火星縦断 ジェフリー・A.ランディス

 2028年、6人の第三次探査隊が火星に到着した。しかし、彼らが乗って帰るはずだった帰還船には故障が発見されてしまい、このままでは地球に帰れないことが判明する。そこでクルーたちは仲間を失いながら北極点にある第一次火星探査隊が残した帰還船を目指して6000キロにもなる火星のジャーニーに挑戦する。

 というストーリーのハードSF。SFにしては現実に偏っていて、ノンフィクションの探検ものを読むような感覚で楽しめた。著者が現役のNASA職員で火星を専門にしていることもあり、地域ごとの風景描写は必見ものの充実ぶりだ(それでも細かい説明を避けるために地質学者を優先的につぶしているような気がしたが)。

 6人の登場人物の人生が旅の中で活写されていくところも注目点。個人的にはまんべんなく掘り下げすぎだと思ったけど、あのラストに説得力をもたせるには必要なことだったのだろう。


 しかし、ちょっとケチをつけたいのは旅の前に全員が帰還船に乗れないことが分かっていたのだから、二人くらいを置いていく判断はできなかったのだろうか?6人分の物資を2人で消費すれば救援船に賭けることも無謀ではなくなるし、旅にでるのもリスクが高いのは同じなのだから進んで残るものもでたかもしれないのに。
 せめてラストフライトの直前には誰が残るか決めるべきだったと思う。そうすれば飛行機は北極点に辿り着けたはずだし、居残り組もわざわざ帰り道のことを考えなくて済んだ。

 まぁ、物理と違って行動に文句をいれてもあまり意味はないだろう。極限状態の人間の判断力は狂うものだし、探検隊の中において必ずしも理性で物事が処理されていないことは紙面からも伝わってきた。

 ラストシーンは火星年代記に比肩しうるものだったと太鼓判を押したい。

火星縦断
火星縦断
ジェフリー・A.ランディス, 小野田 和子
カテゴリ:SF | 20:14 | comments(0) | trackbacks(0)

神秘の島 バリ ナショナルジオグラフィックDVD

 インドネシア、ジャワ島の東に位置する島、バリではヒンドゥー教とイスラム教と仏教が複雑に絡み合い豊かな文化を誇る。この島においては宗教は生活と一体といってもいいほど密着しており、人々の行動にはどんなときでも宗教観があらわれているようだ。

 頭の上に高く果物――神様への供え物を積み上げて運ぶ女性の姿や、ダンスを学ぶ少年の揺れるような動きなど、印象的なシーンが数多くあった。トランス状態になって自分に短剣をつきたてるのは衝撃的だが、それだけ信仰が息づいていると考えれば彼らへの尊敬に転化することもできる。

バリ神秘の島
バリ神秘の島

カテゴリ:ナショナルジオグラフィックDVD | 20:29 | comments(0) | trackbacks(0)

月刊天文6月号

 さわりだけ。

日食特集
 もう読み飽きた。見ることができなかったものの記事を何度も読むのは精神衛生に悪い。写真のレベルは天文ガイドと同じくらい。

読者の写真
 全体的に、よくいって素朴な作品が多い。ある意味ほっとするが、ここに留まっているのは上昇志向の人には良くないかも。ただし土星の白斑の写っている写真は出色の出来で、私が今まで見た中でいちばんハッキリ写っていた。ちょっと感動した。

地震と満月
 相関性なしということだが、あくまでも地震と満月の相関性であって、地震と潮汐力には相関があるはず。イオやエウロパの活動は木星の潮汐力によるものだ。少なくとも満潮のときに津波が起こると被害甚大なのは確実だ。

月刊天文 2006年 06月号 [雑誌]
カテゴリ:天文 | 18:02 | comments(0) | trackbacks(0)

日本名言集 社会思想社編

 昭和41年以前の日本語の名言を集めた書。名言というのは作品の中で語られたにせよ、その切り出された部分だけで相当の力を持っているものだ。
 この本の場合もなかなか感心できる名言が多くあった。また、名言は知っているけど元ネタは知らなかったものについては青天の霹靂(大げさ)を味わうことができた。「情けは人のためならず」が「太平記」とか。
 反面、古いせいか昨今のセンスではあまり同意しかねるものも多い。そういうものは名言ということができず、時代を超えて説得力を持ち続けているものが真の名言というものだろう。
カテゴリ:文学 | 21:07 | comments(0) | trackbacks(0)

