薄紅天女 荻原規子
2012.03.31 Saturday | by sanasen
坂上田村麻呂をはじめとする歴史的偉人たちが現れて、神話時代の最後の輝きを目撃する中世日本のファンタジー。この話に出てくる勾玉こそ後の神器である――のか?
皇と蝦夷の血を引く若者の宿縁が、重厚につづられている。すさまじい力も、定められた高貴な運命も、人生のレールではなく、ハードルと主人公たちにみなされ乗り越えられていく。物語では不思議なことではないはずなのに、見事と思えてしまうのは、軟弱な話を読み慣れてしまったせいかな。
既に多くのものに縛られてしまっている皇と、針の穴を通すような苦労をして望みを叶える阿高の対比が興味深い。彼が幸せになることで、皇族たちが少しでも心を癒すことができたなら、これに優る幸いはない。
物語の舞台が蝦夷の地から長岡京まで広い範囲にわたっていることも印象的で、日本の中にまったく異なる国をみる経験は刺激的だった。
けっきょく、坂上少将のやったことは蝦夷のためになったのやら……末尾のまとめにかなりの不安を感じた。仲成も最終的には悲しい死を遂げているようだし、ハッピーエンドを確信させてくれるのは非常に出番の遅かったメインヒロイン苑上だけかもしれない。語られないだけで、藤太も千種と仲良く暮らしているんだろうけれど。
荻原規子作品感想記事一覧
薄紅天女 (トクマ・ノベルズ Edge)
皇と蝦夷の血を引く若者の宿縁が、重厚につづられている。すさまじい力も、定められた高貴な運命も、人生のレールではなく、ハードルと主人公たちにみなされ乗り越えられていく。物語では不思議なことではないはずなのに、見事と思えてしまうのは、軟弱な話を読み慣れてしまったせいかな。
既に多くのものに縛られてしまっている皇と、針の穴を通すような苦労をして望みを叶える阿高の対比が興味深い。彼が幸せになることで、皇族たちが少しでも心を癒すことができたなら、これに優る幸いはない。
物語の舞台が蝦夷の地から長岡京まで広い範囲にわたっていることも印象的で、日本の中にまったく異なる国をみる経験は刺激的だった。
けっきょく、坂上少将のやったことは蝦夷のためになったのやら……末尾のまとめにかなりの不安を感じた。仲成も最終的には悲しい死を遂げているようだし、ハッピーエンドを確信させてくれるのは非常に出番の遅かったメインヒロイン苑上だけかもしれない。語られないだけで、藤太も千種と仲良く暮らしているんだろうけれど。
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