<< SFアンソロジー 宇宙への帰還 | main | 小説東京アンダーグラウンド〜いばら姫の恋人 嶋田純子・有楽彰展 >>

エリヌス-戒厳令- 谷甲州

 外惑星動乱から23年、地下活動にいきづまりを感じていた外惑星連合軍SPAは天王星系の第六衛星エリヌスを分離独立させ、聖域を設定しようと大規模な軍事行動を企図する。それに対するエリヌスの公安当局や深遠な意図を隠した航空宇宙軍の行動が複雑に絡み合った驚嘆すべきプロットで、未来の事件史が描かれている。

 なんといっても物理条件の綿密な検討による状況設定と、それを最大限に活かしたSPAのしたたかさを感じさせる行動の数々がおもしろい。
 太陽のスイングバイを利用した欺瞞軌道から、直線状に並んだ惑星配列を活かしたカモフラージュまで、物理をふんだんに使った設定が巧妙で知的なストーリーを織り成している。とどめをさすのは天王星系の物理特性がもつ戦略的価値に言及する点だろう。まったく思いもよらない視点で宇宙をみせてくれる点でSF的センス・オブ・ワンダー(恐ろしく歯応えの硬いものだが)を持っていた。


 この件でSPAはカミンスキィ中佐まで失ってしまい、事実上壊滅状態に陥ったと思うのだが、第二次外惑星動乱にSPAはあまり連続性をもった影響は及ぼさないのかな?ヴァルキリーが他星系に持ち出されていた点を考えれば、幹部や戦闘部隊を失ったくらいでいきなり壊滅することはなく、ここは伏在してやがてまた芽吹くのかもしれない。教授が死んだのは相当大きかったわけで、それぞれのキャラクターが個人的な行動で人類史に及ぼした影響の大きさに気付くと軽く眩暈がした(特にタマン軍曹は……)。
 おかげでそれでも天王星はそこにある――というラストがより印象的に感じられる。

 アクエリアスが搭載している艦載機は、オルカ・キラーのそれと連続性をもったものなのかなぁ。やはり機動力によって作戦の自由度が格段に向上する点に利があるようだ。ハードウェアとしての魅力では単艦戦闘能力に長じたゾディアック級フリゲートの印象が好きなのだけど、運用面をいろいろ考えたうえでの選択なのだからしかたないと論理への信頼感から納得できてしまうのも谷甲州作品の特殊性だろう。

エリヌス―戒厳令 (ハヤカワ文庫JA―航空宇宙軍史)
谷 甲州
カテゴリ:SF | 12:15 | comments(0) | trackbacks(0)

スポンサーサイト

カテゴリ:- | 12:15 | - | -
コメント
コメントする









この記事のトラックバックURL
http://sanasen.jugem.jp/trackback/662
トラックバック