帝国大海戦3〜南海の大決闘

 みなぎってきた!
 第二次マーシャル諸島沖海戦は日英米の主力艦隊が火花を散らす大航空・砲撃戦の巷と化した!混沌に継ぐ混沌のなかから勝利を掴むのはどちらの勢力になるのか!?
 という非常にテンションの上がりやすい展開になっている。海軍大臣に就任した山本長官に代わって頑迷な大艦巨砲主義者である古賀長官が連合艦隊を率いていることも戦いを派手なものにする一因になっていた。

 おかげで翔鶴と蒼龍の手痛い犠牲を払うことになったわけだが――いまの勢いだと航空主兵にめざめるよりも戦艦でそれを補完しようとする方向に動きそうでイヤだなぁ。まぁ、アイオワ級をポンポン進水させられるアメリカに対して日本が戦艦の生産で対抗できるわけでもなし、否応なく航空機に頼らざるをえなくなっていくわけだが。
 そして、本当の戦力は潜水艦と輸送船だったりするんだけどね……ラストのビスケー湾海戦を読んでやっぱり戦争を理解しているのはイギリス人のほうである気がした。

 第二話の「超・潜水艦対決」では伊400号潜水艦とフランスの巨砲潜水艦シェルクーフがパナマ沖で邂逅して干戈を交えるなんて、とてつもなく変則的――ぶっちゃけ変態的――な戦いが繰り広げられていて展開の珍妙さに苦笑した。
 細々した描写のユーモアそのものは普通の大海戦のほうが優っていたりするんだけど。ビスケー湾海戦での記述を読むかぎりでは晴嵐による運河破壊作戦は成功してしまったらしい。イギリスとフランスが本国で戦う事を否定しているおかげで、まともな陸上戦線は北アフリカにしか開かれていないみたいだし、相当奇妙な戦争になっている。
 もっとも、奇妙でない戦争などありはしないか。

帝国大海戦〈3〉南海の大決闘 (歴史群像新書)
カテゴリ:架空戦記小説 | 22:53 | comments(0) | trackbacks(0)

帝国大海戦2〜勝利の方程式 伊吹秀明

 キンメル長官率いるアメリカ海軍の進行作戦はキング作戦部長によって「計画的頓挫」を強いられた。これによって日英同盟とアメリカの戦いはガードを固めながら相手の隙をさぐりあう段階に移行する。オランダ海軍の影は急速に薄くなっていく……予備兵力もないし、いたしかたないところではある。

 太平洋の戦況がそんな感じで推移している一方で地中海戦線はフランス海軍が意外と激しい動きをみせてくれていた。まぁ、結果だけをみれば新造戦艦が旧式戦艦に勝った非常に順当なものといわざるをえないのだが、順当な結果が出るほどフランス人がしっかり戦ったことが印象的だった。
 巻きこまれ適当に波間に消えたイタリア戦艦にも合掌……ムッソリーニにしてみれば生贄に捧げたような感覚だったかもしれない。もうちょっと戦い方はあったはずで、後方だけの責任ではないけれど。

 派手な海戦が展開される裏側で、かなり緻密な人物描写が行われているのもおもしろい。
 その筆頭はキング作戦部長であり、見事に前線と後方を繋いでいた。アメリカ海軍の出世におけるトリビアも興味深かった。作戦部長の場合はむしろ成績が悪くなければなれないかのようだ……。
 比較的に日本側の人物描写は薄かったりしたが、角田覚治のように放っておいてもキャラの立つ人物は大勢いるし、若手のオリジナルキャラが踏ん張っている。

 余談ながらコントラストを露悪的なまでに強調した表紙が、個性的でよいね。挿絵はかなり普通なのでギャップを感じる。

帝国大海戦 2 (ノーラコミックス 歴史群像コミックス)
カテゴリ:架空戦記小説 | 22:51 | comments(0) | trackbacks(0)

