ニュートン増刊号21世紀はこうなるPART2

 1989年出版の未来予想図を今日的な視点からみるのは、なかなか面白い。さすがに天下のニュートンなので大筋では当たっていることが多くて、その進捗具合を評価するかたちになった。
 物凄いのはコンピューター関連の進捗で、パソコン通信の旗手扱いされているISDNがすっかり過去のものになってしまっている。逆に鈍いのは宇宙や海中の開発だ。とくに海中についてはとっかかりがつかめていない気がする……海上構造物が普及していけば第二段階としてちょっとは伸びるかなぁ。ともかく地歩が乏しすぎた。

 やはり発行された時代を反映していて、大型公共事業の話題がめったやたらに多いのも特徴だ。ジオフロントはまだしも、東京湾に巨大な人工島を建設して、さらに東京を巡るように運河網を整備しようとする計画は、正気で提案されたものなのか疑ってしまった。
 官僚の煽りがかなり混ざっていたのも間違いないと思う――なんといっても環境意識が低すぎるよ。

 都市開発でいえば東京が物凄く押し出されていて、大阪が触れられる以外はほとんど流されていたのも不満の種だった。まぁ、そこまで無茶な開発をする必要に迫られていないと受け取ることもできるが、それぞれの地域性に応じた発展の可能性があるはず。
 首都偏重の姿勢に対してNOが突きつけられることが増えた点が、この本の予測でもっとも外れたところになるかもしれない。

 想像イラストは楽しかったが、写真やCGは今の目からは解像度不足。これも21世紀の進化を感じさせるなぁ。
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月刊ニュートン2009年10月号

NGK SCIENCE SITE
 アンコールと付いているように再掲載らしい。ついにネタ切れ?
 この夏休みの工作が求められる時期に……ニュートンなんて理科系の教員がいかにも読んでいそうな雑誌をネタにしちゃ駄目か。せめて過去のヤツを応用的に使えばいいかもしれないが、安直な利用は控えておこうね。

SIENCE SENSOR
 植物が自分を見分けるには:自慰禁止令が厳しいこと。自己を見分ける過程がうんたら、と言い出すと途端に哲学的になるなぁ。
 カエデの種子が飛ぶしくみ:数キロも飛ぶとは馬鹿にならないものだ。ただヘリコプターへの応用はただ遠くまで飛べばいい種子と違って制御が大変そうだと思った。コウモリや昆虫もやっているなら可能なのだろうが…。
 雷雲は天然の加速器:なにも不思議なことは起こっていないと思うが、ただエネルギーが途方もない。
 隣人から学ぶ防衛術:とばっちり的に攻撃されたオウムが可哀想。さらに追撃されることがなくてよかったね。
 大質量星の“地震”:イメージとしては静かに震えているモードの線香花火。
 火星に降る雪:地上まで届かないと雪の定義にならないんだっけ?地球上の感覚で考えればそうか。
 がんとダウン症の関係:こんな関係があったことを初めて知った。スタート地点が無知すぎた…。
 裸電球の効率を上げる:複雑な加工をして寿命を縮めることにならないかなぁ。トータルコストのバランスはいろいろ掛かってくるから難しい。
 遠くても密接な関係:まぁ、大気のタイムスケールは短いからねぇ。
 数個の水分子にもとける:統計的にしか考えられなかった現象がもっと詳しく分析できるようになっていく。
 移動の有無は歯でわかる:理屈で飛ばしている部分があった。同位体と成長縞でやるのはブレが大きい気がする。これからの温暖化と進化について言及しているのは本気なのかな?ダイブ状況が違うような――北極圏が40度も上がるのはいつになるやら。
 知られざる地球の“外見”:けっこう複雑な手を使う必要があるのだなぁ。火星探査機に観測させてもそこまで厳密なデータは得られないのか。
 ミリ秒パルサーの起源:継続は力なり。10年以上観測を続けて初めて分かることもある。こういう話も好きだ。
 警報は過酸化水素:逆に過酸化水素を塗って白血球の呼び水にする手も使えそう。
 新型インフルエンザの評価:やはり新大陸は被害が大きいなぁ。グリーンランドはなしで、デンマークはありなのね――スバールバル諸島も似た扱い。パキスタンも時間の問題だし、豚インフルエンザが世界を覆う日は近い。
 惑星の運動は安定?:可能性が低すぎて気が遠くなった。火星や金星が地球にぶつかるといわれても「そうか」としか答えようがない。
 液体が壁をのぼる:毛細管現象とは違うの?どうも、もっと機械的な現象が起きているみたい。

