BIRTH 大場ナオコ・瑳山ゆり

 屋久島の水が滴る緑にあわせて生命賛歌、母性賛歌の詩をうたった冊子。
 どこもかしこも苔むした樹林の凄さには息をのんでしまう。ニュージーランドの湿潤林に匹敵するなぁ。
 ただ、水滴と植物のモチーフを哺乳類の妊娠に重ねようとするのは強引な印象を受けた。緑は生命の豊かさを感じるのにわかりやすいシンボルではあるけれど、同時に個が極端に希薄で一個の完結したところがあるタイプの生命とは相容れないものもある――そこをあえてスルーして全体の中の安心感を提供するのが本書の目的なのかもしれないが。

 ちょっと文章には変なところがあって、深く考えたら負けっぽい。あとがきの植物は急いでいない環境を強制していないみたいな、あからさま、願望投影的な事実の歪曲はさすがにどうかと思ってしまったが……。
 むしろ社会環境のほうが揺り籠的なところも少なくないよ――両者のいいとこどりをして上手く演出してみせれば効果的なのは理解できる。
カテゴリ:写真・イラスト集 | 22:10 | comments(0) | trackbacks(0)

デュアル・パシフィック・ウォー3巻 荒川佳夫

 まるで18インチ砲戦艦になった瞬間に「成り」が起こってしまい、別次元の存在になってしまうような戦艦の断層が生じている。今までは日本軍のみがその恩恵に預かっていたが、ついにアメリカ南部連合軍のトマス・J・ジャクソン級が牙を向き、特権を剥ぎ取ると同時に大暴れをみせてくれた。
 こうなると18インチ超の戦艦が跋扈する太平洋は海軍にとっても別世界に近く、やっとタイトルに恥じない雰囲気がでてきた気がする。そうはいってもアメリカ合衆国もセント・マイケル級を完成させて大西洋を18インチ砲戦艦の戦場に変えようとしているのだが……。
 独自の道をいくのが地中海戦線でわずか11インチのストラスブールがずいぶん幅を利かせていたかと思えば、大活躍したイタリア海軍とついに始動したソ連海軍のソビエツカヤ・ウクライナが帯同しての軍事行動を企図するという変態的な展開になっている……どうやって収拾をつけるつもりか頭の痛い話だが、矢面に立たなければならないイギリス海軍はそれどころではないだろう。やっとフィリップス提督の御鉢が回ってくるのは良いけれど、何とも同情を呼ぶ戦いが期待予想されるのである。

 条約軍によるアゾレス諸島への上陸作戦やギリシアからの撤退作戦、日本軍のジャワ島侵攻作戦の失敗によって非常に多くの陸軍将兵が海の藻屑と消えている現実も忘れられない。このペースで地上戦力が失われていくとドイツはともかく他の国は決定的な軍事行動が不可能になる日も遠くはないのではないか……ヒトラーの一人勝ちを許さないためにもグダグダになったところで手を打つ必要が大きくなっている。
 とくに渡洋作戦を異常な規模で展開している南部連合軍の戦いぶりには気が狂いそうになった。それをやる前に北米沿岸での上陸作戦を繰り返すべきなのではないか?その目的のために編成されていたと考えれば、強力な攻撃は理解できるもののマッカーサー大統領の政治方針を疑いたくなってしかたがなかった。

 地上戦では決定的な効果が得られないから手先を変えていると説明はされているのだけど、イギリス・ドイツと違って長大な国境を接しているからねぇ……。

デュアル・パシフィック・ウォー〈3〉 (歴史群像新書)
デュアル・パシフィック・ウォー〈3〉 (歴史群像新書)
荒川 佳夫
カテゴリ:架空戦記小説 | 23:18 | comments(0) | trackbacks(1)

デュアル・パシフィック・ウォー2巻 荒川佳夫

 この巻の被害担当はイギリス海軍が主になっていく――合衆国海軍も決して無傷ではないのだが。まさかのイタリア海軍がおさめた勝利にはそれまでの戦いすべてを持っていくほどのインパクトがあった。コロンビーヌ提督とフォルギエリ参謀長の漫才もおもしろく、この強さもイタリアならではの演出と感じた。
 リットリオ級は確かに主砲の貫徹力は高いのだけど、発射速度が泣けるからなぁ。現実に戦っていたらどうなっていたのか、非常にいかがわしいものがある。