月刊天文ガイド6月号

太陽系の最果てに挑むニュー・ホライゾンズ
 冥王星遠い。木星が近所に見える。EKBOという略称はさいきん知った。フライバイ探査だが冥王星が変化に富む惑星とは思えないし減速は不可能だろうから手法は正解か。

天文学コンサイス ガンマ線でも全部やる
 全部やるの意味は全ての波長で見ることかと思ったら全天観測するの意だったようだ。ヘス望遠鏡はカミオカンデが水にやらせている機能を大気に負わせていると見てよいか。チュレンコフ光が粒子が物質中の光の速度より速く運動するときにでる光だと初めて知った。

2006.3.29晴天に恵まれた皆既日食
 トルコってキプロス島で争っているのに治安がいいのか。北アイルランドを争っている英国の治安がいいと言われるようなものか。3分少しの現象のために海外旅行する人たちって凄い。

EOS30D登場
 デジタル一眼レフも技術的にこなれてきた感じ。いまから参入するとか言っている会社は追いつくチャンスか。20Dからの堅実なバージョンアップで、問題点はシャッター音などの使用感の方面に残っている状況のようだ。

黄砂に吹かれて…
黄砂で見えないもの、見えるもの
 韓国だけでなく北朝鮮も影響を受けているはずなのに激しくスルーされている。まぁ、中国に文句言うことができないのだろうけど、いちばん被害のフォローが悪そうなのは北朝鮮だ。とりあえず黄砂にはマイナス面が強すぎるので関係各国で対策を練ってほしいところ。

宇宙探査の魂 ヨーロッパの新しい波
 魂が塊にみえた。グルグルが懐かしい。日本も欧州各国のように組む相手がいればよいのだが、東アジア諸国との関係がいまいちでは、ちょっと打ち上げを融通できれば上等の状況かなぁ。一国の予算では限界があると思うのだけど。

惑星の近況3月
 木星は新しい赤斑、土星は白斑とみどころがあった。遠ざかった火星は行数が激減。惑星サロンではEKBO天体が10個以上といっているが、トップの記事では1000個ほどと言われている。情報の時間差か?1000個ほども10個以上には違いないが。

読者の天体写真月例コンテスト
 最優秀作品がずるいというか機材が凄すぎる。プロペラ機で戦っているところにジェット機で殴りこむみたい。私立天文台に、ネットを引いて待機電源を常時入れているわけで維持費はいくら掛かるのやら……。球状星団としてω星団が二枚もとられていて、代わりに星雲写真が少なかった。ポイマンスキー彗星の写真は細長いせいか魚拓みたいにみえる。
カテゴリ:天文 | 15:57 | comments(0) | trackbacks(0)

第2次世界大戦 戦争の序曲 Vol.4

 今度はイギリスとドイツ空中戦。いわいるバトル・オブ・ブリテン。というか早期警戒が効いてるから半ばバトル・オブ・ドーヴァーかも。
 第二次世界大戦は航空機の威力を見せ付けたが、同時にバトル・オブ・ブリテンで限界も明らかになったのではないだろうか?どれほどの爆弾の雨を降らせても歩兵を前進させなければ不屈の国民国家を制することはできないのではないか。ドイツ軍機の航続力が不足していて安全な後背地がイギリスにあったことも重要だろうが――究極的にはカナダやオーストラリアがあるし(日本が降伏したのは制海権を取られて空母機動部隊に満遍なく叩かれたことと満州をソ連に襲われたことが大きい)。

 戦闘機や爆撃機の大博覧会は嬉しい映像だけどスピットファイアが賞揚されすぎていて、ホーカー・ハリケーンが惨め。兵力差が大きかったのだからハリケーンのことも取り上げてあげようよ。

 英国の抵抗のかたくなさが誉めそやされているけど、それが正義とされようが、ここまで抵抗できてしまう人々の意識には空恐ろしさを感じざるをえなかった。

フランク・キャプラ 第ニ次世界大戦 戦争の序曲 Vol.1
フランク・キャプラ 第ニ次世界大戦 戦争の序曲 Vol.1
カテゴリ:歴史 | 18:40 | comments(0) | trackbacks(0)