重さのない世界で「重心」を探す方法とは?
 重さのある世界でも重心を探す機会があまりないなぁ。粉末のものが水に溶かして使われている生活の知恵が興味深かった。酢を混ぜればドレッシングのできあがり。

初期の銀河だけが生き残った?
 生まれてもいないのだから死んだというのもおかしな気がする。銀河間を旅する時に衛星銀河のなりそこないが役に立つかもしれないなどと夢想した。

人にかわって“連想”する検索エンジン
 さいきん出かかって出てこない言葉を調べたいことが多いのだが、ちょっと機能が違うかな。かなりパワーがいりそうだが面白い検索エンジンだ。
 連想検索エンジン reflexa

接着剤いらずの“ナノばんそうこう”
 あまりに接着力が強いと失敗したときに面倒なことにならないのかな。薄いだけに切断が容易なのかもしれない。将来的な発展が非常に期待できる素材だと感じた。

星を“つくる”望遠鏡たち
 いわば“神の手”――違います。まだ面白い構図で撮れたものだ。技術の進歩に驚くが、マウナケアにおける天文台の密集ぶりにも驚く。「ご近所さん」も最先端の研究をしている雰囲気は刺激的で楽しいだろうな。

原子の正体
 教科書的なことから段々と積み重ねていって、なかなか興味深いところに入ったな、と思ったらすぐさまおしまい。もう少し、記述を進められないものなのか。まとめとしての要素があるぶん、不確定な領域への踏み込みが甘くなっているのを感じる。しかし、しっかりした足場だけじゃ、あまりワクワクできないのだ…。
 とりあえず恒星内のs過程が興味深かった。金などの重元素は中性子星同士のニアミスで生まれるという説もあったな。元素の存在量でフッ素が低くなっているのも気になる。確かその理由を見たことがあったはずなのだが……なんだっけ。

さまざまな光で見る全天宇宙
 鉄板の天文画像系記事だが、一味違うのはすべて同じ形式にした全天画像で使用する波長だけを変化させていっていること。おかげで比較がしやすく、かなり興味深く読ませてもらった。とくに赤方偏移の画像が異彩を放っている。
 すべて複数の画像を合成したものということで、これらの画像をえるのに費やされた時間と資源を想像すると粛然とした気持ちにさえなってしまう。これからもデータを増やしていってほしい。

エッシャーのだまし絵に挑戦!
 エッシャーが意外と最近の時代の人で驚き、その絵の三次元模型を製作された人が今年亡くなられていてまた驚いた。なによりもまず絵が驚きなんだけどね。
 壁にもたれかかって変な構造を観察している人物の存在が肝だと思う。二次元で強引に三次元をみていると、感覚が騙される現象は三次元でモデルを移動させているとよく遭遇する。あれは近隣の大構造の軸方向に合わせるとかプログラミングで改善できる気がするのだが…。

2009.7.22 皆既日食
 いちおうリアルタイムでみた。連続写真だと露出調整の難しさがよくわかる。ひまわりから見た月の影がおもしろかった。
 2012年の金環日食も楽しみなのだが、こういう予定表には曜日を併記してほしいなぁ。取材で身軽に動ける人ばかりではないので――2012年5月21日は月曜日らしい。

