サハリンのなかの日本〜都市と建築 井潤裕

 日露戦争から第二次世界大戦終了までの間、南半分が日本領であった樺太(サハリン)。この地に残された日本の建築物や今につながる都市計画の歴史を追うブックレット。

 当時の日本が北方の領土に行った資本投資から、その期待の大きさをうかがうことができる。豊かな森林資源を活かした(破壊もしたが)製紙工場と、それをあてにした企業城下町の数々が存在したことは、樺太の歴史を知るにあたって非常に勉強になった。

 なんといっても話題の中心になるのが、樺太の「首都」豊原(ユジノ・サハリンスク)であり、その発達史が非常に興味深かった。今でもこの街を代表する建築物のなかに日本人が築いたものがあることは、国境地帯に位置した樺太の歴史を感じさせる事実である。
 表紙にもなっている旧樺太庁博物館の日本城郭をおもわせる威容が実に印象的であった。


ロシア地理雑学・都市データサイト“ニジェガローツキー・ドヴォール”:本文中で紹介されていた地理情報サイト

関連書籍感想記事
ウラジオストクの日本人街
征途:分裂した北日本の首都が豊原という戦記シミュレーション小説

サハリンのなかの日本―都市と建築 (ユーラシア・ブックレット)
カテゴリ:歴史 | 22:45 | comments(0) | trackbacks(0)

恐竜とわれら哺乳類 冨田幸光

 恐竜と共存していた時代から主に小型の哺乳類についての研究の実際を伝える本。
 分岐分類学や最近(といっても1994年に書かれた本だが)の日本の化石産出事情が興味深かった。または、バットランドでの化石採集方法も新鮮だった。「スクリーンウォッシング」で数ミリの歯の化石をみつけるのは、どんな感じなのだろうなぁ。

 タイトルにある恐竜はそれほど目立った説明をされないのだけど、著者がアメリカで「ドラゴン期」を整理した話には引き込まれた――その期のネーミングに。アメリカ人らしいと思ったので消滅することになってしまったのは残念だ。科学なのでそんな感傷に左右されるわけにもいかないか(でも、めいお…ゲフンゲフン)。

 本書が書かれた当時の化石産出ラッシュ具合から、まだまだ古生物学が発展の余地を大いに残していることが感じられる。さて今は、そして未来はどうなっているのであろうか。とても楽しみだ。

関連感想記事
恐竜VSほ乳類〜1億5千万年の戦い
恐竜!化石を求めて ナショナルジオグラフィックDVD

恐竜とわれら哺乳類 (岩波科学ライブラリー (39))
恐竜とわれら哺乳類 (岩波科学ライブラリー (39))
カテゴリ:地学 | 12:23 | comments(0) | trackbacks(0)

月刊ニュートン2010年5月号

NGK SCIENCE SITE
 羽をアルミホイルで作ることもポイントなんだよね?自己誘導についてもう少し詳しく解説してほしかった。自分で興味を持って調べて方が学習になると言われればその通りだが。

SIENCE SENSOR
 空気中からCO2を抜き取る:取った物質が経済的に利用できるのが大事だ。中国での排ガス浄化事業でもそういう話題を読んだ覚えがある。
 なぞのX形彗星:これこそ画像がほしいのだが…。
 植物の“口”をふやす:シンプルだけどグロテスク。お・り・が・みの億千万の口は「シトマジェン」によって作られたのかー。
 C型肝炎の新たな治療法:現在の治療法が半分の人にしか効かない事実に慄いた。半分は効くところが効かない人にとっては辛い。
 走り方の進化?退化?:退化は進化の一種なので進化でまとめていいんじゃないか。けっこう興味深い話だった。
 巨大な弧をえがく磁場:現場に行けたら発電に大いに利用できそうな磁場だ。じゅるり。
 身近な超音速ジェット:こんな単純なことで生まれるのか。液体と気体の境界には不思議がいっぱい詰まっている。
 感染の歴史が明らかに:微生物の生態研究にも応用できるという話題に食い付いた。研究費の問題からいっても応用はありがたい話だ。
 太古の四足動物の足跡:ひれ足にも相当のメリットがあったようで――アシカとか今でもいるからなぁ。
 自分の子の見分け方:実験のために自分の子を排除してしまった親鳥……。
 地球がかえる小惑星の色:実証は2035年待ちとは気の長いお話だ。四半世紀後じゃないか…。
 ダイヤがとける条件:海王星の磁場を考える上でも興味深いのか。おもしろい繋がりだった。
 新たな獲物を求めて:マンモスを狩るには人数が必要だから、まとまるメリットも大きかったのだろうな。
 南洋のCO2の行方:エクマン流、和名で言うと吹送流ってやつか。資料集で見たエクマン螺旋が懐かしい。

