灼熱の竜騎兵1〜惑星ザイオンの風 田中芳樹

 25世紀、木星を解体して作り出された38個の惑星のひとつザイオンで、地球の搾取構造へ叛旗を翻す若者たちの戦いがはじまる。SFにみえるが投入される要素はいたって現代的で、ロボット兵の類はまったく出てこない。たぶん人間のほうがコストが安いのだろう……クローニング技術が発達して人命軽視の傾向が高まったとか、そういう雰囲気もないが。

 それにしてもダイソン師匠の大法螺をまんまネタにしてしまう力技には感心する。
 木星をバラすなんて能力を持ちながら、地球政府のやることと言ったら植民惑星からのピンハネ程度なんだから、まったく見事なまでにチ○カス官僚の器というものを分かっていらっしゃる……。1000年前からそうだったなら400年後も同じだろうって事か――ある意味SFにあるまじき感覚だなぁ。

 主人公のネッドたち4人の若者は突如地球に抵抗を示した自治政府のディアス主席に同調する事なく、ザイオンの特殊な地質――地下水路が豊富――に従った独自の戦略を練っていく。
 ザイオンに存在する広大な地下水脈は海の少ないこの星において、極めて貴重な資源であり、地球人が牛耳るZWAによって支配されている。が、水路の2割程度しか把握されていないらしい。
 ネッドたちがここを拠点にゲリラ戦を進めていこうと考えているのは良いのだが、こんな管理状況ならザイオン人もいくらでも水を盗めそうなものなのだ……。

 宇宙の支配権は完璧に地球側にあるわけで、ザイオンの戦いはひたすら地下を利用したものになっていくだろう。6500万人の住民と彼らを養うだけの食糧があることを考えれば、抵抗は不可能ではないと思うものの、ずいぶん犠牲の大きい戦いになりそうである。
 テロ行為に対する感情が一辺倒じゃいかなくなった現代だからこそ、いろいろと興味深いものがある。

灼熱の竜騎兵 PART1 (1)
田中 芳樹
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ネットvs.リアルの衝突〜誰がウェブ2.0を制するか 佐々木俊尚

 カネと野望のインターネット10年史はネットとリアルがけっきょくは表裏一体のものであることを語っていたが、こちらはネットとリアルをあくまでも対立的なものと捕えて、理想が現実に傷つけられていく様を描いている。

 話の中心となるのはウィニーだ。このP2Pソフトを巡る対立が、新しい時代の兆しとなる可能性をみたようだが、何事も一足飛びには進まない。
 著者は金子被告に現行の著作権秩序破壊者としての大胆な発言を望んでいるけど、もしもそれで裁判に負けたら破壊どころではなくなってしまう。ここで大きく後退するよりは最小限にとどめようと考えるのは至極当然の発想だと思うのだが……それを個人的な保身のための判断と言い切れるかな。

 日本のIT技術史における敗北の記録も空しく生々しい。けっきょく基礎的な技術で勝負するにはアジア諸国の能力が伯仲してきすぎていて、一時的な優位しか確保できないようだ……もっと思想的なレベルでのシステム設計で勝負するべきなのだろうが、日本人はその手の戦いにあまり向いていない。
 ただ、いまだにヤフーがシェアを握っていて、完全なグーグル一極になっていない特殊な事情は注目に値する。ヤフーの強さは習慣的な強さだから、新しい国産検索エンジンとやらが同じように反グーグル的シェアを拡大していけるかは怪しいものだが。

 著者が予想するネットによってきたる三つの未来「民主化」「アナキー化」「覇権化」で、アナキー化は論外にしても民主化では一部に多くのリソースをかき集めるのが非常に難しくなる。むしろ共産主義的な社会のほうが、その点では上手くやってしまうかもしれない。だからといって覇権化を容認したいとも思わないのだが、社会発展を維持しながら人類がネットと付き合っていく方法はいろいろ考える必要があると感じた。

 やれやれ……昔はネットの普及そのものが社会発展だと考えられていたというのに。

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ネットvs.リアルの衝突―誰がウェブ2.0を制するか (文春新書)
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佐々木 俊尚
カテゴリ:雑学 | 12:09 | comments(0) | trackbacks(0)

恐怖の臨界事故 原子力資料情報室編

 東海村のJOCの施設で起こった臨界事故の内容とそれが起こってしまった事情を教えてくれるブックレット。はっきりいって戦慄すべき内容で、ここまで無茶苦茶だったとは思わなかった。当時のニュースでえた断片的な知識がわかりやすい冊子で整理される感覚がした。