帝国大海戦1〜プリンス・オブ・ウェールズ太平洋へ 伊吹秀明

 ファシズムも共産主義も不発に終わった世界で、イギリスとフランスを対立軸とする戦争が巻き起こる。欧州的なそれにアメリカが首を突っ込んできたことにより自体は拡大、チャーチルの鶴の一声で急造の日英同盟が復活する。二国は世界最大の戦力を誇るアメリカ海軍に果敢に挑んでいく――という内容の架空戦記小説。
 極力史実の兵器が用いられる構造になっているため、かなり世界に親しみやすく、ストーリーも異常なテンポのよさで進んでいた。まず日英同盟軍が翻弄されるところから話をはじめるのがニクい。アメリカのバカバカしい国力を考えると、どうしても出血に神経質になってしまっていけないが、戦場をタイトル通りに海洋に限定すれば開始時の保有船腹が効いてくることをかなり期待してもよいはず。
 なによりも海軍のスピリットである積極果敢な姿勢を応援したいものである。

 1巻は「もしプリンス・オブ・ウェールズが日本の味方だったら」という一つのイメージ映像をひたすら肉付けしていった感がある。おかげでプリンス・オブ・ウェールズが主人公状態で描かれる珍しい事態が発生していたが、日本の投入戦力は重巡洋艦以下がメインであり少しおとなしい感じがした。
 しかし、次からはそうも言っていられないはずで、プリンス・オブ・ウェールズが味方という「法螺」から出発した物語がどれだけ膨らんでいくか、そんな視点で追ってみるのも一興であろう。

 駆逐艦乗りを中心とした海の男達のやりとりが生き生きとしていて存在感とカッコよさがあるのも良かった。戦艦が偏重されるどころか、小艦艇にこそ海軍魂の結実があるかのようだ。

帝国大海戦〈1〉プリンス・オブ・ウェールズ太平洋へ (歴史群像新書)
カテゴリ:架空戦記小説 | 22:49 | comments(0) | trackbacks(0)

月刊ニュートン2009年9月号 徹底特集 太陽光発電

NGK SCIENCE SITE
 これは面白い。うまくやって永久機関を作れないかと工夫することになれば、さらに学習効果は高くなるのではないか。水に色をつけたりして、視覚的なインパクトを高めるとなおよいかも。夏休みの宿題につかって、被らないように注意。

SIENCE SENSOR
 文化も遺伝で決まる!?:いろいろと政治的に利用されてしまいそうな研究だと考えてしまった。ある種の「音感」があるってことでいいのでは。
 空気抵抗を減らす新しい翼:これは全力で実用化してほしい。空気だけではなく水にも有効なのかな?船に応用できると書かれていたが、それは上部構造のことだろう。
 プレートが縦に裂けていた:日本沈没的な話題をありがとう。JAMSTECの名前も聞きなれてきた。トモグラフィー自体は何度も行われているわけで、どこが新規だったのか分かる記述にしてほしい。
 満ち欠けする系外惑星:で、その大気組成って具体的になに?思わずそう突っ込んでしまう。記事はおもしろいのだが。
 接ぎ木で遺伝子交換:非常におもしろい発見と視点だ。蔓性の植物はよく融合しかかっているし、天然の接ぎ木に見覚えがあるだけに気になった。
 誘惑に勝てない脳:これ、下手するとマインドコントロールに悪用されないか?少なくとも軍事利用は普通に考えられていそう……私のDLPFCにも活動的であってほしいものだ。
 古代人の毛髪は語る:ハイエナの糞のなかから――ということが物語る情景が暗い。人間もよくここまでになったものだよ。
 赤痢菌のハイジャック:蚊や蛭が血液の凝固を妨害するのに似ているな。非常に厄介なことをしてくれるものだ。
 火星に広がる地下水脈:まだオポチュニティーが話題になりうることが凄い。根性のある火星探査車だ。
 ツンドラからの二酸化炭素:メタンの問題もあるし、非常に厄介な正のフィードバック要因である。
 期待の新薬:あまり威力が大きいと聞くと副作用が心配になってしまう素人心理が働いた。イタチごっこにならなければよいが。
 ハッブル定数を再測定:さらに五倍以上の精度で求めるのが最終目的なのか…燃えてるなぁ。
 “光の彫刻”の限界をこえた:こういう工夫でブレイクスルーを成し遂げる話は楽しい。
 結晶化したちりの起源:非晶質のケイ酸塩って要するにガラスなのかな?ケイ酸塩=非晶質とする説明は何かがおかしい気がした。
 DNAで立体をつくる:あいかわらずDNAがブロックのおもちゃにされているよーで。何かの伝統みたいだ。
 火星の水は凍りにくい?:生物が生きるにはちょっと厄介だったかも――そんなときは生まれたての氷こそ純粋な水の材料に?
 ガラスのようなヘリウム:よくわからんが変態的な話だ。情景を想像すると変な笑いがこみあげてくる。
 皮膚をすみ分ける細菌:どうも個人差はそれほど大きくないようだ。日当りの関係はあるはずなので、日常的な格好の大きく異なる被験者で試してほしい。