選挙を「数学的に」考えてみよう!
 このタイミングでやると次期与党へのブレーキになりそう……まぁ、いちおう中立的っぽいところでまとめてはいるけれど。政党が勝つために選挙制度をいじることだけは許してはならないと意を強くした。
 世論調査の怖さをよくあらわしているのがデュヴェルジェの法則。供託金の回収さえできなくなる少数政党の候補にしてみれば悪夢のような現象だ――自分の意見が反映されるためには政党の規模も一定以上必要と考える有権者が多ければ自然と二大政党に収斂していくわけ。できれば政党ではなく個人で人々の意見を反映させられるだけの存在感を示せる候補が増えていってほしいものだ。
 アジェンダパラドックスは何かお話のネタに利用できそうだな。

宇宙の実験施設「きぼう」が完成
 元気そうな人だ――このエネルギーで再び宇宙にいってほしい。宇宙空間といっても青空が背景になっていることが多い。そこが不思議な感覚を抱かせる。

身体の断面を撮影する オープンMRI
 なにかの事務用品を連想させる形だ――無茶苦茶大きいけれど。いつの日かポータブルのMRIが実用化されて手軽に利用されるようになるのかなぁ。そんな未来への一歩と思いたい。

深い海の小さく多様な生物の時代
 オファコルスの異様な迫力といったらない。実際は5〜7ミリほどのようだが、比較物のない絵のなかでは玉蟲もかくやにみえた。他にもキシロコリスなどが怖い中で、コリンポサトンの愛らしさは異常!現代に血統を残している理由をそこに求めてしまいそうになった。

消えた北方民族とアイヌの関係
 このシリーズも長く続くね。まとめた特集にすると面倒な反響が何かとあるのかもしれない……。

今月のフィールドワーカー
 土壁をつくって営巣できる環境を整備するとは行動的だ。やはり力強く蛇行する川でなければ側面が浸食される効果は期待できないようだ。
 体当たりで巣をつくるカワセミの豪快さにも驚いた。

Newton (ニュートン) 2009年 10月号 [雑誌]
Newton (ニュートン) 2009年 10月号 [雑誌]
カテゴリ:科学全般 | 22:35 | comments(0) | trackbacks(0)

年金を問う 保坂展人

 読んでるだけで気が遠くなってきた……厚生労働省は山師の集団なのか。いくらなんでも国民から金を集めるだけ集めて好き勝手に使い、時期がくれば制度を変更して切り抜ければいいとする姿勢は許しがたい。

 しかも、制度をはじめた連中はのうのうと引退してしまっているのだからタチが悪い――自分の詐術を得意げに回顧しているらしきことには胸がむかついた。
 大多数者の受給までに45年もかかるシステム上の時間差が非常に多くの問題を引き起こしている。官僚はひたすら静的に物事を進めたがる――というか停滞させたがる生き物だから、この滞留時間を与える形になった点でも遺恨が大きい。
 本当は動的な社会の動向に対して動的に反応することで合成された安定を社会にもたらすことがこういうシステムには必要だと思うのだけど、そんな発想が官僚たちに根付く余地はロクにないようだ。
 まだ、選挙の波にもまれる代議士に主導権を握らせた方がいいのではないか――こちらは在任期間が短すぎて、さらに責任から逃れやすくなる問題があるけど。

 ともかく、歴史上規模の愚行だけは、問題の人間が故人になっても叩き続けられるべきだろうな。文章に残り、衆目に触れるようになれば後に続く人間をためらわせることができる。
 それさえもなく無関心通してしまうことが安易なようでいて一番危険なのだ。そう肝に銘じさせてくれた著者の調査力には感心した。学級を裏で牛耳る「本当の」不良女子グループみたいな官僚の小細工が、彼の真摯な目から逃れることはできない。

年金を問う―本当の「危機」はどこにあるのか (岩波ブックレット)
年金を問う―本当の「危機」はどこにあるのか (岩波ブックレット)
カテゴリ:雑学 | 21:19 | comments(0) | trackbacks(0)