 JOCのやり方は杜撰も杜撰で、競争の名の元に超えてはいけない境界をあっさりと飛び越えてしまう資本主義の弱点がはっきりと出てしまっている。そうやって市場原理だけで限界を超えたところに突っ込まないように、法律や政府機関がセーブをかけなければならないのだが、ろくに機能していなかったことが分かる。
 この様子では今でも似たような危険はいろいろな場所に残っているだろう。ただ破裂していないだけだ…。

 原子力関連が希望的観測や見込みに沿った展開を見せてしまうのは、それが純粋に経済活動だからではなく、非常に政治的な要素を含むものだからでもある。とりあえず導入する事が頭にあってその方向に話を進めていくのと、冷静にコストが引き合うかを計算した上で話を進めていくのでは全然違う。
 難しいだろうが、原子力を政治から可能なかぎり切り離したうえで、きちんと管理しなければ不条理と無理ばかりが蓄積していきそうだ……。
 いま地球温暖化対策の流れから原子力発電は見直される傾向にある。だからこそ徹底した意識改革と法体系の整備を求めたい。

恐怖の臨界事故 (岩波ブックレット (No.496))
恐怖の臨界事故 (岩波ブックレット (No.496))
原子力資料情報室
カテゴリ:雑学 | 18:54 | comments(2) | trackbacks(0)

十二支の動物たち 石島芳郎

 畜産学者の著者が16年かけて書きためた十二支の動物としての解説を一冊の本にまとめたもの。辰以外は実在し、身近で付き合いの長い動物が多いことが起源や利用法、品種からわかる。
 最後にはその動物にかかわることわざが挙げられていて、意外と知らないものが多くて興味深かった。でも使う機会はなかなかなさそうだ……聞く相手も知っていないと意味がないから衰退しやすいのは否めない。
 そういえば「犬も歩けば棒にあたる」の変化は「情けは人のためならず」の少し先をいっているようだ。「転がる石に苔はつかない」っていうのもある。言葉の乱れを指摘するなら昔の人も攻撃対象になってしまう。やっぱり変化するのが言葉なのだ。

 動物各論ではウサギの食糞がやっぱりいちばん衝撃的だった。サナギさん4巻でもネタにされていたけれど、わざわざ食べるための特別なウンコをしていたとは驚き呆れてしまう……幼少期のコアラのために母親がするのも似ているが。
 しかも、フンを食べれないと1ヶ月で死ぬというのだからおそろしい。ウンコを食べれなくて死ぬ。これほど壮絶なことがあろうか?ウサギ道はシグルイなり…。

 他の動物にくらべてトラの衰退ぶりが目立った。もう1万頭を割ってるんだな。日本にも一時期トラがいたという化石記録にはちょっと胸躍った。うまく生き残れば皇国の守護者みたいにもなるわけだ。まぁ、現実に同居するのはゾッとしないし、ニホンオオカミを滅ぼしたご先祖様がトラを放置するとは思えないが。

 羊の項目では狼と香辛料2巻の記憶が刺激されて、いろいろと思い出しながら読んだ。あの狼と戦うシーンはロレンス達に力がないだけに本当に臨場感あふれていたなぁ。ぶっちゃけ環境破壊を起こしやすい動物なので手放しで好きにはなれないのだが、そういう負の側面はあまり扱っていなかったことを思い出す。
 まぁ、そのおかげで全体的に楽しく読めたのだけど。

十二支の動物たち (シリーズ・実学の森)
石島 芳郎
カテゴリ:科学全般 | 12:06 | comments(0) | trackbacks(0)

親子で楽しむ手作り科学おもちゃ

 懐かしい。夏休みの宿題のためか、このタイプの本が一冊座右に与えられていたのを思い出す。でも、ほとんど自分では作らなかったなぁ。
 あの本と違ってカラフルな写真で説明しているところ、最近の偏光板などの素材を利用しているところには感心した。派生型のおもちゃには悪ノリしたとしか思えない微妙なものもあったが、子供にはなかなか良いだろう。

 しかし、スライムへの妙なこだわりはいったい何なんだ?

この人
ふくだけとかすスライムのつくりかたを
しってるか

きいてみたい

おしえておしえておしえておしえておしえておしえておしえろよ
おしえろおしえろおしえろおしえろおしえろ教えろ教えろ教えろ

もういい
もうわかった

もうおわらせる


 黒ビニールの熱気球をみてヘレンesp5話を思い出した。今は黒いビニール袋が入手しにくくなっているような気が。

関連:ニュートンムック 不思議を実験!