月面に衝突体をぶつけて水の存在を探る
 この実験で資源を破壊してしまったら?そんなつまらない妄想をしてみた。有望なところにぶつけるわけだから、未来へのリスクはあると思われる……安定して採掘するのが困難になるとか。
 まぁ、ともかく結果待ちだな。

合体で生まれる「ウルトラ赤外線銀河」
 このネーミングはなんとかならないものか。銀河の合体にもいろいろな条件があって、その実験がこれまで無数に繰り返されてきたと想像すると興味深い。

文字入力せずにクリックするだけの画像検索
 凄いんだけどあまり深度をあげるとわずらわしいし、浅くすると出逢える画像が限られる問題を抱えている印象を受けた。最初のとっかかりだけは検索で出せるといいかもしれない。
 新しいものに出会いたければ外出するのが一番だけどね……すぐそこの通りの裏にもいままで見たことのない空間が広がっているのだ。
 Viewサーチ北海道

ナノファイバーで“蒸れない”肌着
 説明されている肌触りが気になってしかたがない。ともかく一度触ってみたいものである。猫も杓子もナノナノ状態には歪んだ抵抗を覚えてしまうなぁ。

宇宙からみた巨大な“綿菓子”
 メインの写真もたしかに迫力があって面白いのだけど、ASTER画像の植物部分が今後みせるであろう回復に関心が移ってしまってしかたがなかった。
 この山って架空戦記小説の真珠湾奇襲作戦描写でよくでてくる松輪富士なんだね。感慨深い。

徹底特集 太陽光発電
 まるでパソコン雑誌のマシン特集のようだ……かなり商売っけが出てきており、異色の記事にみえた。まぁ、これはこれで地に足がついていて面白いのだが。日本のメーカーには是非研究開発期間の長さをみせつけて、一大産業として発展していってほしい。ドイツにインタビューが行くのは半ば屈辱的だと思うよ。
 しかし、これ以上電線に流れる逆流電力が増えると電力会社が苦労するんじゃないかなぁ。商売としては送電線を握っていれば発電には必ずしもこだわらなくてもいいかもしれないとはいえ。
 太陽光発電がいきおいを増すほど、裏面での「揚水発電」が重要性を増していくはず。あと超電導コイルに電気をため込むSFチックな設備もあったなぁ。
 地産地消の発想に逆行する部分をもった太陽光発電の世界ネットワーク構想は政治的難易度が高すぎる……完全に「資源」の形になってしまうし、超電導ケーブルもパイプラインみたいなもので干渉を受けざるをえまい。
 有望な地域に限って政治的に安定していると言い切れないのも辛いところ。日本としてはアメリカとオーストラリアにやってもらえれば助かるか。アメリカの太陽光発電普及率の低さは嘆かわしかった。

宇宙からみた“?”な風景
 おもしろいけど、見覚えのある画像が多すぎる……今の時代やはり雑誌は後発的になってしまいがちなのかもしれない。そんななか、船雲は興味深かった。
 関連書評記事:宇宙から見た地質〜日本と世界

宇宙のナンバーワン天体
 ギネスか……地球から正確にデータを求められる範囲からしか選べないのが寂しい。広大な宇宙にはもっと凄い連中がいるんだろうなぁ。カストルの6重星にはたまげた。カストルCは軌道を交換するタイプなのかな。

サンゴでできた海鳥の楽園
 コグンカンドリの狩猟方法がえげつないなぁ。他の鳥に依存していると生存性が低下してしまうリスクを負っているわけではある。
 平和にみえる島にも足元から海面上昇の危機が訪れていて世知辛い。製塩などやっていて住民は結構働き者の印象を受けた。

魚はなぜ群れる?
 これも進化の神秘というよりほかない。距離感を把握しにくい眼の構造を側線で補っている点が興味深かった。群れて交配相手をみつける集団結婚ぶりには……まぁ、そういう利点もあるか。