星ナビ6月号

COSMOTO CRAPHY
 赤を強調して赤外線画像と可視光画像の合成のようにしているのが面白い。しかし、またM82かぁ。

News Clip
 冥王星に2つの新衛星を発見:天文ガイドとは違って色が似ていることを同一起源の理由にしている。新発見の衛星は冥王星起源じゃなくてカロン起源でも説明できると思うが。
 内側と外側が逆回転している惑星系が誕生か:彗星の爆撃効果が倍化しそう。
 ハッブル宇宙望遠鏡の最高画質!回転花火銀河:それを説明するのに写真が小さいとは何たることだ。
 時期嵐注意報発令?太陽の「気象予報」:林譲二、妖光の艦隊みたいにはならないだろうけど。
 マーズ・リコネサンス・オービターが火星に到着。高解像度撮像装置の初画像:火星でも被雲には多少悩まされる様子。雲の研究ができるからそれはそれで良いのだろうが。
 ビーナス・エクスプレスが金星周回軌道に:探査機がいない惑星の方が少ない時代がもうすぐ来るかも。

シュワスマン・ワハマン第3彗星のすべて
 気合の入った記事だが、彗星はもう行ってしまった……曇りも多いし強く願わなければもう見れないだろうな 。

日本上空に超特大火球出現
 今でも天文現象は人心を惑わす力を秘めているんだな。

かえってきたやみくも天文同好会
 4コマ漫画なので360度の方針転換で感想を書くべきか――なんてことはない。「分裂彗星」で赤道儀が回転しているのがさすがに細かい。

Total SOlar Eclipse 2006.3.29
 日食のかなりよい写真が多数掲載されている。彗星の記事といい星ナビが以前より少し「高等」になってきた。

星ナビギャラリー
 M13を筆頭に見覚えのある被写体が多い。そのなかで最も見覚えのある月の画像が若い月齢で3つ並んでいるのが印象的。太陽系内天体の写真に気に入るものが多かった。
カテゴリ:天文 | 21:51 | comments(0) | trackbacks(0)

カフカ寓話集 池内紀・編訳

 カフカの実に不思議なストーリーの数々を収めた書。
 カフカの文章にある魅力をどう説明したらよいのやら、優れたSFのように空想的でありながら、あきれるほどしっかりとした枠組みをもち、それでも掴みどころがない。いちばん困惑するのは尻切れ蜻蛉に終わってしまう場合が多いことで、上り坂の途中でその場に座り込んでしまったような拍子抜け、稜線までしか見通しが効かず、その向こうの展望を想像するよりほかない残念さ。それでも――それだからこそ?――人を読書にかき立てる。

 ある学会報告は人間並みになったチンパンジーの話。その設定が最大のでんぐり返しで内容はつらつらとしたものだが、チンパンジーの演説を学者先生方が真剣に聞いている様子を想像すると実にユニークである。

 巣穴では肉食動物が自分の巣穴について考えを巡らす。突然の変化、その場所への執着、そしてやっぱり釈然としない終わり方。寓意をとらえやすい内容だ。

 断食芸人は断食を見世物とする男の物語。寂寥感ただようものとはいえ、ちゃんとした終着点があるのは珍しいかもしれない。実際にあったという芸そのものにも惹かれる。

 歌姫ヨゼフィーネ、あるいは二十日鼠族では一種の偶像であるヨゼフィーネの行動の顛末が描かれる。二十日鼠のコミュニティを舞台に繰り広げられる真剣な茶番が興味深い。

 カフカの良くて悪いところは読後に「創作的な気分」にさせてくれることだ。作文に行き詰まりを感じているときは実にありがたい。

カフカ寓話集
カフカ寓話集
カフカ, 池内 紀
カテゴリ:文学 | 23:34 | comments(0) | trackbacks(0)

月刊ニュートン6月号

SCIENCE SENSOR
 火星に緑のオーロラ:磁場と大気が薄くても根性であるらしい。
 恐竜時代の泳ぐ哺乳類:隕石のおかげで繁栄できたじゃなくて隕石のおかげで仲良くやってきた仲間が滅んだようにも思えてくる。
 ニホンウナギの故郷:海流が変わったら産卵場所も変化するのだろうか。
 物理で読み解く株式市場:問題は対策を立てることが新しい問題を誘発すること。
 冥王星の新衛星:新衛星は冥王星を回っているのかカロンを回っているのか微妙な軌道を描きそう。正解は共通重心だけど。
 巨大カルデラの隆起:70センチメートルの変化は大きいのだろうか小さいのだろうか。近くが安定している場所では大きいのだろう。