Google Earthでみる地球の歴史 後藤和久

 地学的に興味深い地球の風景をグーグルアースで「在宅観光」する方法と見所を紹介した一味違うガイドブック。
 著者が最後に述べているようにやっぱり現地に行くにしくはないのだが、その予習復習にも絶大な効果があることを教えてくれる。

 基本的に左側のページに話題となる地点の衛星画像と緯度経度を右側に簡潔な地学的視点に立った解説を載せており、Google Earthをつつきまわさないならテンポ良く読み進めることができた。逆にじっくりと時間を掛けて地球を楽しむにもよいだろう。

 地球科学の感覚を伝えることにも熱心で「たった2億年」のような口調にはニヤリとしてしまった。著者の記述を追う限りでは、これからのフィールド研究にはGoogle Earthは手放せないようだ。場合によっては用意されている画像の解像度が重点的に研究される地域を左右する影響力さえ持つようになっていくかもしれない。

Google Earthでみる地球の歴史 (岩波科学ライブラリー)
Google Earthでみる地球の歴史 (岩波科学ライブラリー)
カテゴリ:地学 | 12:38 | comments(0) | trackbacks(0)

デジカメに1000万画素はいらない たくきよしみつ

 デジタル一眼レフ売場で、CCDの面積が大きいから同じ画素数でもコンパクトデジカメより遥かに綺麗に撮れると説明されたことを思い出した。その理論を広げていけばコンパクトデジカメでもあまり大きな画素数でないほうが綺麗な写真を撮れるわけだ。
 これは盲点だった。
 たしかにプロでもないユーザーは分かりやすい数字に踊らされてしまいやすいからなぁ。この本は間違った認識に風穴をあけてくれるものだった。

 思い返せば水に落として壊してしまったパワーショットのモニター回転モデル(500万画素)は非常にいい商品だったよ。ただし、単三電池が4本も必要だったので重かったのが厄介だった。
 著者の主張するようにあのレベルの製品が現在の技術で復刻されれば面白いに違いない。おかげで、いままであまり感心のなかった中級機にも食指が動いた。

 話題は画素数だけにとどまらず、さまざまな写真の撮りかたや画像処理の方法についても教えてくれていた。参考例として掲載されている写真が多彩で、キャプションも興味深いのでぼんやりみていても飽きない――本来説明しているノイズなどについてはよくわからないことがあったが。
 さすがにデジカメの方はすぐ発作的に買うとはなかなかいかないのだが、紹介されていた画像管理フリーソフトのIrfanViewはさくっとインストールして試して見ようと思った。

デジカメに1000万画素はいらない (講談社現代新書)
デジカメに1000万画素はいらない (講談社現代新書)
カテゴリ:ハウツー | 17:22 | comments(0) | trackbacks(0)

工場管理2009年8月号

現場力再構築で復活へ 自動車部品サプライヤーの現在
 トヨタ関連の企業はさすがにやることが機能的だ。すぱっとすぱっと問題を処していて傍目には迷いを感じにくかった。しかし、いろいろ追っていくとかなりの人員整理がなされていることも分かってしまって……悲しいなぁ。
 現状でも利益をあげることを意識しているから余計に削減が厳しくなっているのだろうと思った。これで生産が元に戻ればバラ色の未来が開けるわけだが――そうなっても一度減らした人員は抑制されたままになる可能性が高い。

そのまま使える モノづくり現場の英語コミュニケーション1
 なんでも日本語でまくしたてる人がいるという話題になんとなく納得してしまう。英語でやられて嫌なことは日本語でやってはいけないわけで。
 例文はシンプルな単語を使っていて覚えがいがありそうだった。あまり大きく身構えずに、必要なのはあの程度のものだと考えて入っていく方が順調に身につくのではないか。

音声による部品在庫の管理システムを導入して作業効率が向上
 入力は英語の単語を使わなければいけない様子だが、出力は日本語になっているのかな。まぁ、20分程度の講習で操作できるようなら本質的な問題はない。
 こういう機能的なところから文化的な浸透が起こるのだった。