地上で最も乾いた大地 アタカマ砂漠
 橙色の山が連なる景色は異様だった。植生があまりにもないおかげで水による浸食が際立ってしまっている――砂漠なのに。この地にいきなり放り出されたら、どれだけ持つだろうか。そんなことを考えてしまった。

東京スカイタワー
 610メートルで、世界でもっとも高いタワーになれるのか……ソツのない設計という印象を受けた。堅実に建築してくれることであろう。

三葉虫の大隆盛時代 古生代オルドビス紀
 オルドビス紀をちゃんと変換しないパソコンに絶望する。ホント、アホだなぁ。
 ニエズコウスキアの突き出した頭やレモプレウリデスの回遊性ゆえに360度上下をみようとする眼の構造がとてもユーモラス。

白髪の原因は、「幹細胞」枯渇だった
 白髪になるのはそこまで嫌かなぁ――下手な対応はガン細胞が怖いみたいだし。まぁ、年齢を感じて精神にくることまで考えたうえで対策が必要なのかも。

手足の動きを思いえがくだけで車いすを操縦
 操縦者の慣れもかなり効いてきそうだ。緊急停止方法が説明文中にないと不安に思っていたら、左下のカコミにあった。

地震と台風の意外な関係
 巨大なエネルギーを放出する地震も意外なトリガーをもっているという話。まぁ、台風レベルでもむちゃくちゃエネルギーがあるんだけど。
 なんとかコントロールできないものか。

渡来系の弥生人はどこからきたか?
 渡来人の場合は北九州経由が中心だったのか、他の地域の遺伝子を調べることでわかるはず。まだまだ研究の余地は多いようで。

今月のフィールドワーカー
 いきなりダイビング部がでてきて驚く。実際に自然に触れる機会が多いから動機づけされやすいし、機材ももっていることには納得した。大したものだ。コミックブレイドの「あまんちゅ」でネタにしないかなぁ。

Newton (ニュートン) 2009年 09月号 [雑誌]
Newton (ニュートン) 2009年 09月号 [雑誌]
カテゴリ:科学全般 | 12:43 | comments(1) | trackbacks(0)

地球の鉱物コレクション39

ミネラルファイル
 斑銅鉱:藍銅鉱が銅鉱石としてあげられていたことに違和感があった。孔雀石より産出量が少ないはずなのに?イリデッセンスとイリスアゲートの語源が同じことを知って喜ぶ。
 ストロンチアン石:こっちの語源はストロンチウムに先行していたようで――どっちにしろストロンチアンの賜物ってことになるか。産地写真の窪地がよくわからずまじまじと見つめてしまった。アクセス大変そう。
 透閃石:細かい結晶が手に刺さるというのは怖い話だ。さらに石綿のなかでも厄介な部類の正体なのだから怖い怖い。でも、綺麗なやつは魅力があるんだよなぁ。バラみたいなものか。
 フォンセン石:マニアックかつ地味な美しさがあって素敵な鉱物だ。趣味が針状結晶に傾いてきたかも。ルドウィヒ石の仲間か。

日本の新鉱物 大江石
 写真に撮られている標本がひとつしかない……なかなか手に入らないんだろうなぁ。そう思うと俄然欲しくなる。
 鉱物名になるには産地の近接性も大事と感じてしまったのは皮肉にすぎるかな。もっと大事なのは弟子の育成であろうが。

コレクターズガイド ズリと脈石
 鉱山の歴史につながって過去に思いを馳せられる話。ちょっと懐かしい写真もあったりなかったり。福岡鉱山の緑柱石も最初は投棄対象だったと聞くね。

ミネラル・サイエンス ハロゲン化鉱物
 螢石だけで1記事どころか一冊できてしまいそうなのに括るなんて無理だ……というのは言い過ぎでまとめかたしだいかなぁ。やっぱり変色岩塩は綺麗でコレクションしたくなる。管理に気を使うのが玉に瑕だけど。国産岩塩でも海辺に行って採集してみようかい。

地球物語 日本海の拡大と日本列島の移動
 話がでかい。古海流の分析には化石の研究が欠かせないわけで、いろいろな要素がつながってこういう大きな話が出来ているのは面白い。


