戦略・戦術・戦史Magazine 歴史群像 No.58

海軍日吉台地下壕
 ここで働いていた人は勝ち組だったろう、などと考えてしまった。学校の地下にある点からして少年探偵Qのクロスワード事件の元ネタになっている気がする。
 当然だけど、司令部のありかたは戦略思想に大きく影響されるんだなぁ。

伊那 大島城
 いろいろと出されたものは残さず食べるための周到なプランを立てていたようだが、基本的に城は受け身なのだと感じた。どれだけのコストをかけて整備しても戦略状況が整わなければ実用にできない。
 しかし、その存在によって戦略環境を整えられるコインの裏側もあるわけで……難しく、おもしろいな。

起重機船 蜻洲丸
 戦時中も活躍して沈むことなく生涯をまっとうできたのか…低速船だが陸軍の関わっていることもあり大事にされていたっぽい。もちろん、運の要素がいちばん大きいだろうけど。
 こういう正面戦力ではない機材も大きな戦力なんだよね。

ポケット戦艦
 見開きのイラストが滅法カッコよかった。戦果は三隻で総合すれば微妙なところがあるけれど、元々平時における牽制効果をもっとも求められており、それは充分あったといえるのではないか。

ヘースティングスの戦い
 まさに力攻……激しさの割に戦術的に気になるところが少ない。騎兵による機動力がノルマンディー軍に戦術的な柔軟性を与えていることくらいかなぁ。攻撃よりも防御の関係する効果だ。
 どちらの王者も命の危険にさらされる場面があるのが興味深かった。かなりリスクを冒さなければ兵士もついてきてくれなかったのだろう。

「ふ号」爆弾
 この脱力的なネーミングはなんとかならないのだろうか……爆弾を積まずに単なる学術的な使われかたをしたら楽しかったに違いないと、到達図をみて思った。けっこう北寄りに届いているなぁ。
 オレゴンで起こった悲劇に、さらに悲しい逸話があるのには胸をつかれた。

スターリングラード攻防戦
 同数の敵相手に見事な包囲網を形成したジューコフとワシレンスキーの作戦が見事。よりにもよって河川の屈曲部に兵力の大半をかき集めたドイツ軍の戦略的な失態のすさまじさは、取り返しのつかないものだった。
 ヒトラーの頑迷さだけで説明していいものかどうか……電撃戦が有効性を失ったからといって折角の機動力を殺す方向に動いていては活路は開けまい。

足利義昭の陰謀
 最後の室町幕府将軍ってずいぶん苦労しているのねぇ。上洛上洛いわれるが実際に行われた上洛についてはあまり有名でないのが面白い。信長の行動はまさに火中の栗を拾う真似だったわけだ。

スペイン継承戦争
 面白いな、これは。
 マールバラ公の圧倒的な強さには正直まいった。あまりにも勝ち続けるので、どこかでフランスを応援してしまったよ。太陽王に人材がいなかったようには見えないのだが、使いかたが悪くてはどうにもならない。逆にいえば目立たないながらもマールバラ公の思う通りの作戦を許しているイギリス政府が優秀ともいえる。
 機動力をいかしての戦力集中戦術はダンスみたいで興味深かった。編成や部署がおもいっきり効いてくる戦い方だ。
 名サブヒーローをやっていたオイゲンも印象的。

人口港湾マルベリー
 単位時間当たりの補給量の問題は戦線形成に大きく関わる。海洋によって国土をまもられていたイギリスやアメリカがその守備力を打ちぬくために苦労した話と考えると面白い。それを熟知しているだけにブレイクスルーできたのかも。
 建造費はバカ高いが、戦後も利用価値があるし、応用がきく技術である点で戦艦ヴァンガードより余程優れている。

戦術入門―機甲編その2―【戦車中隊〜連隊】
 日本陸軍には戦車大隊がなかったというのは妙に印象的なのだが、それが単純に後進性を示すとも言い切れない。理論はきちんと正解(有効)のコースに乗っているのだし、やはり工業力やそれを前線に反映する力が及ばなかったとみるべきか。
 アメリカは理論はしっかり構築しているものの、実用には問題があって、けっきょく質量で押し切るイメージ…。イギリスはやっぱり変、ということで。

