パソコン・シミュレーション スペースコロニーの世界 福江純

 機動戦士ガンダムや宇宙のランデブーで著名なスペースコロニー内で起きる諸現象について、物理計算とコンピューターシミュレーションを試みている本。
 とっかかりこそガンダムだが、メインとなっているのはアーサー・C・クラーク御大による密閉型スペースコロニー“ラーマ”が描かれた宇宙のランデブーの方である印象を受けた。ある意味、宇宙のランデブーの検算をしているような雰囲気だ。

 遠心力で疑似重力を作りだす回転体であるスペースコロニーにおいては、コリオリの力と回転軸に近付くほど(急速に)疑似重力が小さくなる効果が大きくて、地球上とは異なる様々な現象が予想されている。
 それを導くための計算は、しょうじき手に負えなくておかげでハイスペースで読み進んでしまったが、計算が苦手な人間でもプログラムを手に入れることができれば数値計算によって幾らかの検証は可能になるだろう。

 スペースコロニー内では大きさと雲の高さによっては、雨が横殴りで降りかかってくること――常に同じ方向に偏るので建物の形状自体が独自の影響を受けるかもしれない――潮汐はやはり重力源の方向に起こるが、大きさは天体の質量や距離を検討する必要があることなどが紹介されている。

 堅い計算の数々を通じて、スペースコロニーのイメージを一層、豊かにできたと思う。

パソコン・シミュレーション スペースコロニーの世界 (目で視る相対論)
パソコン・シミュレーション スペースコロニーの世界 (目で視る相対論)
カテゴリ:科学全般 | 22:26 | comments(0) | trackbacks(0)

騎馬民族国家〜日本古代史へのアプローチ 江上波夫

 ユーラシア大陸に発展した遊牧騎馬民族の歴史と習俗を概観し、その類型を用いて古代日本王朝の起源を解き明かそうとした意欲的な研究。初版は1967年だが、いまだに新鮮さを失っていないところがある。

 ともかく、スキタイ・匈奴・突厥・鮮卑・烏桓のまとめが面白い。著者の目的は深遠なところにあるのだが、簡潔だが取りこぼしの感じられないまとめによって遊牧騎馬民族に純粋な興味をもって、その習俗を知ることもできた。
 ただ、姉妹婚の風習は古代中国全体にあったはずなので、遊牧民族特有のものと考えるのは違うのではないか。嫂婚の方は北狄の影響を強く受けているに違いない秦が晋の王族に対して行ったら嫌がられているので、遊牧民族特有の可能性がより高そうだ――ただし、こっちの古代日本における例は少ししか挙げられていない。
 あと、遊牧民族の王は、異腹の姉妹と自由に結婚できるというのも印象的だった。エジプトの王朝とは、また背景が違うようだ。

 天皇家と遊牧騎馬民族の比較については、何だか読んでいて苦しい。あまりにも多くの説が詰め込まれているせいで、新しく素直に受け容れることができないのかもしれない。他の資料を批判よりも肯定で使うことがすこぶる多い関係か、自説に都合のいい材料を選んで集めている印象をもってしまった。
 胡族との関係でナムジ−大國主−を思い出した。

 おまけ的な扱いの日本民族の形成については、あまり無理を感じず、すらすらと読めた。越の人々が祖先という説に、聞き覚えがあったせいか。
 邪馬台国や徐福のような耳目を引きつける――そして、引力のあまりの強さで実像を歪めてしまいやすい――トピックにあまり触れていなかったことも、振り返れば印象的であった。

騎馬民族国家―日本古代史へのアプローチ (中公新書)
騎馬民族国家―日本古代史へのアプローチ (中公新書)
カテゴリ:歴史 | 22:47 | comments(0) | trackbacks(0)

脱原発。天然ガス発電へ 石井彰

 福島第一原子力発電所の事故後に勢いを得ている再生可能エネルギーへの期待に待ったをかけ、それよりも最新式の天然ガスコンバインド発電(&コージェネレーションが好ましい)と省エネルギーこそが本命であると主張する真面目な本。
 やはり長期的な目標と短期的な目標をごっちゃにして、再生可能エネルギーをプッシュするのは、いかにも拙い。

 何よりも拙いのは電力会社のやり方で、これまで二酸化炭素排出量の少ない天然ガス発電をベース電力の供給に使用せず、逆に大量の二酸化炭素を排出する石炭火力発電をベースにしてきた(その帳尻を原子力発電であわせてきた?)。
 高効率の天然ガス発電がベース電力の供給に使われるような力が働かなかった点でも、いまの電力会社の体制には大きな問題があると感じた。