 アイオワ級とジョンストン級の戦いは、ジョンストンに12門の16インチ砲を搭載させながら、それほど高く評価していない点が微妙だ。船体の捻れによって散布界が広がる問題があるとはいえ、砲塔の数が多いことは戦闘能力を維持しやすくする。
 互角の評価はどんなものか。まぁ、アイオワ級にしても高く評価されているわけではなく、デュアル・パシフィック・ウォー世界のオリジナル戦艦相手には苦杯を舐めさせられる役目を与えられてしまっている。
 作者の評価も間違いではないのかもしれないが、軍艦としての総合的な戦闘力はレーダーなどのエレクトロニクスから機関、ひいては乗員の体調を維持する能力までを踏まえてこそ議論できるものだ。
 航続距離を犠牲にして異常な重武装化を押し進めている南部連合軍の戦艦や1945年でも健康なドイツが生んだグロース・ドイッチェラント級戦艦と殴り合わせるのは酷な気がした。酷なことでも完遂しなければならないのが軍人とはいえ……。

 しかし、巻末の艦隊表をみると南部連合軍の戦艦が主砲口径をバラバラにしている点が無性に気になる。14,15,16,18インチの戦艦を保有して円滑に補給を続けられるものか。まぁ、パナマ運河があるだけやりやすくはあるのかな。
 20インチ砲戦艦大和級というジョーカーを持っている日本軍も弾薬管理の点では褒められた状態にはない。

デュアル・パシフィック・ウォー〈2〉 (歴史群像新書)
デュアル・パシフィック・ウォー〈2〉 (歴史群像新書)
荒川 佳夫
カテゴリ:架空戦記小説 | 21:51 | comments(0) | trackbacks(0)

デュアル・パシフィック・ウォー1巻 荒川佳夫

 南部連合が存続し、軍事的には合衆国に劣らない規模で発展した世界における第二次世界大戦、とくに艦隊戦を描く架空シミュレーション小説。南軍で活躍した将軍たちの名前を冠したアメリカ連合国艦隊の戦艦たちが妙に魅力的で南北に分断されたアメリカの人材たちと共にその行く末を楽しめる。

 初手の展開はパナマ運河をおさえて効率的な艦隊運用を可能にした南部連合が戦力の集中によって合衆国太平洋艦隊を完膚なきまでに叩きのめしてしまうところから始まる。その穴埋めのためにも日露戦争で勝てなかった貿易立国型の大日本帝国が駆り出されるのだが、北米大陸で4つにくみあった地上戦が展開されている状況で南太平洋の覇権をかけた艦隊戦が繰り広げられるのは正直違和感があった。
 感覚的には第一次世界大戦のアジア戦線くらいの重さで、切り取りに任すのもしかたない扱いになりそうなものだが、合衆国海軍を半身不随に落とし入れた自身から欲張り過ぎの行動にでてしまったのかもしれない。
 さすがに純粋な人口では北部が上回るだろうし、戦争がはじまってからも海軍に国力を注ぎ続ける余裕はないと思うのだが……そういえばデュアル・パシフィック・ウォー世界の「第一次」南北戦争の経緯ではM4戦車にシャーマンの名前がつくか微妙なところがあるな。

 開戦が1945年までずれ込んでいるのも大きな特徴で、近接信管が各国で常識化されたことと新鋭戦艦の高速化によって航空攻撃の有効性が相当奪い取られてしまっている――それでも太平洋側でやられると戦艦を使った制海権争奪行動に微妙な違和感があるのはおもしろかった。
 あと、オリジナルの新鋭戦艦が軒並み排水量が少なめに見積もられている傾向があるのは「ギャルゲーヒロイン設定体重軽すぎるよ法則」みたいなものなのだろうか……特に(技術力の底上げがあるとはいえ)日本の戦艦が凄まじい。日本海軍はあまりにも負ける気配をみせていないこともあって、ヴィシーフランスや南部連合あたりを応援する視点で読んでしまっていた。

 提督の人物描写が妙な方向に魅力的で、オットー・チリアックス提督のお嬢様キャラ的言動には多いに萌えてしまった。南部連合提督たちの成長にも期待がかかる。

デュアル・パシフィック・ウォー〈1〉 (歴史群像新書)
デュアル・パシフィック・ウォー〈1〉 (歴史群像新書)
荒川 佳夫
カテゴリ:架空戦記小説 | 20:56 | comments(0) | trackbacks(0)

