津波防災を考える「稲むらの火」が語るもの 伊藤和明

 スマトラ沖地震で発生した大津波に関連して注目を浴びた、かつて日本の教科書に載っていた「稲むらの火」の話に絡めた防災本。
 稲むらの火は別の地震関連本で知っていたのだけど、印象から三陸海岸の話だと思っていたので、元になったのが南海地震の逸話であることに驚いた。まぁ、原作者であるラフカディオ・ハーンがそういう印象を与えるように話をつくっていたのだから無理もないか。
 この話が多くの人の心に残ったのは、闇の中から力強く襲いかかる津波の恐ろしさと、庄屋が放った火の粉が踊るような炎の対比が鮮烈だからかもしれない。それだけでは災害である火災でもって、津波の被害を予防する発想もしたたかさを感じさせてイメージに焼きつく。
 確かにいい防災教育になる話だと思う。

 自分の身をふりかえれば国語の教科書に載っている作品からは「国語」として学ぶこと以上のものをいろいろと受け取った気がする。ただ、ひとつの目的のみを果たすために使うのはもったいないのだから、それぞれの教科が横断的に子供の意識を高められる教育ができていけたら素晴らしい。

 ともかく津波災害の危険があるところでは良く注意して周りの状況を探るべきだ。おかげで津波警報の予行演習にまんまと引っ掛かって時間を無駄にした経験が私にはある……揺れがなくても津波が来ることを知っていたのが逆効果だった(まぁ、本当に流されるよりは絶対いいか)。しかし、あまりあれを繰り返すのも狼少年になって危険な気がするよ。

関連:海の怪物津波 ナショナルジオグラフィックDVD

津波防災を考える 「稲むらの火」が語るもの (岩波ブックレット)
津波防災を考える 「稲むらの火」が語るもの (岩波ブックレット)
伊藤 和明
カテゴリ:地学 | 12:41 | comments(0) | trackbacks(0)

地球の素顔 Fantastic Earth

 今までもいろいろ見てきた衛星画像による地球写真集(厳密には写真とはいえないのだけど)。徹底的に大判で地球の素顔を表現することにこだわっており、解説などはすべて後ろの方に圧縮されている。
 そのため気を紛らわされずにじっくりと大地を眺めることができた。どうしても、見ている場所がどこか当てっこになってしまうのだが、自分で出した答えも解説を読む頃には忘れかけていたりする。一枚ずついったりきたりするのも労が多いし、難しいものだ。
 南半球の写真が少なくなっているのは残念に感じたものの、世界各地の大地形がとても楽しかった。

 フィヨルドの写真をみては、深い谷に分断された場所に道路が走っているのに目を瞠り、住んでいるノルウェー人の根性に感心したし、砂漠と湖が隣接しているオアシスの画像はコントラストが印象的でまじまじと見てしまった。リビアの漆黒の大地は地球上にはみえず、目を疑った。黄色い硫黄がまるで夜の街の明かりのよう。
 やはり地層がそのまま地表に出て大地を形作っているような写真に魅かれがちなのは私の趣味だろうなぁ。
 もう一方の大規模地質構造であるサンアンドレアス断層の画像はスケールが大きすぎて気付かなかったよ……どうも畑一つ一つのサイズが日本とは段違いに大きいことも錯覚をもたらしていたらしい。さすがはアメリカだ。

 アマゾンの荒廃ぶりについては「またきみか…」としか思えなくなってしまっており、自分の無感動が怖い。

地球の素顔
地球の素顔
カテゴリ:写真・イラスト集 | 12:38 | comments(0) | trackbacks(0)

ネコに金星 岩合光昭

 日本全国津々浦々をまわって撮影された地域ごとの猫写真を紹介する写真集。土地に息づいた猫の表情を垣間見ることができ、おもしろい。
 とくに興味深く感じたのは雪国の猫たちで、堂々と雪に足跡を残して歩く姿にはネコ科動物の威厳がある。また、日本の半分の地域が積雪地帯であることも思い出させてくれた(そういうタイミングを見計らって撮影していることもあるのだろうけど)。
 私は基本的に服を着た猫は苦手なタイプなのだが、半纏をはおった雪国の猫は認められる気がした。なんだか人情がにじみでており、その猫があまり外出したがらない性格なのも微笑ましい。

