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進化の設計者 林譲治

 環境問題・社会問題・国際問題と不安になることばかりが多い近未来を安定した筆致で描いたユビキタスSF。自分が生きて遭遇する可能性が非常に高い未来であるから興味は強烈だが、それだけに主観が入りまじってしまい予想するのは――あるていど負のフィードバックによる安定が期待できる――遥か未来より難しい部分があったりするのだ。
 そもそも未来を予想する自分の行動までもモデルに取り込まなければいけないわけで、まったくカオスに陥るのは当然といえるのではないか。SF作家が「未来はこうなる」と書いたことで、そっちに近づくのか遠のくのかは一概には言えないけれども変化がないわけがない。
 だから面白いわけだが、面白がってばかりもいられないのが悲しさである。

 ストーリーでは日本が技術力と国際的な主導権をそれなりに維持している様子がわかってよかった。どうもアジアでの利害関係をロシアを巻き込むことで何とか一致させて、欧米からの干渉を低減し、三極構造の一角で影響力を行使している感じである。
 見方をかえれば自分が強気になれる土俵をつくって内弁慶に走っているといえなくもないが、プライドよりは国民に利益を供給できることの方が大事だ。
 ユーレカと呼ばれるIT・格差社会にうまく寄生した新種のファシストどもは洗ってない犬の臭いがするんだよ!うざったいけれども、いつの時代にもいる彼らを利用して目的を達成しようとする黒幕達の存在をみると憐れでもある。
 あれでナチスドイツの将軍たちの中にはヒトラーのお陰で出世できたことを感謝したのもいるらしいし、死守命令のウザさをいうがそんな命令を受けれる身分になれたのは誰のお陰だとか、考えはじめると人を全体主義に走らせるほどの閉塞感をもたらすものにも全体主義と同じくらい好意的になれないわけだが。

 どちらかというと面白いと感じた北阪神市の事件が本筋に組み込まれる力が弱かったのが気になった。もっと綺麗にまとまってくれないなら、あの傍流はいらなかったなぁ。美海種割れの伏線にするにもコミットが薄すぎる。
 水中人型ロボット同士の対決はちょっと燃える展開だったとはいえ、こういう戦いをかっちょいい女性にやらせる林先生の癖みたいなものが気になりもする。

 進化は環境の激変にともなって必然的に現れ、生物の希望にも不安にもなる。もしかしたら、進化がその傾向を加速させるためにいっそう環境を不安定にするように挙動することだってありえるのかもしれない。
 いろいろと考えさせられる話だった。

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進化の設計者 (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)
進化の設計者 (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)
林 譲治
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