月刊ニュートン12月号

2008年ノーベル賞
 日本人4人のうち3人が名古屋大学出身者であることに感心する。東大京大ばかりじゃ面白くないからね――それでも地方大までいってくれるのは難しいかな?
 化学賞は他愛もないといっては失礼だが、とても分かりやすいのに対して、素粒子物理学は狭い紙面での解説を半ば放棄することによって解説するような難易度だった。過去でこれなら最先端はどうなってしまっているのか、想像を絶するものがある。
 研究員だけではなく家族総出で実験につき合わせる逸話を、別の研究者でも聞いた覚えがあって微笑んでしまった。

SIENCE SENSOR
 火星の地層を読む:地質学者ローバーではなくて偵察さんのほうからの成果か。やっぱり広い範囲を攻められる軌道船の強みが出てきている気がする。ローバーは電力的にも苦しい状況が続いているし。
 鉛筆がダイアに!?:でも、地上環境で安定なのは黒鉛だからなぁ。戻さないようするには相当の設備が必要になるのではないか。
 赤道にまで氷河があった?:とりあえず眉に唾付けて読みたくなる要素が含まれている。詳細な追跡調査が欲しい件だ。高度にもよるから否定する必要もないけれど、氷河の規模が問題だな。
 脂肪の種類の決まり方:またそっち系の理論派漫画に向いたネタが…ピンク色ならぬ褐色脂肪細胞か。覚えておこう。
 古代の都市ネットワーク:かなり斬新な文明のありかたをしていたようで興味深い。違う方向性に発展していた文明は現代社会へのヒントになったのかもしれないのに、スペイン人め!
 太陽はどこからきた?:親せきの家をたらいまわしにされる家なき子の気分……変な同情をもよおした。
 カメラがさらに小型化:耐久性に難がありそう。さて何に使う?
 海山が震源ではなかった?:いや、これは海山が震源といっても良いのでは?今までのアスペリティのニュアンスからはずれてくるけれど。
 ちりによる気候変動:これでやっと二つ目の目が開くという感じなのかもしれない。まだまだ見えていない要素は多そうだ。

人工知能は音楽を「奏でる」ことができるか
 将棋のAIに似た方法論を感じた。あれはかなり学習型が幅を利かせていて事例参照型が補うように使われる感じかな。どちらにしろ既存の演奏がなければどうにもならない問題は解決されていない。そこに安心してしまうのである。

「合成樹木」が水を吸い上げた!
 クララが立った!みたいな言いかた……いちど上部の水分を失った樹木は大変だと思った。時間との嫌な競争になりそう。

虚数がよくわかる
 もはや数の歴史になりかかっている。流し読みだがQ.E.D.証明終了7巻の影響でオイラーの公式にはくいついてしまった。実用例が興味深い。あと、数学合戦話がおもしろかった。高校の先生が話題にしていたなぁ。

ちりの彼方にある宇宙
 もう五年になるのかと驚く。スピッツァーのずいぶんな功労者だ。しかし、ヘリウムの時限がある以上は延長ミッションは難しいだろうな。中途半端な機器運用に予算をとられて新しいことをはじめられなくなってしまうのも考えものだ。
 独特の美しい画像をみせてくれるこの宇宙望遠鏡は大好きなのだけど。

大陸の“誕生”にせまる
 大陸地殻がなかった時代にも地殻は熱交換によって生まれ続けるから海洋地殻同士がぶつかって皺ができるという説があったな。花崗岩質から安山岩質に大陸地殻のあつかいが微妙に変わっているのが興味をそそる。ちょっと成分的なデータが分かってきたのかもしれない。
 説明されていた大陸地殻の生成理由は水の海が存在する特殊性を特に求めていないことが気になった。比較惑星学的に考えても有用する論理なのか、どうにも不満なのだ。正しいとしてもその変にミッシングリンクが残されている気がする。

雲と霧の民――チャチャポヤス
 さいきん発見されたのに盗掘を受けている事実がなんか嫌……現地の人にも生活があるのはわかるが。やっぱり観光客を呼び込むには立地の問題も大きくて、いろいろ「利」で説くのが難しいのかもしれない。論理が通じるほど教育がいきとどているかも問題だが。
 人口分析やアンデスとの歴史に妙に興奮を覚えた。やっぱり未知の歴史は愉しい。

機械が“突然変異”するとき
 シミュレーション手法の発展をおしえてくれる。完璧な形状なんてものが存在しにくいのは、飛行機であればエンジンの性能や機体の材質も変わっていくからだろう。図ではほとんど変化がわからないのに燃費に3.5%も影響するのに驚いた。
 いつしかその場の状況に応じてコンピューターが道具を設計し人間に手渡すシーンが生まれるのかもしれない。

