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内乱記 カエサル・著 國原吉之助・訳

 ルビコン川以後のポンペイユスを領袖とする守旧派との内戦を描く、最高司令官カエサル自身による著作。ガリア戦記にくらべると政治的配慮や絶対的な価値観の衝突でない影響があるのか、写本が少なく、文章に欠落があって欲求不満にさいなまれる事もしばしばであった。
 しかし、代わりといっては難だが、カエサルが戦う相手は同時代に二人いてしまった軍事的天才のポンペイユス、率いるのも同質のローマ軍なのだから熱いったらない。ために通常の指揮官だったら、どう考えても再起不能に陥っている状況に追い込まれてもなお、ほとんど強靭な精神力ひとつで彼のレギオンを支えきった英雄の姿に感嘆が湧き上がるのだった。まるで第二次ポエニ戦争で共和制ローマ人がみせた不屈の闘志が彼一人の身に乗り移っているかのようだ。
 作中でいろいろと批判されているけれど、守旧派が悪いのではなく、カエサルを敵に回したことがそもそもの無理だったのだと思われる……やっぱり判断力の点では問題があったといえなくもない。

 とはいえ、戦争は内乱であり、敵味方がわずかな情報や恩顧でたやすく変化する。常に流転する運を正確に読みきれる人間などいなかっただろう。そんなダイナミックな政治情勢もカエサルの筆は現在に伝えてくれている。
 だから――しかも雄弁に優れたローマ人同士だから――注目せざるを得ないのは戦争における「宣伝」の要素でもあった。内乱記の中でカエサルが、自らの理念すら曲げて強欲に走る元老院議員を痛烈に批判する一方で、自らと対比される存在であったポンペイユスへの批判には恐ろしく慎重で、一般の兵士には敵味方問わず寛容な扱いをしていることを意識せざるを得ない。
 戦地の都市の描きかたでカエサルが全体的な支持を取り付けたような印象を与えている。しかしながら、地中海世界におけるポンペイユスのコネクションもやはり絶大なるを感じざるを得なかった。先行した英雄にとって惜しむらくは、名声が外縁部に偏っていて、政治能力の拙さから肝心なローマでの威信に頼れなかったことにあるのかもしれない。
 何度かあったイタリア進撃の機会をポンペイユスが活かせなかった政治基盤の問題は、同時に市民戦役が地中海世界にとってローマが「辺境」から「中心」になったことを決定付けたと思わせた。


 もちろん、軍事面でも興味深い記述が多く、デュッラキウムから撤退するときにカエサルが見せた隔離の妙技などにはやたらと感心してしまった。

ガリア戦記 感想

内乱記 (講談社学術文庫)

内乱記 (講談社学術文庫)
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