 写真を撮られている猫の中には普通にいるしかめっ面しくあまり可愛げのない個体も珍しくない。その辺りに選別の方向性があくまでも地域の猫の特色をだすことにあって、アイドルで語らない態度がみえて良かった。逆に、どこにでも可愛い猫はいるようだ……毛並みからしぐさまで頭抜けた個体がふと、いるから猫のいる街はおもしろい。
 そんな街並みがいつまでも保存されることを願うよ。


 作者インタビューで、デジカメを使うと写真の出来がすぐに確認できるのでフィルムだと「これでよし」となるところでも「もうちょっとだけ追い込んでみるか」になる、と語られていたのが興味深かった。性能とは別に写真のレベルをあげる要素だ。

ネコに金星―ニッポンの猫写真集
ネコに金星―ニッポンの猫写真集
岩合 光昭
カテゴリ:写真・イラスト集 | 12:54 | comments(0) | trackbacks(0)

宇宙からの帰還 立花隆

 宇宙開発黎明期からアポロ・ソユーズ計画時代までの宇宙飛行士への徹底したインタビューで宇宙体験が人間心理に与える影響の深さを調査したひじょうに興味深いノンフィクション。宇宙へ行って来た人々の体験も新鮮ならば、この本が発行された時代の雰囲気も新鮮に感じられて二重におもしろかった。
 この本を読むことでガンダムにある「ニュータイプ」の考えが生まれてきた理由を探ることができるだろうし、21世紀には太陽系全域に人類が進出している古典SFが何故あれほど多いのかも感覚的に想像することができる。
 やはり人類は月に行ったのだ。そして見て帰ってきた男たちが何人かいる。それなのに現在の停滞ぶりはとても残念に思われるのだけど、最後のほうにあった予算がつかなくなった宇宙開発の現状を嘆くコメントを読んで、こうなった理由も分からないでもない。
 けっきょく、宇宙を採算のとれる経済活動の場にしなければいけないのが、そこに至るまでの橋を架ける支点をうまくみつけられず、鈍化した状態でじりじり進んでいる状況のようだ。まぁ、今世紀中には何らかの加速要因が生じてくれるものと期待しているけど。

 宇宙飛行士たちのインタビューは報道番組で紹介される彼らの実態をいろいろ知ることができておもしろかった。それぞれ興味深い人生を歩んでいるのは宇宙に行った経験をもとにしたもの、ですべて説明したくなるけど、すでに宇宙飛行士になった時点で特殊なことも忘れてはいけないだろう。
 とはいえ、宇宙での経験から深い精神世界への洞察をひらいた話の数々は共通点がいくつも見られる点でも説得力があって、おぼろげながら彼らが語る「神」についてもぼやけた輪郭がみえた気がした。
 どんな経験をしても、それを理解する背景にあるのはアメリカ人として育ってきたことの影響を強く受けており、切り離して語れない。その説明のためにアメリカの宗教についても結構くわしくなれた感じだ。また、その正反対の意味で「宇宙で育った人間」の変容を想像させる構成になっているのは上手い。環境は人間を規定するって奴か。
 ファンダメンタリストであっても宇宙飛行士になっただけあって頭脳明晰に語ってくれるところは凄いというか何というか……。

 この本を読んでいちばん意識したのは「テクノロジーの発展が人間意識を変容させる」ことだ。別に月面旅行は宇宙飛行士に神をみせるために行われたわけではないが、結果的にはおおむねそのようになった。これからの未来はより多くの人が似たような経験をすることになるだろう。
 すでにグーグルアースのような擬似的に宇宙飛行士の視点をえられるツールだって存在しているのだから、余計に神への扉を開いていく人は増えていくはずである。それはもはや決定づけられたことに近く、感覚の開かれた宇宙人の誕生を一抹の恐怖を感じつつも期待に満ちた目で見守りたくなる。

宇宙への帰還感想:このノンフィクションをもじったタイトルのSFアンソロジー

宇宙からの帰還 (中公文庫)
宇宙からの帰還 (中公文庫)
立花 隆
カテゴリ:天文 | 15:13 | comments(0) | trackbacks(0)

