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巡洋艦サラマンダー 谷甲州

巡洋艦サラマンダー
 外惑星連合軍ゆいいつの正規フリーゲート艦サラマンダーの進路を巡る軍事ドラマ。未完成状態で技術者を乗せながら出港というWW兇離廛螢鵐后Εブ・ウェールズのごとき行動を示した主力艦が、航空宇宙軍の洗いざらい動員の追撃を受けて戦艦ビスマルクのようになってしまうとは数奇なものだ。
 それだけ外惑星連合軍の作戦が無茶苦茶で支援態勢が不充分であったことを意識せざるをえない。そのうえで情報収集船を犠牲にしてでも前線兵力であるサラマンダーを維持しようとするのだからガニメデ軍令部の判断能力はひどく歪んでいた……。
 ただでさえ兵力で劣勢にあるところに、貴重な何かを切り捨てなければ全てを失う選択を迫られたのだから、同情が生じないでもないが――いちばん憐れなのはそんな判断に付き合わされる現場の指揮官と兵たちなのであった。

サラマンダー追撃
 続いて航空宇宙軍視点でサラマンダー追撃戦の顛末が描かれる。すさまじい活躍をみせている警備艦レニー・ルークも健在だ。ある意味、艦内で「技術開発」までなしとげてしまった彼女がサラマンダーを追いつめたようなものだが、正規巡洋艦の行動に掣肘を加えていたのはゾディアック級フリゲート艦を筆頭とする主力の影であることも忘れてはならない。
 こういう結末になってみれば何ヶ月掛かっても期間軌道に乗ったほうが、まだ航空宇宙軍の戦力をひきつけられた気がしてくる。しかし、軍令部の判断がそれすらご破算にしてしまったのは「巡洋艦サラマンダー」で描かれたとおりなのだった。
 両軍の艦種命名基準に大きな差があることも興味深い。もともと警備・救難艦隊だった航空宇宙軍はあまり戦闘的な名前を付けたがらず、できるだけ自らを肥大化させてみせた弱小の外惑星連合軍は派手な命名を好む。「フリゲート」と「巡洋艦」が同格になっている裏にはそんな事情が透けてみえた。
 まぁ、外惑星連合軍お得意の「仮装巡洋艦」のネーミングが固定されている以上、サラマンダーが巡洋艦以上の扱いになったのは必然でもある。
 宇宙戦艦にしなかっただけ、ミッチナー将軍を誉めてもよいのではないか。

アナンケ迎撃作戦
 外惑星動乱の最後を飾るアナンケ迎撃作戦。それすらも有利な講和条件を探るためのものに過ぎず、戦争が続行されれば敗退することが折り込まれている点が悲しくてならない……こんな戦争は始めるべきではなかったのだ。せめて、もっと早期に降伏すべきだったのだ――理性でそう思えてもいったん始まり犠牲を払ってしまった戦争を終わらせるのは用意ではない。
 もしかしたらクーデター未遂を起こしたダグラス将軍やエリクセン准将の犠牲さえもミッチナー将軍にとっては間違った方向で重荷になっていたのかもしれない。あの将軍には表面上は豪放磊落にふるまっていても、深いところでナイーヴなイメージがある。
 追いつめられた側が希望的観測を前提に作戦を立ててしまうのは、いつの時代も同じか(それでも外惑星連合軍は意欲的に理屈付けできたほうだと思う)。そして、圧倒的な戦力の投入が被害を局限するうえでも最良の選択になるのも同じ。

最終兵器ネメシス
 イオの噴火エネルギーを利用して敵艦隊の軌道上に岩塊をまきちらすいろんな意味で終わった兵器「ネメシス」。その帰属を焦点に外惑星連合内での凄惨な死闘が繰り広げられる――生命維持装置を悪用した遠隔操作殺人ほど怖気を誘うものも珍しい。なんというかシーマンシップ的な「あってしかるべき互助意識」を裏切られた気分になってしまう。
 まぁ、ガニメデ衛星諸国家は波涛の奔騰する政治の海で生存競争を余儀なくされていたわけで、その命運を託された士官たちが「一枚の板」のために非情な行動にでるのも無理からぬところか。実にやるせない結末といえた。

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巡洋艦(クルーザー)サラマンダー (ハヤカワ文庫JA―航空宇宙軍史)
カテゴリ:SF | 23:58 | comments(0) | trackbacks(0)

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