信長征海伝2巻 佐藤大輔

 二大合戦が生起した1巻と対照的に主だった合戦がないままに家康との戦争準備が進む2巻。
 それだけ家康が大物ということもあるだろうが、全地球的な設定に心を奪われていることも大きそう。

 日本連邦という言い方には英連邦に近しいものを感じる。この世界の日本は当然のように東南アジアやオーストラリア、ハワイ諸島などを連邦に組み込んでいるのだろう。
 インド洋はどこまで手中に収められているか分からないけど、太平洋は完全に日本人のバスタブと化しているようだ。夢がありすぎて実感がわかない。

 家康の戦略方針をみると、これは一種の大阪冬の陣へのオマージュだと感じる。もし、豊臣側が家康並みに有能であれば、同じような指導者抹殺戦略で生き残りを図っただろう。
 それが成功してしまった場合、日本は戦国時代に後戻り。さらに多くの人命が失われることになるが、家康は生き残りたいだけなのでしかたがないっちゃ、しかたがない。

 三河人が「通常の3倍の赤い奴」とか「閉鎖的で忍が役に立たない」とか、描かれているのには笑った。この時代はまだ穴居生活してそう。
 ちなみに佐藤氏は石川県生まれと折り返しに書いてある。

 フィリペII世のフィリピンに4万人のスペイン兵を結集は現実的なのだろうか。世界の反対側で作戦行動をとるのは、現代のアメリカ軍だって一苦労だというのに。
 少なくともアレキサンダー的偉業なのは間違いない。ドンキホーテ的結末に終わろうとも。

信長征海伝 (2)
信長征海伝 (2)
佐藤 大輔
カテゴリ:時代・歴史小説 | 16:16 | comments(0) | trackbacks(0)

信長征海伝1巻 佐藤大輔

 もし信長が本能寺で生き残ったら?日本人なら誰でも一度は考えそうな歴史のifを徹底した考察と緻密な筆致で仕上げた作品。
 まぁ、つまりは佐藤大輔作品。

 重要な部分で信長征海伝世界の歴史を20世紀まで引きずって持ち出すので、偽史に騙されてしまいそうになる。日本人が北アメリカを支配した架空の歴史にはそれだけのパワーがあるのだ。
 実はかなり重要な位置を占めるらしいのがイギリスの存在で、この作品の別名は日英400年戦争としてもよいくらいのものを感じる。
 その決着をつけた大西洋戦争の展開は第二次世界大戦を裏返しにしたみたいで、中華連合共和国がナチスドイツを中華民国がフランスを暗喩しているようだ。たぶん大韓帝国はイタリア。

 ああ、作品の本筋はもちろん日本最長の内乱時代、戦国時代にある。秀吉ではなく信長だったら、どのようなグランドラインを日本史に描いたかが示されて、興味深い。同時に家康の必死さも秀吉と争ったとき以上かもしれない。

 著名な戦国武将が佐藤大輔なりの解釈でたくさんでてくるので、その壮観さを味わえるだけでも一読の価値のある作品だ。

佐藤大輔作品感想記事一覧

信長征海伝〈1〉逆転の本能寺
信長征海伝〈1〉逆転の本能寺
佐藤 大輔
カテゴリ:時代・歴史小説 | 19:11 | comments(0) | trackbacks(0)

ウィトゲンシュタイン 「私」は消去できるか 入不二基義

 哲学者ウィトゲンシュタインの論のうち、私に関することに集中して解説した本。
 パスカルの有名な言葉に「我思う、故に我あり」があるが、ウィトゲンシュタインは「我あり、故に我なし」という一言ではわけの分からない領域に到達している――1冊読んでも半端にしか理解できなかった。

 私は世界を認識していると同時に、認識している限りが世界で「外側」というものは存在しない。私が世界であるが故に世界の中から私を消去することができる、でいいのだろうか?
 凄くこんがらがってしまって、いちばん楽しく理解できたのは導入部分の仏典だったりする。
 しかし、哲学者の考えの奥深さと言葉で考えを伝えようとする意志の深さを思い知ることはできた。

 とりあえず結論の「語りえないものについては、沈黙しなければならない」が使い勝手が良さそうで気に入ったので、脳の皺に挟んでおく。

ウィトゲンシュタイン 「私」は消去できるか
ウィトゲンシュタイン 「私」は消去できるか
カテゴリ:科学全般 | 18:08 | comments(0) | trackbacks(0)

