙の情報も眠っているのかと考えたが、その場合の航空宇宙軍の存在に自信が持てない。ただ、積極的にその発現を否定する材料はないように思われる。
 敗北が新しい敗北の材料になるのだから、どこをどういじっても無駄だけど――この世界観にはちょっと腹が立つのだが、ロックウッド中将と何度も臨死体験しているおかげで生命に対する無常観が育っていて耐えられた。航空宇宙軍が勝ってもろくな未来が想像できない点では、大日本帝国があのまま勝った未来と大差がない気がする。

 すべては予定調和。汎銀河連合が生まれたのも、航空宇宙軍が敗北したのも、人類が宇宙への終わりなき索敵を止めないのも、すべては美しい予定調和だったのだ。それをもって希望があることにしておきたい物語だ。


 しかし、読み直すたびに内容の細部が変わっている印象を受けるのは何故だ?もしかして、この小説自体がSGの送り出したものなんじゃないかと妄想してしまう。

谷甲州作品感想記事一覧

終わりなき索敵〈下〉航空宇宙軍史 (ハヤカワ文庫JA)
終わりなき索敵〈下〉航空宇宙軍史 (ハヤカワ文庫JA)
谷 甲州
カテゴリ:SF | 12:09 | comments(2) | trackbacks(0)

スポンサーサイト

カテゴリ:- | 12:09 | - | -
コメント
#しかし、読み直すたびに内容の細部が変わっている印象を受けるのは何故だ?もしかして、この小説自体がSGの送り出したものなんじゃないかと妄想してしまう。

いや、まったくそうですね。
昨日、読み直してみたら、細部が異なるような印象を受けました。
SG恐るべし。
| dd | 2008/05/26 2:27 PM |
 コメントありがとうございます。

 真面目に考えると他の航空宇宙軍史作品で読んでいるシーンを再経験する場面が頻繁にあるせいで同じ場所に位相の異なる状態で二度いる感覚になって幻惑されやすいのかもしれません。
 それはロックウッド大佐が感じていた違和感に近いもののような気もします。
| こいん | 2008/05/26 7:57 PM |
コメントする









この記事のトラックバックURL
http://sanasen.jugem.jp/trackback/511
トラックバック