平均年齢65歳のパワーをあなどるなかれ!!〜単なる社会貢献ではなく、"戦力として"高齢者人材を活用〜
 麻生総理の失言をどうしても思い出してしまう。途中で若手が一緒に働いて、情報交換をしていることに触れてくれていてよかった。高齢者の方も長年勤めていたのではなく、別業種から来ているところが興味深かった。

まんがde KAIZEN コンベアを取り、ロット流しから1箱流しへ
 しかし、ずいぶん重そうな商品だ。こういうのこそ、細かく分けた方が精神的にも疲労が少なくて済むかもしれない。まぁ、みなさん慣れてしまっているのだろう。

「改善力」ワンポイント講座 64
 なにごとも教条主義に偏ることはよくないようで――匙加減の難しいところではあるだろう。すぐにできて抜本的な変更があっても使える改善案を重視しすぎると意見がでにくくなるだろうし、ともかく「活動的」であることも大事なのだ。

楽しい改善講話50講23 ハイ元気(よい行動の3要素)
 とりつけた感じなのに「ハイ」がいちばん強引に感じられる不思議。PDCAに近いものがあるが、より感覚的だ。

メインバンクはどのように考えればよいのでしょうか
 目先の利益に釣られていると思わぬ落とし穴にはまる危険もあるようで――どれだけの利益を与えてくれるか数字で明確にでないところの判断が難しい。それ以前に最大限、そういう利益を引き出すことが大事、と。

工場運営の光と影 37 経営改善の三本柱がかみ合えば企業の体質を変えることができる
 挑戦に対する判で押したような否定的反応に、よけいに意欲を燃やす著者のキャラクターが面白かった。日本はやっぱり雰囲気で物事が決められていく社会だなぁ。

現場で役立つ経営工学 12 インベストメントとファイナンス
 専門用語が多くて?マークが大量発生。まぁ、取引の技術が進歩していることはわかった。

ドキュメントQCサークル活動 なぜそこまで挑み続けたのか!? 2 改善に本気で打ち込ませているのは契約社員としてのハングリー精神
 もう正社員にしてあげても良いのでは?読み始める前と後に思ってしまった。それで一気にテンションが下がってしまっても困るので、いろいろ難しいのかもしれない。既に正社員になっている人々の立場もあると思うけどね――負けないように成果を出せってことかも。

工場管理 2009年 08月号 [雑誌]
工場管理 2009年 08月号 [雑誌]
カテゴリ:工学 | 17:47 | comments(0) | trackbacks(0)

覇者の戦塵1944〜マリアナ機動戦1 谷甲州

 気がつけば太平洋戦争も佳境の1944年。戦線は後退してマリアナ諸島にまで迫ってきている。この世界の日本人にとっては忸怩たる戦況かもしれないが、空母機動部隊戦力が――南雲司令長官と一緒に――しっかり温存されている一事をとっても奇跡的に思われる展開といえる。
 もはや防戦一方で、ダムの決壊しそうになった部分に駆けつけて防ぐしか手がないとはいえ、戦闘自体は伯仲したものを行いうるのだから頼もしい。
 その意味で大津予備中尉の存在が大きいのも勿論、機動力では空母部隊に劣らざるをえない基地航空隊に過度の依存をしなくても戦いうる点に希望がもてた。その上で、翔竜による同時攻撃が決まればアメリカ軍の主力に決定的な打撃を与えることも可能だろう。

 しかし、日本陸海軍の前に立ちはだかる大きな敵の姿が!
 ……各務大佐は不死身の化け物か。ラングーン侵攻の件で更迭されたはずが、ちゃっかり復帰して専横をほしいままにしているしぶとさには感嘆するしかない。本人の神経なき強靭な神経だけの賜物ではなく、一定の支援者が周囲にいるのであろう。そう考えると余計に暗澹としてしまう。
 アメリカ軍には明確な形で勝つことはできないにしても、もはやラスボスにさえ感じられる各務大佐とだけは決着をつけてほしいものだ。実は上村尽瞑の歴史改変を抑え込みに来た無能なタイムパトロールでも驚かないよ……最終巻はいきなりSF色たっぷりの展開に?
 まぁ、蓮美大佐なら!蓮美大佐ならきっとなんとかしてくれる!!――そして大佐は大佐でどうかしている。