冥王星の“表情”を鮮明にとらえた
 最新画像だけど元データは2002〜2003年のものである。過去のデータでも再処理によって輝く。そんなことも伝わってくる。

恒星に“食べられる”巨大ガス惑星
 たった1000万年しかもたない惑星がよく見つかったものだ。恒星の寿命の方も長くないタイプなのかな?

メガネ不要のキューブ型3Dディスプレイ
 使用方法の発想まで一貫しているところが素晴らしかった。配管工事を現場で打ち合わせるのにも使えるのではないか。

ほとんど水なのに丈夫な素材
 切ってもくっつければ直るとか、実は未来型ファンタジーの元ネタになれそうだ。様々に応用されることに無茶苦茶期待してしまう。

暗黒物質をとらえる642の“目”
 まるで宇宙にでも送り出しそうな代物だが、おかれるのは神岡鉱山。地球も宇宙の一部であることを感じさせてくれるメカである。

世界に一つ!地球一望の出窓
 この眺めを日常のなかに得られるのはとっても羨ましい。野口飛行士は広報が上手だなぁ。

世界で最も有名な関係式E=mc^2
 またフックの強いものを持ってきたな……このところの特集には余裕のなさを感じてしまう。これだけカラーをふんだんに使っていて1000円はやはり辛いのではないか。
 本題の方程式については記号の意味をひとつひとつ紹介して――さすがに「2」は切り出さなかったが――アインシュタインの発想に迫っている。インタビューで監修の先生がエネルギーと質量が等価であるように、距離と時間も等価だと説明していたことに衝撃を受けた。つまり「100万光年早い」は正しい言いかたということになる。
 他にも難しい概念をうまく言葉で説明されていて興味深かった。

自然がつくりだすミクロな造形
 植物と虫の少しグロテスクなところもある造形を走査型電子顕微鏡で撮影したもの。試料の奥行きに対応できる走査型電子顕微鏡の強みが理解できる写真が多かった。

地球の裏側から津波が到達!
 ちょうど反対側に近いから波が合流するという説に聞き覚えがあったのだけど、必ずしも正しいわけではないようだ。
 関連:海の怪物津波 ナショナルジオグラフィックDVD
津波防災を考える「稲むらの火」が語るもの 伊藤和明

トルコ辺境に残る風変わりな墳墓群
 まばらな緑に突き出した白い岩が良く映える。その岩のなかには人のお墓が混ざっているのだから面白い。海に接近しながら、どこか厳しいリディアの自然が伝わってきた。

宇宙で最初の星はどう生まれた?
 なるほど星の数ほどある星にも、最初の星は確かに存在するはずなのだと妙なところで発想に新鮮さを感じてしまう。大質量なら寿命が短いはず、と思っていたらちゃんと説明された。

色をかえる海の生物
 あの手この手で色が変わっている。視界から外れたところですばやく変化すれば、まるで消えたように見えるのではないか。生命の激しい駆け引きを感じる能力だ。

「変態」―昆虫が激変するしくみ
 トンボがあまり変態していないことやサナギも動くことが新鮮だった。よくもこんなに複雑な生き方を獲得したものだ。

テクノロジー・イラストレイティッド 電流を空気の振動にかえるスピーカー
 特に驚かされることもなし。名探偵コナンで犯人が隙間を隠し場所に使っていたなぁ。

パレオントグラフィ 哺乳類の繁栄がはじまった
 ここまでくると親しみの持ちやすい雰囲気になってくる。生物だけではなく、環境も今に近付いているせいだろう。

身近な“?”の科学 【緑茶、紅茶、烏龍茶】
 どれも美味しくて好きだ。利尿作用があるので、たくさん飲むのは辛いのだけど、健康にいいデータは気になる。そう高いものでもないしなぁ。

