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宇宙からの帰還 立花隆

 宇宙開発黎明期からアポロ・ソユーズ計画時代までの宇宙飛行士への徹底したインタビューで宇宙体験が人間心理に与える影響の深さを調査したひじょうに興味深いノンフィクション。宇宙へ行って来た人々の体験も新鮮ならば、この本が発行された時代の雰囲気も新鮮に感じられて二重におもしろかった。
 この本を読むことでガンダムにある「ニュータイプ」の考えが生まれてきた理由を探ることができるだろうし、21世紀には太陽系全域に人類が進出している古典SFが何故あれほど多いのかも感覚的に想像することができる。
 やはり人類は月に行ったのだ。そして見て帰ってきた男たちが何人かいる。それなのに現在の停滞ぶりはとても残念に思われるのだけど、最後のほうにあった予算がつかなくなった宇宙開発の現状を嘆くコメントを読んで、こうなった理由も分からないでもない。
 けっきょく、宇宙を採算のとれる経済活動の場にしなければいけないのが、そこに至るまでの橋を架ける支点をうまくみつけられず、鈍化した状態でじりじり進んでいる状況のようだ。まぁ、今世紀中には何らかの加速要因が生じてくれるものと期待しているけど。

 宇宙飛行士たちのインタビューは報道番組で紹介される彼らの実態をいろいろ知ることができておもしろかった。それぞれ興味深い人生を歩んでいるのは宇宙に行った経験をもとにしたもの、ですべて説明したくなるけど、すでに宇宙飛行士になった時点で特殊なことも忘れてはいけないだろう。
 とはいえ、宇宙での経験から深い精神世界への洞察をひらいた話の数々は共通点がいくつも見られる点でも説得力があって、おぼろげながら彼らが語る「神」についてもぼやけた輪郭がみえた気がした。
 どんな経験をしても、それを理解する背景にあるのはアメリカ人として育ってきたことの影響を強く受けており、切り離して語れない。その説明のためにアメリカの宗教についても結構くわしくなれた感じだ。また、その正反対の意味で「宇宙で育った人間」の変容を想像させる構成になっているのは上手い。環境は人間を規定するって奴か。
 ファンダメンタリストであっても宇宙飛行士になっただけあって頭脳明晰に語ってくれるところは凄いというか何というか……。

 この本を読んでいちばん意識したのは「テクノロジーの発展が人間意識を変容させる」ことだ。別に月面旅行は宇宙飛行士に神をみせるために行われたわけではないが、結果的にはおおむねそのようになった。これからの未来はより多くの人が似たような経験をすることになるだろう。
 すでにグーグルアースのような擬似的に宇宙飛行士の視点をえられるツールだって存在しているのだから、余計に神への扉を開いていく人は増えていくはずである。それはもはや決定づけられたことに近く、感覚の開かれた宇宙人の誕生を一抹の恐怖を感じつつも期待に満ちた目で見守りたくなる。

宇宙への帰還感想:このノンフィクションをもじったタイトルのSFアンソロジー

宇宙からの帰還 (中公文庫)
宇宙からの帰還 (中公文庫)
立花 隆
カテゴリ:天文 | 15:13 | comments(0) | trackbacks(0)

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