激闘熊本城
 加藤清正にしてみれば熊本城の弱点は敵をひきつけて打撃するためのものだったのかな?戦闘の射程が大きく変わってしまったことで意図とは異なる結果がでていた可能性はある。
 まぁ、薩摩軍の戦略そのものが微妙だったわけで、後はどこで問題が噴出するかの違いだった気も……なにはともあれ谷干城少将の敢闘は見事だった。

城破り
 いわいるひとつのパフォーマンスか。統治を考えると心理的な側面は非常に重要で呪術的な問題からもなかなか逃れられないものだ。

航空ジオラマの鬼才 田中ショウリの世界
 このテクニックには惚れぼれする。空撮のリアリティを追求することにとことん集中しているのも見事。プロペラが後から描き込まれたものであるのにはたまげた。

機械伝説 別盃
 機械かどうかは置いといて…本当に悲しい盃だ。焼きが入っていなくて素朴な作りになっているのが印象深い。

戦史の片隅で06.G.T.O(グレートタンクおやじ)
 サブタイトルが卑怯すぎて笑った。ポーランド不屈の機甲部隊司令官、マチェク将軍のお話。
 けっこうド・ゴールに似ていると思うのだが、戦後の運命はずいぶんと違ったものになってしまったなぁ。彼の無限の闘志に敬意を表したい。

戦場医療の歴史1 古代〜近代
 すごくジャンプでやっていたアスクレピオスを思い出してしまう話題だった。砲架もそうだったがフランス陸軍のハードウェアはかなり優れた設計をされている印象だ。
 こうやって助けに来てくれると分かれば兵士の士気も改善されるだろう。

よくわかる築城学入門22回 作事1
 礎石建築のほうが堀建建築よりも耐久性に優っているのが興味深かった。やはり日本の腐食を促進しやすい風土も影響しているのかもしれない。
 指図の設計はRPGのマッピングみたいで面白そうだ。

THE WAR MOVIE ハンド・オブ・ブラザース
 舞台装置の重要性を教えてくれる解説の仕方である。舞台と打つと部隊のご変換の気がしてしかたがない……。空挺部隊はやっぱり美味しいんだなぁ。

三別抄の乱
 朝鮮民衆が可哀想すぎる高麗による対元戦争の記録……やっぱり通過点として扱われてしまうと容赦がない。結果的にだろうが、日本にとって三別抄の抵抗が大きな利益になっているのが印象的だった。少しは支援してやれといいたくなったが、鎌倉幕府にそんな視点はないか…。
 海洋を主体にした抵抗を続ける体勢は鄭成功を思わせる。

青函連絡船が死んだ日
 もはや望んで悲劇を製造していたような気がしてならんよ……軍の対応は無能というほかないが、ここに至るまでで有能な人材が失われまくっていたのだから、戦訓があっても活かしきれなかったのかもしれない。

ハワイ併合
 当然のように酷い話なの――そういえば日本は欧米から病気をもらって人口を激減させたりはしていないな。微妙に交流があって医療技術も進歩していたことが、ハワイのような離島国家との明暗を大きく分けた気がする。まぁ、人口の絶対量もあるが。
 アメリカ相手に牽制できるコマが日本だけではいかにも苦しい時代・地域だった。

レッドバロン
 はっきりいってやり口が猟奇的にみえるんだが……もし彼がパイロットになっていなかったら、と考えると恐ろしいものがあった。第一次大戦の空では狩人のように戦うことが許されたことがリヒトフォーヘンに幸いしたのだろう。
 最後の戦いでは軍人として見事に脱皮している気もするけれど。

ブラウ作戦 Act.7カフカス侵攻作戦
 戦争の最中に赤軍の兵士をポーターにしてのカフカス、エリブルス山登山がおこなわれているのが面白かった。勝っている間は変な余裕があるなぁ。どうせ兵力を分割するならスターリングラードを攻めずにバクーまで突っ走らせるべきだったのではないか。
 そうすれば赤軍の配置した戦力を一時的に遊ばせることもできる。まぁ、ヒトラーの判断の根拠が揺れているのだから無理か。
カテゴリ:歴史 | 21:40 | comments(0) | trackbacks(0)

