帝国の危機1〜予期せぬ戦争 林譲治

 外務省が害務省になり、日米戦をひきおこす。官僚制度の弊害をまざまざと見せつける架空戦記シミュレーション。まぁ、いつもは海軍や陸軍が弊害をみせるのだけど、外務省があまりにも腐った状態にあるおかげで、彼らがだいぶまともになってしまっている。まぁ、実際に在アメリカの大使館は酷いエラーをしでかしてくれたわけだが……その後、どうしたんだろう。
 選挙民の命を守るという名目でよい装備が整えられているだけではなく、陸海軍の協力体制も史実よりはだいぶよい状態にあるので、戦争部分に関していえば悪いストレスがあまりなかった。

 そして、興国海運と興国陸運の存在だ。
 国策会社として、海軍陸軍の外郭企業(天下り先)として、存在するこれらの会社がこの世界の日本に与えている影響は絶大なものがある。単純な戦力強化にとどまらず、OBが大量に在籍するために古巣への圧力をもっている点が興味深かった。
 アメリカも開戦の経緯が不本意なものであったおかげで、戦争におよびごしな雰囲気があるし真珠湾の燃料施設だけを狙った「神風攻撃」から通商破壊戦のコンボも非常に威力が高い。アメリカは受身のうえに戦力の逐次投入になってしまっているから分が悪かった。

 中島知久平総理大臣の指導下に政治主導で一丸となって講和への道を探る日本の姿を楽しむことができる作品だ――そういえば飛行機開発はどうなっているんだろう?零戦には史実通りの甲型のほかに、よりも健全な設計思想による乙型が存在するみたいだが。

林譲治作品感想記事一覧

帝国の危機〈1〉予期せぬ戦争 (アスペクトノベルス)
カテゴリ:架空戦記小説 | 23:19 | comments(0) | trackbacks(1)

歴史図解 戦国合戦マニュアル 東郷隆

 イラストレーターが上田信先生であることに目を付けて手に取ったのだが、これが大当たり。
 イラストは期待にたがわず、考証にしっかりと従いしながらも生き生きとしているし――表紙の騎乗士は迫力がありすぎだ――文章もマニアックな話題を興味深く伝えてくれていた。

 どれもこれも詳しく面白くて、わざわざ陳腐で型どおりのものにしてしまっている大河ドラマなどの描かれかたが余計に残念にもなってくる。やはり希望の星はクレヨンしんちゃんなのか……。

 槍や弓、鉄砲などの武器をあつかった話題はともかく、首実験や切腹をあつかった章はさすがにグロテスク。シンプルながら、酸っぱいものが込み上げる血の臭いが漂ってきそうなイラストに慄きながらも引き込まれた。

 まぁ、それも最終章で女武者が紹介されるまでの話。
 話題に上がる女性がひとりひとりイラスト化されている気合いの入りように苦い笑いが込み上げた。どの年代でも好きな人は一定数いるようで。
 それにしても巴御前のキャラクターなどは、まるでライトノベルだ……ルーデルと同じく実在を信じてもらえないレベルの性能だなぁ。負けた人間が自分の体面を保つためにことさら大仰に伝えているのかもしれないが、それだけ前線にでてきているだけでも凄い。

 紹介されているエピソードの多くが、戦国ちょっといい話・悪い話まとめでも紹介されているのは御愛嬌――あちらでも愛読者が多いのだろう。
 期待したほど合戦の全体像が把握できなかったのはまだしも、著者が「まったく最近の若いもんは」的話を好んで用いているのには鼻白むものがないでもなかった。大昔のことを語るのにそれはどうかと……。

歴史図解 戦国合戦マニュアル
カテゴリ:歴史 | 20:23 | comments(0) | trackbacks(0)

大地と海を激変させた地球史46億年の大事件ファイル ニュートンムック

 タイトルのとおり、生物の痕跡さえ伺い知ることのできない冥王代から未来に待ち構えている大激変までいくつかの事件を大きく取り上げたムック。
 最新ニューストピックが用意されている点が嬉しくて、本の体裁をもちながらもできるだけ、新しい知見をフォローしようという意欲を感じた。

 個人的に目が行ってしまったのは事件の内容よりもインタビューを受けた研究者の方で……岐阜大学の川上紳一先生が大活躍されている。地球史という専門分野に綺麗に当てはまったのもあるだろうが、それにしても多岐に渡る話題で登場されていた。
 押さえておかなければいけないことが、とんでもなく多そうな研究をされている。