土星の衛星の地下に水の海?
 エンケラドゥスの地下に液体水が存在する。液体水=生命という考えにはくたびれてきた。そろそろ実例がほしくなるのは欲張りか。氷のプレートテクトニクスもおもしろい。タイタンの氷の砂?といいまったくH2Oは偉大な物質だ。

交信復活!!不死身の「はやぶさ」
 変な期待を抱かせずにひとおもいに死んでくれ、と思わないでもない。マゾか?マゾなのか?お前は?最後は大気圏突入、奈良県の黒賀村に墜落しそう。

スピッツァー宇宙望遠鏡の最新成果
 赤外線宇宙望遠鏡スピッツァーの画像と成果。赤外線を発している星雲のディティールが素晴らしい。可視光とはまったく違う世界を見せてくれる。情感に訴えるのは何故か可視光画像の方だが。

電子顕微鏡でたどる体内ミクロツアー
 人体ものは背筋がざわついて苦手なのだが、眺めるくらいならできた。しかし、これを美しいというセンスは一般的ではないと思う。電顕の撮り方についてページを割いてほしかった。

情報漏えい対策は大丈夫?
 一言でいうならウィニー使うな。セキュリティーホールがあって更新されることもないソフトを使い続ける神経が理解不能。

空から見たグリーンランド
 エンケラドゥスやタイタンが注目されているときに氷河で覆われた世界最大の島をだすのはタイムリー。氷河の中身が透明だと説明している写真がこの世のものとは思えない。

樹上の絶対王者オウギワシ
 高度40メートルの木の上に小屋を建てて80メートル先から巣を撮影……根性ありすぎ。真っ白なヒナはなかなか可愛かった。

カプセル内視鏡Sayaka
 ユニークで有用そうな道具だ。でもネーミングセンスが悪い。

光通信も顔負け!高速無線通信が次々と解禁
 500Mbps以上とか速すぎ。でも、気象や太陽活動の影響が打ち消せないのが無線の弱点であることは変わるまい。その程度なら問題ないとも言えるけど。

約35億年前の地球にメタン生成菌がいたことを確認
 同じ手法を二酸化炭素に使えば呼吸の変遷などもわかるのだろうか。

OUR FIELDWORK タニシ
 呼吸で植物プランクトンや成分を攪拌することで反応を促進するという効果もありそう。

危機にさらされる野生動物
 珍しく可愛い動物。妙に頭の大きいところが漫画的。密猟者は絶滅させたら自分の生活が立ち行かなくなることを理解しているんだろうか?
Newton (ニュートン) 2006年 06月号 [雑誌]
Newton (ニュートン) 2006年 06月号 [雑誌]
カテゴリ:科学全般 | 00:06 | comments(0) | trackbacks(0)

マンガ世界の歩き方 山辺健史

 古本屋バイトの著者が体当たり的にマンガ業界を取材して書いた本。いろいろな視点からマンガについて調べていることと飲み屋で経験談を聞かせるような文体には好感がもてる。
 高年代の方にはマンガをサブカルチャーとしてみる人がいるようだし、海外の多くの国では子供が読むものと目されていることは分かっていても、ちゃんと文章にして語られると強くそれを感じる。日本では大人でもマンガを読むのが当然のようになっているから、この状態があと30年も続けばどうなるのか、と思ってしまう。少なくとも私は死ぬまでマンガを読みそうだ。

 貸し本屋やマンガ図書館で思ったが、作品はどんどん充実していく傾向にあると同時に、新しいもの、斬新なものが生み出しにくくなっていっているのだろう(伝統ある作曲業界などは行き詰まり感が凄い)。
 それでも、自分だけにしかできないことを探せば見つかるだろうし、読者の感性の変化もあるから、まだまだマンガは繁栄していくのだろうか。

 マンガ家として大成することもできずに、それでも職を転々としながらマンガを描き続けた森安なおや先生の話にはホロリときた。でも、写真のマンガはつまらなそうでした、ごめんなさい。

マンガ世界の歩き方
マンガ世界の歩き方
山辺 健史
カテゴリ:ハウツー | 22:05 | comments(0) | trackbacks(0)
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