 最後に表紙にもなっている防空巡洋艦大峰だが……これがアトランタ級と同じ「防空巡洋艦」と呼称されるのは詐欺だろ?「戦艦空母」いや「巡戦空母」とでも言いたくなるキメラで、翔鶴級との共通性を「悪用」された気分になった。
 しかし、搭載機が護衛空母的になっていて、艦隊防空に特化している点はかえって先進的なものを感じさせる。搭載機のバランスから考えても相当「光陽」の戦訓が影響を与えている事は間違いない。あんな規格外の艦を基準に作戦を立てたり、艦艇を計画したりするのは悪い冗談だと思うのだが。
 悪夢のような事情で――乗組員の被害は軽減されている可能性があるのは嬉しい――搭載している戦艦陸奥の主砲も上陸支援には役立つことであろう。長門級といわず伊勢級や扶桑級の主砲も砲身命数が切れるたびにガンガン積み換えることにして、船体の方は空母に改装してしまえばいいのだ。
 でも、守勢に入った日本じゃそんなに陸上砲撃をする機会がえにくいかな……それこそヒットエンドラン砲撃が可能な荒島級に大砲を積む理由にならないでもない。

谷甲州作品感想記事一覧

マリアナ機動戦 1―覇者の戦塵1944 (C・Novels 41-38)
カテゴリ:架空戦記小説 | 12:22 | comments(0) | trackbacks(0)

パワーミッション1999 3〜全面対決篇 橋本純

 新潟市への展開を完了した空中機動団がロシアの武装勢力と本格的な激突に入る!
 結果はまぁ……制空権のある側が圧倒的な有利になるのは当然かな。それを遠慮なく行使する判断をもたらしたのが、プルトニウムの奪取であったことを考えると「正攻法」的に人質作戦だけに出られていたら、もっと酷い困難に見舞われた気もしてしまう。
 お互いにより大規模な戦力を配置して、凄惨な大規模戦闘になった可能性を考えると、奇妙なことに核物質を持ち出されそうになった事がマシな結果を招いたようにもみえる。まぁ、すべては結果論で空中機動団が敗北する可能性だってあったのだし、一概には言えない。
 首相の無責任で卑怯な行いだけを記憶にとどめるのみである――総理があんなんで、某モデルを持つ田畑外相の扱いが結構いいのを見ると微妙な顔になってしまう。どう転ばされても実在の人物を意識せざるをえない以上は混乱したことであろう。
 すでに亡くなって歴史的な評価の対象になっている第二次世界大戦時の人物がフィクションに登場するのとはやっぱり違うのだった。

 ストーリー展開のほうは、ひたすら部下を切り捨てて逃げ抜けようとするネフレフスキーの行動が悪い意味で痛快になってきた。あれで逃げ切りに成功していないでほしいと願うのと同時に、もっときちんとした報いを受けるために生き延びて捕まってほしいとも思う。
 ともかく、少数の人間の醜い野心のために多くの人間が深い傷を負った結末には、悲しみと虚脱感を覚えた。やっぱり戦争よくない。

 この後の展開だが、TAOとかいう謎の組織は暗躍を続けるだろうし、捕虜になったロシア人や軍艦の問題もあるし、日本の苦労はまだまだ続きそうだ。鹵獲艦隊を極東の独立軍に「返還」すると脅してやれば少しはロシア政府も態度を軟化させてくれないかなぁ。
 北方領土の問題もあるし、独立した極東の連中とは危険な歩み寄りが可能に思えてしまう。まぁ、ともかく有事の最中に自殺を図らないような優秀とまではいわなくても、まともな指導者をえることが第一か。