戦略潜水戦艦、ニューヨーク攻撃! 福田誠

 高野五十六が日露戦争で隻眼になる戦傷を負ったことにより潜水艦畑を歩み、潜水戦艦伊一〇〇型を完成させてしまった世界でのシュールな架空戦記。
 46センチ砲を6門も搭載した大型潜水艦が悪夢のような戦い様で次々とアメリカ海軍に致命的な損害を与えていく様子は、あまりにもあっさりした文章回しとあいまってシュール極まりない。時としてギャグなのではないかと耳を疑うことがあった。

 特におかしいのが、タイトルで「ニューヨーク攻撃!」を謳いながら西海岸にしか攻撃できていないことだ……それとも戦艦ニューヨークを攻撃していたっけ?
 物凄い勇み足を感じさせるタイトルに、懐かしき珍架空戦記小説の息吹を感じた……。
 そもそも五十六が連合艦隊司令長官になっていないのに真珠湾攻撃が行われていることに違和感がある。あの世界の航空主兵論は誰がひっぱっているんだろう?基本的な太平洋戦争の流れをなぞりつつ、要所に潜水戦艦を投入する形になっているので、全体のデザインについては疑問を感じさせられた。

 そして、史実のなぞり方にも変なところが……サモア沖でミッドウェーをやるのは良いのだが、時にサモアがミッドウェーと書かれたりイースタン島があったり、ずいぶんと混乱していた。タイトルの件といい謎が膨らむばかりだ。

戦略潜水戦艦、ニューヨーク攻撃! (ジョイ・ノベルス)
戦略潜水戦艦、ニューヨーク攻撃! (ジョイ・ノベルス)
福田 誠
カテゴリ:架空戦記小説 | 22:19 | comments(0) | trackbacks(0)

死に至る街 大石英司

 ぞんびぞんびー。やっぱりゾンビものは面白い。午前3時までかけて一気に読んでしまったよ。

 北海道は札幌市の近郊にある蛍市でバイオハザードが発生。強化された狂犬病菌に冒された人々や野犬が殺戮マシーンと化して暴威をふるう。
 これに対処すべく出動するのはやっぱりサイレント・コア。そういえば音無のとっつぁんには出番がなかったなぁ。土門氏がいい感じに後釜にスライドしている気がする。

 ともかく今回の主人公は司馬小隊のシューズこと御堂走馬。ひとりずつ隊員に焦点をあてていく流れができている。主役を張った話ですっかり親しんでしまったリザードの大活躍――人生経験を反映したセリフがいちいち厄い――はどっぷりと楽しめたし、シューズの今後にも期待だ。

 ただ、サイレント・コアがでてくるだけで物凄い安心感を覚えてしまうようになったので、緊張をそいでしまうのも感じた。その点ではいちばんおもしろかったのは地域住民が集まってバリケードを作っていた話だろう。
 特殊部隊員が優れた兵器をあやつっている隣で、一般人が銃のひとつもなくゾンビに立ち向かうのは強い勇気を感じさせる。いちばん勇敢な良キャラクターだった、教頭にいたっては悲しい事になってしまったけれど……来栖警部補が残っただけでもよしとするべきか。彼女には是非再登場してほしい。

 オチでは人間に破壊された生態系の狂ったサイクルが牙を剥いたことよりも、吊り橋効果が印象に残った……たとえ吊り橋効果願望があったとしても動物を無責任に捨てるのは止めよう。

死に至る街 (C・NOVELS)
死に至る街 (C・NOVELS)
大石 英司
カテゴリ:SF | 22:19 | comments(0) | trackbacks(0)

烈日〜ミッドウェー1942・下 横山信義

 蒼龍の生き残りから流れの変わったミッドウェー海戦は水上決戦にまでもつれこむ!
 流石というか、砲戦描写は見事でかなり楽しめた。その前座として空母決戦があったのだとすれば、トータルでの成功とみることができるかもしれない。やっぱり南雲提督は水雷戦のほうが生き生きしているよ――スプルーアンス提督はどっちでもいける口だから凄い。あの二人の駆け引きには、剣士の立ち会いのような緊張感を覚えた。

 そして、健闘していたのがフレッチャー提督。大任をスプルーアンスに奪われ、さらにはミッチャー艦長がアメリカ側の主役になるかと思えば肝心のところで大きな役割を果たしてくれた。
 いくらなんでも重巡洋艦で巡洋戦艦と渡り合うのは荷が勝ちすぎたが。それでも、あの戦力比のまま立場が日米逆転していれば何とかなりそうな気がするから不思議。日本の水雷戦隊(のイメージ)恐るべし。覇者の戦陣シリーズ:激闘 東太平洋海戦の軽巡川内は凄いを通り越して怖かったなぁ。そういえばあれもミッドウェーだ。

