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ふわふわの泉 野尻抱介

 空気よりも軽くて非常に強靭な夢の物質「ふわふわ」をひょんなことから発明した女子高生浅倉泉がそのふわふわした人生哲学から社会そのものを変革していく架空素材SF作品。
 その圧倒的な材質のよさもあって三年で社員八千人の規模に会社を拡大するなど、途方もない快進撃が楽しめる。しかし、流石に宇宙開発はとんとん拍子で進められる行為ではなく、ボスにふさわしい難易度になっていてよかった。この後の地球がどうなってしまうのか想像するだけでも変な笑いが止まらない。
 そもそも「ふわふわ」発見のエピソードにあまりにもお約束すぎる落雷をもってきている辺りからして冗談がすさまじいからなぁ……ギャグのような現象でもいつもの理知的に透き通った筆致で描かれているから余計に捻りが効いていた。

 ただ、地球外知的生命体「スター・フォッグ」とのファーストコンタクトが挿入されていたのは微妙に引っ掛かる――他の手段でもって、ストーリーを綺麗にまとめることができたはずだと考えてしまった。そりゃ、昶とのロマンスじゃ安直すぎるけど。
 まぁ、野尻抱介先生にとってファーストコンタクトが欠かせないテーマのひとつであることは分かるので、なんだかんだと織り込んでしまえばそれで勝ちなのかもしれない。霧子のキャラクターは卑怯というか、見事なディテールを与えられながらも私を含む「一部の層」にたまらんデザインになっていて大したものだ。
 ふわふわよりも彼女が数グラムほしい……。

 ファーストコンタクトより大きなテーマであった「アウトサイダー」の生きる場所について考えると、どこまで進んでもやがてはアウトサイダーにとって快適な環境ではなくなってしまい、フロンティアラインにしか存在し続けられないのではないかと暗い考えにも囚われた。それでも閉じた二次元の陸地や閉じた三次元(実質二次元)の空域ではなく、宇宙空間にまで乗り出せば生きられる場所は増えるかな?あまり「先端」までの距離ができてしまうと内部のアウトサイダーを末端に輸送する時間差やコストが問題になりそうなのは気がかりだが。
 スター・フォッグのライフスタイルが理想だけど、理想だけに実現不可能と作中で言われてしまっているのも厳しかった。だが、

 人類は、自分にとって幸福に思われるような生活をたがいに許す方が、他の人々が幸福と感ずるような生活を各人に強いるときよりも、得るところが一層多いのである。――J・S・ミル「自由論」より

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ふわふわの泉 (ファミ通文庫)
ふわふわの泉 (ファミ通文庫)
野尻 抱介
カテゴリ:SF | 16:51 | comments(1) | trackbacks(0)

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コメント
はじめまして。
霧子ちゃんの件ですが、これはこの作品がアーサー・C・クラークの楽園の泉のオマージュになってるためでしょう。
| kk | 2011/11/14 12:58 AM |
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