脳細胞は、死ぬばかりではない
 だからといって人為的に増やそうと、虚血状態を作るのはリスキーに過ぎる気が……私が思うほど危なくないのかもしれない。

植物状態の患者との“会話”に成功
 いろいろな段階の人がいて、一概にはまとめられないようだ。会話に成功した人はそのとき何を思ったことだろう。再び疎通を取ってくれることを強く望むのではないかなぁ。

津波の高さをはかる方法は?
 なるほろーん。昔見た潮位測定所を思い出す。全国で171ヶ所は少ない気がしてしまうが、その根拠はないのでこれで適性なのだろう。気象庁もいろいろやっているから大変だ。

直接測定では日本最古の人骨を発見
 DNAが分析されれば、数度にわたって紹介されていた日本人の起源についても研究が進捗するかもしれない。楽しみだ。

今月のフィールドワーカー カメは1日に何メートル移動するか?
 うん、あの発信機は大きい。じっさいにはもっと遠くまで移動できても不思議はないと感じた。アカミミガメは駆除した方が良い気もしたが、ここで動きを詳しく知った方が対策を立てやすいか。

STAR-WATCHING
 先端がスピカだと知ってしまえば、色合いから他の惑星に間違える恐れは低い。そこを良く覚えておこう。

Newton ( ニュートン ) 2010年 05月号 [雑誌]
Newton ( ニュートン ) 2010年 05月号 [雑誌]
カテゴリ:科学全般 | 00:57 | comments(0) | trackbacks(0)

エカチェリーナ2世とその時代 田中良英

 著者はピョートル1世と共に、ロシアがヨーロッパ国際社会に踊りでる要因となったとされる皇帝エカチェリーナ2世の時代を簡潔に追っていく。
 それは必ずしも個人の功績にすべてを帰すのではなく、目立たなかった君主たちによる蓄積の時代にまで視野をひろげて、流れを掴もうとする視点に立ってのものだった。

 こうして簡潔にまとめられてみると、オスマン帝国やポーランドなどロシアの周辺に位置していた国家にとって非常に厳しい時代であったことも分かる。ポーランドに至ってはエカチェリーナ2世の治世の末期に消滅してしまう。
 その割にロシアではなくエカチェリーナ個人を対象とした怨嗟があまり聞こえてこないのは、単に耳が遠いからなのか興味を抱いた。彼女が生粋のロシア人ではないこともあり――対外進出政策を後押ししたのは外国出身の権力層が多かったという話も本書中にある――恨む人間の焦点としては不適切な要素があったのかもしれない。


 まとめるとヨーロッパの地平の向こうにあったロシアが、ときに後進的と評されることもある要素さえ活かして巨大な存在になりはじめた時代の躍動感に触れることができる本であった。


女帝エカテリーナ 池田理代子 感想:エカチェリーナ2世の伝記漫画

エカチェリーナ2世とその時代 (ユーラシア・ブックレット)
エカチェリーナ2世とその時代 (ユーラシア・ブックレット)
カテゴリ:歴史 | 14:43 | comments(0) | trackbacks(0)

しぶとい戦国武将伝 外川淳

 戦国の生き死にのはざまをしぶとく生き抜いた武将たちの人生を伝える一冊。
 この本のなかで生きることによって、彼らのしぶとさがまた一段と高まった気がするのだった……長生きはするものだ。

 個々の武将の逸話はおもったよりも記憶にとどまらず、知っている人物は簡潔にまとめられた文章で記憶の整理ができ、知らなかった人物はなにかの拍子に思い出す準備ができた形になった。生き様主体のおかげで日蔭者にもスポットが当たるとはいえ、やっぱり今川氏直、宇喜多秀家、真田信之あたりは見栄えがするなぁ。
 いささか紹介される人物が多すぎたのかもしれない。ひとりひとりの区別はあやふやでも彼らの生き方そのものには触発される力が強くて、できるだけ習って生きたいものだと思った。

 とくに印象的だったのが、連歌や茶道などのつながりで身を保った人間がいたこと――まさに芸は身を助ける、なのだが趣味が恐ろしく多様化した現代にあっては単純に真似できることではないのかもしれない。
 茶道などは時の権力者に「上流階級の趣味」というくくりを与えられて力を発揮した雰囲気もある。