水陸両用の奇獣 デスモスチルス
 ギリシア哲学者みたいな名前に聞き覚えがある海獣。爬虫類的な骨格など相当のかわりものだったようだ。ちょっと胡乱すぎるが、クジラとも繋がる種であるし研究が進んで欲しいもの。

タスマニア原生地域
 不思議に思うのは水が手に入りやすい環境だったのに、どうして初期入植者はここを選ばなかったのかということ――湿った日本人的感性と乾いた欧州人的感性の違いってやつかな。地形が人の接近を阻む感じになっているのも自然が残された原因のひとつかもしれない。

Newton (ニュートン) 2008年 12月号 [雑誌]
Newton (ニュートン) 2008年 12月号 [雑誌]
カテゴリ:科学全般 | 18:29 | comments(0) | trackbacks(0)

楽しい鉱物図鑑2 堀秀道

 決定版というには凝ったつくりと微に入り細を穿つのはともかく話題があまりにも豊富で多様すぎることが気になる楽しい鉱物図鑑。続編が出てしまっているのも取扱いの難しさになっている。せめて1−2の内容を統一して検索を容易にした完全版がでてこないものか。

 そんな贅沢な不満はあるものの、この本は間違いなく傑作。とくにマニアックな鉱物を収録している2巻は、鉱物趣味の深さを味わうのに非常に適している――とはいえ、これでも入口の方であると著者が主張されているから恐ろしい。
 ちょっと珍しそうな鉱物を入手して「これは載っていないだろう」と調べた場合にもっとも当たりの大きいのは、この楽しい鉱物図鑑2だと思っている。

 収録されている標本の中にはふつうに著者自らが採集された標本が加わっている。多少は地味な傾向があるものの、決して他の標本の列の中で見劣りするものではなく、独自の風格を漂わせていることに、筆者の鉱物コレクターとしてのキャリアを感じざるをえない。
 まぁ、中には購入標本としても地味で岩石的なものもあるのだが、それにしても産状をよくしめしており鑑定の参考になるようなものが選ばれている。そんな中に思いもかけない鉱物が美しい結晶をみせて奇襲してきたりするから効果的なのかもしれない。
 あらためてみるとブラウン鉱の結晶写真がやけによかった。カコクセン石や銅スクロドフスカ石、マンガンブラックの悪魔が血を滴らせたようなパイロクスマンガン石の美麗な姿には前々から目を付けていたけれど。

 そして有名産地の標本の中には共産鉱物として複数のものが掲載されている場合があり、これが後々役に立ったりするのだった。
 ユタ州産のビクスビ石にシナモン色のトパーズが共産することは知っていたが、擬板チタン石はノーマークだった。今度、ブースに並べられたビクスビ石の標本をみるときは注意深く観察してみようと思う。

 かくのごとく、読み返すたびに鉱物趣味を進歩させ、楽しみの幅を広げてくれる素敵な図鑑なのである。

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楽しい鉱物図鑑〈2〉
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堀 秀道
カテゴリ:地学 | 12:41 | comments(0) | trackbacks(0)

鉱物・岩石の世界〜地球からのメッセージ 青木正博

 読み仮名のついた表紙から子供向けの雰囲気をだしている鉱物・岩石系の書籍だが、どうしてなかなか大人でも楽しめる体裁にしあがっていた。解説には読み仮名がないこと、専門用語を使いまくりなことをみるとどこまで本気で子供に読ませたいのか疑ってしまうくらいだ。
 子供に分からない部分の質問をされる親の気持ちにもなれって話である……鉱物採集の写真例がガスマスク付けて火口に突入したやつなのは笑った。そこまですると真似したくてもできないだろうよ。

 内容は図鑑的な分類ではなく鉱物や岩石の性質や用途に注目して標本を列挙する形式になっている。硬度などの味気ない説明でもかならず標本写真を付けてくれるので見ていて飽きない。
 しかも、標本のレベルが存外高いのが素晴らしかった。針ニッケル鉱やリチア電気石の写真には涎が垂れそうだ。どれもこれも博物館の標本的な雰囲気で質が高く見応えがある。退屈になりがちな岩石であってさえも、国産の中から(意外と希少なところがある)典型的な標本を並べているのには驚いた。
 ジャスパー礫岩など思わぬサプライズもあったし、最後まで飽きさせないでくれる良い本だった。