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カテゴリ:地学 | 10:16 | comments(0) | trackbacks(0)

趣味の鉱石トレジャーハンター-鉱石採集探険記- 板垣清司

 関東在住の著者による鉱物採集記を自慢の標本カラー写真つきで収録した本。ほぼ全ページがカラーで、後半には外国産の押し出しの効く標本も収録されておりパフォーマンスは結構よい。
 内容の関係で鉱物の学術的な話題についてはそれほど期待できないが、それでも視点が採集者からのものなので、学者が書いた本とは異なる新鮮さがあった。なにより関東一円で鉱物採集をはじめようと思う人間には参考になることが多いのではないか。

 秩父鉱山の川原があんなに鉱物に富んでいるとは思わなかった……車骨鉱まで採集されていることは正直度肝を抜かれてしまった。
 どうも著者は同じ産地を連続して何度も襲撃するタイプらしく、文章から漂ってくる不気味なまでの執念とあわせて、一航過の採集ではなかなか得られない類の標本までものにしているようだ。秩父鉱山が特に顕著な例だが――それにしても100キロの菱マンガン鉱を運び出してどうする気なのやら――足尾産地のマンガン鉱山にもかなりの情熱を燃やしており、マンガン鉱物好きとして興味深かった。

 ただ、文章が正直すぎるというか……採集できない悔しさはわかるのだが人間性を疑うような発言をされていることがある。普通は思っても本に載せようとは考えないものを、あえて本に載せているわけで、下手に内側に溜め込んでいるよりはまともなのかもしれない。本人が認めているように鉱物採集趣味の人間に、冷静さを求めても無駄だ。
 それでも後半はわりと文章が落ちついていたのは、地元の人との交流を通じて成長されたからなのかもしれない。

 単独行動で何度も同じ産地に突撃し、下心ありとはいえ積極的に交流されている著者の様子には、素直に感心してしまった。その情熱に「感染」することは幸せなのか、不幸なのか……。

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趣味の鉱石トレジャーハンター―鉱石採集探険記
趣味の鉱石トレジャーハンター―鉱石採集探険記
カテゴリ:地学 | 10:07 | comments(0) | trackbacks(0)

写真と図で見る日本の地質

 北海道から九州まで(沖縄は九州に含まれている)日本全国の特徴的な地質を、写真と地質図で紹介している。非常に簡潔に紹介がなされていて、とっつきやすいので導入にいいのではないか。
 近場の巡検適地を探すのにも威力を発揮しそうである。隠岐島後のトカゲ岩などは専門的な知識がなくても多いに楽しめそうだ。

 ただ、利用する上で全体的な位置を確認できる地図がひとつほしかったとは感じた。地元の人はともかく遠くから行く人には位置関係が把握しにくいはずだ。三河や伊豆などあまりにも大きな単位でくくられてしまっている地域もあり――写真はもっと近接したものが多いのだが――咀嚼に苦労することもあった。

 逆になかなか行けない地域の地質を知るうえでも役に立つので、そちらの視点からはまた別の感想が湧いてきそうではある。

写真と図で見る日本の地質
写真と図で見る日本の地質
カテゴリ:地学 | 13:04 | comments(0) | trackbacks(0)

蒼海の盾1〜ミッドウェイ大激突戦! 稲葉稔

 イージス護衛艦「おおあそ」は、演習をともにした原子力空母「エンタープライズ」と一緒に大地震に遭遇して太平洋戦争真っ只中の中部太平洋に放り出された。
 タイムスリップの衝撃が去り、二隻の艦長は過去の母国について戦う事を決意する。エンタープライズの存在を無視すれば相当かわぐちかいじ先生の「ジパング」に似た部分をもつ作品だ。だからこそ違いがハッキリと現れるのは早乙女艦長の好戦的な性格だろう。
 スタッフの誰かが「狂っている」発言するのも無理はない勢いで、原子力空母エンタープライズの機先を制して――先に変な攻撃をしかけてきたのはエンタープライズの方だったが――戦闘能力を奪ってしまうあたりは圧巻だった。
 こんな軍人に現代の日本を任せるのは怖すぎる。過去に行ってくれて万歳だ……。