 あと、巻末の用語集が、なかなかためになった。当時の統治システムの深みがおぼろげながらにみえてきて興味深い。
 それにしても末尾を飾ったしぶとい戦国武将は反則だと思うの。綺麗なオチにすぎる。


歴史図解 戦国合戦マニュアル:戦国雑学本仲間
幕末戦史 歴史群像アーカイブvol.12:一部しぶとい末裔たちの戦いが分かる

しぶとい戦国武将伝
しぶとい戦国武将伝
この著者は「と分析できる」という言い回しが好きだと分析できる
カテゴリ:歴史 | 12:19 | comments(0) | trackbacks(0)

実験・観察・ものづくり7〜岩石・化石のなぞ 角谷重樹・相場博明

 子供たちが地学の世界に興味を示したときに導入となる本。
 あまり深く立ち入ることはしないが、割と身近でできる楽しい研究を紹介しており、役に立ちそうだ。河原の石の分布調査など面白いのだが、ちょっと答えを載せすぎていた気がしないでもない……。

 個人的には鉱物目当てで読んでいたので小さな写真がいくつかあっただけなのはいささか残念。しかし、顕微鏡で拡大された火山灰中の鉱物写真がなかなかしっかり結晶していて、同じ真似をしてみたいと思った。

 宝石さがしの産地として、福島県のオパールや和田峠のガーネットを紹介されていて、この点で子供向けといえるのかは少し謎だった。中部地方に集まっている反面、中国や四国では紹介される宝石の産地がないのはどうしたことか。

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教科に役だつ実験・観察・ものづくり〈7〉岩石・化石のなぞ (中学生の数学・スタンダード (17))
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カテゴリ:地学 | 18:42 | comments(0) | trackbacks(0)

水晶・瑪瑙・オパールビジュアルガイド 砂川一郎

 タイトルの通り大判の写真付きで石英関係について、とことん教えてくれるビジュアルガイド。
 その内容の濃さ深さには圧倒される思いで、完全に学術的な領域に入ってしまうと敗北感すら覚えることがあった。しかし、なんとか部分的に理解できるだけでも非常に興味深いことを紹介してくれており、石英、ひるがえっては鉱物の奥深さを堪能することができた。
 7晶系が32点群に、32点群が230空間群に、と分類が進んでいく話は手品でも見ている気分になる。

 写真に撮られている標本もおそろしくグレードの高いものがざらに出てくるので、世の中にはこんな標本もあるのかと溜息をつきながら眺めてしまうことしきりだった。とくにルチルの線状結晶がコイル状になった標本(表紙左下にも載っている)が凄くほしい。
 その生成原理を説明する図は直観的に理解できるものではなかったが、あわせて食い入るように見てしまった。ただ、その美しさ不思議さで人の好奇心をとことん掻き立ててくれる鉱物の純粋な力を感じずにはいられない。

 美術品に加工された石英の写真でも、その性質をよく活かしているものが取り上げられているから嫌味がなくて、ただただ感嘆させられる。事前に性質をくわしく紹介してくれているおかげもあるのだろう。
 全体を通してそんな様子で、蘊蓄語りの正の効用を味わうことができた。

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カテゴリ:地学 | 00:10 | comments(0) | trackbacks(0)

三国志 合戦データファイル 別冊歴史読本

 以前レビューした三国志戦略クロニクルはこの本から主要な戦いを抜粋したものだったらしい。あちらの著者の立間祥介氏がこちらでは記者のひとりになっている。

 ひとつの合戦について見開きの2ページで解説するのが基本になっており、大きな戦役においてのみ節をわけて解説されている。魏が滅んで晋が呉を滅ぼすまでしっかり紹介しているため、この先がまだまだ描かれるような不思議な気持ちになってしまった。
 それはそれで興味深いんだけどなぁ。

 重ねて三国志の戦いを読むと、袁紹軍の残念ぶりが痛みを覚えるほどになってくる。
 あれだけ人材を抱え、州の数でみても二倍でありながら曹操に敗れるとは、まるでカエサルに対するポンペイウスのようだった。人材活用の点でいえばもっと酷いかもしれない。公孫?を反面教師にできるはずなのに……。