 ちょっと気になる点を挙げておくと元素表のホウ素のところに表示された写真は電気石ではなくダトー石に見えた(まず電気石ではないだろう)。どっちもホウ素を含む鉱物だから途中で差し替えて混乱が生じたのかもしれない。

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鉱物・岩石の世界―地球からのメッセージ (子供の科学・サイエンスブックス)
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青木 正博
カテゴリ:地学 | 12:29 | comments(0) | trackbacks(0)

恐竜の飼いかた教えます ロバート・マッシュ/著 別役実/訳

 タイトルの通り、現代社会で恐竜を飼育する方法とその生態について珍奇な解説をくわえているもの好きな本。白亜紀に人間と恐竜が共存しているファンタジー漫画白亜紀恐竜奇譚 竜の国のユタを連想して手に取ったのだが、あの作品と同様にオルニトミムスが乗竜用として取り上げられていたことが愉快だった。やはり恐竜マニアの考えることは同じか。
 体色や生態などについては、かなりのフィクションや推論が交えられているものの、当時最新だった事実に基づいた描写も多くてなかなか興味深かった。
 なんだかんだで名前を覚えて、ためにならない確かな恐竜知識が残されていくのではないか。

 なんといっても英国紳士らしい、諧謔の効きすぎるほどたっぷり効いた言い回しの数々が魅力的で楽しめた。恐竜を飼うのに動物愛護団体の批判を気にする必要はない、なぜなら恐竜はとうに絶滅しているのだから、なんて人を食ったものいいに微笑まずにいられる紳士がいるだろうか。
 他にも恐竜が好きなのか嫌いなのかわからなくなる捻くれた評価を与えてみたり、飼いかたを教えるふりをしてどう考えても不可能なことをチラつかせたり、いろいろと楽しくふざけてくれていた……。

 挿絵のうち、特にカラーのものは魅力的なのだが、頻度が少ないのが不満の種ではあった。文字の解説だけではイメージが追い付かないときがある――法螺話っぽいのに合わせて妙な想像を巡らせるのも一興なのだろうが。

恐竜の飼いかた教えます
恐竜の飼いかた教えます
ロバート・マッシュ,別役 実,ウイリアム・ラッシュトン
カテゴリ:地学 | 22:44 | comments(0) | trackbacks(0)

眠る5分前に見る本

 でも眠る5分前には見なかった……確かに明るく開放的な自然の風景が多くていい夢見をもたらしてくれそうである。新鮮な緑色や華やかに柔らかい黄色が織りなす画面は自然の作ったカラフルな楽譜のようだ。
 案外パソコンのシャットダウン時に表示させるのもいいのではないか――パソコンは夢をみないけれども。

 ただ、人類の原風景を刺激するというには人類に徹底的に調教されたヨーロッパ的情景が多く、それに人工的な違和感を覚えるタイプの人には向かないかもしれない。
 まったく文章を挿入しない男気には感心した。
カテゴリ:写真・イラスト集 | 00:16 | comments(2) | trackbacks(0)

星の島 林完次

 沖縄を舞台に撮影された星というよりも青をテーマにした写真集。
 話の中にでてくる青色の言い表しかたが豊富で端に小さく解説が付いていておもしろかった。もちろん海と空と宇宙が視界の大部分を占める傾向がある沖縄でのこと、写真でも青色の占有率は高かった。
 ひとつのものに拘っているとかえってその多彩さに気付くもので、さまざまな深さや色合いをもつ青色の数々には魅了されてしまった。海の青も空の青も素敵だけれど、やはり星をちりばめた宇宙の青には格別なものを感じるのである。

 その星に関する解説がけっこう詳しくて、写真は星座レベルに限定されながらもいろいろと興味深い内容になっていた。
 沖縄の中でも金星のよびかたが複数あることは空間的な広さと島特有に発達する文化を感じさせるし、さそり座を釣り針に見立てる感性は星座をみるときにその南中高度が問題になることを気がつかせてくれた。やはり天高く展開する星座は鳥に見立てられやすい気がするし、水平線・地平線近くのものは地を這い水面に潜む動物に重ねられやすいのではないか。
 その発見が新鮮でちょっと得した気分だ。

 そんな感じで写真と知識はよいのだが、たまにある詩がいまいち恥ずかしい雰囲気でちょっと辛かった…。

星の島
星の島
林 完次
カテゴリ:写真・イラスト集 | 22:16 | comments(0) | trackbacks(0)
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