 サハリンからの天然ガスパイプラインがおじゃんになったことにも、電力会社の意向が影響していたらしいそうで……結果が、天然ガスを需要側の意向で購入できる時代が来たのに、原発事故に絡んで巧く売られてしまう有様だ。
 本当に日本の癌だなぁ。

 著者が積極的に批判しているのは再生可能エネルギーの過剰なプッシュや無知なマスコミであるにも関わらず、電力会社(特に東電と関電)にそんな極端な感想すら抱いてしまった。どうしても批判的な目で見てしまうせいかもしれない。

 炭田から得られるCBM由来の天然ガスは日本でも北海道や九州から期待できるようなので、交渉力を少しでもつけるためにも開発に期待したい。

大転換する日本のエネルギー源 脱原発。天然ガス発電へ (アスキー新書)
大転換する日本のエネルギー源 脱原発。天然ガス発電へ (アスキー新書)
カテゴリ:雑学 | 23:53 | comments(0) | trackbacks(0)

スーパーアース〜地球外生命体はいるのか 井田茂

 系外惑星研究の本を多数書いている著者による2011年2月時点での系外惑星紹介本。ホットジュピターやエキセントリックプラネットだけではなく、もっと小さな氷惑星や地球型惑星まで発見されるようになった研究の進捗状況を活き活きと描きだしてくれている。
 最初に系外惑星を発見したスイスのマイヨール教授が最前線に立ち続けているほど新しくホットな現場なのだから、さもありなん。カリフォルニアチームとスイスチームの熾烈な惑星発見競争など、系外惑星そのものではないところも興味深かった。分裂してしまったというカリフォルニアチームは、大丈夫なのかな……。
 そんな情勢の中、NASAがケプラー宇宙望遠鏡によって大量の系外惑星候補を発見したことが、牧歌的な空間から機械工業的な発見の草刈り場になった彗星や超新星の発見業界を彷彿とさせた。
 まぁ、それでも活躍しているアマチュアはいるので、系外惑星の捜索においても根気の強いアマチュアが存在感を示し続けられる環境が生まれるかもしれない。

 副題になっている「地球外生命体はいるのか」については、いささか風呂敷を広げすぎたところがあって、今後の研究課題を語っているのに近い。プレートテクトニクスの存在までもが海の安定的な存在に必要とされるなら、地球外生命体のハードルも再び上がってくる。その辺りはかつて海が存在したと考えられる火星の研究とも比較しながら考えていく必要のある問題である。
 かつてラブロックの著書で読んだ珊瑚礁がプレートテクトニクスの最初の駆動を生みだすという説がまだ可能性を失っていないのなら、海と生命、プレートテクトニクスは相互に存在しあうものになるはずだが、はたして!?
 いつ触れても刺激的で興味深い分野である。

スーパーアース (PHPサイエンス・ワールド新書)
スーパーアース (PHPサイエンス・ワールド新書)
カテゴリ:天文 | 00:27 | comments(0) | trackbacks(0)

図説源平合戦のすべてがわかる本 洋泉社ムック

 大河ドラマ「平清盛」に便乗して出たことが、あからさまなムック。この手の現象はお約束として、内容は短い中でまとまっており分かりやすかった――読んだばかりの河内源氏〜頼朝を生んだ武士本流に比べると政治局面の分析が表層的なのは否めないが、研究者の本とは役割が違う。
 何といっても21におよぶ合戦を図入りで一挙に紹介してくれているところが良かった。源平の戦いを取り上げた戦術本はいくつかあるが、戦国時代が混じっていることが多く、これだけを専門にやってくれている点で貴重だ。
 十倍、下手をすれば百倍の兵力差でぶつかっている合戦が見られるのは情報が不正確なせいか、武士の心意気が関係しているのか。兵力に優れた方が有利なのはほとんどの場合、覆されていない。
 義経が少数で戦う時は、必ず代わりに有利になれる点を確保してのことである(最期は除いて)。

 人物では、わしの重盛なぜ死んだ……彼が父親並に生きていれば歴史は大きく違っていたことであろう。並の人物では後白河法皇や源頼朝のような政治世界の“怪物”に対抗できるわけがない。その点、平宗盛に同情せざるをえなかった。いくらなんでも相手が悪すぎるよ。
 あと政治能力が残念な木曽義仲にとって京都は火中の栗だった感じがする。守れぬとみて早めに放棄した平氏の方が賢かった。