 スノーボール・アースに関して、太陽系全体でのイベントの可能性も考慮しなければならないかもしれないとのコメントがあって、やっぱ時代は火星で地質学ですよ!とひとり盛り上がった。
 大洪水にしろ温暖化にしろ、たくさんのヒントが比較惑星学に眠っているのは間違いない。

 ヒマラヤ山脈の誕生に関して、その経緯を描くばかりで、モンスーンなどが地球に与える影響がほとんど描かれていなかったのは、タイトルから期待したものとはズレていてちょっと残念だった。

 だが、ノアの洪水を黒海周辺に求めた研究は斬新で文句なくおもしろい。
 黒海が淡水化したことに拘らなくても多くの河川が流れ込むなら、その流域に文明ができることはまったく不自然ではない。あまり淡水化に拘らないほうが実のある議論になると考える。

地球史46億年の大事件ファイル―大地と海を激変させた (NEWTONムック)
地球史46億年の大事件ファイル―大地と海を激変させた (NEWTONムック)
カテゴリ:地学 | 20:11 | comments(0) | trackbacks(0)

図解雑学 名将に学ぶ世界の戦術 家村和幸

 タイトルの通り名将が歴史上で繰り広げてきた古今東西の戦いを戦闘行動のテーマごとにみて学ぼうという雑学本。

 それこそ古代ローマの戦いから第二次世界大戦までさまざまな例が一貫した視点でまとめられているところが魅力的だった。現代戦になってしまうと多少異質な感じがするものだが、お約束的な四角にマークをつけた形式になっても全体の流れの描かれかたが同じように見通せる。
 他の同系本ではなかなか見られない戦いが、日本を中心に紹介されているのも良かった。逆にガウガメラの戦いみたいな規模の大きいものに限って、あるテーマから見られているために案外短くまとめられている場合もあった。
 まぁ、有名なものほどそうしてくれた方が楽しみやすい気もする。関ヶ原の合戦なんか島津の退き口だけに絞って描かれているんだから徹底しているよ。撤退戦を紹介するなら金ヶ崎の退き口もやってほしかったなぁ。


 図解が売りなわけだが、ものによってはやりすぎて「漫画」状態になっているものがあった。千早城の攻防などまるで1コマ漫画の連発だ――と思っていたら巻末の参考文献に漫画が挙げられている。
 その開き直りっぷりに感心するやら笑うやら。とりあえず著者が楠木正成が大好きなのは分かった。

 図のおかげであまりページ数を多く感じずに済んだのは確かだった。なんの利益があるのかと思ってしまうのは、名将たちの簡略すぎる絵で軍装がよくわかるでもなし表紙の変に目の可愛いもので充分だろう。

 コラムが絶対に真似できない名将の凄さを訴えていて、直接的に参考にできないのはしかたないが、細かい表現や目的の設定には気になる部分があった。
 たとえばカエサルをシーザーと書くならポンペイウスはポンペイと書いてくれよ!!ハンニバルが率いたガリア兵が「ゴール」と呼ばれていたのも引っ掛かった。

 とはいえ全体的にはよくまとめられていて、内容が頭に収まりやすい本だと思う。


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グラフィック図解 関ヶ原の戦い 歴史群像シリーズ
内乱記 カエサル・著

名将に学ぶ 世界の戦術 (図解雑学)
名将に学ぶ 世界の戦術 (図解雑学)
カテゴリ:歴史 | 23:01 | comments(0) | trackbacks(0)

石の思い出 A・E・フェルスマン 堀秀道

 100年前のロシア鉱物学者の泰斗、A・E・フェルスマン氏がつづった石に関する思い出話の翻訳本。訳者の堀秀道氏は楽しい鉱物図鑑などの著作で知られている。

 必ずしも派手さはないが、坑道の奥にどっしりと腰を落ち着けた石のように歴史の深みをもって語られる石の話はひとつひとつが興味深い。いつしか書かれた年代も忘れ、目の前にフェルスマン氏がいるかのような気持ちで読むことができた。
 著者が目の当たりにした風景を自分まで含めて語る力には並々ならないものがある。
 また、石に対する著者の敬虔なまでの研究心がそこかしこから滲み出ていて、一周して自然崇拝的な思いさえ呼び起こされるところがある。景気のいい話ばかりではなく、石によって人生を狂わされた人間の話なんかもあって、我が身を省みてしまった。
 破産よりも採集地での転落の方がありえるだろうなぁ……。

