空から見る日本のふしぎ絶景50 渋川育由

 日本にこんな「空間」があったのか……新鮮な驚きで心を満たしてくれる写真を収めた本。タイトル通りに空撮写真もあるけれど、空を取り込んだ風景写真も目立つ。そういう写真に限って光線効果が優れているのは、時間をかけてチャンスを狙えるからなのだろう。
 初っ端から朝日で金色に染まる樹海の姿を広げていて、息を呑んだ。

 とはいえ、細かく眺めて愉しいのはやっぱり空撮写真だ。
 解説に挙げられているものに目を凝らし、人間の痕跡から行動をイメージする。時間を切り取った写真の中に、それまで流れてきた時間の積み重ねを感じるのはとても楽しかった。

 どこを見ても、行ってみたい土地ばかりである。

空から見る日本ふしぎ絶景50
空から見る日本ふしぎ絶景50
カテゴリ:写真・イラスト集 | 21:54 | comments(0) | trackbacks(0)

3次元CAD・CAE・CAMを活用した創造的な機械設計 金沢大学設計教育グループ

 SolidWorksとその派生アプリケーションを用いて、創造的な機械設計を行う方法を紹介する本。キャプチャー画像がとても多いので、参考にしながら操作を進めれば、間違えずに先に進むことができるだろう。

 とはいえ、試しにモデルをつくる操作自体はチュートリアルを見ても同じように習熟出来ること。個人的には大学で教えている設計の思考法がうかがいしれるところが興味深かった。
 その点では特にスターリングエンジンやポール登り機を制作する「創造デザイン実習」がおもしろい。
 実物に合わせてモデルを少しずつ調整しながら制作していく様子が確かに創造的だ。生徒にはとてもよい経験になるのではないか。

 後半ではCOSMOS2008(現在は統合されてSolidWorks Simulationに名前が変わっている)などを使った解析例も紹介されていた。
 たくさんの解析を繰り返して、できるだけ理論値や実測値と比較して経験を積むことの重要性が訴えられている。なんだかんだで設定すれば結果を出すことはできるけれど、本当に有用な結果を出すためには経験から妥当さを見極める「センス」欠かせない。
 やっぱり本を読むだけで、それは身につかないけれど、有効な取っ掛かりにはなる。

3次元CAD・CAE・CAMを活用した創造的な機械設計―SolidWorksを活用した設計・製作
3次元CAD・CAE・CAMを活用した創造的な機械設計―SolidWorksを活用した設計・製作

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SolidWorksによる3次元CAD 感想
カテゴリ:工学 | 21:53 | comments(0) | trackbacks(0)

相克真田戦記2〜家康の死、豊臣家の終焉 久住隈苅

 豊臣家と徳川家の最終決戦のさなか、伏見城で家康が火事に巻き込まれて死ぬところから話は始まる……とんでもない出だしにしたものだ。ゲヒ様の扱いにも驚いた。

 徳川家内の権力争いもあって、とんでもなく捻じれた状態で史実よりも早く行われた大阪の陣は、留まるところを知らずに混沌としていく。
 泰平の世に生きることを許されない者達の戦いぶりが熱く、悲しい。共感するなら伊達家にしておいた方が賢明だろう――印象とは正反対に大人な政宗は素敵だった。

 嫌い合いながらも絶妙な相互支援をくりかえしてしまう吉川・小早川コンビには、ニヤニヤ笑いを禁じえなかった。さすがは毛利両川と讃えざるをえない。
 ひたすら称揚される傾向のある真田幸村が、人間の才能で可能と思われる範囲で、事をなしている様子もすばらしい。赤備えの情けない真意には呆れるのを通り越して感心してしまった。
 確かに注目を浴びれば恥ずべき行動を取りにくくなる。赤備えに限らず、武士が旗指物などで自分を主張することは一面においては「背水の陣」なのだと理解した。そのおかげで、徳川家にも多くの討ち死にが出ているわけで――井伊の赤備えは存在感が薄かったなぁ。

 いろいろ感動的なことがあった作品だけど、やはり淀殿には耐えられない。胃が痛い。彼女さえいなければ、と何度思わされたことか。間違いなく淀殿こそが豊臣家最大の敵であった。

相克 真田戦記〈2〉家康の死、豊臣家の終焉 (歴史群像新書)
相克 真田戦記〈2〉家康の死、豊臣家の終焉 (歴史群像新書)
カテゴリ:時代・歴史小説 | 21:52 | comments(0) | trackbacks(0)

相克真田戦記1〜信之の大志、幸村の決意 久住隈苅

 関ヶ原の合戦時、中山道をいく徳川軍本隊を信之が親を討って助けることから展開する歴史シミュレーション。
 藤堂高虎にならぶ家康の懐刀になった真田信之の活躍がカッコいい。真田は真田でも日陰扱いされがちな兄を主役に据えることで他からの差別化を図っていた。