月刊ニュートン9月号

NGK SCIENCE SITE
 重し用のナットがやけに美しくて撮影技術の妙を感じてしまった。まぁ、ちょっと前に気づいたことだが、鉄は美しい。涙を流す応用はおもしろかったけれど、実験を紹介する側の意図としては遊ぶ本人に見つけてほしいのかもしれない。

SIENCE SENSOR
 脊椎動物の起源にせまる:感覚的にはナメクジウオが古いほうがしっくりくるので驚かなかった。むしろ今までの定説に驚く。
 空気のちりと干ばつの関係:だからといってむやみやたらにエアロゾルを増やすのは怖い。厄介な問題だ。
 大火事は本当にあったのか:こんなに昔でなければ炭素の同位体分析が効くのにな……ここまでの規模だと大気組成にも影響を与えていそう。
 表面張力でえさを食べる:動物は自分がやっていることを知らなくても物理を使っている。試行錯誤の前進力も年月が重なれば馬鹿にならない。
 極に残された火星の気象:ランダーの成果かと思えば、オービター。情報量と情報源がどんどん増加しているなぁ。いい流れだ。
 靴をはきはじめたのはいつ?:興味深い内容だ。山岳地帯のほうが早くに必要とされそうだけど、そっちは化石が残りにくい(氷漬けのぞく)。
 大気中で新鉱物を発見:これでさらに、想像を絶する化学反応が起こっているような場所のものでも登録しやすくなったか?
 遺伝情報もつぎはぎ:さすがカモノハシ。わかるほどによくわからん。
 1年以上割れない泡:凄い応用が効きそうな気がするけれど思いつかない。社会を変えるのを待つ。
 “太古のサメ”出産に新事実:卵生を超えることは流石にないだろうが……空を飛ぶってアイデアも鳥類がはじめて見つけたわけじゃないからねぇ。
 惑星の最小記録を更新:これは母星の関係から惑星の組成にかなりH2Oが含まれていそう。

火星の北半球は巨大なクレーター?
 以前小耳にはさんだことのあった説だけど……これは途方もない天体現象だなぁ。地表のバランスが大きく崩れたことによる影響も気になる。ボレアレス平原が古いとすれば火星には昔にもプレートテクトニクスはなかったことになるね。

我が銀河の「腕」は2本?
 もとからオリオン腕はマイナーなのが切ない……腕同士で文化が違うスペースオペラとかはあるのだろうか。くっつく場所が2ヶ所なら2本の腕が主要になるのは道理だ。

脳波で「分身」を動かす
 そして現実世界でのロボット操作にも繋がっていくのかも――先が楽しみな技術である。あのセカンドライフが残すものがあるのだとすればいいことだ。

北京特集
 辺境とされていた地域にも人と物が集まる条件はあるわけだ。今の日本だとひたすら内政的な発想だけで首都を論じられるのだから逆に凄い――玄関口でもあるけれど。
 墓の透視図が月面基地にみえてしまった。病気だなぁ。

ついに「火星の氷」を目撃!
 溶けたから氷という酷く分かりやすい話。地球の論理がいろいろ応用で来ているのが凄くうれしい。ポリゴン地形の写真など、教科書的と感じるほどだった。
 ガス分析など微妙に「資源調査」の雰囲気をあわせもっているところが巧みだと感じられた。さすがはアメリカ人のプレゼンかな。
 リコネサンス・オービターの活躍は際立ちすぎていて怖さすらある。有人探査になったら本当に偵察される気分なのではないか。

地震が山を消した
 こうもイベントが頻発すると国内の動ける研究者が払底するのではないかと怯える。進行中の研究を放り出せるとも限らないし……杞憂であってくれ。
 以前の地滑り地形が再活動したなら、今回の地滑り地形が再活動するのも頷ける。上面にあった木が倒れていないことが取り上げられていたが、地滑り地形を見抜く方法の一つとしてそのような位置にある木の幹が曲がっていることがあげられる。傾いた分を上方に修正しているのである。

尾ひれをもった恐竜時代のワニ メトリオリンクス
 これはやけにカッコいいワニだ。陸上生活をするワニだと他の個体と擦れ合うことにより鱗が鍛えられることがあるらしい(アメリカアリゲーターの沼 ナショナルジオグラフィックDVDより)。広い水中空間に生きていたメトリオリンクスはその手の効果を受けなかったのだろう。