橋本純作品感想記事一覧

パワーミッション1999〈3〉全面対決篇 (ワニ・ノベルス)
カテゴリ:架空戦記小説 | 12:17 | comments(0) | trackbacks(0)

パワーミッション1999 2〜新潟激突篇 橋本純

 新潟を占拠したロシアの武装勢力に対する自衛隊のヘリを使った兵力展開は着々と進み、ついには激突の時を迎える。
 ロシア側が上陸させる兵力を一個連隊ていどに絞ったことが意外だった。できるだけ多くの兵力を展開させれば日本側もおいそれとは攻撃できなくなるので時間稼ぎには都合がいいと思うのだが……すべては空中機動団の展開速度がネフレフスキー中将の想定を上回ったことで説明できるかな。
 たしかに使い勝手がよさそうな部隊だけど、より大規模な兵力を叩きつけられると対処に困る問題を潜在的に持っているのも感じる。

 さて狼が原発から持ち出して、イルカがどこかへ運び去ろうとしている使用済み核燃料の行き先はどこなのだろう?どこにしても届いてしまえばロクでもないことになるのは確信できてしまう。
 だから全面攻撃命令を出した杉本首相の判断はそう非難する気になれない。ただ、その後の対処が最悪すぎて呆れてしまった。責任は先ではなく、すべてが終わった後に取るものだと理解してほしいものだ。
 日本の場合、指揮権の継承順位とかは、決められていないんだっけ?そんなわけはないと思うが、肝心のタイミングで混乱してしまえば、もとよりがんじがらめにされている自衛隊がまともに戦闘力を発揮できる気がしないのだった。

 電話もつながって何かの鍵になりそうだったアレイニコフ曹長の戦死は残念だった。けっきょく戦闘が始まってしまえばマスコミにできることは、ほとんどなくて軍人たちが主役になっていくなぁ。
 あと、戦闘を撮影しようとした不埒ものたちは巻き込まれて死んでも世論からの同情を得られそうにない……現実にも同類が出没しそうな感じがして嫌だった。

橋本純作品感想記事一覧

パワーミッション1999〈2〉新潟激突篇 (ワニ・ノベルス)
カテゴリ:架空戦記小説 | 13:14 | comments(0) | trackbacks(0)

パワーミッション1999〜空中機動団出撃篇 橋本純

 訪れなかった未来の1999年、極東地域の分離独立内乱にはじき出されたロシアの正規軍がウラジオストクから出港。優秀な不良軍人のネフレフスキーに掌握された彼らは人道的見地から負傷者を受け入れることにした新潟の町を襲い、大量の住民を人質にとる。
 かくなる事態に及んで自衛隊の縮小に当たって新たに編成された攻撃ヘリとヘリボーンを組み合わせた「空中機動団」が出撃する――そこまでが1巻の内容で、話のペースはかなり遅いように感じられた。

 やることが割合ハッキリしている太平洋戦争のシミュレーションものとは、そこが大きな違いか。まぁ、橋本先生の場合は太平洋戦争ものでも時空転移した人間の意思統一などで初動を重くしてくるわけで、何か通じるものがあったりして。

 ロシア内部での政変はともかくとして、しっかりした取材に基づいた――その関係かマスコミの人々も登場人物にされている――リアリティある描写には大いに引き込まれた。
 図で組織や兵器ではなく、焦点となる新潟県庁の概略を示してくれたのは新鮮かつ分かりやすくて面白い。あまりリアルにやられすぎると、背筋が寒くなってくる感じもするけれど、新潟の防備の甘さを主張している著者としては、それさえも狙いのうちなのかもしれない。
 それぞれの登場人物がちょっとした人間味を感じさせてくれる言動を取っているのもリアリティへのよい肉付けになっていた。

 さて、鈍重に動き出した物語が、誰にも止められないスチームローラーになって暴れだすことを期待しよう。

橋本純作品感想記事一覧

パワーミッション1999―空中機動団出撃篇 (ワニ・ノベルス)
カテゴリ:架空戦記小説 | 12:48 | comments(0) | trackbacks(0)
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