 最後まで燃えまくったアメリカ側の提督にくらべれば、日本側は山口提督が後ろに回ったりと主役がだんだん代わっていっていた。地味な阿部提督がいちばん多く出ていた気がする。それはつまり陣容の厚さを物語っているのかもしれない。
 それを実感すればするほど史実における逆転の物凄さも感じてしまうのだった。精神面でアメリカの強さをたっぷり味わえる作品は希少かもしれない。

烈日―ミッドウェー1942〈下〉 (C・NOVELS)
烈日―ミッドウェー1942〈下〉 (C・NOVELS)
横山 信義
カテゴリ:架空戦記小説 | 00:14 | comments(0) | trackbacks(0)

烈日〜ミッドウェー1942・上 横山信義

 ミッドウェー海戦一本に的を絞った歴史改変。あえて変更点を人間の行動の浮動的なものだけに頼っており、史実よりましとはいえ紙一重の戦いを楽しむことができる。
 困るのはどこからどこまでが変更されているのか把握しきれない場合があることで、史実への認識までねじ曲がってしまいそう。明らかに変更されているところはかえって安心できるよ・・…こういうストレスを考えると難しい改変だ。

 有名な宇垣裁定からアメリカの急降下爆撃機に打撃を与えられるまでの冴えない立ち回りは史実通りに印象的だったが、万全を尽くしていると思っていたアメリカ海軍にしてもいろいろとエラーが描かれているのが面白い。
 特にフレッチャーとスプルーアンスの「二人の船頭」を置いてしまっている状況は気になるところだ――なんか南雲中将と山口少将の関係と対比的にみてしまう。まぁ、日本側はいちおうの同列どころか厳格に上位に南雲中将が定められているので実際には大きな差があるんだけど。

 そういえば、山口提督の幕僚たちが影を薄くしていて、飛竜艦長の加来大佐とばっかり喋っていることに違和感があった。実際におこなわれた各司令部の思考プロセスはどんな感じだったのかなぁ。そんな視点も興味深い。

烈日―ミッドウェー1942〈上〉 (C・NOVELS)
烈日―ミッドウェー1942〈上〉 (C・NOVELS)
横山 信義
カテゴリ:架空戦記小説 | 22:00 | comments(0) | trackbacks(0)

平壌クーデター作戦〜静かなる朝のために 佐藤大輔

 朝鮮民主主義人民共和国の若き「革命家」皇鉄龍少佐によるクーデターを描くポリティカル・フィクション。冒頭でくどいほどフィクションであることを断っていたが、真正面から金正日とか名前を呼びまくっている……それはともかく妙な親近感を抱いてしまいそうなほどリアリティのある描写にどこまでが史実なのか区別がつかなくなりそうで困った。
 本当にこうなればどれほどいいだろうか――特に日本が面倒な目に遭わされずに利益をえている点がいい。最後では持って回した大絶賛を浴びて、やたらと扱いがよかった。ここまで極端に褒められると、途中であった罵倒の数々にも真実性が潜んでいる気がしてしまう。

 共和国――北朝鮮の略称を使わないところが面白い。反応弾みたいな佐藤氏流の賜物か――の情勢が至極真面目に展開しているのに比して、日本ではお偉方がドラえもんの真似ごとをするほどの余裕をみせているのも印象的だった。もはや忘れられ掛けている気がするSARSにあえぐ大陸の重苦しい雰囲気との落差から本気で笑えてしまう。皮膚一枚下では剃刀のごときやりとりがあるにしても、あるからこそ、平和で文明的なものである。
 情報収集衛星の分析風景にもそれはいえて――客観的になれるって凄いね。そういえば偉大なる後継者くんについても触れられていたよーな。まるでエロゲ主人公のように語らえていたなぁ、あの肥満体。

 長期間の加速を経てラストに展開される実力行使のスピード感は流石だった。なるほど餓えて役に立たないといわれる軍隊でも、内部で戦う分には互角の力が発揮できるわけだ。もう本当に皮肉が多すぎて、どんな顔をしたらいいか分からなくなる国家である。
 金ユーラの日記などはその最右翼である――あ、左翼か。