すごい言葉 晴山陽一

 何がすごいかってシェイクスピアを一句も引用していないことだ。本書は特に欧米文化の中から隠れた名句や名句と必ずしも認定されていなかったものを著者が引いて解説したもの。英文も付いているので勉強する気なら勉強になる――ほとんどスルーした…。
 著者の分かったような物言いが鼻に付くことがある。実際に著者は私よりよっぽど分かっているのだから、私の文章が鼻に付くことはその比ではないのだろう。ただ、官僚や大企業へのあまりに型にはまった批判は本当に考えていったことなのだろうかと疑ってしまうのだ――「私の考えでは、人類の実に80パーセント以上は、生涯を通じてただの一度も自分独自の考えを思いつくことがない」との句を引いているのは著者なのだが……個人的には人類の80パーセント中の80パーセントは思いつかないのではなくて生涯自分独自の考えを口にしないだけだと思う。

 記憶に留めておきたい言葉が相当あった。機をみて使うことができたらよいな。

すごい言葉―実践的名句323選
すごい言葉―実践的名句323選
晴山 陽一
カテゴリ:文学 | 17:17 | comments(0) | trackbacks(0)

月刊ニュートン8月号

SCIENCE SENSOR
 たたくほど強くなる理由:金属結合も複雑な部分があるようだ。最終的にダイアモンドより固い素材を生み出せたりしないかと夢が広がる。
 小惑星帯に彗星:太陽系にあるものは本当に分類が難しい。
 超高速で自転するベガ:なかなかクレイジーな星だな…。
 マンモスの絶滅原因に新説:人間の活動は止めを刺すのに手を貸した程度ということか。
 昆虫の眼をつくる:自然は工学のヒントになることが本当に多い。
 水滴を落とすと噴水になる:エネルギー的に考えると極一部だろうから産業利用にはロスが問題になりそう。
 矮小銀河たちの残骸:父親の昔の悪行を見せられるような…。
 巨大惑星が傾くわけ:重力という紐でつながっているから、いろいろな運動量が交換できると。

ボイジャー2号が太陽圏の果てに接近
 恒星間宇宙は途方もない遠くの様でもあるが、夜みる星よりは近いところにある。感覚的に不思議。それだけ光が偉大ということだろうか。

ヨーロッパ南天天文台最新ショット
 この画質は素晴らしい。ハッブル宇宙望遠鏡を超えたとさえ思える。まぁ、ハッブルもいいかげん旧式化が進んでいるのだろうけれど。
 美しくて科学的に意義のある画像のチョイスも上手いのだろう。そのわりに解説文には「ふんだ、日本の研究者だって負けてないんだもん。すばるだって凄いんだもん」みたいな自負が感じられて少し素直さに欠けている感じがした。被写体が南天の天体であることも新鮮だ。

徹底図解100種類の巨大恐竜
 竜脚類に絞った恐竜図解。昔、恐竜ザウルスを読んでワクワクしたことを思い出した。尻尾を地面につけずに水平に伸ばして歩いていたという知見が新鮮。実際にみれる博物館がいくつか紹介されているので機会があったら見に行きたいものだ。

アサガオ千変万化
 江戸時代の人間は平安時代の人間よりも生物の性質を変化させて楽しむ風潮が強かったようだ。どちらが良いともいえないが、両方楽しめるのが得なのは確か。突然変異といっても進化の形質を大きく逸脱しているわけではなく、個体の中で先祖がえりをしている様子のものが多い。采咲牡丹までいくとまったくアサガオとは思えない。一度実際に観察してみたいものだ。

ドナウ・デルタ
 割と開発が進んでいそうな自然遺産。それだけに鳥瞰図を眺めるのが楽しいのだが。デルタのスケールの大きさには驚嘆する。

金魚すくい
 最後に金魚すくいをしたのは何年前だったか。この知識を活かす機会は来るのだろうか。長生きして巨大化した金魚は水槽の小石を食べて死んでしまうことがあるから要注意。

エイズウイルスの起源が特定された
 チンパンジーにとって無害な理由を特定して、そこから治療にもっていくことはできないのだろうか。

ディーゼル排ガスが自閉症の一因に?
 都知事でなくてもディーゼル車を閉め出したくなる。とりあえず整備不良を厳しく取り締まるくらいの対策は必須だと思う。

森林エアロゾルが地球冷やす
 負のフィードバック要因が見つかったのは喜ばしいが、いま森林が減り続けていることを考えると明るい気持ちにはなれない。この結果は気象予想にも掛かってくるのかな。

聖書をゆるがす古文書発見
 キリスト教が柔軟に対応できるなら、ユダの福音書を教義に取り込んで豊かにすることも不可能ではないだろう。今でもキリスト教は「新しい宗教」といえるかどうか。

Newton (ニュートン) 2006年 08月号 [雑誌]
Newton (ニュートン) 2006年 08月号 [雑誌]
カテゴリ:科学全般 | 17:39 | comments(0) | trackbacks(0)

地震タテ横ななめ 今村遼平

 地震網羅本。現象から結果、社会への影響まで一冊にまとめて取り上げている。手際よくまとめているのに知ってそうな分野で目から鱗が落ちる記述があるのは自分の不勉強を思い知らされる。