親子で楽しむ手作り科学おもちゃ―不思議な実験、アイデアあふれる工作がいっぱい!
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緒方 康重,佐々木 伸,立花 愛子
カテゴリ:科学全般 | 12:17 | comments(0) | trackbacks(0)

大人なんかこわくない 赤川次郎

 赤川先生って、けっこう政治的な発言もする人なのね……と妙な関心を持った。想像をこえて左の人だ。まぁ、ある時代の作家は左でナンボなところがあるからなぁ。決して悪いことじゃないと思う。

 前半では作家としての人生の回想が行われており興味深かった。昔の編集者は作家を育てることに熱心だったが、今はそうでもないという意見には頷かされるものがある。しかし、編集者が作家を育てるのを当然視しすぎて、大物作家が編集者を育てるという「燃えペン」でいわれていたような反作用がきちんと行われていたのだろうかと著者の責任を問うてみたい気分にもさせられた。
 良い編集者を育てるのは編集者以上に作家なのではないかと思うのだ――まぁ、書き手が多すぎるとかいろいろな要因が絡んで今の出版業界の不信につながっているのだろうなぁ。

 他には子供の問題と大人の責任についての発言が目立った。実に良く子供の心理を掴んでいるとは思うものの、現状を悲観する文章が印象的すぎてタイトルのように子供を励ます力があるのかは怪しい。
 率直さは確かに美徳だが、ここは多少の嘘を真にする文章の力をみせつけてほしかったかもしれない。

大人なんかこわくない (岩波ブックレット)
大人なんかこわくない (岩波ブックレット)
赤川 次郎
カテゴリ:雑学 | 00:21 | comments(2) | trackbacks(0)

ビジネスブログコレクション

 様々な業界のビジネスブログを網羅したカタログ。内容はブログトップの写真と簡単な説明文であり、文章量はちょっと物足りない。
 トップの画像が取り込まれているので、視覚的に企業サイトの裏口ともいえるビジネスブログの様子が把握できるのはよかった。興味深いことにIT関連企業のブログに限ってテンプレートがぞんざいな傾向があった。医者の不養生というか、紺屋の白袴というか、手軽にはじめてしまいやすぎるのかもしれない。
 他の分野の企業は入念に準備しているのか、スタイリッシュな外見をしたものもある。

 問題はそれぞれの中身なのだが、挙げられているもので興味を持ったブログを周って見た感触では玉石混淆はなはだしい。単純にオススメブログが紹介されていると受けとるよりは、反面教師を含んだ様々なブログの例が存在していると見るべきだろう。
 一部のブログに至っては炎上しているんじゃないか……。

 せっかくだからいちご編集ブログも紹介してあげてー、と思ったけれどRSS配信もせずコメントもトラックバックも設けていない状態で何がブログか、と編集者側は考えたかもしれないな。
 もっと漫画関連の出版社もブログに挑戦してほしい。

紹介されている中で気に入ったブログ
屋外トイレ・仮設トイレ情報館
印刷会社が教える秘密の裏技 - livedoor Blog(ブログ)
OCN TODAY:ナウでトレンディーな情報マガジン
校長のねごと
八景島パラパラブログ

ビジネスマン必携ビジネスブログコレクション
カテゴリ:雑学 | 12:11 | comments(0) | trackbacks(0)

カネと野望のインターネット10年史 井上トシユキ

 「ネットとは他の手段をもってする現実の継続である」という真実をつきつけてくれるドキュメンタリー調の本。
 ネットをまったく違う現実のどてっぱらに大穴をあけてくれる新世界だと考えて賞賛する人間が、けっきょくは食いものにされてしまう。それは戦争を鬱屈した何かの終了と幻視して歓迎した若者たちが、過酷すぎる何かに遭遇してしまうのにも似ている。
 とはいえ、ネットの先進性がまったくの虚構といえるかといえば、そうでもなくて多くの犠牲を払いながらも転換は確実に起きているのだと感じることができた。

 ともかく裏話の充実度が凄い。恐ろしくアングラで口はばかるような存在の意志を汲み取っていき、ITバブルを衝き動かしていた本当の力が何であったかを示唆している。
 ホリエモンを暴走について多くの筆を割き、IT企業の未熟さと社会を裏で動かしている隠然たるパワーを浮彫りにしている。著者がもっとも糾弾しているのは、他者を裏で操って美味しい部分だけを攫おうと企んでいる小悪党たちだが……まず掴まらず大きな罪に問われることもない点において、シンボルとしての悪になりおおせた人々以上の最悪だといえるかもしれない。