 大坂方では、戦いの展開から蟄居させられなかった幸村が兵を練っており、史実の大坂の陣よりはマシな戦いが期待できそうな状況になっている。
 浪人はやはり浪人で人数だけを集めても、まともに機能させることは難しい。あの手この手で戦いながら鍛えて、使える精鋭を生みだそうとする働きが涙ぐましい程だった。あまり天才的ではなく、確信の持てない中、手探りで状況を変えようともがいている幸村の姿には好感が持てた。

 小早川秀秋すら関ヶ原で裏切りをせずに済んだおかげで爽やかに戦っており、本多正純だけが貧乏くじを引いているような状況である。
 まぁ、権力争いから熊野であんな戦いをしてしまっては弁護の余地もない。
 淀殿は平常運転。


 すっぱりと言い切る文体がなかなかに気持ちよく、登場人物たちの会話も時代がかった独特の物になっていて、楽しめた。

相克 真田戦記〈1〉信之の大志、幸村の決意 (歴史群像新書)
相克 真田戦記〈1〉信之の大志、幸村の決意 (歴史群像新書)
カテゴリ:時代・歴史小説 | 23:48 | comments(0) | trackbacks(0)

ビジュアル博物館 結晶と宝石 Dr.R.F.SYMES & Dr.R.R.HARDING

 大英自然史博物館の協力をえて撮影された結晶と宝石たちが目を愉しませてくれる。今では絶産したと思われる産地の標本が普通にでてくるうえ、総じて石のクオリティが高い。
 モルガナイトとヘリオドールが共生するベリルの標本には驚いた。

 図鑑ではないので参照がしやすいとは言いがたいのだが、初耳な情報も多く眠っており楽しめた。フランス王室の暴走馬車オパール号は御者をアメシスト号に乗り換えさせればよかったのになぁ。フランスが関わる宝石のネタに皮肉なものが多いのは気のせいか?

 ちゃんとアメジストではなくアメシストと翻訳されているところはグッドである。ただ、ラピスラズリの和名が天青石なのに、天藍石と別の物に訳されているのはいただけなかった。ガーネットなどはカタカナ表記よりも和名表記の方が成分が分かるので非常にありがたい。宝石の魅力を伝えるには、未知の部分が大きい方が都合がいいのかもしれないが。

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結晶と宝石 (ビジュアル博物館)
カテゴリ:地学 | 22:27 | comments(0) | trackbacks(0)

帝国艦隊・重爆戦隊撃滅作戦 橋本純

 帝国艦隊シリーズの派生にあたる作品で、実験飛行部隊のエースパイロット漆原康友中尉――後から昇進するが――の活躍を描く空戦作品。

 零戦やB−24に混じって聞いたこともないような機体がわんさかと出てくる。帝国艦隊シリーズの予備知識がないから驚きの連続だ。いくらなんでも新しい機体の出現頻度が多すぎる気がするのだが、この世界ゆえの国力的裏付けがあるのだろう、たぶん。
 一番のキーポイントは音響追尾式の「二号魚雷」にある模様。元があるとはいえ「ハチ公」のネーミングセンスは気が抜ける。

 戦局の動きをまとめて伝えてくれているところは、かえって良かった。フィリピンを決戦場にして同じ作者の「鉄槌」に似たことをしたようだ。


 肝心要の空戦描写はやや硬質なのに緊迫感のゆるい文体で描かれていて、興奮はしにくいが読みやすい。
 発動機のやたら詳しい構造の問題に触れるところは、変わらずであった。おかげで航空機の質でアメリカに張り合うやりかたに一抹の説得力が出ている。

 この作品で、いちばん印象に残ったのは「と、とちゅげきっ」だけど。

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帝国艦隊・重爆戦隊撃滅作戦 (ジョイ・ノベルス)
カテゴリ:架空戦記小説 | 21:24 | comments(0) | trackbacks(0)

反風林火山3〜織田信長の猛襲 神宮寺元

 上杉と連携して北条を袋叩きにしていた武田義信だが、織田氏と対立しはじめたことで状況は一転。今度は周辺諸国に袋叩きされる番になってしまう。
 知恵者の山本勘助が強固な政治基盤を持っていなくて、奸臣の讒言で義信の近くから追われてしまいがちな状況が痛い。これが秀吉のところなら、あっさり軍師に取り立てられていたのではないか。
 深い伝統があるのも大変なことだ。

 戦場は主に旧今川領を舞台に展開して、のんびりした性格の人々を戦火で苦しめている。北条も織田も徳川も駿河と遠江に接する国がすべて敵にまわってしまって、唯一の頼れる同盟国である上杉からは非常に離れていることが痛かった。
 徳川を味方につけられなかった失点の大きさが良くわかる展開だ。

 それでも律儀者の上杉謙信は上洛から疾風迅雷の動きで取って返すと、この作品の最終決戦で決定的な役割を果たしてくれる。この作品では、風林火山の風の部分は明らかに武田信玄のライバルが受け持っていた。最後で義信が慎重居士になったこの作品のタイトルは「反風」林火山と、切って読むのかもしれない。
 最後の戦いに参加したのは、織田信長・徳川家康・北条氏政・上杉謙信・武田義信、信玄、勝頼であり、驚くほどそうそうたる面々になっている。でも、時期が時期なので動員兵力的には、そこそこ落ち着いたものだったりする。
 どの家も知られた人材が多数いるので、少数での複雑な動きが説得力をもって描かれやすい印象があった。