鉄より強い紙ができた!
 濡れにはどのくらい強いのだろうか?限定的な条件で語っているからタイトルはちょっと誇大だ。それでも天然素材は侮れないなぁ。

イヌイットは極北の最初の住民ではなかった
 デーン人入植者の位置づけは?イヌイットの前にやってきた移民はとことん寒い地域がお好きだったようで…。

今月のフィールドワーカー
 こういう地形学的な話は新鮮だ。ただどこか夏休みの自由研究を聞いているような感覚になった。実際に自由研究でこれをやったら大賞ものだな。

Newton (ニュートン) 2008年 09月号 [雑誌]
カテゴリ:科学全般 | 14:43 | comments(0) | trackbacks(0)

逆撃ナポレオン6〜ワーテルロー会戦・下 柘植久慶

 あーあ、とうなだれながらやっぱりの思いも強い結末になってしまった。あそこまで偏った形勢だと余程のバカをするか、相手が天才でなければ逆転は不可能だったと思うのだけど、ウエリントンの驚異的な粘り腰とグラウゼヴィッツの知謀を描いたうえだから良しとするか……本当はこういうアドリブの部分こそ入念に描いてほしいのだ。

 描かれているナポレオンの暗愚っぷりは処置なしと言いたくなってしまう。新しい英雄の出現を恐れるならそここそ、自ら近衛軍団を率いて突撃にうつり、英雄になってみせればよかったのだ。勇気よりも天才的知謀で英雄の名声をほしいままにしてきた意識が仇になったのかもしれない。
 そう考えると個人的武勇がものをいった時代と完璧にシスティマティックに戦う中で才能を発露していく時代の遷移的な状態に英雄ナポレオンが転落死した気がしてくる。その手の勇気には事欠かなかったネイ将軍がポワソンシャーの知謀をえたのはなんだか皮肉だ。
 まぁ、スルトの描きかたはもうちょっと何とかならなかったのかと思う。いくらなんでも元帥にまでなった人間の態度ではないと考えてしまう。グルーシー元帥は意外と落ち着いた評価がなされていただけに……。

 かなり落胆させられる結末だったけど、最後の攻勢でみせたネイと御厨の友情込みの連携攻撃がじつによかった。そのあたりの展開はじゅうぶんに楽しめたのでカタルシス不足な面はあるとはいえ、満足して読了した。

逆撃ナポレオンワーテルロー会戦〈下〉 (C・NOVELS)
逆撃ナポレオンワーテルロー会戦〈下〉 (C・NOVELS)
柘植 久慶
カテゴリ:時代・歴史小説 | 23:13 | comments(0) | trackbacks(0)

逆撃ナポレオン5〜ワーテルロー会戦・上 柘植久慶

 再度フランスを掌握したナポレオンは最終決戦に打って出る。ワーテルローの前哨戦は御厨太郎の画策によって大規模な殲滅戦に移行し、プロイセン軍を叩きのめした。戦術展開がタンネンベルク会戦のオマージュを感じさせるものになっており、プロイセン軍がその犠牲者なのがおもしろい。ウエリントンとブリュッヒャーの不仲を敗因にもってくるところも「らしい」。
 まぁ、調子がよくてもいつものごとく歴史の寄り戻し、足を引っ張る同僚に事欠かないのだが……ナポレオンもポワソンシャー中将の名声が高まりすぎることに警戒心を抱いておりやけに面倒くさい状況に陥ってきた。

 やはりナポレオン軍の人材の少なさが気になる。それも結局は人がいないのではなくて(大戦争で人口を失おうともやはりフランスは大国だ)ナポレオンのワンマン指揮の弊害が遅行性の毒のように出ている感じがする。
 それでいて本人の判断力は鈍っているのだから手に負えない。むろん、老いたりとはいえ皇帝の才覚は優れたものとして描かれているのだけど、能力が衰えたことよりもそれを認めずに全盛期の感覚のまま物事を処理しようとする姿勢に大きな問題があるように思われた。
 一族重視主義に踊らされていることについては、血縁者に恵まれなかったアウグストゥスが幸運に思えてくるほど……自分から頭痛の種を増やしているのだから世話はない。