 ダイヤモンド「シャー」の話は圧巻で、歴史を刻んでいるというよりも歴史そのものになってしまった偉大な石の存在感に酔ってしまった。これを所有しながら自分の名前を刻まなかった王たちは大した忍耐心の持ち主なのかもしれない。
 おそろしく素朴な方法でシャーに名前を彫る作業をした人間が物凄い忍耐力をもっていたいのは確定的。

 話題がロシア、そして欧州を所狭しとかけまわる――ウラルとコラ半島が多いとはいえおかげで、彼の地の雄大な自然を脳裏に描き、そこに住む人々に親しみを感じられるようになっているところも素敵だった。

 著者がところどころに注釈を入れてくれているおかげで、話題になっている産地の現状を知ることができたのも嬉しい。産地への関心をさらに掻き立てることで記憶を補強してくれた。

楽しい鉱物図鑑感想
楽しい鉱物図鑑2感想
宮沢賢治はなぜ石が好きになったのか感想

石の思い出
石の思い出
カテゴリ:地学 | 00:53 | comments(0) | trackbacks(0)

隔週刊トレジャーストーン74 ディアゴスティーニ

ミネラルファイル-鉱物
 角礫岩:礫岩との雰囲気の違いが面白い岩ではある。
 ナイス:片麻岩。どうしてもダジャレを呟いてみてしまいたくなる。十字石片麻岩はなかなか夢がある。
 フリント:資源としてはなかなか重要かもしれない。とくに石器時代においては、だが。
 ランプロファイア:名前がやたらとカッコイイ。黒さが際立ち独特の風格を持った岩石だ。だが、岩石だ。
 黄長岩:さすがに聞き覚えが……やっぱり日本には出なかった。印象的な名前なので覚えておけるかも。

世界の鉱物産地/アルジェリア編
 なかなか鉱物資源に恵まれた国。内陸部の開発はこれからか。地図をみてフランスからの独立戦争の記事を思い出した。

ディスカバリー/色指数
 塩基性・酸性の分類と密接に結びついた、そしてフィールドが重視される地球科学らしい基準。写真のかんらん石にふくまれるパイロープと思しきざくろ石に目が吸い付けられてしまう。だって、岩石ばかりで鉱物に目を楽しませることができないんだもの。

ディスカバリー/晶相と晶癖
 結晶をみたくてしかたがなかった私の目に朗報となる記事。晶系に忠実なものというより、条件に規定されて現れた形のものが多いけど、結晶は結晶だ。名前の挙がっているなかでは刀身状結晶がいちばん好きかな。
 色との兼ね合いもあるのだが。


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カテゴリ:地学 | 00:15 | comments(0) | trackbacks(0)

隔週刊トレジャーストーン73 ディアゴスティーニ

 岩石でもマニアックな方向に走ってきた。マイロナイトとか私以外の誰が喜ぶのだろう。薄片写真も欲しかったなぁ。

ミネラルファイル-鉱物
 ポーフィリー:岩石の中ではまぁ鉱物ファンにも好まれる要素を多く持った部類かと。誰だったか「具入り」と呼んでいた。
 エクロジャイト:こちらも悪くはない。柘榴石は等軸晶系だからクロスニコルでみると黒くみえるのよねー。懐かしい。
 角閃石岩:角閃岩と習ったやつとは別なのかなぁ。あれは変成岩だったの対して、これは深成岩に分類されている。
 マイロナイト:変成岩でもかなり特殊な代物。古応力の化石といえる。
 かすみ石:ひらがなで書かれると色っぽい。珍しい鉱物の母岩として押さえておきたい岩石だ。

世界の鉱物産地/ザンビア編
 国土の形がずいぶんといびつで河川との関係もぎこちないところがある。銅を産出するから余計に港を持ちたいところだろう。湖にはいくつか接しているんだが……河川輸送も滝があるから困ったものだ。

ディスカバリー/変成作用
 写真のチョイスが謎。変成岩はややこしいけど、いろいろな鉱物を産んでくれるので嫌いではない。

ディスカバリー/上下判定基準
 頭の体操的で、けっこう好きな概念だ。それだけに例に挙げられていたものが少なくて物足りなくもあった。まぁ、写真を含めればそこそこ紹介できているか。

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カテゴリ:地学 | 23:32 | comments(0) | trackbacks(0)

隔週刊トレジャーストーン61 ディアゴスティーニ

 すべて有機物か岩石でディスカバリーまで岩石を題材にしているという恐ろしく開き直った巻だ。ここまでやった後からルースをおまけにしてくる粘りをみせたところは凄い。地球の鉱物コレクションはどうなることか。