 地震火災など災害についての記述がとても上手くまとまっており、ノンフィクション小説「パーフェクトストーム」を思い出させた。
 爆燃や一酸化炭素中毒には背筋が凍る。漫画で良くある頭から水を被っただけで火の中に突入するのが、どれだけの暴挙か知って真似しないように気をつけてほしい。あるレベルを超えた火災現場は地球上だと思わない方が賢明だろう。
 他には土木工学や都市工学に関連した部分が詳細で興味深い。

 対談形式をとっているせいか、人命が掛かっているわりに軽さが際立ってしまい鼻につくこともあったが、全体を通してよくまとまっていた。
 タイトルは断層の種類と、網羅して記述することを掛けているのだろうか?カタカナ、漢字、ひらがなを使い分けるあたり芸が細かい。

地震タテ横ななめ
カテゴリ:地学 | 13:01 | comments(0) | trackbacks(0)

スペインの魂 ナショナルジオグラフィックDVD

 スペインの歴史と文化を紹介するDVD。1991年の製作なので描かれている以上の変化がスペインに起こっていることは間違いない。かつては七つの海を征した大帝国であったことは申し訳程度に語られているのみで、中心はフランコ政権以降。
 シェリー酒や、フラメンコ、闘牛などスペインらしいものが次々と出てくる。
 闘牛を育てているおじさんがフランコ時代のほうがのんびりできてよかったとぼやいていたことが印象的。
 独裁的なファシストとはいえ長期政権を築いた政治家だけのことはあったのか。ロシアでもペレストロイカ前の方がよかったという老人がいるように、どんな政治体制にも長所はあるものなのだろう。問題は前体制が覆るとその良い部分まで一緒くたに葬られてしまいがちなことだ。

スペインの魂
スペインの魂
カテゴリ:ナショナルジオグラフィックDVD | 20:09 | comments(0) | trackbacks(0)

米軍再編 その狙いとは 梅林宏道

 真面目きわまる岩波ブックレット。米軍再編は全世界に各段階の基地を展開する蓮の葉戦略にそっており、具体的に何がなされているのかを知ることができる。
 新大陸のアメリカが日本をイギリス並みの同盟国にしてユーラシア大陸を東西から挟み込もうとしているのは面白い。本当にイギリス並みになるとはとても思えないが、イギリスと共同歩調が取れるなら逆にアメリカをコントロールできる可能性がないだろうか。
 中東や中央アジアがクローズアップされている反面、アフリカについての言及が皆無なのが寂しい。アメリカの利権が全てで、そのために世界平和を考えているのだからしかたがないのだろう。
 このままでは金だけでなく命も提供しなければいけなくなるという著者の危機感が伝わってきた。

米軍再編―その狙いとは
米軍再編―その狙いとは
梅林 宏道
カテゴリ:雑学 | 18:38 | comments(0) | trackbacks(0)

書店ポップ術 梅原潤一

 ポップを書くことを得意とする著者が自著であるこの作品にどんなポップを付けたのか興味津々。「ガバーが地味です。ありがとう」か?

 ポップは本を売ることに極限までカスタマイズされた感想とみることもできる。大げさに言えば清水寺の舞台から飛び降りる気分でお客に本を買わせるテクニックが求められる。
 大きく書かれた惹句で読者を引きつけ、快活な紹介文で背中を押す著者は偉大な突き落とし魔だ。

 ポップ全体の印象にも気を配って字体や配色に工夫を凝らしているから、それ自体がひとつの作品となって眺めていて楽しい。
 語彙の使いこなしや語調の整え方などの秀逸で、様々な感想を書いている我が身に得るものが多かった。

書店ポップ術―グッドセラーはこうして生まれる
書店ポップ術―グッドセラーはこうして生まれる
梅原 潤一
カテゴリ:雑学 | 18:55 | comments(4) | trackbacks(2)

Google Earth 操作・活用マニュアル 白鳥敬

 タイトルどおりGoogle Earthの入門書。はじめの方は感覚的に理解できる操作が主であまり見応えがないが、だからこそ基本で見落としていることがないかチェックするために読むべき。
 もちろん、Google Earthを実際に起動しながら読んだ方が理解しやすい。

 最大の収穫はレイヤーについて学べたことでWebカメラを探して歩くのが楽しい。
 後半の発展しか使い方については説明不足を感じた。プレゼンテーションに使えるのはいいのだが、作り方がよく分からない。
 データが充実しているのがUSAとイギリスなのでせっかくの機能が日本では使えないことが多いのも残念――著者の責任ではないけど。
 この本で学んだことを役立てるためにもGoogle Earthには更に充実し便利になってほしいものだ。

GoogleEarth操作・活用マニュアル
GoogleEarth操作・活用マニュアル
白鳥 敬
カテゴリ:科学全般 | 13:48 | comments(0) | trackbacks(0)
| 1/3PAGES | >>