 ともかく絶賛と嫉妬の雨を浴びまくっている御厨=ポワソンシャーにも問題があって、ベルティエ元帥に続いてスルト元帥にも同じような敵意を受けてしまうのは、本人の度量にも問題がある気がする。
 だいたい本気でナポレオンを倒して帝位を奪うくらいの決定的な行動にでてしまってもいいはずなのに、それをしない、できないのは本人の人徳に根本的な問題があるからだろう(ある種の勇気の問題といってもよい。自分の情報力を誇示したいがために歴史改変しながら歴史改変を避ける性質も災いしている)。
 まぁ、いくら下駄をはいた能力があっても本当にその時代に生きた人間でなければ掴めない人望ってものはある。

 そのあたりを踏まえているならストレスは溜まるものの、逆撃シリーズは歴史改変の難しさを示唆しているのだろう。

逆撃ハンニバル戦争カンナエ会戦感想

逆撃 ナポレオンワーテルロー会戦〈上〉 (C・NOVELS)
逆撃 ナポレオンワーテルロー会戦〈上〉 (C・NOVELS)
柘植 久慶
カテゴリ:時代・歴史小説 | 00:50 | comments(0) | trackbacks(0)

逆撃ナポレオン4〜エルバ島脱出 柘植久慶

 意外なほど戦闘シーンがなくて裏工作に終始している雰囲気が独特だった。まぁ、柘植先生はこういう陰惨なのも得意といえば得意か……。いっそのこと死者がまったくでなければおもしろかったのに、と変な期待を抱いてしまっていたよ。
 大革命があまりにも悲惨だからかもしれない。

 作中の視点で描かれる元帥たちやルイ十八世、アルトワ伯爵の醜態は興味深いのだが、それなりにバイアスが掛ったものとしてみたほうが良さそうだ。この作品の場合、はじめからそれが分かりきっているだけ、むしろ健全に歴史を楽しめたりする。
 あいかわらず人物間のやりとりが素っ気なく、歯切れがよすぎる。しかし、現実における将軍たちのやりとりもこんなものだった気もしてきた。後世の歴史家という名の文章家によって推敲を受けてしまう傾向にあるのが、彼らの発言だから。でもまぁ、クセノフォンだけはガチ。

 銀行を襲撃して資金源をおさえるアイデアは興味深いし、実際の大規模すぎる銀行強盗(と戦闘の中間にある作戦行動)にはワクワクさせられた。とはいえ、御厨太郎が周辺人物に絶賛の嵐を受けているのが鬱陶しくてしかたがない。
 歴史上の偉人たちにまで「やっぱりポワソンシャー中将はすごい」と言わせてしまうことに自慰的なものを感じてしまう。もともと情報量で圧倒しているのだからフェアーな知恵比べでもないのに、あまり持ち上げすぎると滑稽だ。
 その辺りがやっぱり気になってしまう作品なのだった。


ナポレオン−獅子の時代−感想
:ナポレオン時代を描いた熱い戦記漫画。登場人物をこの作品のイメージで読んでしまった。

ナポレオン戦争全史感想

逆撃 ナポレオンエルバ島脱出 (C・NOVELS)
逆撃 ナポレオンエルバ島脱出 (C・NOVELS)
柘植 久慶
カテゴリ:時代・歴史小説 | 00:15 | comments(0) | trackbacks(0)

超弩級空母大和8巻〜GENERATIONS 三木原慧一

 日米の死力を尽くした大海戦。次々と状況が混沌に巻き込まれていき、無数の悲劇が横行したうえに、悲劇が日本の悲劇を救うという喜劇的悲劇が積み上げられている……それだけ必死にならざるをえないのだ。とてもプライドをもちだしてうんぬんできる雰囲気ではない。

 この苦境をもたらしている根本的原因がF8Fベアキャットの凶悪な性能にあるのが何ともいえない。戦闘機が勝てなければ戦争に勝てないと風が吹けば桶屋がもうかる風に論じた話があったけれども、宗方たちの苦境をみると圧倒的に納得できる。
 で、ありながら「情報」の力は性能差をくつがえすこともありえると、まず米軍に証明させているのがグー。圧倒的性能に反映されているのはもちろん基礎工業力をはじめとする国力なのだから、戦闘機が強いというのも簡単なことではないのだろう。