 全体の流れをつかんで思うのは、魏と呉に中国の大部分が制覇された状態になって蜀を入手することのできた劉備の驚くべき運のよさである。まさに間一髪のタイミングで三国鼎立のバランスを構築している。
 そこに運命すら感じてしまうのだが、曹操が先んじていれば、それはそれで無理のない歴史になったことであろう。過去とはそういうもの――と歴史観すら改められる気分であった。

 しかし、この本210Pによれば魏の人口450万、呉の人口230万、そして蜀の人口95万とあり、後発の悲しさは否めないところがあった。最大多数であるにも関わらず魏は屯田兵や民衆への土地貸与をおこなって国力の有効利用に尽くしているから恐ろしい。諸葛亮はよくこの大国相手に出兵して負けない戦いを展開したものである。
 なお、細かい後期の戦いが描かれているおかげで、孔明以外の諸葛氏も三国で活躍していることが分かるのも楽しかった。

 なによりも良かったのはコラムで市川宏氏の高い文章力と共に三国志の人物に親しみ楽しむことができた。

三国志合戦データファイル (別冊歴史読本 (41))
三国志合戦データファイル (別冊歴史読本 (41))
そういえば、人物絵が濃ゆい…
カテゴリ:歴史 | 00:18 | comments(0) | trackbacks(0)

切手と紙幣が語るロシア史 安西修悦

 多くの人の手に渡り目に入ることが確実な切手と紙幣。その意匠で行われるプロパガンダからロシアの歴史をひもといていくブックレット。
 性質上の問題から19世紀以降のロシア史が話の中心になっており、それ以前は歴史を記念する切手から構成されている。

 切手などの発行を許可するのは権力者側ということもあり、細かい違いから透けて見える政治事情を紐解いているところがおもしろかった。
 ソビエト誕生時の内戦で一時的に成立した地方政権の切手がなかなか泣かせる。外国に発注してけっきょく未発行に終わっているのをみると、政治的に安定していることのありがたさが身に染みるのだった。

 最後はもともとソビエトを構成していた国家群の現在に肯定的な姿を見つけ出して終わる。ソ連時代でもイスラム教徒に配慮した切手が発行されていたり、ソ連でも多民族国家ゆえの知恵が働いていたことが分かったのは収穫だった。

 単純に芸術的価値から切手を眺めるのもおもしろく、切手コレクターの気持ちがちょっと分かった。

切手と紙幣が語るロシア史 (ユーラシア・ブックレット)
切手と紙幣が語るロシア史 (ユーラシア・ブックレット)
カテゴリ:歴史 | 00:11 | comments(0) | trackbacks(0)

鉱物アソビ フジイキョウコ

 楽しいが肩のこる学術的な鉱物趣味ではなく、素敵な鉱物をできるだけ純粋な気持ちで愉しもうとする姿勢に貫かれた異色の鉱物本。

 インテリアに鉱物を組み込んだ写真の数々が新鮮で目を愉しませてくれた。鉱物のある暮らしを演出するそれぞれが魅力的でとても真似したくなる。ゴールデンカルサイトやぶどう石をデザートのようにあしらった写真が特に面白くて、その発想にうなってしまった。

 著者の文体が女性的な滑らかさに満ちているのも特徴で、読んでいて加速していく感覚がクセになる。言っていることの内容ではないところでも、ひとつの勝負ができている文章だ。
 美術家、小林健二氏との対談では、彼の石からつながる哲学が垣間見えて、それもまた興味深かった。確かに天然の包容力には抗しがたいものがある。

 巻末の情報もかなり充実していて、簡潔ながら内容をしっかり伝えている鉱物関連書の紹介に、店舗やミネラルショーの情報がどれも役に立ちそうだ。さっぽろショーがあると知ると九州方面にもなんらかの鉱物ショーが欲しくなる。オススメの旅行先として国内にとどまらずアメリカやポーランドを紹介している視野の広さも鉱物好きらしくて快い。

鉱物関連記事一覧

鉱物アソビ 暮らしのなかで愛でる鉱物の愉しみ方 (P-Vine Books)
鉱物アソビ 暮らしのなかで愛でる鉱物の愉しみ方 (P-Vine Books)
カテゴリ:地学 | 00:22 | comments(0) | trackbacks(0)
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