 そして、前途多難とはいえ皇鉄龍少佐が静かなる朝をむかえた世界から目を現実に戻せば、あの国は悪しき姿のまま存在を続けている。まったく、たまんねぇなぁ。

佐藤大輔作品感想記事一覧

平壌クーデター作戦 静かなる朝のために (トクマ・ノベルズ)
平壌クーデター作戦 静かなる朝のために (トクマ・ノベルズ)
佐藤 大輔
カテゴリ:架空戦記小説 | 23:47 | comments(0) | trackbacks(0)

デュアル・パシフィック・ウォー5 荒川佳夫

 パンドラの箱はついに開かれ、提督たちの戦いは終わる。
 それぞれの最終的な決意がつぎつぎと描かれていき、ひとつまたひとつと艦隊の機関から火が落ちていく様子は寂しくも荘厳であった。ギバルシュの死に様は見事というほかない……日本人ではなくフランス人にああいう役回りが与えられてしまうとは、捻くれているなぁ。
 おそろしく悲壮な決意を漂わせていた日本の二艦隊の司令官たちや、死亡フラグに近いものを漂わせていたガイガーまでしっかり生き残っていたのは少し拍子抜けした。ヒーローがヒーローになるには英雄的な死が必要不可欠かもしれないのだよ――ハードリー本人にそこまでの野心はなさそうだから別にいいか。というか死んだら死んだで野心を果たせない。
 けっきょく主力兵器が最後まで戦艦であったことが悲劇の不徹底をまねいた気がする。航空攻撃でとことん殴り合っていればもっと壮絶な追撃戦が頻発したことであろう。どちらにしろ近接信管がメジャーになったこの世界では限界があるかもしれないが――敵の対空火器に狙いを絞って戦艦戦をおこない、後始末兼真打は空母機動部隊に任せる戦術はどうだろう?
 守るべき地域への縦深が十分にとれないなどの問題がでるかもしれない……。
 安全戦闘距離を好む提督がやたらと多かったことも最終巻での沈没艦を減少させていた。無茶な落角弾攻撃をしていた時代のオルセン提督が懐かしい。

 そして、イタリアが誇る英雄コロンビーラについてはまったり生き残ったことがうれしくてしかたがない。本人は愚痴りまくっていたけれど実際に燃料がなく、実弾射撃訓練もなかなか行えないイタリア海軍にとってひとつの部隊を集中的に矢面に立たせるメリットはかなり大きかったはず。
 そのおかげで司令部が怪しい病気に罹ったソ連海軍を撃滅できたのだからまぁ、良かったのではないか。

 輝ける提督たちに比べて政治家たちは軒並み負け組になってしまった。ほとんどコントのノリでくたばったヒトラーとスターリンはもちろんアメリカの南北首脳も核兵器を投げつけあう醜態を演じ、ムッソリーニは地味に退場し――最後に笑うのは吉田茂のみ。
 単純な力の勝負では勝てない日本が最終的にそうして勝ちを拾ったことも痛快な作品であった。

デュアル・パシフィック・ウォー〈5〉 (歴史群像新書)
デュアル・パシフィック・ウォー〈5〉 (歴史群像新書)
荒川 佳夫
カテゴリ:架空戦記小説 | 23:43 | comments(0) | trackbacks(0)

首都壊滅作戦 大石英司

 大昔の巨人化石からよみがえった凶悪な殺人ウイルスが、ひとりの天才的狂人によって兵器に生まれ変わり、人類を破滅の瀬戸際に立たせるバイオ・サスペンス。
 ヒトゲノムが解析されてからの「魔法的」な世界観をかなり誇張して描いている気がするのだが、案外これが正しいのかもしれない。まぁ、大石先生お得意の科学と魔法の境目をつく大法螺ってやつだろう。

