<< 星ナビ10月号 | main | 星ナビ11月号 改造デジカメ大全 >>

果てなき蒼氓 谷甲州・水樹和佳子

 甲州節を維持しながらも格調高く感傷的な文章と、繊細で壮麗な水樹和佳子先生の絵で綴られる。星々の民の物語。読んでいると悠久の時の流れと広大な宇宙空間に身を委ねる感じがして、かなりトリップできる。まさに夢見心地といおうか。

 完全なSFであるにも関わらず、メカニックを可能な限り排除してオーガニックな存在を主役にしつづけているのも特徴。それでいて巻末に前野昌弘氏による物理学的な解説が付属しているのだから面白い趣向だ。おかげでSF作家がどれだけ多くのことを考えながら描写しているのか実感できた。
 高度に空想的な絵とあいまってひとつひとつの美しいシーンが、過去が甦るように流れていく感覚は、この作品の印象をかなり強烈なものにしている。原風景を刻み込む能力において真に絵本的な作品といえよう。その対象に子供ではなく大人をおさめられるのだから、見事だ。

 キャラクターは各時代に男女一人ずつが選出されることが多く、時に乗物となる「何か」が加わって話を動かしていく。生物でありながら核融合を可能としているアグニやシャンカラたちの存在には驚嘆されるが、同時に妙なリアリティをもった生態が描かれているから親しみも湧いていく。
 特にアグニは旅の友という感覚が強く、ガルパティ編においてはプリティヴィよりヒロイン的に感じられてしまった……あっさりしているだけに切ない別れだったな。まさしく両者は住む世界が違うわけで、かなり宇宙に適応したこの世界の人類でも常に一緒にいることは難しい。
 運命に導かれたかのような男女の不思議な結びつきは悪くない。しかし、世界の規模に反して登場人物の少なさと連続性の強さが顕著すぎて狭い社会での物語に感じられてしまったのは、やや残念だった。
 世界の広いからこそ、生命の密度が低いせいもあるかもしれないが。

 全編を通して、生命の宇宙に広がって行こうとする美しくも恐ろしい意志の力が貫いていた。こんな意志の持ち主が大統領にいたら前世紀に人類は火星に到達していただろうな……。

谷甲州作品感想記事一覧

果てなき蒼氓
果てなき蒼氓
谷 甲州,水樹 和佳子
カテゴリ:SF | 10:38 | comments(0) | trackbacks(0)

スポンサーサイト

カテゴリ:- | 10:38 | - | -
コメント
コメントする









この記事のトラックバックURL
http://sanasen.jugem.jp/trackback/554
トラックバック