 架空戦記小説としてみると細部の間違いがかなり気になる。艦上攻撃機乗りだった友永大尉がなぜか急降下爆撃を行っていたり、蒼龍が山口長官の指揮下にないような記述がされていたり、引っ掛かってしまうのは克明で力のある情景描写が見事なだけに残念だった。
 レーダーはまだしもヘリやミサイルのことを当時の海軍軍人がみんなして、直感的に理解するのもおかしい。せめて回天翼機や誘導噴進弾の用語を使うべきではあるまいか。

 もうひとつ特筆すべきは、なぜか「おおあそ」に同行する陸自の戦闘ヘリ「アパッチ」の存在で、悪い冗談にしかみえない規模の大暴れをしてくれた。1942年の太平洋に不似合いなイージス艦にも不似合いという困った存在である。

蒼海の盾(イージス)〈1〉ミッドウェイ大激突戦! (歴史群像新書)
蒼海の盾(イージス)〈1〉ミッドウェイ大激突戦! (歴史群像新書)
カテゴリ:架空戦記小説 | 07:33 | comments(0) | trackbacks(0)

演習 資源エネルギー論 新田義孝

 変化の非常に激しい環境エネルギー分野の本で、2001年の発行ということでいろいろ不安はあったのだが、とりあえず読み物として非常に楽しく読み進めることができた!
 出てくる知識がはしから知らないものばかりで、とても新鮮だったのだ。コラムも合わせて興味深かった。

 それも取り上げられているのは実際に産業用に使われている機構や施設ばかりだから、自分の知らないところで大きなものが、ある意図をもって動いていることを意識できる。ちょっと世界が開ける感覚が気持ちよいのだった。

 まぁ、さすがに古いことは否めないわけで、すでに現在に到達していることを予定の話題として振られてしまうと戸惑うこともある。そこから新しい興味を掘り出して調べものを進めていければ理想的なんだろうなぁ。
 引っ掛かったところは引っ掛かったところなりに押さえておいて、新しく知識を仕入れる時に「この本で言っていた問題はこうなっていたのか!」と膝を打てるようにしておきたい。

 著者は環境やエネルギーの問題について、どこか楽観的な見通しをもっているらしく夢のような技術はあっさり切り捨てる一方で、有効な技術の発展性については力強く叙述している。太陽光や風力の不安定な電源の割合が5%を超えると、供給面での問題が……という著者の指摘には、著者があまり意味がないんじゃないかと言っていた自然エネルギーを水素燃料に置換しての貯蔵がそこそこ効果的に思われた。
 コージェネレーションではないけれど、いろいろ技術を繋げてみれば思わぬ利用の方法が出てくるかも。

演習 資源エネルギー論
カテゴリ:工学 | 12:18 | comments(0) | trackbacks(0)

写真集 日本10名山 山岳写真の会「稜」

 10人の山岳写真家が集まって、それぞれ意中の山を被写体にしてまとめられた写真集。ちなみに山がつくのは利尻山と富士山だけで、他は全部「岳」だったりする……日本二位の高峰でも北岳だからなぁ。丘と違って、高さが分け目というわけでもない。あえていえば峻険さと独立峰か否かが影響している印象はある。日本語って難しい。

 写真ほうは幻想的な光景をとらえたものあり、牧歌的な天上世界を描いたものあり、複数の写真家が集まって撮影したことによる効果を感じた。それぞれ被写体にしている山が違うことも多様な印象を与えるにあたって有効に機能していた。
 小さく山荘が載っている写真がいくつかあって、人間の営為を想像するのが楽しかった。また、スケール感が狂っていることに気づかされるのも意外な喜びだ。植生の乏しい山頂部などでは対比にするものが、ほとんどなかったりする。

 普通に登るだけでも大変だろうに、重い機材を担いでシャッターチャンスを求めた日程で行動する写真家たちの労力と情熱を思うと、圧倒されてしまう。
 あと、結びが当然のように富士山だったが、撮られまくっている被写体だけに発表のプレッシャーは相当のものだろうなぁ――実際、巻末コメントで撮影者は「新しさ」をかなり意識されていた。
 他の10名山でもその傾向はあるらしいが、私の程度ではあまり意識しなかった…。

日本10名山
日本10名山
カテゴリ:写真・イラスト集 | 12:21 | comments(0) | trackbacks(0)
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