 武田義信の戦いはこれからだ!ENDの後はけっこう厳しい膠着状態になりそうである。足利義昭を奉じての上洛に成功した上杉謙信の政治力次第では、織田家にとっての徳川家ポジションに収まれるのだろうけど。

神宮寺元作品感想記事一覧

反 風林火山〈3〉織田信長の猛襲 (歴史群像新書)
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カテゴリ:時代・歴史小説 | 20:54 | comments(0) | trackbacks(0)

反風林火山2〜織田軍団の強襲 神宮寺元

 武田信玄を追放し、義信が当主になった武田家は上杉家との同盟に成功する。その結果、謙信と関東をあらそう北条家との関係が怪しくなっていき――新しい構図での戦いがはじまるのであった。

 周囲を多くの勢力に囲まれている武田家の地理がよくわかる話だった。外交に使う人手がいくらあっても足りない状態だ。
 いちばん弱ったところを襲えばいいという考え方もあるけれど、その勢力も他の手強い勢力と接している可能性が高いわけで、厳しい戦いの幕開けになりかねない。実に厳しい環境に置かれている。

 それでも義信が今川家を平和的に併?できたのは、優れた人材を召し抱え、義のある行動を取ったからか。
 今川家の中でも使える人材が、そのまま働いてくれている点はかなり大きい。朝比奈泰朝くらいは最後まで今川氏真を支持してほしかった気もするが……。
 ともかく、義信が今川領で見せた速きこと風の如き機動が良かった。

 武田(+今川)・上杉連合軍に追い詰められた北条氏は、策略で織田と武田をかち合わせる謀略を練り上げる。主人公的位置にいた山本勘助の謀略が、味方に足を引っ張られて水泡に帰し、敵の謀略が綺麗に決まってしまうとは皮肉な展開だ。
 失敗はあっても正しい選択肢を提示してきたゆえに現れている勘助の頼りがいが、良い感じである。

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反 風林火山〈2〉織田軍団の強襲 (歴史群像新書)
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カテゴリ:時代・歴史小説 | 22:38 | comments(0) | trackbacks(0)

反風林火山1〜川中島最終血戦 神宮寺元

 話の展開を考えると、どこか人を食ったサブタイトルに感じられる。それとも最終になった第四次の方を言っているのかな。車懸りの陣など、まともな資料がないゆえに自由な発想で描かれる川中島の戦いは楽しかった。

 武田義信が大きな役目を果たせたのは幸運も多分に作用している気がしたが、それによって手に入れた自信が実力をもたらすなら、やはり幸運も実力のうちか。
 山本勘助は史実通りに死なないけれど、武田信繁は史実通りに死んだことが、その後の政治動向に影響を与えている。非常にできる弟が生きていれば、兄と甥の中を取り持つことができたのではないか。

 駿河の地からちょっかいを掛けてくる武田信虎の動きがおもしろい。
 騒がせるだけで心がこもっていない行動も、彼の地位があっては状況を変化させざるを得ないのだった。自らの兵をもたざるゆえの工夫なのだろうが、情報をやりとりしながら、事実を創る手法はなかなか興味深い。

 武田家中での二代にわたる親子クーデターに成功し、実権を握った武田義信の見定める先はまだ勢力を伸張させきっていない織田家にある。このまま美濃を呑みこんでいけば位置的に天下人の目も出てくるわけで、夢の膨らむシチュエーションだ。

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反 風林火山〈1〉川中島最終血戦 (歴史群像新書)
反 風林火山〈1〉川中島最終血戦 (歴史群像新書)
カテゴリ:時代・歴史小説 | 22:38 | comments(0) | trackbacks(0)

異説太閤記1〜大返し成らず 久住隈苅

 情報の齟齬によって信長の仇を徳川家康が討ち、天下人になった世界での秀吉の戦いを描く作品。
 兵站を秀吉にまかせきりで、脳筋状態の徳川家が微笑ましい――なんかこっちまで申し訳なくなってくるほど、戦場での働きだけを重視する集団になってしまっている。せめて徳川家の家臣たちに、項羽と劉邦の知識があれば、蕭何の仕事をあそこまでバカにはしまいに……。
 大日本帝国軍のことまで連想してしまう徳川家の仕上がりだ。

 見方を変えると大返しの後に旧織田領を電光石火で制圧した秀吉軍の兵站能力を評価したくなる展開になっている。
 目の前に空き地同然の土地が転がっていると言っても、そこに兵を進めるだけでも相当の大事なのだ。天下人として広大な領土を安定して治めたければ、現地調達もしにくくなるから余計に兵站は重要になる。
 なかなか良い「教科書」をしている作品だと思う。

異説太閤記〈1〉大返し成らず (歴史群像新書)
異説太閤記〈1〉大返し成らず (歴史群像新書)
カテゴリ:時代・歴史小説 | 20:22 | comments(0) | trackbacks(0)
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