 平氏が潰えたのは清盛が一族を愛しすぎて、仲間となる有力な他の族を引き上げなかったせいに思えた。逆に頼朝は同族を殺しすぎて、幕府の実権を北条氏に奪われてしまっている。どっちが良かったのやら。

図説源平合戦のすべてがわかる本 (洋泉社MOOK)図説源平合戦のすべてがわかる本 (洋泉社MOOK)
カテゴリ:歴史 | 00:47 | comments(0) | trackbacks(0)

未来日記フラグメンツ えすのサカエ

おかしいなぁ…どうしちゃったのかな
怖がっているのわかるけど、解説は主観じゃいけないんだよ
ユッキーのときだけ客観的に見ているふりで、由乃で恐怖するなら
解説の意義、ないじゃない ちゃんと、見た通り書こうよ
ねぇ、私の言ってること
私の感想、そんなに間違ってる?
少し、肝温めようか……

 なんか由乃のキャラ解説がビビっているように見えたんですよー。ひたすら客観的でなければなららないはずなのに――それともひたすら客観的だから恐怖が止まらなくて、解説の人がビビっているように感じられたのか?ドラマの直後のアナウンサーは涙ぐんでみえる現象と似た効果が働いているのかもしれない。

 公式解説本にお決まりのキャラクター紹介やダイジェスト、イラスト掲載にインタビューなどで構成された本。作者自らのコメントが随所に存在しており、そうだったのかと感心させられることが多い。
 自分の力で気付きたかった悔しさも同時に生じるけれど、最終巻が出た後ではしかたがあるまい。一生気付かないまま終わるよりは良かった。

 ただ、秘書から暗号をユッキーが奪った方法をたびたび褒めていたり、女の子が多い作品とコメントしていたりするのはズレている気が……ズレている自分が言うのも難だが。日記所有者のシルエットから見て、後半のヒロイン不足を危惧していた身としては日向とまおの加入でかろうじてバランスが取れたと思っていた。
 由乃が当初はヤンデレの概念を意識していなかったヒロインであることは納得。恋愛のせいでおかしくなった雰囲気ではなかったからな――最終的には力技のループで自分が思うヤンデレの定義に当てはまったけど。

 あと、えすの先生の絵が好きな身として、メッセージペーパーや表紙ボツラフの収録が本当にありがたかった。表紙ボツラフは全種類見たいと思ってしまう……もしや、完全版のために大事にとってあるのでは?と花子と寓話のテラーが完全版で出ただけに呟いてみる。

カドカワ系コミックス感想記事一覧

未来日記フラグメンツ 公式ガイドブック (角川コミックス・エース 116-6)
未来日記フラグメンツ 公式ガイドブック (角川コミックス・エース 116-6)
カテゴリ:写真・イラスト集 | 00:04 | comments(0) | trackbacks(0)

草原の風・上 宮城谷昌光

 1P目から劉秀が登場していてたまげる。三国志に比べて非常に主人公の登場が早い。文字が大きいこともあって、かなり読みやすかった。
 内容も戦乱の足音は聞こえても姿は見えない状態で進んでいるので、あえていえば学園物に近い雰囲気で読むことができる。劉秀の勉学への姿勢や首都で学んだことの様子など、高校生の内に読んでおきたかったし、読ませたい話である。
 主人公が主人公だけに対象年齢を下げているのかもしれない。

 劉秀が交わった人々の中でも印象的だったのが、一緒に商売をした韓子だ。もしも彼があえなく死んでいなければ、政府の重要な位置を占めていたのではないか。そんな想像がいくらでも出来てしまう。
 人生は何があるか分からない。そんな教訓を与えてくれる物語でもある。

 王莽の政治は当然のように悪い。劉氏と民衆を同時に敵に回してしまったことは、特に大きな間違いであった。どちらか一方を満足させている間に、一方を潰しておけば火種と燃料は離れて燃えひろがりにくいものを――まぁ、民衆を潰しておくのは不可能だが。
 同じ姓が二度繁栄することはないとする春秋戦国時代の「常識」からすれば、反乱軍が劉氏を戴くことに違和感があるのだけど、そこへの説明はなかった。諸国に広がる劉氏の勢力を思えば、衰退しているとはとても思えないから、王莽が無理矢理玉座を奪っただけと思われていたのであろうか。

宮城谷昌光作品感想記事一覧

草原の風  上巻
草原の風  上巻
カテゴリ:時代・歴史小説 | 01:23 | comments(0) | trackbacks(0)