ミネラルファイル-宝石
 アバロン:どうしても思いだす。ロマンシング・サガ2のことを……。螺鈿細工は好きだなぁ。常にもっていると落ち着かない気もするが。

ミネラルファイル-鉱物
 パミス:軽石。もはや鉱物じゃないってヴぁ。用途に美容研磨剤が挙げられていて、風呂場にあった軽石の長方体を思いだした。かかとの角質を削り取るんだよね。
 石灰岩:もう、何をいったらいいのか。イギリスのヨークシャー州にあるという約3億年前の断層運動で形成された崖に地質タイムスケールの違いを感じた。
 雲母片岩:この中ではマシなほう?やはり薄片写真が面白い岩石だ。肉眼では目がチカチカする。
 スカルン:岩石というか鉱体というか……透輝石や石榴石のスカルンが反則だった。イタリア産の頑火輝石が幅を利かせる標本は実にらしいが。

世界の鉱物産地/オーストリア編
 菱苦土鉱と鉄鉱石が有名と、実に「堅い」印象のある国土だ。そこが魅力でもある。石油も産出することを知って、第二次世界大戦のことを考えてしまった。

ディスカバリー/岩石
 なんだかなぁ。図を使って堆積岩、火成岩、変成岩の三分類と生成サイクルを描くべきじゃないかと思ったが、2Pではどうやっても苦しいか。

ディスカバリー/侵食
 アメリカユタ州にあるアーチ構造の写真が2枚。一度は下をくぐってみたくなってしまう。上は……やっぱり怖い。

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カテゴリ:地学 | 22:46 | comments(0) | trackbacks(0)

ネットでおこづかい稼ぎ ネットで儲けるサイト研究会

 リードメールなどのネットでおこづかいをもらえるサイトを紹介した本(2007年9月発行)。
 サイトのトップページ画像とアドレス、オススメ度などが載せられている。流石メールが懐かしかった。実際にやってみると要する時間に対して得られる報酬がチマチマしていることに呆れる場合が多いと思うのだが、こういうものがあることを覗きまわってみるのも一興ではあるだろう。
 その他のモニター募集系はちょっと怖いけど…。

 気になるのはこれが本で出ていることで、サイトにまとめれば紹介料で儲かったんじゃないかと思うのだが――印税の方が多くを期待できるってことなのかなぁ。
 まぁ、こういう本もネットの経済効果のひとつということで――景気が冷え込むと広告業界はモロに煽りを受けるから大変だ。

ネットでおこづかい稼ぎ
カテゴリ:ハウツー | 23:37 | comments(0) | trackbacks(0)

天空の興亡 帝國防空大戦略 荒川佳夫

 ノモンハン事変に絡んだソ連の新潟爆撃事件とドゥーリットル隊の空襲を受けて発足強化された「防空軍」と日本本土空襲をもくろむB29&米機動部隊の戦いを描いた一品モノ。サブタイトルが空軍大戦略のパロディになっているだけのことはある内容だった。

 一冊に力技でおさめているがために、説明の割合がかなり高くなってしまっていて骨を折る部分があった。そこまでやった割にラストに強く結び付かなかったのも不満のタネである。結びついても、けっきょく状況の打開はドイツ頼みかと思ってしまったかもしれないが。
 まぁ、爽快感はあるラストだったので嫌いではない。

 中身も充分な余力を残し、防空軍によって適切な航空機生産指導が行われた日本の戦いを描いているので、押し込まれている割にそれなりのカタルシスがあった。1944年時点で烈風がごく自然に正式採用されているインパクトはやはりある。
 誉発動機は例によって踏んだり蹴ったりだったけどね……エンジンの理想性能に運用者側があわせてどうするのかと。
 もっとも主役になるのは単発の制空戦闘機ではなく、作品オリジナルの双発迎撃戦闘機だったりした。どうしてもP−38を意識してしまう「牙龍」や「翔龍」のズーム&ダイヴを駆使した戦いが新鮮でおもしろい。

 荒川先生らしくキャラクター描写に重きをおいているところも好感触で、主人公の戸田沼がみせた成長はなかなか印象的だった。対比にしてアメリカ側の主人公であるアーチャーの心理状態はなんとも残念な結論を見たけれど――攻める側と守る側の差なのかなぁ。

天空の興亡―帝国防空大戦略 (歴史群像新書)
天空の興亡―帝国防空大戦略 (歴史群像新書)
カテゴリ:架空戦記小説 | 21:57 | comments(0) | trackbacks(0)
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