 EOPと呼ばれる終戦への作戦と工作については宗方をド外道あつかいするほうが違和感があって、最終的に提示された結論にはじめから納得がいってしまっている。おそらくこの温度差は私が当事者でないことにあるのだろう。
 たしかに肉親が戦争で死ぬことはまだ覚悟できても「あえて最大限生き残る努力を許されずに」死んだことは納得しがたいものがあるはず。ほとんど「殺された」と感じる遺族がいても不思議ではなかった。
 それでもやっぱり、これだけの狂気に走らせた原因――隔絶した彼我の国力差がわかってしまっていると、狂気の海に呑み込まれながら勝利もえられなかった史実より、超弩級空母大和世界のほうが何倍も素晴らしいものに思えてしまう。リアルタイムで読んでいたころは非道な手段とは「特攻」そのものだと予想していたのが懐かしい。

 フィリピン沖海戦のときに見られたあえて敵に発見されることで防空力をイーブンにもっていく戦術といい、目的を完遂するためにかなり捻くれた道をみつけてみせる主人公だった。そして、この世界の日本はよくその博打に全力で応えてくれたものだ。
 確かに全てを投げ打ったハワイ侵攻にしか生き延びる手段はなかったのだけど、それが分かっていても身投げをできないのが人情だから。

超弩級空母大和〈8〉 (歴史群像新書)
奥田 誠治,三木原 慧一

クリムゾンバーニング 1−5巻感想
新・大日本帝国の興亡1感想
カテゴリ:架空戦記小説 | 19:22 | comments(0) | trackbacks(0)

超弩級空母大和2〜キャリア・ストライク 奥田誠治・三木原慧一

 やはりこの世界の日本は単独で未来に進んでいるとしか思えない。零戦改の反則的な無敵伝説は零戦そのものさえ決して優秀な機体とはいいきれない、といろいろ読んで考えるに至った私には違和感の多い状態だった。この立場が後半には逆転することを思えば皮肉でもあるのだが。
 胆となっている空母大和の巨大化については、単に巨大化させましたではなく設計思想や技術力と絡めて論じているところがよい。おかげで大和はこの世界の特殊性を強烈に反映され、また世界の一部として多大な影響を及ぼす存在感を示している。タイトルになるにふさわしい主人公ぶりと言える。

 太平洋戦争の第二段階として生起したフィリピン沖海戦はアメリカの早期決戦姿勢に後押しをうけて、いきなり起こるにはあまりにも激しすぎる互いの総力を投入した大規模空母戦になっている。艦隊運用のデータも彼我の機体の優劣もまともに評価できていないのに、ここまで大きなものを賭けるのは博打にしかみえない。
 よくもこんな怖い真似が出来るものだと妙に感心してしまった。まぁ、戦争とはギャンブル性の高い行為だとはいえ……。

 戦闘の結果は内容に比べればずいぶん順当なもので、ラングレーと蒼龍が刺し違えての撃沈は「病気」の影響としていたしかないにしても、日本側には他にも大破した空母が二隻生じていることに驚いた。あれだけの規模の攻撃が炸裂してしまえば当然か。
 大和を囮にしたり、搭乗員や乗組員の消耗が問題視されているのをみると、あえて乗員数が多くて守りの浅い重巡洋艦辺りを潰してまわったほうが人的損害を大きくして後々の消耗を狙えるのでは?という鬼畜なことを考えてみた。
 やっぱり主力兵器のプラットフォーム能力と、その運用ノウハウをもった人間は価値が違うか……。

 アメリカの戦艦部隊が一発の砲弾も放たずに撤退したのは、ミッドウェー海戦のオマージュだろう。能力を存分に発揮できる環境をつくることができなくなった時点で、主力兵器はその地位を失う。たとえ変わらず戦場で最強の存在だったとしても、それに変わりはあるまい。

超弩級空母大和〈2〉 (歴史群像新書)
奥田 誠治,三木原 慧一
カテゴリ:架空戦記小説 | 19:20 | comments(0) | trackbacks(0)
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