 巨大にみえる人類文明も、その巨大さによって少数の人間の狂気によって累卵の危機にさらされているとする指摘はいつものことながら非常におもしろい。便利なものはテロリストにとっても便利であり、使いかたを考えられればとてつもなく恐ろしい事になるわけだ。
 せっかくのフィクションなのだから、いっそ殺人ウイルスが散布される展開をみてしまいたい気もしたのだが、一本でまとめるにはボリュームが大きすぎる内容なので、犯人に美学に従った敗北を選ばせたのは正解なのだろう…。
 本当にまかれてしまった展開については、この作品のアイデアを大規模に拡大した「合衆国シリーズ」で描かれている。考えてみれば島国である日本は生物兵器の散布にあまり向かない地域かもしれないなぁ――国家による反応速度の問題によっては世界中にビジネスマン爆弾を発送する羽目にもなりえるが、周辺諸国からも「割り切られやすい」性質をもっている気がした。
 まぁ、アメリカ大陸でもひとつの島として封鎖されかねないし、いくところまでいけば今度は南極大陸のような島に立て篭もる手が使えるのだから、しかるべく働く人間がいる限りは人類を滅ぼすのもかなりの大仕事だ。

首都壊滅作戦 (幻冬舎ノベルス)
首都壊滅作戦 (幻冬舎ノベルス)
大石 英司
カテゴリ:SF | 23:24 | comments(0) | trackbacks(0)

DUAL PACIFIC WAR(デュアル・パシフィック・ウォー)4巻 荒川佳夫

 ソ連が第二次世界大戦に介入することで拍車をかけられ、鉄と火薬に沸騰する七つの海。最後で明らかにされるスターリンの狙いは実に性格が悪くてよろしい。まぁ、有力な勢力が世界大戦に組み込まれなければ、やることは同じか。
 第一次世界大戦のアメリカだって――意図はしていないだろうが――似たような真似をしでかしたと見れなくもない。
 しかし、スターリンの謀略に竿さす黒海艦隊の謎めいた動きが、共産主義者に世界を委ねることを容易には許さない。赤軍の存在は世界をさらなる混沌に突き落とす衝撃になってしまうのか、ひとつにまとめ上げる仮想敵にされてしまうのか、振り子の答えが興味深い。

 もっとも広大な戦線を抱えるといってよいイギリスが枢軸国中から襲われながらも、反撃にでているところにジョンブル魂を感じた。なんだかんだいって保有する戦艦数や拠点の数ならトップクラスの国だからなぁ。
 日本と南部連合の戦闘と違って、分散投入される傾向が強いこともイギリスの関わる戦いを数多くしていた。
 いっぽうで「カワイイどころ」だったイタリアやフランスの艦隊は息切れに近い状態になってきた。小艦隊の提督はみんな好きなキャラなので応援してしまう――これって判官贔屓か?

 さて、何にもまして注目を集めるのはラファエル・セメスの響き核爆弾の動向だ。できるだけ悲劇の少ない結末に至ってほしいところだが、狂ったヒトラーだけは何とかせずにはいられないだろうな…。

デュアル・パシフィック・ウォー3巻感想

デュアル・パシフィック・ウォー〈4〉 (歴史群像新書)
デュアル・パシフィック・ウォー〈4〉 (歴史群像新書)
荒川 佳夫
カテゴリ:架空戦記小説 | 23:05 | comments(0) | trackbacks(0)

日本産鉱物型録 松原聰・宮脇律郎

 出版時点で日本での産出が確認されている1139種の鉱物を記載し、なかでも珍しいものには記載論文の情報や、写真を付記したカタログ。ダイアモンドが載っていなかったことで出版時期を確認できる私。

 その性質上、多くの文献にアクセスできる環境の有無が大きく利用価値を分けるのだが、文献に当たれなくても希産鉱物や日本新産鉱物の垂涎の写真が多いに目を楽しませてくれる。小さな結晶でも細部まで撮影されており、夢と欲を大いに刺激されてしまった。
 まぁ、入手難度が高すぎるので欲を通り越して写真だけで満足する場合もあるかもしれない。絶対その方が幸せだ……。
 成分分析表なんてマニアックなものまで載っていて研究者世界のにおいを垣間かぎとれるのも、ちょっと気持ちよかったり……なんかアブないが。

 産地を流してみると河津鉱山、糸魚川地域、布賀、蛭川/田原あたりの頻出っぷりがすごかった。糸魚川や布賀が有名になった時期を考えると、まだまだ狭いが地質に富んだ日本には眠れる鉱物がたくさんあるのではないかと希望が湧くのだった。

鉱物関連記事一覧

日本産鉱物型録 (国立科学博物館叢書)
日本産鉱物型録 (国立科学博物館叢書)
松原 聰,宮脇 律郎
カテゴリ:地学 | 21:58 | comments(0) | trackbacks(0)
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