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カリスト-開戦前夜- 谷甲州

 外惑星連合のイニシアチブを握っていたカリストの政治状況をえがくスリラー調のSF。まったく驚くほどSFらしからぬ部分があり、存在しない歴史書を読んでいる気分にさせられる。外惑星連合が立たされるに至った立場には歴史的に類推できる要素が大量に含まれていたのだ。
 たとえば瀬戸際的な軍の拡大方針は作者があとがきでも述べているようにナチスドイツが取ってきたものだし、仮想敵国の生産力に依存した状態で戦略を構築しなければならない問題は大日本帝国が経験してきたそれである――外惑星連合側には水素燃料の資源を握っている利があるけれど、地球-月連合が他の補給源を探れる点では決定的ではない。
 そしてタイタンはヘタリアのオマージュか(遠隔地の意味では日本なのだが)。タイタンとの同盟にある問題は利害関係のすりあわせがカリスト・ガニメデほど充分にできていない事だ。独力では地球-月連合に対抗できないから無理矢理寄り集まっているだけで、その政治的立場の違いが無視できない域に達していた。寂しさに駆られて強引にくっつくよりはガリレオ衛星でバランスのよい同盟関係を構築していったほうが上手くいったのではないか。

 この緊迫した綱引きをみて考えさせられるのは大きく太陽系にひろがった人類の意志をいつまで統一できるのか、そしてそれだけの意味があるのか、という問題だ。逆にいえば資源を強引に握るために航空宇宙軍の査察からはじまる工作が行われたとみることもできる。重水素禁輸による地球圏の経済的混乱も彼らにしてみれば権力拡大の基盤になるにすぎない。
 そこにできるだけ効率的に資源をつかって人類圏を拡大していく意志はなく、ともかく一手に資源をまとめておくことが優先されているのだ。
 けっきょく、外惑星連合はそのための程よいダシに使われてしまったのだろう(まさしく最高のタイミングでいちゃもんをつけてきたわけだ)。その懐の深さにおいて同じ土俵に立つことすらできなかったと考えても過言ではない。エリクセン准将のみが思想面で抗しうるものを持ったようにも感じられたけど、最終的に芽吹くのはあまりにも遅すぎた。彼の時間スケールで生きられる人間はいない。
 それでも最終的に人の意志は受け継がれて、歴史の形になっていくのかもしれない。


 経済シミュレーションのようなハードな内容が多く派手なシーンは少なかったが、だからこそダンテ隊長のハードボイルドな活躍には楽しませてもらった。陸戦隊の隊員集めもあって、この辺りのキャラクターは非常に立っている。
 しかし、ミッチナー将軍だけは非常に悪い意味で個性豊かだったような……おもちゃを与えられたばかりの餓鬼と変わらない。本当によく将軍になれたなぁ。カリストの人材が不足というより人事システムに重大な欠陥があったのではないか。あの劉邦の幕僚たちは彼の地元出身者が異常に多いが、それで優秀に機能していた。人材は人口が少なくてもいるものなのだ――とはいえ、多様性をもたらす「環境」の幅ではやはり宇宙生活者に不利な面がでる可能性は否めないか。

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カリスト―開戦前夜
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