河内源氏〜頼朝を生んだ武士本流 元木泰雄

 頼信から始まる河内源治の波乱にとんだ系譜を、入念な史料批判の上で描きだしていく一冊。
 大騒動に何度も巻き込まれ、たびたび存亡の危機に立たされながらも、より強力になって甦る河内源氏の政治的生命力が感じられた。

 ただし、武門としての働きは途中まで微妙な印象で、平将門が叛乱することの告げ口が(嘘から出た真的に)的中したのを皮切りに、有名な二度に及んだ東北の乱では現地の有力勢力にうまいこと相乗りして利益を得ているなど、パッとしない印象で描かれている。その方が生々しくて魅力的という考え方もできるかもしれない。

 受領や官位を追い掛け、他と比較することで、時代ごとの河内源氏の立場を整理してくれており、後世の幕府をひらいた源氏の印象に囚われない視点を確保していた。
 どうしても運命や必然のように感じてしまう源氏の躍進も、様々な幸運の結果あらわれたものなのだ。為義時代から上位にいた伊勢平氏は言うに及ばず、河内源氏と同等の力を持っていそうな勢力が散見される。
 源平のみならず、それぞれに劇的な歴史があったことであろう。そんな想いを馳せることができた。

 あと、とかく批判されがちな藤原信頼の再評価が行われていることも特筆に値するかと。

河内源氏 - 頼朝を生んだ武士本流 (中公新書)
河内源氏 - 頼朝を生んだ武士本流 (中公新書)
カテゴリ:歴史 | 23:36 | comments(0) | trackbacks(0)

はじめてのシール技術 山本雄二・關和彦

 機械文明になくてはならないシール技術について、構造や歴史を初心者にもわかりやすく教えてくれる本。
 20世紀に入ってからの飛躍的なシール技術の発展ぶりを知って驚いた。第二次世界大戦の飛行機は良く空を飛んでいたなぁ……やはりアメリカの存在感が大きい。
 今後も同じペースでシール技術が向上していけば凄いのだが、材料に関する環境規制などが暗雲を投げかけていることが最後に述べられていた。

 一口にシールと言っても、流体を閉じ込める方法には、かなりのバリエーションがあって、分かりやすく変形して閉じ込めるものから、いっけんマジカルな効果で出ていく流体を引きもどす効果を発揮するものまで、効果もコストも様々だ。
 それぞれの特性と、使うシールが必要とする性能をしっかり把握して、もっとも適切な方法を選択できるように書かれていたことを念頭に置きたい。

はじめてのシール技術 (ビギナーズブックス)
はじめてのシール技術 (ビギナーズブックス)
カテゴリ:工学 | 00:38 | comments(0) | trackbacks(0)

甲骨文字に歴史をよむ 落合淳思

 1974年生まれ。新進気鋭にして殷代研究のライバルに恵まれない著者が書いた甲骨文字を主力史料にもちいた殷の研究書。
 冷静な文体でいながら、なかなか挑戦的な意見が飛び出しており、最後まで刺激的だった。

 帝辛(紂王)の先代とされる帝乙が実在しない王であるとする主張には度肝を抜かれた。宋が血縁の捏造に利用しているだけで、彼ら自身が殷の血を引いていないと春秋時代への印象の前提が崩壊する話が展開されている。
 後代の宋人たちは自分が殷の血を引いていると素直に信じて、それらしくあろうと生きていただろうに……嘘から出た真の美談と考えるか、悲劇と考えるか。著者の意見に対して異を唱えるという方法もある。
 しかし、祭祀を表にまとめて、帝乙が祀られていないことを示した論には、結構説得力があった。紂王の庶兄であったとされる微子とはいったい何者なのか。歴史はミステリーに満ちている。

 刺激的な面も多々あったが、何といっても魅力的なのが甲骨文字を写真付きで載せて、わかりやすく読みといてくれているところだ。漢字を置き換える記憶力と漢文を読む能力――これが結構怪しいのだが――さえあれば誰にでもはるか昔の王が書いた文字を読むことができる(理解するにはまた別の問題もある)。
 これはとてもエキサイティングなことだと思う。

 あと、コラムの文字解説のおかげで欝の字が書けるようになりそう。欝がこんなにアルコール度数の高い文字だったとは思わなかったよ。

甲骨文字に歴史をよむ (ちくま新書)
甲骨文字に歴史をよむ (ちくま新書)
カテゴリ:歴史 | 00:02 | comments(0) | trackbacks(0)
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