 まぁ、彼らもネットが現実と重なり、人々がそれを認識するようになるに連れて姿を消していくことだろう。ただし反省してではなく新たなフィールドを探して、だろうが。

違法コピー職人たち〜誰も語れなかったパソコンの黒歴史〜:微妙にホリエモンらしき人物の話がでてくる。

カネと野望のインターネット10年史―IT革命の裏を紐解く (扶桑社新書 12)
カネと野望のインターネット10年史―IT革命の裏を紐解く (扶桑社新書 12)
井上 トシユキ
カテゴリ:雑学 | 12:24 | comments(0) | trackbacks(0)

スレイヤーズすぺしゃる28〜ポーション・スクランブル 神坂一

ポーション・スクランブル
 一つ疑問。軽く売っただけで一生遊んで暮らせるような魔法薬を使いまくる資金をどうやって引っ張ってくるんだろ。今の時代なら国や企業から投資を受けることもできるけど、この世界の魔法協会が与えられる支援の規模はもっと小さいのでは?
 とはいえ魔法協会自体も資金の調達能力があるようだし、一般市民とはまったく別世界の経済感覚で生活を送っているのかもしれないな。
 攪拌棒のしくみが激しく気になったのだが、なんか不思議な技ってことで流されてしまうそう。応用次第では気象すらコントロールできそうなんだけど…。

幻獣の森
 珍獣だ!確かに珍獣だ!!
 こういう探検隊ノリを理解できる世代も年々下限が上昇しているであろう。一抹の寂しさを感じないでもない。
 犀を幻の動物扱いして、ユニコーンを一般的な動物視するリナの常識が実にファンタジーしていて良かった。

悪魔払いは計画的に
 どら息子 ドラまたリナに しばかれた
 まるで毒をもって毒を制すを地で行くような展開だった。そして勝った毒のほうが猛毒だが、さらにフィブリゾとかいう毒まで倒してくれる運命だからいいんじゃないか。HAHAHAHA…。
 雨の中カッパをきてたたずむリナの挿絵にガツーンと来た。これは非常に良い。

薬品の守護者たち
 おっさんが実は強いのなんとなく読めていた。意外性を狙ったくることを考えると分かるというか。しかし、その後のリナの行動は……さすが諸悪の根源より悪意のあるもの。
 横山信義氏の「銀翼の虜囚―零の守護者〈1〉」という作品を思い出させるタイトルだった。ノリは180度違うけれども。

神坂一作品感想記事一覧

スレイヤーズすぺしゃる(28) ポーション・スクランブル
スレイヤーズすぺしゃる(28) ポーション・スクランブル
神坂 一
カテゴリ:ファンタジー | 12:26 | comments(0) | trackbacks(0)

ゲリラの戦争学 松村劭

 決戦を行えない軍事的弱者にとっての抵抗手段ゲリラ戦について、歴史上でわりと情報のあるものを取りあげ、その一般化と対策案をあげている。
 ゲリラは確かに有効な抵抗手段だが限界も厳然として存在することを感じた。損害率が正規軍の10倍に達し、国土の荒廃も並々ならないものがあるのだから、よほどの覚悟と勝算がなければやってはいけない戦術だと思う。
 いや、覚悟がなければ決して勝算が得られない戦術ですらある。

 少なくとも日本のような島国ではゲリラ戦はまともに機能しないだろう。政府軍が効果的な抵抗を締めていしている時に平行して行うならまだいいが、普通のレジスタンスはやってはいけない。聖域もなく掃討を受け、国土と国民を傷つけて敗北するだけだ……まぁ、四方を海に囲まれているのを利点として制海権を持つ側を味方にできれば多少は変わるかもしれないが。
 やはり基本はナポレオン戦争のイギリスがスペインでやったように外地を戦場にして国内に脅威を持ち込まないことだ。酷いようだが、それが島国の正しい戦略かと…。

 聖域が冷戦構造にあって初めて機能した特殊なファクターであったことも意外に感じた。確かに普通の状況で聖域を提供するのは喧嘩を売るのとそう変わらない。ゲリラの側も良く考えて勝てるゲリラ戦だけをするようにしてほしいものだ。
 それが結果的に双方の被害を抑える事になるのだから。

ゲリラの戦争学 (文春新書)
ゲリラの戦争学 (文春新書)
松村 劭
カテゴリ:歴史 | 12:11 | comments(0) | trackbacks(1)
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